校長室
嘆きの邂逅(最終回/全6回)
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組織の拠点に向う馬車の中で、白百合団の班長のヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)に手伝ってもらいながら、集まった白百合団員達に、作戦の説明をしていく。 神楽崎分校の生徒や、四天王も共に制圧に加勢してくれるはずだ。場所的理由からヴァイシャリー軍の援護は受けられず、協力してくれるパラ実生の方がこういった作戦になれているはずだから……。 「ボクたちはテキをひきつけて、みんながすすめるようにがんばるです!」 ヴァーナーは白百合団の方針をそう決める。 「キメラの研究が行えないようにすることが目的ですわ」 セツカがヴァーナーの言葉に補足をする。 「分かりました〜。頑張りますぅ」 そう微笑んで真っ先に返事をしたのはメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)だ。 「引き付けた組織の人は、無力化するようにして捕縛したいと思いますぅ。地位の高そうな人は絶対捕まえたいですぅ」 「そうです。みんなきけんなぶき持ってるですけど、ころしたりしないよう、ちゅういするです」 「はい」 白百合団員達が元気に返事をする。 「あ、メイベル様」 携帯電話に届いたメールをチェックしていたフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、画面をメイベルに見せる。 「綾様のご両親にお願いしておいた写真ですわ」 「お会いしたことない方ですぅ」 写真に写っているのは、シャンバラ人の少年だった。数年前の写真らしい。 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)にも見せるが、セシリアも首を左右に振る。見たことのない人物だった。 写真の人物の名はルフラ・フルシトス。早河綾の義兄であり、パートナーだ。 綾のパートナーの1人、サーナが亡くなったことで彼もダメージを受けたはずなのだが、実家に何も連絡はなかったそうだ。 メイベルは綾が所属していた闇組織ならば、綾の命を狙っているという理由からルフラについて何か掴んでいる可能性があると考え、この作戦に志願した。 情報を得てどうするのか、どうしたいのかは考えが纏まらないけれど。 綾に必要な人であり、綾が本当に案じている人だと思うから。 少しでも情報を得たかった。 「皆で無事に作戦を終えて帰れると良いな」 セシリアが考え込んでいるメイベルにそう言い、メイベルとフィリッパは淡い微笑みを浮かべて、頷いた。 「ナメた賞金首リストを作りやがった奴等だ。鼻を明かしてやろうぜ! だが、四天王クラスの奴もいるかもしれねぇからな。てめぇらは集団戦闘を心がけ、自分の命を最優先にしろ」 分校長代理の吉永竜司もまた、拠点近くでバイクを止め、分校生を集めて襲撃の方針について語っていく。 分校生の他、Dクラス四天王である竜司自身のスキンヘッドの舎弟もいる。人数は合わせて数十人。 「安易に人の命を奪うべきではない。捕らえて、その罪を犯した過程を調べ、類似する犯罪を抑制したいものだ」 後方から分校生達を見守りながら、教師の高木 圭一(たかぎ・けいいち)はそう言った。 戦いは止むを得ないと感じたが、自分は分校生達の見本でなければならない。 拠点ではなく、直接本部を叩きたいという気持ちもあったが、分校への依頼は拠点の襲撃であり、どんな理由であれ戦う意思がある分校生はこちらに参加したことと、本部の場所を知る得る手段がなかったため、圭一も分校生と共にこちらに同行していた。 圭一の言葉に、竜司は「おうよ!」と答える。 「拠点にいる人間は全部ロープで縛って生け捕りだ。キメラは手加減できねぇ相手だからな、一般の分校生は陽動のみとし、直接攻撃は契約者に任せろ」 返事代わりにバイクのエンジン音が響く。 「突入後、オレは素早く奥へ進むぜ! ついてこれるヤツはいるかァ!?」 直ぐに手を上げたのは、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)だ。 「吉永分校長代理の指示に従いますわ。細かいことは気に致しませんわ! ヒャッハー」 ジュリエットの言葉に、ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)がびくっとジュリエットを見る。 「ちょ、ちょっと、お姉様、細かいことは置くとしても、戦術と戦略を十分に……」 と声を上げるも、その場の誰も戦術とか戦略は特に考えていないようだった。 「あ……パラ実生らしからぬセリフでしたわね。すみません」 ジュスティーヌは集まっている皆に頭を下げて謝罪をすると、自分はどちらかといえば手当てに回るつもりだと話す。 「突撃するじゃん!」 「ボクはジュリエットの後に続くよー」 アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)は乗り気そうに見え、岸辺 湖畔(きしべ・こはん)はのんびりとそう言った。 「ボクとカティは援護をするよ。……でも、キメラも被害者だと思うから、倒すのは無理かも」 鳥丘 ヨル(とりおか・よる)の言葉に、竜司は無理はしなくていい、ただ自分の命を最優先にするようにと答える。 ヨルはカティ・レイ(かてぃ・れい)と共に頷いた。 「僕はこの辺りから皆を援護しよう。決して無理はしないように」 教師である高木 圭一(たかぎ・けいいち)が言い、分校生からうぃーすという声が上がった 「私は分校長代理と共に、先陣を切ります。皆さん、神楽崎分校生として、相手に怪我はさせても、命を奪うことの無いようにお願いします」 関谷 未憂(せきや・みゆう)が分校生達に頭を下げた。 「わかってるって!」 「打ち所が悪かったらしゃーねーけどな。あ、ちゃんと注意するさ」 「急所は狙わねぇよ」 分校生達が次々に未憂にそう答えていく。 「相手の命も奪わないようにするけど、でも、いちばん大事なのは自分の命だからね!」 リン・リーファ(りん・りーふぁ)が明るくそういい、未憂は僅かに不安そうな目をした後、 「はい、自分の命を最優先に、相手の命も奪わないよう注意、です……」 そう言いながら、考えを巡らせていく。 なぜならその拠点には知り合いがいるかも、しれないから。 彼は――。 高崎悠司は本当は悪い人なのかもしれない。 早河綾のように事情があるのかもしれない。 久多隆光のように組織に入ったのかもしれない。 幾ら考えても、本当のことはわかるはずもなく。 だから、自分の目で見て耳で聞き、それを確かめたくて、未憂はここにいる。 だけれど、ひとつだけ未憂は知っている。 (先輩は優しいひとだって事) 私に優しかったその人を信じたい。愚かだと思われても信じていたい。 ひとり、そっと目を伏せた。