リアクション
* * * (何やら南からは巨大な化け物、そして北の飛行機からはまたあの黒い装甲服連中。それに、ガス状の影。何者かは知りませんが、この海京、シャンバラを好きにはさせませんよ) 志方 綾乃(しかた・あやの)は追跡してくる「影の人」と戦いながら、北を目指していた。 精神感応を行える彼女は、北の方から多くの気配を感じ取ったのだ。ならば、そこが地上における一番の激戦区だ。 住宅街を疾走する。建物の陰からは次から次へと黒い人型が沸いて出て、彼女を追いかけてくる。 (せめて広い場所、人が少ない場所まで出れれば……) 途中で公園を発見した。 あえて噴水の前に直立し、集まってくる影の人を見遣る。 「さて、ここなら流れ弾で一般人を巻き込む心配もありませんね」 魔道銃を構える。 そしてリリカルソングで歌を口ずさみ、舞うように引鉄を引いていく。影の塊の中から薄っすらと見えたカード状のものを、エイミングで撃ち抜く。 それによって体内のカード――核を失った影の人は消滅する。 (魔法、術式の類だとは思いますが……何かが違いますね。魔力を一切感じませんし) 戦いの中でわずかに感じる違和感。 イルミンスール魔法学校に通っていた身としては、強い引っかかりを覚えずにはいられない。 (何かは知りませんが、その前に) 振り返り様に、スナイプで背後に迫っていたクローン強化人間の眉間を、ヘルメット上から撃ち抜いた。 「どうやら、近くにいるようですね。志方ないですね」 リリカルソングからの子守唄を歌い、敵を眠らせようとする。 公園の周囲で爆発が起こる。何人かは眠ったことで意識を失い、自爆したようだ。 (途中で音をシャットダウンしましたか。ならば……) 精神感応によって気配を読み、魔導銃を撃つ。姿が見えないうちはエイミング。そして黒い装甲服が露になったらスナイプで頭を吹き飛ばす。 「作られし者よ。せめて安らかにお逝きなさい」 中途半端な攻撃はしない。確実に一発で仕留める。 (さて、まだまだ敵は多そうですね) 周囲に敵がいないことを確認し、綾乃は公園を後にした。 * * * 「皆さん、こちらです〜!」 同じく東地区。 地下シェルターへの誘導を行っているのは、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)達だ。 「まだこっちには敵はきてないみたい。メイベル、他の状況は分かる?」 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)がメイベルに尋ねる。 彼女は篭手型HCの地図データを携帯電話に繋ぎ、情報を確認する。シャンバラとは違って、ここは地球。GPSが使えるのは何より心強い。 「北の戦闘が一番激しいようです。ただ、元々住人がほとんどいない場所ですので、一般人の被害はないとのことです」 西地区では一部の研究員を除いて避難が完了したということだ。 南地区は天御柱学院地区であり、非戦闘員である教員達が避難し、戦える者達が敵襲に備えていると連絡を受ける。 そして自分達がいる東地区の状況を見る。 区には四つのシェルターへの入口があり、今彼女達がいる場所が最も多く人が集まっている。 ちょうど夕方だったせいだろう。 居住区域である東地区には、多くの飲食店やスーパーがある。そういった場所にいた人達が、今避難しようとしているのだ。 「皆さん、ここは大丈夫ですわ。落ち着いて下さい」 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)もまた、不安顔の住人達を落ち着かせ、促す。 「……何かいます!」 ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)がそれに気付いた。 黒い人型がメイベル達に近付こうとしている。 「同じものが、この海京の至る所で目撃されています。どうやら『契約者』だけを狙っているようですが……」 こうやって避難誘導をしている以上、一般人が巻き込まれないとは限らない。 「私達が対応しますので、皆さんは大丈夫です。落ち着いて避難して下さい」 ざわつく住人をなんとかなだめる。 幸せの歌をセシリアと歌い、パニックが起こらないように尽力した。 住人達がちゃんと地下シェルターへと移動しているのを確認し、影の人へと向かっていく。 相手は武器のようなものは持っていないが、油断は出来ない。 「誰も傷つけさせません」 ステラがライトニングブラストを影の人に向ける。 人型は離散し、再び元の形に戻った。 「何か、あの姿の中にありましたわ」 それこそが敵の核だ。 フィリッパが敵を斬り裂き、それを確認する。そして、カード状のそれを剣で貫いた。 「強くはありませんが……薄気味悪いですわね」 襲い掛かってくる、といってもただ契約者の姿に反応して追ってくるだけだ。戦闘力はほとんどない。 ただ、影に触れると闇術を受けたときのように気分が悪くなるらしい。そういった情報は入ってきている。 メイベルが再びHCを確認した。 「南地区にも強化人間部隊が現れたそうです。そろそろこちらにも来るかもしれませんね」 ここは東地区の中でも中心に位置する。 まだ猶予はあるが、出来る限り残りの人員を迅速に避難させたい。 「こちらの方で最後ですわ」 ひとまず、付近の住人は避難し終えた。 「念のため、建物の中に残ってる人がいないか確認しないとね」 街中の人の誘導は行ったが、まだ一軒一軒詳細に見たわけではない。地上が危険であることは変わりないため、残りの住人がいないか、彼女達は確認しに街へと繰り出した。 |
||