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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
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第二十曲 〜After〜


「ごらん、ジズ。あの光を」
 その人物は、静かにイコンが目覚める瞬間を眺めていた。
「僕達もいこう。せっかくだから、近くで彼らを見ておきたいんだ。ふふ、彼らは『本物』かな?」


(・総帥)


 少女は歌った。
 そしてイコンは真の力を取り戻した。
「博士」
 そして、話は全てのはじまりへ至る。
「2012年。当時はまだそう呼ばれていなかったが、一機のイコンと、一人の子供と出会った。そしてその子供はイコンに選ばれ、消え去った」
 2012年。自分が関わったことについて、その場にいた者達に話す。
 そのとき、PASDの通信からある知らせが入る。
『新たな未確認機出現。映像を送る!』
 通信室のモニターに、一機のイコンが映し出された。
 白銀に輝く機体が。
 それを見て、ホワイトスノーは呟いた。

「――ノヴァ」

* * *


 翔はカミロのシュバルツ・フリーゲを倒した。
 だが、その直後にそれはやってきた。
「銀色の……イコン?」
 真の力を解放したイーグリットやコームラントが機晶の光を放っているように、目の前のイコンは銀色に輝いていた。
 その背から見えるエネルギーのオーラは、六枚の翼のようにも見える。
『カミロ、今君を失うわけにはいかないんだ』
 大破したシュバルツ・フリーゲが、空に浮いている。
 そして次の瞬間、消えた。
『大したことじゃない。先に安全なところに送っただけだよ』
 男とも女ともつかない声だった。
『何者だ? お前は!?』
 翔が声を上げる。
 すると、銀色のイコンの肩の部分に一人の人物が現れた。
 おそらく歳は天御柱学院の生徒達と同じくらいだろう。
 色白の整った顔立ちは、少年のようにも少女のようにも見える。澄んだ蒼い瞳はただ静かに、周囲の全てを俯瞰しているかのようだった。
『初めまして。僕はノヴァ。みんなからは「総帥」って呼ばれてる。ああ、別に、戦うつもりはないよ。今はね』
 ただ微笑を浮かべていた。

(なんだ、アレは?)
(分からない、けど)
 ノヴァの出現を感知したコリマ・ユカギールは、柄にもなく取り乱していた。
(……馬鹿な、そんなはずはない!)
(とにかく、もう少し精神感応で確かめて……)

 ――少し、黙っててくれないかな。

 その声を聞いた直後、コリマの脳内が乱れ、思考が停止した。

『ただ、今回は見ておきたかったんだ。キミ達が「本物」かを。いや、キミ達だけじゃいんだけど、さ』
 今度は南、炎上している巨大な残骸に視線を移した。
『エドワード、彼は偽者だった。残念だよ、本当に』
 この目の前の人物は、ただこの戦いの行く末を見に来ただけらしい。
『そういうわけで、戦いはおしまい。撤退するよ』
 だが、イコンが目覚めた今が、敵を一網打尽にするチャンスだ。
『と、いうわけで』
 ノヴァが手をかざした。

 ――門(ゲート)

 空が割れた。
 そこは別の空間に繋がっているようだ。
『さて、今のうちにみんなには引き上げてもらうよ』
『ふざけるな! 俺達の街を壊そうとしておいて!』
 機体を動かそうとして、翔は気付いた。
「アリサ、動かしてくれ」
「ダメだ、翔。一切のコントロールが効かない!」
 天御柱学院のイコンが身動き出来なくされていた。
『怖いなあ、別に戦うつもりはないっていうのに。だからちょっとだけ止まっててもらうよ。と、言っても、本来の力に目覚めた以上、ジズの力を介しても長くはもたないんだけどね』
 全ての天御柱学院のイコンを、ノヴァは制御下に置いたようだ。

 その突如現れたノヴァを見て。
 アルコリアは真っ先に向かっていった。
 カミロ以上に「愉しませて」くれそうな相手だったからだ。イコンが動かなくても、生身の彼女は動ける。
『へえ……』
 ノヴァはその場から一切動かない。
「あなたも、お強いのでしょう?」
 イコンの上にいる人の姿に向かって、パートナー達と共に全力の一撃を放つ。
 だが、ノヴァはそれを避けようともしない。
「……幻?」
 攻撃はノヴァの身体をすり抜けた。
『そりゃあ、僕はコックピットの中だからね』
 幻のノヴァの姿と目が合う。
『ちょっと、遠くに行っててくれないかな?』
 次の瞬間、アルコリア達は天沼矛に激突した。
『そろそろ、生き残った人はみんな無事に門を潜ったみたいだね』
 それを確かめ、ノヴァの銀色のイコンは高度を上げた。
『それと、そうだ』
 ノヴァは海京の街のある人物に向けて、一言だけ残した。
『「しょうさ」、久しぶりだね。こんなところで会うなんて』
 ノヴァからその姿が見えているわけではない。
 だが、海京にいることには気付いたのだ。
『はは、それじゃあね、天御柱学院のみんな』
 次の瞬間、銀色のイコンは消えた。まるで空間を跳躍するようにして。

* * *


「な、機体が……」
 敵小隊長と交戦していた【アイビス】の星渡 智宏と時禰 凜は、それに気付いた。
 真の力が解放されたことによって、目の前のシュバルツ・フリーゲの二本の刃のうち、一つを腕ごと破壊することには成功していた。
 機体の動きが止まった以上、相手にとっては絶好のチャンスだ。
 だが、敵はそうはせず、割れた空――「門」へと撤退していく。
『私達は負けた。それに、隊長の遺志を無駄にしたくない』
 少女の小隊長は、去っていく。

(ダールトン隊長……)
 最後に送られてきたのは、非常にシンプルな言葉だった。
 ――生き残れ。
 それに、あのマリーエンケーファーが敗れ、カミロ様、ダールトン隊長、エヴァン副長が撃墜された。その時点で負けたのだ。
 ならば自分は他の者達と共に生き残り、再起を図る。そして自分の目的を成し遂げるまでだ。
 それが、時間のかかることだとしても。

* * *


「『罪の調律者は目覚め、歌は夜明けを告げる』、ですか」
 ローゼンクロイツが呟いた。
「貴女達の強さ、意志はよく分かりました。道を違えなければ、いずれあるべき場所に辿り着くことでしょう」
 そして東の空を見る。
「あの御方が、我らが総帥――ノヴァ様です。そして、『終わり』をもたらす可能性を持つ者」
 ローゼンクロイツはそう言って、その場を後にした。

「くそ……まるで歯が立たなかった……」
 ミューレリアと悠希は全力で戦った。だが、及ばなかった。
 しかも、ローゼンクロイツに至っては一歩も動いていない。それどころか、動かしたのは腕一本のみだ。
 あれが、自分達と対立する勢力に属する者。
 そして、東の空に現れたローゼンクロイツをも凌駕する存在。
 改めて、敵の強大さを実感せざるを得なかった。