校長室
嘆きの邂逅(最終回/全6回)
リアクション公開中!
百合園生の戦いも続いていた。 「綾ちゃん、ちょっと行ってくるね。だいじょうぶ、何があっても戻ってくるよ。だから、この戦いが終わったら、また、遊ぼうね!」 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、早河 綾(はやかわ あや)にそう言葉を残して、綾が入院している病院を飛び出した。 街に入り込んだキメラを倒して、離宮の問題も解決したら……きっと前と同じ生活に戻ることができる。 そう信じた。 でも本当は信じきることが出来ていない。 今までの生活が偽りだったのかもしれないから。 失ったものは戻ってこないから。 浮かびそうになるそんな気持ちを押し殺し、絶対普通の日常が戻ってくるのだと、自分に強く言い聞かせていく。 そう信じていないと最後まで護りきる自信が持てないから。 「……今戦いに行った人たちが戻って来る場所だから! この街は護ってみせる! それが今のあたしの存在意義だからっ!」 そう言葉を発したミルディアを、パートナーの和泉 真奈(いずみ・まな)がそっと見守っていた。 「うゎー! でっかいのがとんできてるー!」 もう1人のパートナーイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)が声を上げる。 「飛んでいるキメラには届かないから、あたし達は街中で暴れているキメラを倒しに向うよ! 真っ向から戦うまで!」 学院に電話で確認して、キメラいると思われる場所へとミルディア達は向う。 人々の避難は順調ではあったが、避難が行われているのは危険とされている地域だけだ。 興味本位や家が心配で離れられずにいる住民もいた。 「来るな! 来るなー!」 男性の叫び声に、ミルディア達は急いでかけつける。大通りの方だ。 「ここは任せて、早く逃げて!」 竦んでいる男の下に駆けつけて、ミルディアはサリッサを迫り来るキメラに繰り出した。 ミルディアの攻撃はキメラの顔を掠めた。 「ここは貴方が来るような場所ではありません」 真奈は雷術をキメラへと放つ。 負傷したキメラはギャーギャーと声を上げながら、地を蹴ってこちらに飛びついてくる。 「さすがに、遊んでいられる状況じゃないよね。仕方ない。ホンキでいくとしよう……!」 イシュタンは至れり尽くせりで用意したエネルギーで、キメラを攻撃する。 一度では大したダメージを与えられないため、何度も何度も打ち込む。 「イシュタン、離れて!」 ミルディアはそう声を発し、パートナー達を離れさせた後、「ええーい!」と大きな声をあげ、ランスバレストでキメラを串刺しにして倒した。 「早く逃げてね!」 荒い息をしながら、ミルディアは襲われてた男性に声をかける。 「避難所の場所はご存知ですね? 案内の者もいますから、そちらに向って下さい」 真奈が男性にヒールをかける。 「ありがとう」 そう言葉を残し、男性は青い顔で駆けていった。 「やっぱまだまだだなー みるでぃー! またどっかつれてってねー♪」 イシュタンがにこっと笑みを浮かべる。 「終わったらね。きっと……ううん、絶対皆で遊ぼうね!」 空に現れたキメラに、挑む百合園生の姿が映った。 ミルディアと真奈、イシュタンはそちらに加勢に向う。 「大丈夫!?」 ミルディア達が駆けつけた場所でキメラと戦闘を繰り広げていたのは、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)とパートナーのプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)だった。 飛行系のキメラと空中戦を行っていたようであり、2人ともかなりの負傷をしていた。 獣型のキメラの他、目に付いた飛行系のキメラも相手にしていたのだ。 大佐は言葉には出さないが、ほんの少しとはいえ責任は自分にもあると考え、1匹も逃がすつもりはなく、最後まで戦い続けるつもりだった。 「問題ない」 そう答え、大佐は息をつく。 「やっぱり荒野の時のようにはいかないか」 「そうですね。落として終わりというわけにはいきませんから」 「とにかく治療するよ。落ちてきた分はあたし達がなんとかするから」 言って、ミルディアは大佐とプリムローズにヒールをかけた。 「頼む。あとあの辺りに軽傷者を詰め込んでおいた。適当に治療して、避難させてくれ」 大佐は倉庫小屋を指差す。こんな時にも、生活の為と漁に出ようとした漁師達がいたということだ。 「わかった。気をつけて」 そう言って、ミルディアは怪我人達の治療の為に小屋へと走る。 走り回ってくたくただったけれど、疲れたなんて言っていられる状況ではないと、自分を奮い立たせて。 「来たようだな」 飛んでくるキメラにちらりと目を向けた後、大佐はプリムローズの空飛ぶ箒に乗り、2人乗りでキメラの方へと飛んでいく。 キメラの数は3匹。 中途半端な攻撃で地上に落とすのはまずいが……ミルディア達のいる今なら、協力して殲滅できるだろう。 「1匹仕留めて、2匹落とす」 そう目標を立てると、プリムローズの操縦でキメラへ接近する。 キメラの上からキメラに飛び降りて、その背に刀を突き刺し、爆炎波を放って体内を焦がす。 仲間を庇うという意識が無いため、こうして飛んでいる状態のキメラの背に乗ってしまえば、ほぼ攻撃を受けることはなかった。 暴れるキメラに振り落とされながら、大佐はブラインドナイブスで攻撃をし、しびれ粉を振り撒く。 1匹が運河に落ちていき、2匹の動きが弱まる。 「無茶な攻撃です」 プリムローズが両手で大佐を受け止める。体勢を崩すが、なんとか持ち直す。 責任を感じて戦う大佐に対し、プリムローズは『貴方のせいじゃないのに』と思っていたけれど、そういう慰められ方が好きではないことがよく分かっているので口には出さずに、黙ってサポートしていた。 高く飛んで、プリムローズは氷術を放ちキメラの翼を凍らせる。 「落ちな!」 大佐は刀を振るい、キメラの翼をざっくり斬った。 2匹のキメラが下降していく。その後を負うとプリムローズはサンダーブラストを放つ。 大佐は箒から飛び降りて、刀身を下方に向け、キメラの背へと下りて串刺しにする。 「街を護るんだからっ!」 飛び出したミルディアがサリッサを繰り出して、もう1匹を横から貫き止めを刺した。 八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)は高台で柔軟体操をした後、カモフラージュで身を隠し寝転がった。 スナイパーライフルを構えて、銃口を空へと向け、呼吸を整える。 熱い気持ちを秘めながら、湖のように静かに。 スコープを調整し、ピントを合わせて次なる敵の訪れを待っていた。 アン・ボニー(あん・ぼにー)はそんな優子の隣で、双眼鏡を持ち空を見回している。 集中を妨害しないために、会話は必要最低限とし、自分の仕事に徹していく。 「1匹、北に向かうキメラあり。南西!」 アンが指す方向に、優子は銃を向ける。 「キメラだけか。だけど、逃さない」 1匹たりともヴァイシャリーから逃しはしない。そう決意をし、優子はここにいた。 キメラに乗り逃亡する者がいないかと探していたが、乗っている者はいない。 ただ、ある程度の負傷をすると、本能で住処に帰還しようとするキメラもいるらしく、稀にこうしてジィグラ研究所の方へ向おうとするキメラもいた。 街中に落とすわけにはいかずタイミングを計り、優子は引き金を引いた。 「右に5cmずれ!」 すぐにアンの声が飛ぶ。 「次は当てる」 止まっているわけでも、電車のように真っ直ぐ飛んでいるわけではないため、遠方からの狙撃は非常に難しい。優子は翼に狙いを定め、撃ち続けそのキメラを湖へと落とした。 「次、2匹来るよ! 同じ方向」 「好き勝手やってくれたあんたらに、帰る場所なんてないさ」 優子は次のキメラに狙いを定める。 人は乗ってはいなくとも、逃すつもりはなかった。