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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

リアクション


【4】 Re:NOAH【2】


「ごにゃ〜ぽ☆ ほらほら、こっちこっち!」
 鳴神 裁(なるかみ・さい)に憑依する奈落人物部 九十九(もののべ・つくも)は、背後から迫るクルセイダーを挑発しながら、凄まじい速さで信者たちの隙間をすり抜ける。
 機動性に特化した猫バニー型パワードスーツ{ICN0003296#宝貝・補陀落如意羽衣}は、ポータラカ人蒼汁 いーとみー(あじゅーる・いーとみー)がナノマシン拡散によって回路の一部となってる事もあり、驚異的な性能を発揮している。
「愚か者め、そちらは壁だ!」
「ボクの前に壁なんてないよ。あるのは道だけさ」
 壁際にまで迫った彼女は、重力を無視するかのように壁を走った。限界まで登った所で、バク転とともにひる返り、クルセイダーの頭を飛び越え、背後に着地を決める。
「な……!」
魔法格闘少女☆リトルトルネード☆ 推参♪」
 敵は武器を手に、リトルトルネードに怒濤の攻撃を浴びせるが、彼女はスーツの推進装置を自在に操り、まるで空中に舞う羽根のように回避を行う。
「ボクは風、変幻自在の風の動きを捉えきれるかな?」
 スーツの性能と自身の身体能力の高さにより、縦の空間を活用した三次元的な戦闘を彼女は得意とする。歴戦の強者であるクルセイダーも、リトルトルネードのような戦法を使う敵との戦闘経験は乏しく、すぐには有効的な陣形をとることが出来なかった。
「風はすぐに変化する。頬を撫でる風も気が付けば、吹き付ける突風に変わるのさ」
「これは……!」
 リトルトルネードがパワードスーツの下に、インナーとして着込んだ魔鎧ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が、実践的錯覚で撹乱を図る。一瞬、クルセイダーの動きが止まるが、彼らは精神に作用する攻撃に驚異的な耐性を持つ。
「……小細工は効かないか。なら、真っ向勝負だ」
 クルセイダーの繰り出した手斧による一撃を回避すると、その腕を掴んで引き倒しながら顔面に鮮烈の蹴打を食らわす。ヘルメットが大きく変形し、施された意匠を散らしながら、敵はゆっくり地面に崩れる。
 彼女はすぐに次の目標に。短剣による鋭い攻撃を左右に躱し、胸から顎に流れるような蹴り、怯んだところを推進装置を噴かしての二段蹴りで頭上に吹き飛ばした。
「神を恐れぬ不心得者め……。我等は神罰の代行者、その罪、我等が断罪する!」
 クルセイダーはアシュケロンを槍に変化させ、リトルトルネードの心臓を狙って突きを繰り出す。しかしその瞬間、彼女が残像を残して目の前から消えた。
「!?」
「見えるかな、風が渦巻くのが……」
 大きく身をかがめ、すれすれで槍を躱しつつ、懐に飛び込む。
「万勇拳が奥義・無影脚☆」
 崑崙拳法秘伝の目にも止まらぬ速さの連続蹴りで、敵を叩き伏せた。
「さぁ次の相手は誰だい?」

「愛と正義と平等の名の下に! 革命的魔法少女レッドスター☆えりりん!」
 アルティメットフォームで魔法少女に究極変身を遂げた藤林 エリス(ふじばやし・えりす)は、空色の新体操レオタード衣装に身を包んだ。礼拝堂の二階部分に到着した彼女は、立ちはだかるクルセイダーを格闘新体操仕込みのアクロバティックな体術で翻弄する。
「我等が神に仇なす邪悪なる娘よ。我が断罪の刃にて、大いなる眠りを与えてやろう」
「……別にあたしはあんた達の神様とケンカがしたいわけじゃないわ」
 長剣による斬撃を躱し、えりりんは魔砲ステッキで敵と斬り結ぶ。
「ただ、あんた達のやり口が気に食わないのよ。優しい人たちの気持ちを踏みにじるやり口がね!」
 そこに、黒の魔女っ子ドレスに身を包んだ魔女っ子アイドル☆あすにゃんことアスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)が割って入った。
「ゲリラライブに来た私たちを、神官さんや信者のみんなは暖かく応援してくれた。きっとみんな、悪い人じゃない。優しくって、真面目で、でも今の世界に希望を見出せない人たち。あなた達はそんな人たちを騙して利用してる!」
「我等を愚弄するか。信仰なき者よ」
「私はあなた達を許さないわ!」
 あすにゃんは咆哮を放った。斬音剣に口付け、怯んだ敵を一刀両断に斬り捨てる。敵は爆発して紫の煙となって消えた。
「同志えりりん、同志あすにゃん、下がってください」
 魔法少女ミラクル☆きょーちゃんとなったマルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)は、真紅のチャイナドレス風魔法少女衣装を纏っている。
 彼女はファイアストームを放ち、猛然と迫るクルセイダーの一団を一旦撤退させた。
「……助かったわ。きょーちゃん」
「でも、そう長くは持ちませんよ。すぐに彼らも態勢を立て直してくる……」
 きょーちゃんは言葉を飲む。炎の向こう側に、桃色の美しい髪と貴石のような青い瞳を持つ美青年、司教・メルキオールの姿が見えた。
「ようこそ、礼拝堂へ。せっかくお越しのところ恐縮デスガ、何分ここは神聖な場所デスので、お引き取り願えますデショウカ?」
「そうね、あんた達が騙してる神官と信者を解放してくれるなら考えてもいいわ」
 えりりんが言うと、メルキオールは微笑を浮かべる。
「騙すナンテ人聞きが悪いデスネ。世の中には知らなくともいいことがたくさんありマス。知らなくともいいことを知ることは不幸だとは思いマセンカ?」
「自分たちの悪事を隠しているだけでしょう」
「今はまだ受け止めることは出来ないかもしれマセンガ、彼らもいづれ理解してくれるデショウ。超国家神サマの治める世界を実現するためには必要なことだと。彼らは不安に満ちたこの世界に憂いを抱き、超国家神サマの導きを得るため、進んで信徒となったのデスから」
「……確かに、神が大勢いるパラミタでグランツ教にこれだけの信者が集まったのは今の国家神達が人々を幸せに出来ていない証拠だわ。あたしもパラミタが今のままの体制でいいとは思わない。いずれ革命は必要だわ。
 でもね。人の幸せの為に神が必要なんであって、神の為に人を犠牲にするんじゃ本末転倒だわ。これは神をも人類の奉仕者にしなきゃ気の済まない、人間の傲慢よ」
 えりりんは諭すように言う。
「あなたの人々の幸せを願う気持ちは本物だと思います。今時受け入れられなくなりましたが、私も共産主義者として人民の幸福のため活動していますから。ただ、私にとっては万国の労働者を守ることが第一義です。人民へのテロ攻撃は容認できません」
 きょーちゃんの声にも青白く燃える炎のように静かな怒りがこもる。
「世界全体を考えればあんたの方が正しいのかも知れない。でも、魔法少女は”人々の”夢と希望を守るのよ。だから、人々の敵は倒すの」
「……ご理解頂けなくて残念デス」
 メルキオールは悲しそうに首を振ると、聖剣アシュケロンを片手に三本づつ装着し、えりりん達に向かって斬撃を放った。光の刃は鞭のようにしなり、それぞれ異なる動きで襲い掛かる。
「赤き星よ、あたしを守って……!」
 えりりんは格闘新体操で得たリボンの動きから、直感的に軌道を推測して、アシュケロンを避ける。
 しかし、残る二人は攻撃に対応する事は出来なかった。あすにゃんは一撃目を剣で防御したものの、予断なく迫る二撃目を食らって、大きく後方に弾き飛ばされる。きょーちゃんは一撃目を防ぎきれず、体勢を崩して二階の手摺から下に落ちた。
「よくも……!」
 えりりんは魔砲ステッキから光線を発射し、敵の手元を狙う。だが、彼は素早く刃を戻すと、光線を全て弾き返した。
「な……っ!」

 メルキオールが再び斬撃を浴びせようと構えたその時、殺気を感じた。
 次の瞬間、リトルトルネードが推進装置を使った二段ジャンプで二階にまで上がってきた。
「見つけたよ、メルキオール!」
「!?」
 彼女は一息吐く間も惜しんで、パワードスーツのリミッターを解除し、全身全霊の闘気を利き足に収束させた。一撃による最大破壊を目的とする万勇拳の奥義・抜山蓋世だ。
「この一撃に、すべてを賭けて!」
「……神よ、そのお力をワタシに」
 攻撃はメルキオールのほうが速かった。アシュケロンによる六連撃で、リトルトルネードの胸をズタズタに斬り裂く。
 真っ赤な血飛沫と一緒に崩れ落ちる彼女を、慌てて駆け寄ったえりりんが支えた。
「しっかり!」
「……う、ぐ……!」
 スーツに走った鋭利な刀痕から、とめどなく暖かい血が流れ出る。
 えりりんは戦慄しながらも、闘志を失わず、ステッキをメルキオールに突き付けた。
「まだ、まだよ……! 皆はあたしが救ってみせる!」
「もうそろそろ気付いては如何デショウ。誰もそんな事を望んでいないと言うことに」
 一階にいる信者たちから声が上がった。
「司教様から離れろ! 邪教の魔女め!」
「わたし達には超国家神様のご加護があるんだ! お前達の好きにはさせないぞ!」
「そ、そんな……!」
 彼女の闘志が急速に失われていく。
「我々こそが人々の希望なのデス」