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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

リアクション


【17】


 地下へ続く階段を下り、悪臭立ち込める下水道のその先、グランツミレニアムの礎とも言うべきところを更に下る。すると、この海上都市がコンクリートで塗り固めてしまったもうひとつの都市に辿り着く。
 その都の名は『海京』という。
 町と言っても、全てがコンクリートで固められてしまっているため、思い描くような風景はない。ただコンクリートが入り込まなかった建物の通路が、建物から建物を繋ぎ、通路から別の通路に、アリの巣のように続いているのだ。
 隊を率いるレジスタンスのリーダー・サマーブルーは痩せた身体に似合わぬ鷹のような眼で通路の先を見つめ、慎重に、そして迅速に歩を進めて行く。
「あと数刻で目的の場所だ。例の”怪物”の報告もある。各員、油断を怠るな」
 過去から来た仲間と第7地区を根城とするレジスタンスは、ここに眠る超兵器”グランガクイン”と兵器を今も尚建造する人物に会うため、失われた町に降り立ったのだ。
 先行するのは、バンカラ少女姫宮 和希(ひめみや・かずき)と元気娘のミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)だった。ミュウの超感覚で行く手を探りながら、和希は持ち前の勇敢さで道を切り開きながら、前に進む。
「……それにしても、あの海京がこんなことになっちまうなんて」
「ああ、ほんとにな。世の中どうなるのかわかんねーぜ」
「……あ!」
「どうした、姫やん?」
「グランツ教のタイムマシンをぶっ壊しちまえばいいんだ。そうしたら、あの化け物もグランツ教も俺達の時代に来れなくなるんじゃねーか?」
「……あ! その手があったか。姫やん、頭いいなー」
 けれど、サマーブルーは言った。
「……難しいだろうな」
 既に時間移動の技術は確立されている。今さら装置の一つや二つ破壊したところで教団を止めるのは不可能だろう。
「ただ不可解な点がある」
 時間移動は片道切符だ。過去に行けば、行ったきり戻ることは出来ない。
「しかし君達の話では奴等は幹部クラスはおろかグランツテンプルムごと、崇める超国家神まで連れて過去に行っている。パラミタを支配した奴等が何故それを捨ててまで帰ることの出来ない旅に……?」
 和希とミュウは顔を見合わせた。
「時間移動って未来には行けないのか?」
「俺の知る限り過去に行く事以外は出来ない」
「……それって変だぜ? じゃあ、何で私と姫やんはここにいるんだよ?」
「ずっとそれが気になっていた。どうして奴等はグランガクインを探していたのか、そんなものを手に入れても戻れないのでは意味がない」
「……ってことは奴らは持ってるんだ」
 ミュウは和希を見た。
「過去と未来を往復する事の出来る装置か……」
 しばらく進むと通路の雰囲気が変わった。床や壁の感じに見覚えがある。
「これ、天学だよ!」
 天学生の柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)にはわかった。大分荒廃してしまってカビだらけヒビだらけだけど、慣れ親しんだ校舎に間違いなかった。
「この先に、グランガクインと開発者が……」
 その話を聞いた時、桂輔の中で思い浮かぶのは一人しかいなかった。彼の師であり、天御柱学院の普通科教授を務める男だ。
「……大文字先生」
「桂輔、焦りは禁物ですよ」
 逸る桂輔の気持ちを察して、アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)はたしなめた。
 その時、一行は通路を抜けて暗闇の空間に出た。
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は光条兵器を発現させ、足元を確かめながら空間を調べる。
 目の前ある建物は天御柱学院の普通科校舎だった。今、通って来たのは整備科の校舎だったようだ。そして二つの校舎の間にある空間の一部は陥没して、侵入してきた海水で満たされているのに気付いた。
 しかしただ満たされているわけではない。水辺の周囲は奇麗に整備されてる。大型船を横付け出来るだけの岸壁があり、船を停泊させる泊地もちゃんと用意されてる。上のほうに、照明らしきものも見えた。
「……なんだここは。港なのか?」
「ちょっと泳いでくる」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は水の中に飛び込んだ。
 海京崩壊の際に出来た窪みに浸水して出来た水溜まりなのだろうが、こうして潜ってみるとただの溜まりでないことがわかる。上からダリルの光に照らされた底には、深く掘られた痕跡があって、大型船が入って来ても、底にぶつからないよう航路が作られている。しかも、ところどころに誘導灯があった。
「……特務隊の話じゃグランガクインを建造してる何者かは潜水艦で資材を運び込んでるってことだったな。おそらくこの港は連中が使ってるもんだな」
「やはりここにあるのか、グランガクイン……」
「気になる?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は言った。
「俺の興味はグランガクインの完成具合にもある。23年経ってどれほどものが出来ているのか……」
「うっわ、メカオタク」
「違う」
 そこにサマーブルーが来た。
 ルカルカは敬礼し、先ほど他の地区に行った友人、紫月唯斗と柊恭也から得た情報を報告した。
「サルベージは滞りなく行われているか。我々の成果にかかっているな」
「あのサマーブルーさん、お訊きしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「なんだ?」
「サーファー……波野利夫さんとお知り合いなんですか?」
 海京警察の名物刑事”サーファー刑事”こと波野利夫。彼とは2023年の教団絡みの事件で行動をともにしたことがあった。ルカルカとカルキは、最終兵器刑事、ドラゴン刑事と彼から呼ばれていた。
「アジトに、あなたと彼の写真を見つけたの」
「……奴は俺の相棒だった男だ」
「相棒……あなたも海京警察の人なの?」
「俺とサーファーはあらゆる現場で活躍したものだ。あの日が来るまでは……」
 あの日、海京崩壊の日……サマーブルーは海京にいなかった。夏バテがあまりにも酷くて、シャンバラの実家で静養していたのだ。
「俺はずっとバテていた。バテてバテてバテてバテまくってる間に、海京は無くなり、相棒も命を落とした。もう十分にバテた。もう俺はバテない。バテ尽くした。だから俺は相棒の分まで海京を守ると誓った」
 それがこの男、サマーブルーが教団と戦う理由だった。
「あなたはもしかして……」
 彼の名をサーファー刑事から聞いたことがある。
「俺はサマーブルー……かつて”夏バテ刑事”と呼ばれていた男!」
 その時、ミュウが港の端に”G”の刻印がされたコンテナを見つけた。
 お宝お宝、と喜ぶ彼女だったが、残念なことにコンテナの中は空だった。
「えー。なんかないのかよぉ」
 それでもコンテナの中を漁ると、金属板を見つけた。
「こんなもんぐらいしかないか……」
 いらね、と放り投げると装甲板は目の前にあったコンテナを真っ二つにしてしまった。凄い切れ味だ。
「……な、なんだこりゃあ!」
 見ると、金属板のあったコンテナには”アイアンスラスト”の文字があった。
 それが何を意味するのかはわからないが、おそらくこの金属板がアイアンスラストなのだろう。大きさからいって、アイアンスラストそのものではなく、アイアンスラストの切れ端のようなものだと思うが。
「いいな、これ。手裏剣に使えそうだぜ」
「ミュウ……!」
「あ、姫やん、これ見てくれよ」
 しかし和希はミュウではなく、その後ろを見ている。
 コンテナの上に”それ”はいた。全身まっ白の四つ足の獣。その顔に目はなくただ大きなくちが目立つ。おぞましさを沸き起こさせる怪物だった。
『グルルルッルッルルルルルルウ!!』
「で、出やがったな!」
 ミュウはアイアンスラストを放った。鋭い金属片は怪物の脳天を正確に斬り裂いた。真っ二つになった頭から、紫色の煙が噴き上がった。
「……あれ? 意外とあっさり倒しちまった……」
「まだだ! 気を付けろ、ミュウ!」
 怪物の頭はすぐに元通りに再生した。
『グルッルルルルル!』
 大口を開けて飛び掛かる怪物の前に、和希が飛び出した。万勇拳の技とドラゴンアーツの怪力で、怪物の横っ面に飛び蹴りを食らわせる。
「おらあっ!!」
 渾身の一撃。顎を下から捉えたその蹴りで、脳が揺さぶられ、普通の人間なら当然、パラミタのモンスターでもただでは済むはずがない……のはずだった。
 しかし怪物は微動だにしなかった。和希の脚に分厚い鉄板を蹴った時のような鈍い衝撃だけが跳ね返る。
「……なっ、なんだこいつ」
 そこにサマーブルーの声が響き渡った。
「敵だ! 例の怪物が出たぞ!!」
 そして悪い事は重なるものだ。
 隊後方で追っ手のクルセイダーの接近を警戒していたリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が、血相を変えて港に飛び込んで来たのだ。
「来たでふ! クルセイダーの一団がこっちに向かってるでふ!」
 敵の数は、舞香とマイカとノーンが頑張ってくれたおかげで、予想していたよりも少数だった。その数、約10人。だが、目の前の怪物と挟み撃ちにされると考えるとまったく安心の出来ない数である。
『グルルッルルルッルッルルルルルルウーーーッ!!』
 怪物のくちに真っ赤に灼熱したかと思うと、その熱はみるみる収束し、その大口から凄まじい速度で吐き出された。イコンのビームにも匹敵する、いやそれ以上の威力を持った熱線砲だった。熱線が放たれた瞬間、暗闇の港は真昼のように明るくなった。熱線は整備科の校舎に直撃し、大爆発を引き起こした。
「……な、なんだと!」
 有り得ない威力に、サマーブルーは戦慄した。
 その時、その場にいたレジスタンスを除く全員が思った。そう言えば、何故気付かなかったのだろう、と。
 もし、レジスタンスがグランガクインの回収に成功するのなら、彼らはその超兵器を使ってグランツ教と戦ったはず、ならばこの未来から過去に来た教団はグランガクインがどのようなものか知っているはずだ。
 しかし、過去に現れた教団はグランガクインに関する情報をほとんど持っていなかった。
 その答えはひとつしかない。レジスタンスはグランガクインの回収に失敗するのだ。ここで、この場所で、この怪物の圧倒的な強さの前に。