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イルミンスールの息吹――胎動――

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イルミンスールの息吹――胎動――
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リアクション

 ――ロンウェルの居館にて――
「やれやれ。バルバトス復活の目があると知ったら、先の大戦時に残党を保護して強硬派延命の策を施したのに。
 僕がいない間に魔法少女なんたらに呼び出されて、再生怪人よろしく消滅させられたんだって? やってられないね」
「そう愚痴るものではありますまい。強力な支配者が消えたからこそ、弱小なりと動く余地も出て来るのですから。
 ……それよりも、ティア殿はあのままでよろしいのですかな?」
「ふん……放っておけ」
「…………」

「崩壊した旧バルバトス領を放置しておくことは、賊を招き入れ、周辺の治安悪化を招きます。
 メイシュロットは崩落しましたが、周辺には未だ少数ながら領民も残っているでしょう。その方達のため、食料援助と復興支援に資金を投入してはどうでしょう」
 ロノウェの前に進み出、自らの意見を述べる玄秀。彼の背後には式神 広目天王(しきがみ・こうもくてんおう)が控え、もう一人のパートナーであるはずのティアン・メイ(てぃあん・めい)は扉のすぐ傍で、今にも消えてしまいそうな雰囲気を醸し出していた。
「…………。
 今ちょうど、その件に関して検討を重ねていた所よ。これまでは地上の感情に配慮して、メイシュロットの本格的な復興は避けてきたけど、代王との会談で一歩前進したわ。最終的に許可が降りた場合、メイシュロットは一部を除き解体し、あの位置より北部に新たな都市を建設する」
 一瞬、三人の間に漂う空気を気にする素振りを見せたロノウェだが、その後は気にも留めず検討している案を玄秀に語る。
「なるほど、理解しました。……確認までに尋ねますが、メイシュロットの解体、および新都市建設が実行に移された場合、僕達が手を貸すことは可能ですか?」
「それは構わないけど……?」
 玄秀の言葉に、意図する所が分からないロノウェは首を傾げつつ、玄秀たちが協力することを許可する。

「……ロノウェはこちらの意図に、気付いているようだったか?」
「見た限りでは、主様を疑っている様子は見られません。主様はロノウェの客分として、何度か接しておいでです。『旧バルバトス領の責任者になって勢力を扶持する』主様の狙いを、まだ見抜いてはいますまい」
「いっそ監督者に任命してくれたら、これほど楽なことはなかったんだが。
 ま、言質は取ったし、表に出ない範囲で色々やらせてもらうか。……分かっているね?」
 目で広目天王に告げれば、「お任せあれ」との言葉が返ってくる。表沙汰に出来ないような仕事は、彼の役割であった。
「…………」
 二人が今後の行動について意見をすり合わせている間、ティアンはただ呆然と、後ろを付いて行くばかりであった――。


「……ということに決まったから。計画が実行に移される場合に備えて、書類作成と手配、お願いね」
 玄秀との面会を終えたロノウェは、その足でアルテミシア・ワームウッド(あるてみしあ・わーむうっど)が詰める部署へ赴き、仕事を申し付ける。先の魔法少女絡みの事件の事後処理がようやく終わり、これで一息つけると思っていたアルテミシアは、思わず暴言を吐きたくなるのを必死の思いで堪えつつ、精一杯の抵抗をしてみせる。
「……いや、やりますよ? 三日三晩徹夜で仕事してましたけど、上司の命令とあらばやりますよ?
 でも今の段階だと、出来る仕事や使える人材に限りがあるんですよねー。無い袖は振れないというものです。
 肩書きや役職があれば、違うと思うんですけどねー」
 言葉を受けて、ロノウェが腕を組み、口元に手を当てて考え込む。
「そうね。あなたには今日まで、仕事をこなしてもらった。これからも仕事をお願いするのならば、相応の役職を与えてしかるべきよね。
 ……『ロンウェル公認事務局長』、名称としてはこんな所かしらね。ロンウェルの事務に関する一定の権限を、あなたに付加するわ」
「え、マジですか!?」
 ものの試しに言ってみたことが実現されてしまい、アルテミシアは驚いた表情を見せる。
「その代わり、これまで以上に仕事にはちゃんと取り組んでもらうわよ。無断で抜け出したりするのはもちろん禁止ね」
「……あのー、えーと、その肩書きって、返上――」
「無理ね」
 スッパリと切られてしまった。
「……チクショウ! よく考えたらこの役職、どれだけ偉いのかちっとも分からねぇ!」
 名ばかり管理職とはこのことかと、ロノウェが去った後で暴言を吐きまくるアルテミシアであった。

 一方、『旧バルバトス領の復興が始まった場合、協力しなさい。アルテミシアには書類作成を頼んであるから』とロノウェから直接告げられた毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は、読み耽っていたザナドゥの医学書から顔を上げると、盛大にため息をつく。
「やれやれ、何故私までそのようなことを……」
「あなたが操られて、色々と迷惑をかけたことは知っているわ。その分の責任を果たす、妥当ではないかしら?」
「……やはり、知っていたのか。
 ああ畜生、この世に神はいないのか」
 医学書を顔に被せて、大佐が嘆く。今はまだなんとか仕事をこなせる量だが、その内これを利用してもっと条件の悪い難題をふっかけてくるのではないだろうか。
「ここにも地上にも、『神』は普通に居るじゃない。『魔神』だって神と言えるし、あなたの世界の『国家神』だって十分に神でしょ」
「そうなんですけどね」
 それなら、自分に恵みを与える神はいないということなのか。あぁ、ここがザナドゥではなく日本だったら、一人くらいは自分の神が居てもいいだろうに。
「ま、言われたからにはやるとしよう。ここの医学書が読めなくなるのは惜しい」
 そう言うと大佐が立ち上がり、課された仕事をこなしに行く。昨日は地球の医学に興味を持った魔族に講義をしたし、今日は今日で常に不足しがちな薬品の補充・調合を行わなければならない。どれも面倒な仕事だが、かかる費用は全額支給される点と、ロンウェルに存在する(時間はかかるが、希望すればロンウェル以外の)医学書を好きなだけ読んでいいという条件は、悪くなかった。


「あの後、ゲルヴィーンはロンウェルに行ったらしいんだが、ここには来ていないんだな?」
「ええ、来ていないわね。強制はしないけど、ここも人手に余裕があるわけじゃないし、仕事をしてくれるなら雇ってあげてもよかったんだけど」
 ロンウェルに行ったというゲルヴィーン・シュラック(げるう゛ぃーん・しゅらっく)の様子を見に、ロノウェの元を訪れたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)へ、ロノウェがそのように答える。決して先の魔法少女絡みの事件の時に言ったことは、でまかせではないようだ。
「なら、どこに行ったんだ? 仕方ない、探してみるか。折角だ、ロノウェさんも一緒にどうだ?」
「……そうね。今日は会談や面会が多かったから、少しは外に出た方がいいかしらね。彼がここで何をしているのかも気になるし」
 誘いに乗ったロノウェと共に、エヴァルトは魔族に聞き込みをするなどして、ゲルヴィーンの行方をたどる。その内、『街の片隅で見たことのないものを見せている魔族がいる』という情報を手に入れ、二人は教えられた場所へと向かう――。

(ロノウェ様は、活躍すれば登用すると仰ったケド。……僕、あまり活躍できなかったシ。
 それに何より、役所で働きたいのに、力を示すのは間違ってると思うネ。ここで僕の流すアニメが役立ったと評価されてこそだと思うのネ)
 そんなことを思いながら、今日もゲルヴィーンは自分のコレクションの中から、主に子供向けのアニメを住民に向けて流す。最近では決まった時間になると、子供たちが大挙して訪れるくらいの認知度になっていた。
「おっ、見つけた。なんか、それなりに人気なんじゃないか?」
 そこに、エヴァルトとロノウェがやって来る。ちょうど放送が終わった所で、子供たちが「ばいばーい!」とゲルヴィーンに手を振りながら、それぞれの家へと帰っていく。
「あれ、ロノウェ様。ロノウェ様もアニメ、見ますカ?」
 自分も帰ろうかという所で、ゲルヴィーンが二人を見つけて声をかける。
「あなた、ロンウェルに来てから今までずっとこんなことをしていたの? 私の所に来れば、少しくらい配慮してあげたのに」
「うーん、有難いお言葉ですケド……アニメが役に立ったっていう実績がないとなぁ、って思ったネ。
 だから僕はここで、アニメを流してたネ。子供たちが毎日見に来てくれるのが、ちょっと嬉しく思えてきたネ」
 そう話すゲルヴィーンは、遥か昔、まだテレビがない時代の日本で、紙芝居を子供たちに見せて回ったおじさんにイメージが重なる。まだ十代の彼がそれを聞けば、「僕はオジサンじゃないネ!」と反論するだろうが。
「おまえ、何気に考えてるんだな。……どうだろうロノウェさん、少しこいつに付き合ってもらえないだろうか」
「……いいわ。私もアニメというものを知っておく必要があるでしょう。あなた、準備しなさい」
「は、ハイ! ……じゃあロノウェ様用に、お色気成分の少ないものを……。
 ……ハッ! でももしここで、うっかりそういうシーンを観てしまって、その中のハプニングを自分と想い人でやったなら、と想像して赤くなるロノウェ様も可愛いカモ……ロノウェ様って委員長タイプだし、クーデレが最近流行りって聞くし……」
 何やら想像して身悶えるゲルヴィーン。『想像』だけならまだ何とかなったかもしれないが、無意識に口にしていたのだから弁解のしようがない。
「……なんか、失礼な事のたまってるな。パートナーロストは勘弁だが、死なない程度にはお仕置きしていいぞ、ロノウェさん」
「じゃあ、魔力付加をしない状態のハンマーで」
 スッ、ハンマーを取り出したロノウェが告げる。
「ああ、それなら大丈夫だな」
「……え、あ、冗談ですって、ちょ、ちょっと何二人で納得しちゃってるの……ギャー!!
 カキーン、と効果音をつけたくなるほどに、フルスイングしたロノウェのハンマーに打たれたゲルヴィーンがすっ飛んでいき、やがて星になった。
「……ふぅ。ちょっと魔力付加に頼り過ぎていたかしらね」
「いやぁ、それでも大したものだ。もしロノウェさんが野球チームに入れば、頼もしい事この上ないな」

 その後ゲルヴィーンは、ロンウェルから大分離れた場所で頭から埋まっていたのを、救出される。
「……で、何故に俺がこのようなことをしなくてはならんのだ」
 その間、ゲルヴィーンの代わりにエヴァルトが子供たちのためにアニメを放送する羽目になったのだった。