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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

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【4】 Re:NOAH【4】


「爆弾の回収……?」
 司令部からの回収司令に、風紀委員の高峯 秋(たかみね・しゅう)は目をしばたかせた。
 契約書によって魔法少女となった彼は、フリルのたくさんある乙女な衣装に。思春期の男子が装着するには辛いものがあるが、しかし童顔な秋は船内各所で地獄の女装祭りを繰り広げている野郎どもより、全然着こなしている。
 ちなみに、魔法少女名はキラリン☆アッキー。本名まんまだと名乗りをあげる時に恥ずかしいので、微妙に変えてある。
「もしかしたら、それでグランガクインを起動することが出来るかも、だって……」
 エルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)も魔法少女になった。その名も、魔法少女メロリン☆エルーノ。普段、清楚な服装を好む彼女としては、派手な魔法少女衣装は落ち着かないが、傍目にはとてもよく似合っている。
「……なんで私も魔法少女なのよぉ。マスコットがいいって言ったのにぃ」
 そして、カーリン・リンドホルム(かーりん・りんどほるむ)も同じく魔法少女に。
 しかし、彼女は頬を膨らませ、不服そうである。どうやら魔法少女ではなく、マスコットになりたかったようだ。
「ちょっと手違いがあったみたいでさ……でも、似合ってるよ、ねーちゃん」
「そ……そう? スカートの丈は短いし、無駄に露出してるんだけど……」
 とは言え、ちょっと嬉しそうだ。
「ついでに名前も考えたら?」
「えっ、名前? ええと……リンをつければいいのかしら。じゃあ有機リン★カリーンで」
「それじゃ化学物質だよ……」
 ビッグバン・ボムと時空断裂弾、二つの爆弾はゴールドノアの船底部にある。船底の格納庫からはみ出す形で取り付けられているため、爆弾は外から丸見えだ。無論、そのように取り付けられている理由は一つ、この船を攻撃してはいけないと言う警告だ。
 格納庫には小型飛空艇が数十機搭載されている他は、船の修復に使う装甲板や鉄骨があるぐらいで、他に目立ったものはない。
 爆弾には見張りのクルセイダーが数人いる。船内での戦闘が激化しているため、多くの人員はそちらに割かれ、ここの防備は思ったよりも数が少なかった。
「俺……じゃなくてアッキーとエル……じゃなくてエルーノが敵の攻撃を食い止めてる間に、カーリンねー……じゃなくてカリーンが爆弾を止める。うう、なんだかメンドクサイな、魔法少女って。とにかく、ビックバン・ボム最優先で、なんとか頼むよ」
「わかったわ」
 アッキーとエルーノは物陰から飛び出す。
「魔法少女キラリン☆アッキー! 海京の皆を守るため、期間限定で参上だよ!」
「同じくメロリン☆エルーノ!」
 クルセイダーが動く前に、アッキーが先手をとった。
「必殺! 女子力ぱわぁ!」
 真空波で相手の服だけを吹き飛ばし、社会的に抹殺する必殺技だ。技名に反して女子力の欠片もない。それとも、女子力の高い女子は、どんな男もすぐ裸にしてしまう、と言う深い意味が込められたり……しないだろうな、きっと。
「うおおおおおおおおお! 女子力ーーっ! 俺の女子力ーーーっ!!」
「悪しき風を運ぶ悪魔の使いめ。神に祝福されし我等に、邪悪なる術など通用せん」
 クルセイダーの着てるライダースーツは特殊な防刃素材で出来ているため、思うように斬り裂くことが出来なかった。
「く、くそぉ! 脱げろ脱げろー! 裸になれーっ!」
「ど、どんどん女子力が下がってるよ、アッキー!」
 続いてエルーノが攻撃する。
「必殺! フリーズメロディ!」
 フラワシ”トントゥ・トムテ”を発現させ、冷気を放つ。身も凍る寒さで、敵を凍らせようとするが、大人しく冷凍されるほど敵は優しくない。真正面から冷気を浴びながらも、クルセイダーは怯むことなく突進してくる。
「わわわっ!」
「せ、戦略的撤退よ!」
 攻撃を繰り出しながら、二人は格納庫の奥へ奥へ敵を誘い込む。
(……頼んだよ、ねーちゃん)
 アッキーは、物陰のカリーンに目配せし、クルセイダーを連れて消えた。

 その頃、グランガクイン司令部では、御空 天泣(みそら・てんきゅう)が爆弾処理のための準備を行っている最中だった。
 これまで事件に関わっていなかった彼だが、海京全土が襲撃にあったとなれば、逃れる術はない。分けも分からず地下に避難したと思ったら、この司令部に辿り着いてしまったのだ。状況を知った以上、無視は出来ない。眼鏡をかけたぬいぐるみ型マスコットに変身して、司令部の仕事を手伝っている。
「……って、おい待て、メガネ」
 ラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち)は不満全開で天泣に迫った。
「いくら男と喋りたくないからって、ボクを魔法少女にして! なんだよ、このフリル過多の衣装! 成人してこの格好は流石にちょっと凹むよ!」
「し、仕方ないだろ。その、男がいると作業に差し支えるし……」
 天泣は過去のトラウマから、男性恐怖症なのだ。
「でも、かわいいよー。ゲームでマニアックな人気のあるキャラみたーい」
 ムハリーリヤ・スミェールチ(むはりーりや・すみぇーるち)は無邪気に笑う。
 彼女も魔法少女衣装に身を包んでいるのだが、190センチもある長身で、しかもセクシーダイナマイツなわがままボディのため、正直、子供っぽい魔法少女衣装はあまり似合ってない。本人はとても喜んでいるようだが。
「それはともかく、ラヴィ。黄金の大型飛空艇の画像……二つの兵器を見れるようにモニターを弄ってくれないか」
「……ったく、しょうがないなぁ」
 コンソールパネルを叩き、画像を拡大させる。
 重要なのは、この爆弾が大文字の設計したものと相違ないかどうかだ。その前提が崩れてしまえば、グランガクイン起動計画は水泡に帰してしまう。
「僕とムハで爆弾を徹底的に調べる。ラヴィは大文字先生に調べた内容を伝えてくれ」
「そりゃ構わないけど、でも……」
 彼が何か言いかけたのに気付かず、天泣とムハリーリヤは顕微眼(ナノサイト)で爆弾を見る。電子顕微鏡並の拡大視力を得る事が可能となるスキルだが、そんな能力でモニターを見ればどうなるか、答えは簡単である。
「うわああああっ! 物凄く荒い画像のドットが!」
「うん。そうなるよね……」
 ラヴィは肩をすくめた。
「あと、そのボクが伝えるって言う手間だよね。ここに40男の魔法少女を連れてくれば、別に天泣が確認する必要もないし、そっちのが早くないかって言う」
「う、うるさいな……。わかったよ。先生を呼んできて確認してもらってくれ。僕はちょっと席を外すから……」
 彼が安全な場所に移動したところで、大文字が爆弾の確認をする。
「……間違いない。私の設計したものだ」
「そっか。でね、うちのメガネが心配してたんだけど、ビッグバン・ボムは回収するとして、時空断裂弾のほうをどうするつもりなの?」
「む?」
「そんなに危険なものなら、海上か海中で爆破するのがいいと思うんだけど?」
「ああ、心配はいらん。その件は解決している。問題は……」
 大文字は爆弾発見の報告を寄越したカリーンに連絡をとる。
『あら、大文字博士』
「聞こえるかね。既に通達してあると思うが爆弾の解体は必要なくなった」
『ええ、聞いているわ』
「その代わり、君には爆弾に搭載されている”遠隔起爆装置”の解体を頼みたい。名前のとおり、離れた場所から爆弾を起爆することの出来る装置だ。奴らが自爆も辞さない覚悟で行動しているとなれば、必ずその装置を搭載している」
『なるほど。これを外さないと安全に回収が出来ないってわけね』
「そう言うことだ」
『了解。この間、爆弾の設計資料を見させて貰ったから、時間はかからないと思うわ』
「なら話は早い。その資料にない部品が装置のはずだ」
 それから、30分ほどで起爆装置の解除は終わった。エルーノの撮影した資料写真と、大文字からのアドバイスがあったのも、作業を滞りなく進めるのに役立ったが、なにより機械に精通した彼女の技術が短時間での作業を後押しした。
『回収出来るようになったけど、どうしたもんかしら。持って帰るには大きいし……』
「すぐに回収班が向かう。少し危険になると思うから、格納庫から離れたまえ」

 付かず離れずの距離を維持し、ゴールドノアを追跡する機体があった。護衛のガーディアンに気取られないよう、ビルの陰を渡りながら、獲物を狙う狐のように迫るのは、コンクリート モモ(こんくりーと・もも)ジェファルコンカスタム
『……と言うわけで、起爆装置の処理は完了した。すぐに回収を頼む』
「了解にゃ。30分以内にお届けするにゃ」
 後部座席に座るハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)が司令を受け取る。
「ところで先生。時空断裂弾の処理にゃのだけど、さっき伝えた方法で構わんかにゃ?」
『ああ。問題ない。そちらも合わせて頼む』
「ミーに任せてくれば悪いようにはしにゃいにゃ。それじゃまた後でにゃ〜」
 モニターに映る大文字に手を振ると、通信を終えた。
「なによ、あんた。いつの間にか先生と仲良くなっちゃって」
 モモは唇を尖らせた。
「ミー達のプランを話したら、色々協力してくれたのにゃ。話のわかるおっさんにゃ」
「へぇ。だったら頼めば、グランガクインのメインパイロットにもしてもらえるかなぁ」
 ギルティはきょとんとする。
「あれの完成は30年後にゃよ?」
「そう。そうなのよねぇ。30年か……。30年後っていったら、あたし47歳……ぎ、ぎりぎりセーフ! ヒロインぎりセーフよね!」
「余裕のアウトにゃ」
 前方にゴールドノアを捉えた。狙撃用のスコープを覗き、爆弾の位置を把握する。
「どうするにゃ?」
「ここが海上だったら接合部を狙撃で済んだんだけど、町中だと危険っしょ。つか、ミスったらゴメンじゃ許してくれなさそうだし。となったら、もぎ取るしかないよね」
 コンソールパネルに指を滑らせ、ジェファルコン搭載のクローアームを調整する。
「さぁ患者さん。これ見よがしにタマタマを見せびらかしてるとこ悪いけど、残念、あなたのタマは悪性よ。切除しましょうね」
 ギルティはモニターにマップを表示させる。そこに司令部が把握したゴールドノアと護衛のガーディアンのデータを反映、ジェファルコンで突撃する際、最も有効なコースをシミュレートする。
「軌道設定、完了にゃ!」
「それじゃ術式開始といきますか!」
 ジェファルコンはビルの陰から飛び出し奇襲をかける。ガーディアンが反応するまでの一瞬に間隙を縫って、二つのタマ……いや、弾をクローアームで強奪する。
「去勢!」
 そして、すぐさま高加速で空域を離脱する。
「カチッ……ポータラカ加速装置っ!」
 奥歯を噛むそぶりを見せながら、モモは一気にガーディアンを引き離し、安全区域まで飛び去った。