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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【2/3】 ~

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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【2/3】 ~

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 大地の声が聞こえる……。広大な荒野が、耕作によって生命を吹き込まれるのを心待ちにしている。
 真理子の農作業を手伝いに来ていた笠置 生駒(かさぎ・いこま)は、しばし作業の手を休め耳をすませた。
「……」
 幻聴ではない。彼女には大自然の囁きが手に取るように分かった。
 コックピット脇のクーラーボックスから冷えたペットボトルのお茶を取り出して飲むと美味い。これが労働の汗の気持ちよさというやつか。
 よく働いたので、一息入れて辺りを見回した。
 抜けるような青空の下、現地周辺では、早くも大勢の仲間たちが集まり働いている。
 まずは、広大な痩せた土地を作物が育つよう耕していく地道な作業が続けられていた。
 特に報酬があるわけでもないのに、参加者たちは誰も文句を言わずに重労働に携わっている。奇妙で珍しい光景だ。朝早くからの重労働、ご苦労なことだ。
 いいや、それは違うと生駒は思った。世俗的な獲得物など誰も求めてはいない。皆の成果こそが何よりの報酬なのだ。決闘の勝負など副次的なもの。農作物とともに、生徒たちも成長する。絆と熱意こそが大切なのだ。
 真理子も小粋なイベントを思いついてくれたものだ。シャンバラ大荒野は死んでなどいないし見捨てられ枯れ果てた地でもない。今日を機会に、実りをもたらすみずみずしく豊かな楽園に生まれ変わるのだ。
「うん、頑張ろう!」
 生駒は、ごく短い休息を終えて作業を再開した。
 持ち込んできたイコンのジェファルコン特務仕様は、武装を外す暇が無かったため完全武装だ。いや、本当は時間があったのだが無かったことにしておこう。そのまま農作業を続けてもさほど支障が出るわけでもなく邪魔になるわけでもない。もしかしたら操作を誤って武装を発動させてしまうかもしれないが、パラ実では事故はつき物だしどうせうやむやになるし……。
 生駒はジェファルコン特務仕様を巧みに操りサクサクと荒野を耕していく。
「ぷっはー! 酒うめぇ! ツマミもってこいや、コラァ!」
 副操縦席ではパートナーのシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)の夢も希望も無い声が聞こえるが、きっと幻聴だろう。今彼女らが聞くべきは、大地の呼び声なのだ。ぐびぐびと酒を飲む音ではない。
「ウチにも聞こえるでぇ、大地の声が。さっきから頭がええ音で鳴っとるわ」
 シーニーは酒瓶を片手にご機嫌だ。始まってから飲んでばかりであまり役に立っていない。いや、やる気はあるのだ。ダルダルになっているのはいつものこと。【自称小麦粉】も持ってきたし足りなければ造ればいい。そのための農作業なのだ。
「いやほんま。早う【自称小麦粉】の苗植えようや。通販で注文してあったケシの種(?)みたいなやつも届いてるでぇ。みんなで天国行ったらええねん」
「ほらそこ、ラリってないでさっさと働く! あんまり足ばかり引っ張ってると、本当に天国に送るよ」
 生駒はピシャリと注意した。真面目に働かないとみんなに悪い。真理子にも勝たせてあげたいし、なにより彼女自身が特命教師とか言う連中に後れを取りたくなかった。
「でも、今回、吉井さんが提案した無謀な決闘に乗ってきた特命教師達は、負けじと大勢の仲間を動員してきたみたいだね。凄い勢いで作業してるじゃない。どうしてあんなに本気になってるんだろ?」
「んぷっ? う、えぁ、まあ、一人ぼっちよりはええんちゃうの。ようわからんけど」
 シーニーはアルコールで淀んだ息を吐きながら適当な口調で答えた。
 イコンの機器越しに遠方を見やると、確かに特命教師たちの集めてきた勢力が忙しそうに働いているのがわかる。彼らが農作業を侮り手を抜いている様子は無かった。イコンは使っていないが農作業用重機を数多く使用して効率的に作業を進めている。
「よっぽど緑黄色野菜が好きなんやな。枝豆できたらヒャッハー! って強奪しに行こや。やっぱりツマミほしいし」
「相手方に対する武力攻撃はダメだって、吉井さんに言われてるじゃない。特命教師たちもその約束を守っているところが意外だね」
 もっと乱闘じみた戦いになるかと思っていた生駒は、敵が大人しいのに驚いていた。もっとも、油断させておいていきなり仕掛けてくる可能性もあるので気を抜けないが。
「特命教師たちが攻撃してくるとしたら、彼らが不利な状況になったときだね。残念ながら現段階では、ワタシたちのほうが勢いで負けているよ」
 彼らは有り余る資金で人材と機材を揃え優位に事を運んでいる。真理子は勝てるのだろうか。気になった生駒は、双方の戦力分布と今後の展開を分析してみることにした。
「う〜ん……。始まってまだ余り時間も経っていないのにまずいね、これは」
 イコンのコンピューターで計算してみると、勝率はかなり低い。開票率数%で当選確実が出る選挙くらいに前評判で戦力差があった。これはショックだった。真理子たちは一生懸命頑張っているのに、相手の物量作戦に遅れを取ってしまっている。特命教師の側にも大勢人材が集まるほどの人望があったのかと、そちらも驚きだが。
「えらいこっちゃ。これはもう何か“事故”でも起こらん限り勝たれへんで」
 シーニーは現実逃避気味に【自称小麦粉】をすーはーやりだした。モチベーションも低下してますます作業効率が落ちている。
「事故、か……」
 生駒はポツリとつぶやいた。ジェファルコン特務仕様は通常装備だ。ちょっと撃ってみるか……? 一発だけなら誤射かもしれない……。
 シーニーは帰る準備を始めた。これ以上の戦いは無益だ。
「今日のところはこの辺で勘弁しておいてやるわ! 次はこうはいかへんで。ウチら、明日くらいから本気出すから!」
 さて、家でゆっくりと酒と【自称小麦粉】を楽しむとするか。英気を養い、100%フルパワーを出した彼女らの大活躍で一気に逆転だ! ピンチのときに現れてこそ真のヒーロー! まあ、彼女らは女の子だが精神的にそんな感じ。勝利をもぎ取り、最後に笑うのは彼女たちなのだ。アルコールが回りいい気分になってきたシーニーの頭の中には勝利の図しか浮かんでいなかった。一足先に帰って祝杯を挙げてもいいだろう。
「かっけー! ウチらかっけー!」
「そうだな。ここで決めなければ……」
 生駒は、【バスターレールガン】のトリガーに手をかけた。相手が妨害してきた場合の迎撃用なのだが、すでに妨害されているし。なんていうか、精神的に。重い気持ちにさせてくれたのは敵の策略だ。そうに違いない。
「いやまて。そんなことをしても何の解決にも……」
「ヒャッハー! 家でゆっくり飲みまくるでぇ」
「おい。遊んでいる暇があったら手伝えよ」
 そんな二人を見つけて、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の保有しているイコンのレイが近寄ってきた。
 機体のコックピットで操縦しながら、夏侯 淵(かこう・えん)が呼びかける。
「みんな一生懸命に作業に取り組んでるだろ。お前らも真面目に協力して真理子に勝たせてやろうぜ」
 淵もまた、真理子の決闘の手伝いをするためにこの極西分校へとやってきていたのだ。スキルを使ってバックアップしようと考えていたところ、作業が進まずぽつんと孤立してグダグダやっている生駒とシーニーが気になって様子を見に来たのだった。
「おはよう、夏侯惇。もちろんだとも。ワタシたちはサボっていたわけじゃないぞ。やる気はある。ただ仲間の輪に入りにくかっただけなのだ」
 生駒は我に返ってレイの声の主に挨拶も交えて宣言した。
「みんな仲良く協力して作業しているのに、ワタシたちなんだかのけ者っぽいし?」
 彼女らに悪気はないのだが、淵はちょっとイラっとした。
「俺は、夏侯惇じゃねえ。何気に寂しいアピールしてんじゃねえよ。誰ものけ者にしてねえよ」
「ワタシは、三国志ではどっちかというと夏侯惇のがいい感じだし? うん、今なんとなくそんな気がした」
「余計なお世話だ、この野郎。夏侯淵で悪かったな。いいから来いよ。猫の手も借りたいほど忙しいんだ」
「なんやと〜、今のウチらは猫の手よりも役に立たたへん自信があるで。ぷっはーぁ!」
 シーニーは、酒気を帯びた口調で威張って言った。
「連れて行け」
 淵は、コックピットでパチンと指を鳴らす。たちまちにして、パラ実生の操るイコンが数機ジェファルコン特務仕様を過酷な作業現場の中心へと連れ出していった。二人はなんだかんだぶつぶつ言いながらも真理子たちと合流してイコンを操り作業を手伝い始めた。もちろん最初からそのつもりだったので好都合だった。彼女らの活躍についてはこの後も見てみよう。
「まったく、なんなんだあいつらは」
「あんまり乱暴に連れて行く必要はなかったんじゃないかな。皆マイペースで作業をしているんだし、まだ慌てなくても間に合うと思うけど」
 ルカルカはイコンを操縦していた手を緩めて、決闘の現場を遠めに眺めた。
 真理子を手伝う生徒たちの数も少なくはないが、それなりに活気にあふれた雰囲気だ。緊張感はあまりないが、作業が滞っている様子もない。
「呼びかけに応じてくれた生徒たちに感謝よね」
 真理子が決めてルカルカが強引に持ち込んだ決闘だったが、予想していた以上に多くの生徒たちが手伝ってくれている。普段は暴れまわっているモヒカンたちまでが、強制したわけではないのに農作業に取り組んでいるのは意外だった。
「みんな、暇なんだろ。何でもいいからイベントを待っていたんだ」
 淵は、作業を続けながら言った。
 イコンのレイは、戦っても強いが労働力としても大いに役に立つ。農機具としての働きで作業は見る見るはかどっていた。途方もないほどの広さの土地を開墾するためには手作業は無謀だ。イコンの持ち込みは数少なく貴重な戦力になっている。
 一方で、写楽斎を中心とする特命教師たちのチームは、大規模に展開していた。
 写楽斎本人は今のところ直接作業に関わることはなく、監督として現場を指揮している。人員配置や作業の指示は的確に行われており、協力しているスタッフたちもなかなか優秀であることが見て取れる。
 彼らは、テキパキと隙なく作業を進め、すでにかなりの面積の荒野を耕し終えていた。真理子たちのチームを軽視することもなく、自分たちの能力や機材や技術の優位性に驕ることもなく、熱心に取り組んでいる。
 妨害してくるのかと思っていたが、今のところ仕掛けてくる様子も無かった。
「相手は想像していたよりも本気だな。すでに向こうの方が作業が進んでいるし、うかうかしているとますます差は開いちまう」
 淵は言った。できればもっと手っ取り早く片付けたいところだが、特命教師側が何もしてこない以上、ルカルカたちも強引に攻撃するつもりは無かった。武力での対決は、真理子の望むところではないので、その意思を尊重してとりあえずは大人しく作業をしながら様子見だ。
「真理子の話では、伝説の樹木の育つ土壌が荒野のどこかにあるらしいわ。写楽斎たちはその魔法の土を手に入れたがっているらしいの」
「だから、特命教師たちも全力なのか。なんだか知らんが、胡散臭い話だろ」
 淵は小さく溜息をついた。真理子は、どこから怪しげな情報を集めてくるのだろう。それはそれでいいのだが、彼女は素晴らしい結末を迎えられたことがあまり無い。今回も残念なオチに終わる気がしていた。
「何だっけ? 生きるコンピューターというか、スカイ○ットみたいなのがこの極西分校にあるって話だろ? いい大人が妄想にとらわれ過ぎだ」
「それもまた良し、じゃないかしら。真理子自身が楽しんでいるみたいだし、私は応援するわよ」
 ルカルカも、パラ実の事件に美しい解決方法などを求めていなかった。どうせ最後はみんなでヒャッハー! して終わるのだ。特命教師たちも例外ではないだろう。何が何でも暴力沙汰で進行しないだけ健全かもしれない。
 例の決闘委員会のお面モヒカンたちも大勢出動していて決闘を見守っている。分校生たちが暴れないのは、彼らがいるからだろう。考えてみれば、一部地域とはいえ、パラ実生たちを押さえ込めているというのは侮れない存在だ。本当に、どんな組織なのだろうかと興味もわいてくる。
 そこへ、改造耕運機を操る真理子がルカルカの元へ来た。
「イコンで手伝ってくれてありがとうね。おかげで作業は順調よ。今のところ耕作面積では負けてそうだけど、挽回は可能だし」
「お礼はいいわよ。私たちだって、伊達と酔狂でやってるんだから」
 ルカルカは引き続きイコンを使っての農作業を続ける。他の生徒たちよりも何倍も成果が上がっていた。 
「さっき生徒たちに聞いたんだけど、穀物の種子は10万粒、苗木は2万本以上用意されているんだって? よくそれだけ持ってこれたわね」
 作業場の彼方には、パラ実の量産型イコンの【出虎斗羅(デコトラ)】が何台も止まっていた。パラ実OBの流通業者や生徒たちが荷物の積み下ろしをしているのが遠目にわかった。全て決闘に使われるための素材だとしたら凄い量だ。
 決闘に至ったいきさつもさることながら、真理子の謎の調達力には驚く。素材も道具も人員も、どこからとも無く集めて来れるとは。
 真理子は「トラベラーだから」と答えにならない答えを言った。
「必要とあれば、まだまだいくらでも増やすことができるわよ。正体不明の錬金術師が開発に成功して無償で提供してくれたのよ」
「バビッチ・佐野でしょ? その名前をまた聞くとは思わなかったわ。鏡の件では面倒かけてくれたけど、無事そうで何よりね」
 ルカルカは皮肉混じりの口調で言った。怪しいメンバーばかりで無事に済みそうにない。
「まあ、佐野は団長が敢えて逃がしちまったからな。その判断に異を唱えるつもりは無いが、少しは役に立ってもらいたいところだぜ」
 淵の言うとおり、ルカルカもあの鏡の事件の顛末を金鋭峰から聞いていた。バビッチ・佐野の増殖技術を良い方向に使わせる為に、鋭峰は事件のことは水に流して更なる研究を許していたのだ。
 貧しい人たちの生活を豊かにするために辺境の村で食物の大量供給の開発をしていたバビッチ・佐野は、季節を問わずに育つ促成栽培の種子を生み出すことに成功していた。まだ製品化は難しいが、この決闘で実験するとは、彼もなかなかにしたたかだ。
「まあ、製品そのものに問題は無いと思いたいわ。せっかく育てた農作物を食べずに捨てるのはもったいないもの」
「げげっ、ルカ食べるつもりなのかよ?」
「当たり前でしょ。決闘が終わったら、みんなで作ったお野菜や果物でパーティーよ」
 品質については、パートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)もいるし大丈夫だ。彼は、真理子からサンプルを一つ受け取ると分析してみる。
「美味いか不味いかはさておき、人体に危険はなさそうだ」
 そのダリルは、ゲルバッキーと一通り分校内を散歩した後集合時間までに戻って来ていた。
「頑張れ、息子よ」
 ゲルバッキーは働くつもりはないようだった。
 耕作地帯の離れた所から、ダリルたちお応援している。
「甘やかしすぎだろ。手伝わせろよ。犬だって立派な労働力だ」
 淵は不満げに言ったが、ダリルは無言で見つめ返しただけだ。文句言うな、とその目は告げている。
「わかったわかった。怒るなよ。……ったく、ゲルバッキーといると性格変わるんだから」
 そう言いながらも淵も嫌そうではなかった。
「お世話してくれて助かるわ。色々と手間ばかりとらせるかもしれないけど、よろしくね」
 真理子は、諸々の謝意を込めて言った。
「きっといいことあるわよ。一緒に頑張ろう」
 ルカルカは、元気付けながらまた作業に戻った。真理子も改造耕運機を全開で吹かしてバリバリ開墾していく。
「ちょっぴり真剣にやっちゃおうかな」
 ルカルカはえいやっ! と気合を入れてイコンを操作し始めた。
 さて、準備運動はここまでだ。ダリルも淵も最初の入りのゆっくりさをかなぐり捨てて連携を取った。
【レーザーマシンガン】で荒野の表層を砕き、アームを改造した巨大鍬でガンガン耕していく。すごいペースだ。
「ヒャッハー!」
【ルカルカの舎弟】、赤星翔、黄山優、青波哲、緑葉慎、黒田剛がその後をサポートする。芸能人みたいな名前だが、全員パラ実生だ。こういう場面でも頼りになる。
 ダリルの【特戦隊】も当然ながら全力だ。
 彼らは、数と力に物を言わせて大地をとにかくボコボコにしていった。まあ、結果的に耕せているのだから、問題はない。
 そのままでは不便だからと、ミニショベルも用意してある。
「ヒャッハー! ノレるぜぇ!」
 もはや土木作業現場だ。
 メインで喋っているのはルカルカの方が多いが、メインパイロットはダリルだった。彼は無駄口を叩くこともない。
「さて」
 ダリルは、【機晶脳化】、【電脳支配】を【機工マスタリ】スキルで最適化し、
 ルカルカの【ゴッドスピード】と【超加速】を重ねがけし高速操縦するという、離れ業をやってのけた。普通の三倍速だ。機体は赤くないけど。
「なんだ、あれ? ちょっとずるいだろ」
 特命教師の側から不満の声が上がったが、ルカルカは一笑に付した。
「だって、私たちが手伝っていいって言ったじゃん。教師が嘘ついたらダメよ」
「くっ」
 だが、写楽斎側もさる者。財力に物を言わせてさらに多くの作業員を連れて来ていた。どんどん増えていく。数の力で対抗するようだ。
「数だけ増やしても無駄なんだからね」
 少し離れた所で開墾を続けていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)グラディウスで順調に作業を進めている。
「まあ、いいんじゃない。それで勝てると思うならさ」
 ルカルカも余裕で微笑んでさらに作業を続けた。
 淵が【荒ぶる力】のスキルでブースとしているため、もはや人間の作業量の常識を超えていた。
「しかし、畑なのに果実とは解せん。経済的な成果の意味での”果実”でなければ矛盾が生じる」
ダリルは決闘委員会にルールの不備を指摘した。文句をつけようという気はなく、純粋な疑問だ。
「……なるほど。確かに言うとおりだ」
 決闘委員会のお面モヒカンたちはしばらくヒソヒソと相談をしていたが、やがて結論が出たらしい。
「農作物とは、全てを含む。植物に分類され、成長する物なら何でも良しとしよう」
「まあ、当然だな」
 その結果を受けて、淵は【空飛ぶ魔法↑↑】で飛行しながら種モミの木を刷り合せた発芽種モミの絨毯爆撃を始めた。もはや何でもアリだ。
 種と苗は猛烈な勢いで植えられていく。
「慌てるなよ。植物は芽生えの段階が一番重要なんだ」
 ダリルは【博識】のスキルで植え方や育て方を丁寧に指導していった。
「わかってるよ。俺がミスするとでも思ってんのか?」
 淵は、植えられた種を【エバーグリーン】で一気に、しかし愛情をこめて優しく芽生えさせた。
「ちょっと大きいの行くぞ。場所占領してるやつらは移動しろ」
「ヒャッハー!」
 モヒカンたちは踊りながら場所を変えた。遊んでいるように見えて、彼らも彼らなりにかなり真面目に取り組んでいる。手際いいルカルカと比べるのは気の毒なのでまあ良しとしよう。
 そうしている間に、淵は【群青の覆い手】でどこからともなく大量の水を呼び出していた。ちょどいい具合に穴が掘られた場所に貯水池として水を蓄えることに成功する。
「なんじゃらほい」
 真理子は、あまりのスピードについてこれず、しばし手を休めて感心しながら眺めている。
「はい、一緒についてきてね」
 ルカルカも強制的に急かすことはなく、丁寧に誘導した。
「ぷっはー! 酒うまー。みんなが頑張ってるのを見ながら飲むのはええで」
 シーニーは相変わらず酒をちびちびやりながらダルダルになっている。
「お前らだよ、酔っ払い!」
 淵もシーニーたちに声をかけておく。
 それはともかく、ルカルカと力を合わせて【ヴェイパースチーム】で大量の水を水蒸気化させていた。
「雨降るよー」
「降水確率100%な」
 畑の上空に放出された水蒸気が、次第に雨粒になって降り注ぎ始めた。水滴が地面に着くまでの間に大気中で冷やされていい具合に水になっている。
「ほいさっさ!」
 写楽斎の部下たちがそれを見て、雨どいを改造した給水装置を持ってこちらにやってきた。バケツもたくさん用意され、雨を受け始める。もうカッコつけている暇もないようだ。雨どいは、写楽斎たちの畑まで水を流していった。
「ああっ、ずるい。こっちの水盗んでる!」
 生駒は、すかさず一発だけ誤射しておいた。
 どどど〜ん! 
 雨どいの給水装置は破壊され、部下たちは黒焦げになって去って行った。
「畜生! ちょっとくらいいいじゃないか!」
「全く、コメディ風ダメージで感謝するのだ!」
 まあ、イコンの攻撃を受けて死なずに済んでよかった。生駒は彼らが近寄ってこれないよう縄張りらしき線を主張しておいた。
「いや、ドヤ顔やけどな。お前もノロノロやんけ」
 ひゃひゃひゃ、とシニーは笑う。
「よ〜し、育ってきたな」
 淵は、もう面倒くさいので生駒たちには突っ込まなかった。
【エバーグリーン】の効果で、芽生えた苗はみるみる育っていく。
 元々、何もしなくても二日くらいで成長する改造苗だったので、その育ちぷりはさらに早い。
「さすがに都合よく虫もいないし、風で受粉させるか」
 仕上げは【風術】で補助しての受粉だ。開いた花が風で揺れ花粉をまき散らし、あるいはこすれ合って上手く受粉しているようだった。
 枯れてしまうまでの間のはかない短い命だった。淵はちょっとだけ感慨深い思いをする。だが、この花は実を結び新たな生命として生まれ変わるのだ。
 ここまで、あっという間の出来事。
 あとは実がなるのを待って収穫するだけだ。
「最初は出遅れたけど、結構簡単に逆転できたかな?」
 まだ必死で苗植えをしている写楽斎たちの勢力を眺めながら、ルカルカはほっと息をついた。
 あとは、ちょっとついてくるのが遅れた舎弟や特戦隊を含め、手伝ってくれているモヒカンたちをサポートしながら何度も繰り返していくだけだ。
「ヒャッハー!」 
 皆で力を合わせてのイベントだが、幸先よく事が運べている。
 勝負がつくまでにはもう少し時間がかかりそうだ。
 
 場面を変えよう。