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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

リアクション


【3】 G【1】


 グランガクイン司令部。天御柱学院のコリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)学長と、海京の防衛責任者であった故・海京警察副署長の海条保安(かいじょう・もりやす)、そして技術責任者である大文字博士。三者の協力体制の下、極秘裏に建造が進められた地球防衛の要にして、最後の希望。
 しかし希望が芽吹く前に摘み取られる事態に直面するのは、大きな誤算だった。
「肝心のグランガクインは未完成、司令部もまともに機能していない。おまけに敵は私の研究をパクったような空間を使って圧倒的有利。こちらは援軍を呼ぶことすら叶わない……だが、だからこそ我々は勝つ!」
 正面の立体モニターから、段々畑のように配置された制御座席の頂点。司令席に大文字は座る。
「絶望の闇に覆われた今こそ、瞬く星はよく見える! 勝利とはそういうものだ!」
「……あなたはどんな状況でも諦めないと信じていたわ」
「あ、あなたは……!」
 不意に現れた荒井 雅香(あらい・もとか)に、大文字は驚きと安堵の表情を見せた。
「良かった、無事だったのか!」
「ええ。そう簡単にやられてたまるもんですか」
 そうは言うが、彼女はまだ空間に適応出来ていない。
「まさかこの歳で魔法少女をする羽目になるとは思わなかったけど、いいわよね。勇作さんもしてるんだし」
「こ、これは……その」
 緊急避難と言えども、筋骨隆々の四十男のフリフリドレス&ニーソックス姿は一生見なくてすむなら勘弁願いたい代物である。ドレスのボタンは胸筋に屈し、第四ボタンまで弾け飛び、岩石のような剛脚にニーソックスはみちみちと張り裂けんばかり。
「でも、意外と似合ってるわ」
「ほ、本当に?」
「……なんて言ったら新しい趣味に目覚めちゃうかしら、ふふっ」
「こ、こら。からかわんでくれ」
 雅香は魔法少女仮契約書に筆を走らせた。すると、彼女は肩とへそがあらわになった身体の線が強調された黒のセクシー衣装に変身した。
「イコン整備を次々こなし、いつでも笑顔なお姉さん。天学美女年鑑にも載ってる気がするご存知、セクシー★アラサー!」
 決めのセクシーポーズに、大文字はそわそわと目を泳がせる。
「アラサー?」
 傍で司令部の起動準備にあたっていた風紀委員の鈴木は首を傾げた。
「記憶が正しければ、荒井さんは36……」
「アラサー・ダ・マーレ!」
 アイアンクローで鈴木の顔面を締め上げる。
「風紀のくせにものを知らないのね、鈴木くん。今月から四捨五入は6は切り捨てになったの。いいわね?」
「は、はい……」
 それから、彼女は鈴木とともに司令部の立ち上げに加わった。自前のノートパソコンをオペレーションデスクに接続し、コンソールパネルを叩いてシステムを立ち上げる。
「まずは海京の状況を確認する必要があるわね」
 立体モニターに表示された海京全域のマップ上に、海京各所に設置されたレーダーにアクセスして取得した情報を並べていく。友軍機の位置と個別のイコン登録番号、敵の位置、被害状況。それと平行して都市にある監視カメラに接続、任意の場所の映像を得られるようマップとリンクさせる。
「次は敵船に向かったメンバーとの通信回線の確保ね」
 鈴木の作成した各任務ごとに区分けされた携帯番号リストから、ゴールドノアに出撃したメンバーの分を取り出し、それぞれに情報を司令部に集めるよう指示を出す。
「……これで司令部の基本的な役割は果たせそうね。他に必要なものはあるかしら、勇……いえ、大文字司令」
「そうだな。この調子であの爆弾を遠隔解体出来るプログラムを作って欲しいところだ」
「予算と時間を頂けるなら、頑張ってみないでもないけど?」
 アラサーは微笑む。
「……でも、そんなに強力なの、あの爆弾は?」
「私が設計したものだ。この都市を地図から消すぐらいの威力は保証しよう」
 どこか誇らしげに言う。
 その言葉に、近くで作業中だった学院普通科のイコン工学理論講師・イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)は眉を寄せた。
「私もエンジニアですから気持ちはわかりますけど……。”自分の武器はテロリストに使われるために作ったのではない”そう私の祖国の開発者も言葉を残してます。先生もテロリストに使われるために作ったものではないでしょう?」
 彼女もまた仮契約書で魔法少女に。とは言え、衣装はブルースロートをモチーフにしたパワードスーツなので、あまり魔法少女らしさはない。さしずめイコン娘と言ったところだろうか。
「そうだったな。すまん……」
「いえ。それより今後のプランを考えていたのですが、聞いて頂けますか?」
「ほう?」
「思いついたプランは二つ。
 プランA、何らかの革新的技術でG計画を完遂させること。
 プランB、大文字先生の協力で敵の弱点を探って現状勢力で撃破を目指す。
 基本はプランBで戦う皆を援護。敵戦力には先生の研究……将来的に実現したと思しきものです……が運用されているようです。なら、その強み弱みを先生の知識で推論出来ないかと。それと平行してプランAの可能性を探る形を提案します」
「大文字先生ぇ……」
 そこに、同じイコン娘になったヴァディーシャ・アカーシ(う゛ぁでぃーしゃ・あかーし)が現れた。
「ボクの居た未来では、ママは第三世代イコンの開発者として、大文字先生は世界平和を目指した正義の天才発明家として知られてたです。でもこのままじゃ未来がゆがんでしまうです。大文字先生は自分の発明を認めさせるために海京を滅ぼした悪の科学者になっちゃうですよ……」
 だんだんと涙声になる。
「だから……だから……。大文字先生ぇ……みんなを助けてください……」
「泣くな!」
 大文字は彼女の頭をガシガシ撫でた。
「海京は沈ません! この私がいる限り!」
「ありがとう、先生ぇ……」
「ただ、プランBはともかくAのほうは絶望的だぞ? たった今革新的技術が閃くなら誰も苦労はせん」

「先生、俺にいい考えがある!」
 司令席のコンソールパネルの上に、薄紫色の垂れ耳うさぎが飛び乗った。マスコットとなった大文字の弟子、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)だ。
「エネルギー源が足りないなら、俺のウィスタリアの動力を使えば全体は無理でも腕一本、武装の一つくらいは動かせると思うんだ!」
「む……」
「ダメでもともと、やるだけやってみようぜ! アルマ、悪いけどウィスタリアを持ってくれ」
「それは構いませんけど……」
 アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)は薄紫色の魔法少女コスチューム。全員コスプレ状態なのだから気にする必要はないのだが、それでもアルマは少し恥ずかしそうである。
「本当に動くかどうかわかりませんよ? ねぇ大文字先生?」
「ああ、それなのだが……」
「やってみもせずに諦めるのは男のすることじゃない。万に一つでも可能性があるなら、それに賭ける……いや、1パーセントの可能性を掴み取ってこそ、漢だ!」
「……ええい、話を聞かんか!」
 大文字は叫んだ。
「これ見よがしに腕組みしてニガムシを潰した顔をしとるというのに。どう見ても”それは難しいんじゃないのかなぁ……”のオーラを出しとるだろうが」
「ああ。腹でも痛いのかと思った……」
「200メートルを超える巨大ロボを起動させるのに、イコン一機分のエネルギーで補えるはずもなかろう。腕一本でイコン十数機分のサイズだぞ」
「では、格納庫にあるイコン全てのエネルギーを足してみては?」
 そう言ったのは、学院の整備教官である長谷川 真琴(はせがわ・まこと)だった。
 魔法少女衣装に不満があるものの、この状況では仕方ないと腹を括り、魔法少女仮契約書にサインをする。
「技術は未来を開く扉! 飽くなき未知への探究心! 魔導技士メカニック☆ゴッデスマコ!」
 彼女の意志を汲み取ったのか、契約書は、魔法少女ながらも整備の心の入ったピンクのツナギドレスに変身させた。一応、伝統に則ってポーズを決めてみたが、若干周りがきょとんとしてるのを感じ、すぐに咳払いで誤摩化す。
「……コホン。ほ、本題に入りましょう。大文字先生」
「うむ?」
「私はあなたに謝らないといけないことが二つあります。一つは先生の事を疑った事。先生が未来人と通じていて天学に災いをもたらそうとしていたのではと思ったことです。そして、二つ目はグランガクインの図面を勝手に見てしまったこと。申し訳ありませんでした」
「こちらも君達に黙ってこそこそしていたんだ。お互い様だよ、謝る必要などない」
「そう言って頂けると気が楽になります。それで先ほどの話の続きなのですが、グランガクインの総出力から計算して腕一本だけを動かすだけなら、第一世代イコンの機晶エネルギー数基から十数基で賄えるのではありませんか。学院所有の訓練機を外部バッテリーとして繋ぎ、操縦はコンソールに寄る遠隔操作にすれば短時間稼動は出来ると思います」
「まぁ”腕一本”を動かすなら、イコン十数機で最低ラインのエネルギーは確保出来るかもしれん。だが……」
「ええ。勿論、この案は実際に実験をしたわけでもないので、机上の空論でしかありません。それに成功しても状況を覆せる戦力になるか微妙なところです。ただ、このサイズの機体なら腕一本でも海京を守る力にはなるかと。このまま被害が大きくなるのを待つより、事態を打開するために少し足掻いてみるのはどうでしょうか」
「あたいは真琴……ゴッデスマコの案に一口乗るよ」
 クリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)は賛同を込めて頷く。彼女もゴッデスマコ同様、整備の心のツナギドレス。マコよりもワイルドに、上はフリル付きタンクトップだ。曰く「機械の体に正義の回路(ハート)! 機晶整姫ミニステル☆クリス!!」とのこと。
「分の悪い賭けだと思うけど、事態を打開する切り札になる。前に大文字先生はさ、真琴の事を現実的でつまらないって言ってたよね。確かにそんなところもあるけど、こいつも心の奥底には誰よりも熱いものがあるんだよ」
「作業ならオレ達に任せてくれ」
 今度は真田 恵美(さなだ・めぐみ)が後を押す。彼女も二人と同じく作業着ベースの魔法少女コスチューム。ただ、二人よりも新米の整備班なので、胸のところに若葉マークのワッペンがある。決め台詞は「強き精神は正義の心! 熱き血潮の技術ガール! 強化整姫ミニステル?メグ!!」だそうな。
「サイズが大きくても基本はイコンなんだろ。だったら、オレ達の専門分野さ。海京が沈む前に作業は終わらせてみせる」
 大文字は三人を見る。
「君達の熱意はわかった。だが、根本的な問題がある事を伝えねばならん」
「根本的な問題?」
「そもそも基本的なロボット機構がまだ未完成なのだ。何分、巨大な兵器だ。計画では全体の完成までに三十年、片方の腕部が完成するのは三年後の予定となっている。それまで連中が海京を沈めるのを待ってくれるなら、使えんでもないが、そうもいかんだろう」
「そ、それでは起動させても戦うことは出来ないのですか?」
「一部の武装は完成し、既に組み込んである。それを使って戦闘を行うことは可能だ」