校長室
嘆きの邂逅(最終回/全6回)
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「合意は履行された。人質の解放を要請する。送レ」 キャラ(伽羅)は少し離れた位置で、ミヒャエルに電話をかけていた。 先日サルヴァトーレと交わした密約の一部が履行された為、人質を解放するようにと連絡だ。 少しして、キャラの携帯電話にミヒャエルから電話が入る。 人質を解放した旨の連絡。そして解放した人質――三井 八郎右衛門(みつい・はちろうえもん)は、馬でこちらに向ってくるとのことだ。 分校生にはヴァイシャリー家から報酬が出ることになっているが、当然それにサルヴァトーレ達は含まれない。 しかし、キャラの根回しにより、彼らにも分校生と同額の報酬が出ることになっている。大した額ではないが、斡旋所改築の足しにはなるだろう。 「こちらが優勢ですねぇ。油断はしませんが〜」 通話を終えると、キャラはいつもの口調に戻る。 「前線に出る必要はなさそうでござるな」 キャラの護衛についている宋子分(うんちょう タン(うんちょう・たん))が戦況を見極めながら言う。 「屋敷裏側の部隊も突入を開始しましたな」 「パラ実生に完全に包囲されていますから、逃走した者も全て捕らえられているようです」 軽く見回りに出ていた宋清(皇甫 嵩(こうほ・すう))と宋襄公(劉 協(りゅう・きょう))がキャラの側に戻り、報告をする。 キメラには手を焼いているが、敵側の人物の攻撃力は一般の分校生と大差ないことや、白百合団員の中には、戸惑っている者もいるため、説明が必要だなどとも話していく。 「確かに。同士討ちにならないよう、白百合団員にもう少し説明をしておいた方が良さそうですぅ」 キャラがそう答え、嵩と襄公が伝令として立ち回ることになった。 「ヒャッハァ〜お前らはもう俺の物だぜぇ」 鮪が火炎放射器で炎を放射しながら、少女達に近づく。 「全員捕らえてやるから覚悟しろよ〜」 にへらにへらと近づく鮪の背を信長が拳で強打する。 「愚か者めが。その子等は白百合団員よ。とっとと行かんか」 「ぐふっ。お、そうか。帰ってからの褒美の方だったか! くっ、敵側に女がいないぜー」 鮪は火炎を放射し、敵を退かせ建物の方へ走る。 「さっさと受付の姉ちゃんや白衣の可愛い姉ちゃんに俺のモノになる命令して貰うぜ」 鮪や分校生達が屋敷側まで迫った途端、屋敷の窓が僅かに開き、銃身が覗く。 しかしその直後に、遠方から放たれた弾丸により、窓ガラスと狙撃手が討たれる。 遠方から狙いを定めていた黎明だ。 「どっかの誰かサンキュー。収穫物の爪の垢くらい分けてやってもいいぜ!」 「行かせるか!」 若い男が槍を鮪に突き出していく。 炎で牽制する鮪の後方からも、ナイフを飛ばして鮪を阻もうとする者がいた。 更に、建物の中からキメラも飛び出してくる。 そこに、黎明が操るオリヴィエ博士改造ゴーレムが割り込んで、男達を襲い、キメラの攻撃を防いでいく。 「今だ、待ってろよ、美人研究員〜!」 動機は不純すぎるが、鮪はゴーレム達の援護を受けて、建物へと突入を果たす。 「コリスの旦那! 裏切り者が分かりました!」 外へ出ていた悠司がコリスの元に戻る。 コリスは怒鳴り散らしながら、中型の飛空艇に乗り込むところだった。 「サルヴァトーレ・リッジョのことなら報告を受けた。残りのキメラも全て外に差し向けた、それでどうにかしろ」 「いやそいつだけじゃないっす。この包囲網を突破して逃げた奴等がいるっす。敵と繋がっていたんすよ」 悠司はコリスに近づき、一緒に飛空艇に乗ろうとする。 「裏を説明したいっすが時間ないっすよね? さすがに捨て駒のままで死ぬのは、ちと俺としてもきついんで、乗せてくださいっす」 言って、半ば強引に悠司は乗り込んで、コリス……ではなく、飛空艇に乗っている研究所所長の背後に近づき、その体に手を回した。 そして、そのまま所長を羽交い絞めにすると、飛空艇の外へ引き摺り出す。 「コリスの旦那も武器捨ててもらえますかね? ここで爆発したら一緒にお陀仏っすよ?」 悠司が金の腕輪を所長の心臓の上に当てる。 「クソが! その爆弾にそこまでの威力はねぇよ。出すぞ!」 「おい、離せ!」 慌てる所長に見向きもせず、コリスは舎弟にハッチを開けさせる。 逃がせば爆破されて殺される。悠司も焦りを感じたが、パートナーのイルが動いてくれているはずだ。 彼を信じて待つしかない――そう思った時だった。 「ヒャッハー!」 「神楽崎分校です。武器を捨ててください!」 仲間の援護を受けながら、真っ先にたどり着いたのは鮪と未憂だった。 「大人しくしてよね!」 その後ろから、リンも走り込む。 「高崎先……」 未憂が目を見開く。隙が出来た彼女に、コリスの舎弟が銃を向ける。 瞬時に悠司は所長をごと未憂の前に出て声をあげる。 「この男はジィグラ研究所の所長だ」 舎弟は引き金を引くことが出来ず、代わりに鮪に銃を向けて撃っていく。 「あそこの所長かー!」 撃たれながらも鮪は所長に駆け寄り、火炎放射器を向ける。 「てめぇはぜってぇ許さねぇ! 連れて帰って、可愛い姉ちゃんに俺のモノになる命令して貰うぜ」 「早く飛空艇を!」 いつ腕輪が爆発してもおかしくはない。死と隣り合わせの状態で悠司はそう言った。 「はい」 返事と同時に未憂は雷術を飛空艇へ連発する。 機械がショートし、転げ落ちるように、コリスと舎弟が床に飛び出る。 「ボスはここかァ!?」 「ヒャッハー!」 キメラの始末を終えた竜司が舎弟達と格納庫に駆け込み、即座に部屋の中を取り囲む。 銃を向けていたコリスと舎弟達だが、逃げる手段を完全に奪われたことで、悔しげに降参する。 「持ち帰りだぜ、ヒャッハー!」 鮪が所長を後ろから殴り飛ばして気絶させ、悠司に代わり担ぎ上げる。 「先輩!」 悠司が次の行動をとるより早く、未憂が悠司の腕を掴んだ。 悠司は未憂の腕を振りほどこうとするが、未憂は両手で掴んで離さない。 所長を捕らえてくれた……敵、ではない。でもどうして? 未憂は瞳で悠司に問いかける。 「悪い、逃げたりしないから離して」 悠司の言葉に未憂は首を左右に振る。 だけれど、力が少し弱まった。その瞬間に。 悠司は渾身の力を込めて、未憂の腕を振り解き、ドアの方へ飛んだ。 「ごめんな。けど、俺に近づくな」 そう言い、悠司は外へと飛び出した。 白百合団のいる正面は避けて、勝手口から飛び出す。 取り囲んでいるのは黎明の舎弟だ。その後、悠司は阻まれることなく黎明の元に走り、久しぶりに顔を合わせたのだった。 未憂に腕を掴まれたことが嫌だったわけではない。 彼女に説明をすることが嫌だったわけでもない、が。 この腕輪をしているから。 今は彼女の側にはいられない――。