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【両国の絆】第三話「蘇る悪遺」

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【両国の絆】第三話「蘇る悪遺」
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【槍は疾く先へ】



 遺跡が暴走を起こしている事への警告か、それとも天井を破壊されたためか。
 耳障りなブザーの鳴り響いている地下一階へ着地して直ぐに、閃いたのはキリアナの剣だ。
 着地地点にいた自立型多脚機晶兵器“スパイーダ”を足を、その一瞬で行動不能に陥らせると、飛び込んだ勢いに任せて契約者達の足がぐしゃりと押しつぶすようにして沈黙させた。
「……っ、嫌な、感じですね」
 そうして確保したポイントへ着地した水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は、瞬間、足元から這い上がるような悪寒と、意識が解かれるような安堵感という両極端な感覚が、肌の上をなぞっていったような不快感に思わず呟いた。
「精神波の影響は、此処まで来てるというわけですね……」
 その横顔に、このところのパートナーの不調とその原因を思い出してマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)は眉を寄せた。さりげなくスカーレッドの傍へとゆかりを寄せながら「本当に、こっちに来て良かったの、カーリー」と漏らす。
「大丈夫、じっとしてる方が参ってしまうから」
 そう言って首を振ったゆかりは、浮かべた苦笑を消して真摯なものへ戻すと、周囲を警戒する契約者達へ「焦って動くのは危険ですが、あまり一つ所に留まらない方が良さそうです」と口を開く。
 戦闘は出来るだけ、進行方向を切り開くもののみに留めるべきだ。その提案に皆が頷く中、垂が先ず動いた。
「そうだな……と……」
 今立っている地点から、通路から感じる奥行きに、地下一階の中での凡その位置を探り、クローディスの描いた地図を頭の中で照らし合わせて現在地点を確認すると「こっちだな」と垂は通路の奥を指差した。迷路のようになっては居ても、元は施設なのだ。クローディスの書いた地図が大まかなものではああれ、大体の道が把握できていればロスは大幅に減らせるはずだ。階段までの経路や手順を短いやり取りで済ませて、スカーレッドを中心に据えると、一同は行動を開始した。
「時間がどれけあるのかもわかってねーからな、一気に抜けちまおうぜ」
 垂の言葉に、一同は頷く。そう、たどり着くことも重要なのは勿論なのだが、動力炉についてからが本番なのだ。こうしている間にもいつ、遺跡がその本来の機能――兵器としての役割を、しかもこの地を目掛けて果たさないとも限らない。
 先を急ごうと、駆け出す契約者達だったが当然、それが易々と叶う筈はなかった。
 潰された一体が侵入者の場所を報告したらしく、通路の脇から正面から、明らかに契約者を狙う動きで、多脚機晶兵器“スパイーダ”が集まって来たのだ。
「……チッ、鬱陶しい」
 わらわらと群がってくる、大型の蜘蛛といった見た目のその兵器に向かって、ヴァジラが苛立たしさのままに剣を抜こうとしたのを「待った」と止めさせたのは神崎 優(かんざき・ゆう)だ。陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が、吹き荒れさせた吹雪でスパイーダ達の目を晦ませている間に、その小さな肩を叩く。
「苛立ちで剣を抜くのじゃ、同じことを繰り返すだけだ」
 言いながら、優は今回の一連の出来事を思い出していた。両国の間に不和の種を蒔く。その一つ一つは些細な事の積み重ねだが、それらは疑心暗鬼をお互いの中に芽生えさせる。そこへ止めとして使われるのがこの遺跡だ。この兵器を使って、両国の間に決定的な溝を作り、再び互いを戦争状態へと持ち込もうとしているのだ。そのやり口についてもそうだが、この遺跡そのものへも、優自身怒りが沸くが、それを押し殺して友人へと続ける。
「ヴァジラ、貴方も一歩間違っていたら彼女と同じ道を辿っていただろう。だからここで終止符を打つんだ。これ以上彼女みたいに良いように利用され、使い捨ての駒にされる人達を出させない為にも」
 ヴァジラが黙って聞いている中、優は強い口調で続けた。
「だからこそ、その怒りや苛立ちの矛先を絶対に見誤ってはいけない。それをただ暴力のままにまき散らしてはこの戦いは終わらない」
「……」
 その言葉を理解していないわけではないのだろうが、その言動から暫し年齢を忘れらせがちではあっても、苛立ちや怒りを容易く押し殺せる程には、ヴァジラもまだ成熟は仕切っていないのだ。ぎり、と奥歯を噛んだその仕草が、より深くなった苛立ちを示していたが「それに」と、重たくなりかけた空気を払拭したのは歌菜だ。
「ヴァジラさんの攻撃は破壊力が強過ぎますから、遺跡が崩れちゃったりしたら大変です!」
 その声は緊張感の中にもどこか明るく、一同が強張りかけた意識を平常心まで引き戻す。そんな中で、歌菜は不敵な表情でヴァジラの前へと出た。
「その怒りは、最後まで取っといてください。雑魚は――……」
 言いながら、言葉にせずともその隣に羽純が並び、びゅっと槍が空を切ってスパイーダ達に向けられた。
「――私達に任せておいてください!」
 言葉と同時、紡がれた歌菜の歌が、通路を満たした瞬間、それらは無数の槍へと変わって、雨のごとく降り注いだ。その直撃を食らって、あるいは四肢を砕かれて動きを鈍らせ、スパイーダ達を足止めする。それでも更に抜けてこようとする敵は、羽純の周囲を舞う剣が襲い掛かって接近を阻んだ。そして、その上から神崎 零(かんざき・れい)の稲妻の札から放たれた雷光が、動きを鈍らせたスパイーダの上へと降り注いで追い討ちをかける。
 次々とショートしていくスパイーダを小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の乱撃ソニックブレードが侵攻上の道をこじ開けるように吹き飛ばし、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が駆け抜けざまに撃ち漏らしたスパイーダの背後に回って行動不能へ落とし込むと、更にその速度のまま飛び込んだ源 鉄心(みなもと・てっしん)のエンドレス・ワルツがまだ動こうとしていた機体を完全に沈黙させながら先を目指す。
 そんな暴力の嵐が通路を駆け抜け、立ち塞がろうとするスパイーダ達を悉く食い散らかして先を急いだ。
「……! 聖夜、右です!」
 その間も、陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)のイナンナの加護によって、曲がり角で鉢合わせしかける前に、麟走りの術で飛び込んだ神代 聖夜(かみしろ・せいや)が飛び込み、初撃を防ぐと、零が側面通路に吹雪を吹き荒らさせて一瞬の足止めを行う間で、ヴァジラを守るように布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)のサンダーブラストが追い討ちをかけると、佳奈子の雷術によって雷を纏わり付かせたエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)の槍がなおも接近しようとするスパイーダを仕留めた。
「大丈夫?」
「……誰を心配している」
 振り返った佳奈子に、ヴァジラは呆れたような息を漏らした。その不遜な態度もいつもの事なので、寧ろこの場にあって苛立ちは兎も角、弱さを感じないその態度は心強かった。
(これじゃ、どっちが守られてるのか判らないなあ)
 佳奈子は内心で溜息を吐き出したが、実力の差はどうしようもない。だが、それにいつまでも鬱々としているわけにもいかなかった。迷路のような構造の地下一階では、襲ってくるのは正面と側面だけではないのだ。一度横を通り抜けた通路の更に奥からも、契約者達を目掛けてスパイーダ達は集まってくるのに「きりが無いわね」とエレノアは眉を寄せた。
「逃げ切れるか?」
「いや、足はあっちが速い」
 警備システムである彼らは、通路を最短で認識している強みと、その多脚はバランスと同時に速度を重視されてのことだろう。距離を詰めると同時に、発砲してくる背後からの攻撃に、羽純のアブソリュート・ゼロが後ろの通路を完全に塞ぐように壁を生み出した。
 熱源反応を見失ったらしいスパイーダがその動きを鈍らせたのを確認して「足を止めるな」と羽純の声が一同の背中を押す。
「後ろの雑魚まで構ってる暇は無い。ここは――」
「私たちが負う、と言いましたよ!」
 更に、通り過ぎた通路から出てこようとするスパイーダを防ぐために、降り注ぐ歌菜の槍の雨が、床に突き刺さって檻を生み出し、通路からの侵入を防いでいく。
「雑魚は問題ありません。ただ……」
 先程から、地上にいるクローディスと連絡を取ろうとしてみているのだが、上手くいかないのだ。遺跡であると同時に兵器である。情報漏えいなどを警戒してのことだろう。その上、この精神波だ。その影響からか、終焉のアイオーンで援護していた羅儀が、段々とその顔色を悪くしているのに、最初に気付いたのはイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)だ。
「無理をしては駄目ですの。凄くお辛そうですわ……大尉、大尉!」
 元々、強化人間の弊害として、長期の緊張状態に対して、不安定になりがちなところへこの精神波である。いつも以上に精神を圧迫している中、サイコメトリを行おうとしたところ、更にそれが悪化したようだ。イコナに呼ばれて、精神波を打ち消す法具を手にするスカーレッドが、羅儀の背中を軽く撫でた。
「無理はしない方が良くてよ。兵器であるってことは、機密を漏らさないように相応の対処がしてある筈、読める情報より、流れている精神波の方を読み取っては危険よ」
 法具の力と、イコナの清浄化の力のおかげで羅儀は幾らか回復を見せたが、何故か効果が無かったのはスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)だ。
「うぅ……この技は……せっしゃに効くでござる……」
 そう言ってぐったりとした小さな竜の形をした体を、イコナが心配そうに抱き上げている。が、スープがギフトである。本来精神波の影響が少ない筈のこの有様に、イコナはすっかり騙されているが、演技である。
「でもちょっと、キリがないね」
 そんな中、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が次々現れるスパイーダに対して思わず呟いたのに、スープの様子をじと目で見ていた鉄心はふと足を緩めてイコナの傍までにっこり、と笑った。
「お前は……何か大丈夫そうだな。さぁ、仕事だぞ」
「え、いや、拙者わぁああああ」
 ふるふると振るその首を引っ張って、鉄心の手はまるでボーリングのボールを投げるような流れるような動作でスープを正面へと転がした。
「ご無体なああぁ――ぁれぇえええ」
 悲痛な叫びを上げながらも、そこは相応に経験も詰んで来たギフトである。体の表面を龍鱗化し、風の鎧で守りを固めて敵前真っ只中を滑り抜けざま、群青の覆い手によって大波を引き起こした。こうなるとボーリング一転サーフィンである。なんだかテンションが上がりかけたスープだが、その横を鉄心の放ったサンダークラップの電撃が大波の中を駆け抜けた。水を伝わり、先頭にいたスパイーダが一掃されたものの、スープも若干の巻き添えを食らったのだが、それは先程サボった分のツケだろう。そんな一連が、地味に一同の心を和らげて、精神波の影響が一時緩まった、様な気がしたのはまた別の話である。
「これが……これがクールビズ……」
「違う」
 呟きに容赦ないツッコミが返される中、不意にザザッとノイズが遺跡の中に走った。暴走による異変か、またはもう稼動状態に入ってしまったのかと契約者が警戒を強める。が、続けて聞こえてきたのは覚えのある歌声だった。
「これって、ティアラさんの……?」
 歌菜が呟いたとおり、それは今も地上で歌われているティアラの歌だ。光一郎が、遺跡の中に設置されている軍用の設備に割り込んで、そのスピーカーへと流し込むことへと成功したのだ。勿論、これは遺跡に後から教導団が設置したものであるから可能な事だが、完全な相殺は無理でも、元々地上に比べて影響の低い施設内に流された歌は、十分契約者達の負担を和らげるのに効果を発揮した。
「これなら、スカーレッドさんにぴったりくっついてなくてもある程度大丈夫ですわね」
「え、うん」
 喜ぶイコナに、何人か反応が鈍かったようなのは、恐らく気のせいだろう。
 そんな道中、キリアナに声をかけたのは赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)だ。
「そういえば、キリアナさんはどうやってその、人のまま神に近い力を、得たんですか?」
 キリアナは、人間でありながら、神でしかなる事の出来ないはずの龍騎士となった稀有な存在だ。どうやってそこまで到達できたのか、という興味が言わせたのだろう、その質問に、キリアナは「特別何かをした、というわけではあらしまへん」と首を振った。何人かが顔を見合わせる中で、キリアナは視線を霜月から前へ戻し、ぽつぽつと続ける。
「向いてはいたんやと思っとりますけど、やった事といえば本当、修行、修行どす」
「それであの剣か?」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が感心した声を漏らすのに、キリアナは何かを思い出すように苦笑し「子供やったんやと思います」と目を細めた。樹隷とのハーフという複雑な生い立ちがその笑みから垣間見えるのに、唯斗はそれ以上は追求しなかったが、キリアナの方から「樹隷との間に生まれた子供は、中途半端な存在やから」と曖昧に言って、ぐっと拳を握り締めた。
「ウチには剣しかありしまへん……認めてもらいとぉて、必死だったんです」
 幾らか照れ臭そうに言うキリアナの横顔からは、その頃の思い出が蘇ったのだろう、僅かな哀愁が感じ取れた。不遇な幼少の頃と、それを払拭しようと足掻いた努力を思って、霜月は野暮な追求はせず、頷く事で応じた。才能があったのは勿論だろう。が、それだけで済ませてはキリアナの努力を馬鹿にするのと同じだ。キリアナ自身のその必死な思いこそがその強さの根幹なのだろう、と霜月は納得にもう一度一人頷いたのだった。


 そうして、歌菜や優たちが道を切り開いていき、危なげなく通路を渡っていた最中のことだ。幾度目かの分かれ道に差し掛かり、そろそろ階段が見えてくるのでは、という頃合にたどり着いた瞬間、ぴたり、と氏無のパートナーである壱姫が、唐突に足を止めた。
「どうした?」
 何かを警戒するように、尋ねたのは十文字宵一(じゅうもんじ・よいいち)だ。だがそれには応じず、壱姫の視線はぐるりと虚空を辿るように動き、ふう、と面倒くさげな息を吐き出した。
「……すまぬが、わらわは此処から先は同行出来ぬようじゃの」
「あのおっさんか?」
 その様子に、新風 燕馬(にいかぜ・えんま)が尋ねると、案の定壱姫は頷きを返した。どうやら、契約者達の向かう方向とは別の位置に、その気配を感じるらしい。スカーレッドと離れることで危険性が高くなるのは判っていたが、氏無は深い傷を負っているのだ。
「この状況を無視するのは人道に悖るね」
 放ってはおけない、とザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)が言うのに、燕馬も頷く。
「あのおっさんが仕事してくれないと、後で色々面倒な事になりそうだしな」
「そうですね」
 同じように頷いたのは、風森 望(かぜもり・のぞみ)だ。
「何より……出雲しぐれ様には色々とお世話にましたからね。お礼参りさせていただかなくては」
 ふふ、と低い声が笑うのに、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)がぞわっと身を竦める中「私も行くぞ!」とコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が声を上げ、打ち消すように「えー!!」と不満げにラブ・リトル(らぶ・りとる)が口を尖らせた。危険なのは遠慮したい、面倒な事はお断りだとその顔は書いてあるが、文句が出るより先に、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)がにっこりと笑った。
「一緒に行けば、思いっきり歌えるかもよ?」
「それなら行くわ!」
 あっさり前言撤回するラブに、馬 超(ば・ちょう)が「全く」と小さな呆れた声を上げる。そうして宵一たち一行が、キリアナたちの戦列から離れ、氏無の元へ急ごうとした、その時だ。階段に近づかれているのを悟った警備システムたちが一斉に接近して来たのだ。機械なりに数で圧そうとしたのか、先の角からわらわらと集まってくる。
「後一歩だってのに……」
 聖夜が面倒くさそうに呟いてその構えを直す中、その視線の先を吹雪が覆い、更に流れた風がびゅうと竜巻のように吹雪の起動を操って、周囲の通路までを一気に吹雪の中へ埋めた。
「此処は任せて」
 それが収まる前に、そう、前へ出たのは清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)だ。
 今までの戦闘で、スパイーダの特性は理解している。吹雪で一瞬視覚と熱知覚を失ったスパイーダが、再度敵を認識するより早く、再びの吹雪で四方を囲われるのを防ぐ中、それに更に加勢する形になったのはリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)だ。藍鼠の杖で大量のネズミを呼び出し、熱源を大量に発生させて混乱させた後で、自身の機晶兵器「ラビドリーハウンド」と「ブルーティッシュハウンド」に攻撃を命じて、自分達の進行方向とは逆に襲い掛からせる。
 その間で、その場にクナイが踏みとどまると、絶零斬を放って食い止め、自身たちへその警戒を集めながら、ヴァジラ達本隊から距離を取った。
「今のうちに皆は先に行って」
 ステージの方はティアラさんが抑えているけど、いつまで持つか保証はないため、早期に動力を止める必要がある。こで足止めを食っている場合ではないのだ。悩んでいる時間も惜しむようにして、躊躇わないように「早く!」と北都は皆の背を声で押す。と、ふと思い出すように、すれ違い様に優たちへ向けて、ヴァジラのストッパーになって欲しいと頼みを口にした。一も二も無く頷いた美羽たちに、北都は続ける。
「破壊して止まるならいいけど、実際はどうか、行ってみないと判らないからね」
「フン」
 その言葉を耳に挟んだヴァジラが鼻を鳴らし、さっさとその足を早めてしまう中、そんな彼らの背に北都は続けた。
「それと……もしローブの彼らを倒したなら、武器の一つでも持ち帰れたら持ち帰って欲しいな」
 確かに今は敵で、倒さなければならない相手には違いない。そこに同情するつもりはないが、その後の事はまた別だ。彼らは彼らなりの戦う理由があって、憎む理由がある。それを認められはしなくても、最後弔ってあげることぐらいは、生きている者としてして上げられる。そんな北都の言葉に何人かが頷くき、そして――……
「蒼空戦士ハーティオン!参る!」
 ハーティオンが壱姫の向かう先の道を切り開くのに飛び出し、一方のヴァジラ達もまた階段へと飛び込んで行くのに、それぞれの仲間達はその背を追って駆け出したのだった。

「ローブの人達は動力炉の方かな……」
 一同がそれぞれの目的に向かって駆け抜けていった後、北都は不意に呟いた。
「一人少なくなった分、連携に穴が空いているから、そこを付けば大丈夫だとは思うけど」
 仲間達の事を気にする様子に、らしいことだとは思いながらもクナイは「大丈夫ですよきっと」と投げやりにならないように気をつけながらそう言って、飛び掛ろうとしたスパイーダを叩き切る。
「人の心配をするより、自分の身を守ってくださいよ」
 その尤もな言葉に、北都は苦笑して「うん」と頷いて、階段に向かって押し寄せようとするスパイーダ達に向き直ったのだった。



 ――そんな中。

「フハハハ!」

 聞き慣れた、しかし今ここに居ないはずの声――ドクター・ハデス(どくたー・はです)のあのお馴染みの高笑いが地上では響いているところだった。一瞬場内がざわっとざわめいたのに構わず、いつもの通りにびしっとその指は虚空を指差す。
「我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス……否!強化して復活したパワード・ハデスだ!」
 高らかに名乗りを上げてパチン、と指を鳴らすと、応じて現れたのはパワードスーツを装着したペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)だ。
「お呼びですか、ハデス先生っ」
 ざっと配下よろしく、颯爽とハデスの傍に寄ったのだが、残念ながら続く言葉は無情だった。
「うむ。すまんがそのスーツ、借りるぞ!」
「え、え?」
 ペルセポネが戸惑っている間に、二人のユニオンリングが輝いたかと思うと、その体からパワードスーツがパージして行き、それはそのままハデスへと融合していく。普通にスーツを借りたらいいんでは? とツッコンではいけない。ユニオンリングの力で融合する事によってペルセポネの機晶姫としての性質を持つことがその目的であるからだ。パワードスーツ以外にも実際はちょっと色々混じっている上、ひとりとして融合できていない辺りは果たして合体成功と言っていいのかは謎だ。だがハデス自身はそれを特に気にした様子はない。
「フハハハ! これで準備は整った! 待っていろ十六凪……!」
 そうして、そのまま遺跡の中へハデスが突入していってしまうのを、ぽかんと見送ったペルセポネは、はたと自らの格好を思い出して慌てて両手で隠して屈みこんだ。とはいっても何しろ全裸。どこをどう覆ったところで、隠しきれるかどうか謎なところである。
「きゃ、きゃあああっ! わ、私、何のために呼ばれたんですかあっ!」
 ペルセポネの悲痛な声が響き、後、親切な誰かによって外套がかけられたとかなんとかであるが、つまりどういうことかと言うと、お約束、というやつなのであった。