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リアクション
そいつは困ったな、と、都築は肩を竦めた。
「出直すってわけにはいかないか?」
その言葉に、『死の門』の番人シバは、肩を揺らして笑う。
「自分に都合のいい展開が、石ころのように転がっていると思わないことだ、シャンバラの犬。
チャンスは、一度しか訪れないから、チャンスという。
今、此処で選ぶがいい。
その男の命を鍵として差し出すか、永遠に諦めるか」
す、と、シバは、持っていた銃で、都築の隣にいたテオフィロスを指し示した。
彼の命を差し出すという選択は、都築には無かったが、諦める、というわけにも行かない。
そして、それ以前に、今此処で、この先に進んでも意味がなかったのだ。
二人は、聖剣を持って来ていない。
調査に深入りしすぎたか、と、都築は判断の過ちに内心で舌打った。
くくく、と、シバは、低く身を屈めるようにして、嘲笑う。
「ならば、サービスしてやろう。
高貴な魂には程遠いが、貴様の命を代替にしてやってもいい」
銃口を、シバは都築の眉間に押し当てた。
「よせ!」
その様に、テオフィロスが怒気を露に、銃身を取って押しのける。
シバは笑って、都築の胸に向け、もう片方の手に持っていた銃の引き金を引いた。
第1章 冥府へ
ナラカに行ってみようと思っているのよね。
と、そう言ったリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)に、巨人アルゴスは、不思議そうな表情をした。
「何故、それを俺に言う?」
「協力して貰えないかな、と思って。ちょっと、何よその哀れそうな目は」
アルゴスは、女王殺害未遂の罪で、シャンバラ王宮に収監されている身だ。
勿論、リカインもそれは知っている。
「でも、確認されてる場所だけでも、ナラカってイコン無しで行くのは殆ど無謀だし、そもそも単独じゃもたないし、フィス姉さんにイコンに乗れなんて無理な相談だし」
ちらり、と、リカインは顔を逸らすシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)を見る。
イコンは嫌いだし、何よりナラカに行くことに特に興味も沸かないが、アルゴスを引っ張り出せるなら、と、こうして一緒に誘いに来たのだ。
「で、色々考えた結果、巨人のアルゴス君に協力して貰えばいいじゃないという結論に至ったのよ。
燃料要らないし、フィス姉さんと仲いいし」
「別に良くないわよ」
律儀にシルフィスティが突っ込む。
「ね、名案でしょ」
「全く」
アルゴスは否定する。
予想されていた答えだったが、リカインも、あっさり引き下がったりはしない。
「パルメーラ君の予言で、他の巨人族のことが何か解るかもしれないわよ」
そんな餌をちらつかせてみると、アルゴスは、じっとリカイン達を見つめた。
「…………?」
感情の読み取れない、その表情に、リカインはふと、眉をひそめる。
何を考えているのか、シルフィスティも怪訝そうにアルゴスを見上げた。
アルゴスは、表情を戻して、わざとらしく溜息を吐く。
「……俺にそれを言う前に、まずは、上の許可を取ってみせるのだな」
勿論、降りなかったわけだが。
◇ ◇ ◇
ハルカが空京へ、
オリヴィエ博士の下へ行く予定の日を確かめて、
黒崎 天音(くろさき・あまね)も空京を訪れた。
バレンタインにガトーショコラをくれたハルカに、改めてのお礼とホワイトデーのお返しをし、面会の後で、空京大学へ足を向ける。
アクリト・シーカー(あくりと・しーかー)が、
パルメーラ・アガスティア(ぱるめーら・あがすてぃあ)と会った、という話を聞いて、詳しい話を聞きたいと思ったのだ。
廊下で、同じくアクリトの研究室に向かっていた、
ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)と出くわす。
彼も、アクリトに詳しい話を聞こうと思ったのだった。
だが、アクリトの研究室には不在の札が掛かっていた。
「教授は今日、留守よ」
ドアの前に立つ彼等に、後ろから、通りがかった女性が声を掛けた。
確か教授の一人だと、空京大学に籍のあるラルクには見覚えがある。
「えーと
カリーニン博士だったっけ。不在?」
「急用が入って、校長と一緒に出かけたわ。
『自分に用事があるかもしれない人物が来るかもしれないが、よろしく対応してくれ』って、周囲に声を掛けて行ってたわ。どうしたの」
「校長もか……」
ラルクは、アテが外れて溜息を吐く。
「よろしく対応してくれって言い残したってことは、先生は、アクリトとパルメーラの話を聞いてんのか?」
「やっぱりその件ね」
頷いて、女性教授は、聞いていた、アクリトとパルメーラの会話の内容を伝える。
だが、それ以上の情報は何もなかった。
「君はナラカに行くのかい」
その後、エレベーターホールの横にある喫茶スペースに場所を移し、自販機の前で天音が問うと、ラルクは頷いた。
「俺は、パルメーラを迎えに行かなきゃならねえ……今行っても、まだパルメーラは戻って来れないかもしれねえが、待ってる奴がいるってことを教えてやりてえ。
あいつは、アクリトと共に普通の暮らしをしなきゃいけねぇんだ……。
だから、俺は行く」
「容易く行ける場所ではないよ」
「解ってる。
一応、デスプルーフリングは用意したし、念の為に「Naraca」も準備した。
まあ、これは“憂いなし”ってやつだけどな。
で、その他にも、できるだけ情報を得ておきたいと思ったんだが……」
天音は微笑んで頷く。
共にいた
ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、いつ天音が、自分も行く、と言い出さないかと冷や冷やしながら、しかし持っている風呂敷包みにはしっかりと、デスプルーフリングと「Naraca」があったわけだが、天音は
「健闘を祈るよ」
と言った。
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