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ヴァイシャリーの夜の華

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ヴァイシャリーの夜の華

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 盛大な花火大会を間近に控え、ヴァイシャリーでは着々と準備が進められていた。
 警備体制も強化され、他の街から訪れる人々も多い為、水路や道路の交通規制も行なわれている。
 花火が最も良く見える場所は、早朝から場所取り客で混雑していた。
「ギリシャのロケット花火祭りが凄く盛り上がるそうなんです」
 ヴァイシャリーの街を歩きながら、コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)は、地球の花火祭りに思いを馳せる。
 パラミタでも同じような花火祭りが行なわれたら素敵だなと思うけれど。
 主催する力もないし、勝手に行なうこともできないので、今日はパートナーのルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)と、このヴァイシャリーの花火を楽しませてもらうことにした。
「百合園女学院の屋上で観賞させていただきますか?」
「はいっ」
 コトノハはルオシンの腕に自分の腕を絡めてぎゅっと抱きしめて温もりを確かめる。
 剣の花嫁である彼が光条砲台に捕らわれた時、もう彼と永遠に会えなくなるという恐怖に支配された。
 彼ともっと、より深い絆が欲しい、彼の事がもっと知りたいと、コトノハは思う。
 街を歩く恋人達の姿も多い。
 花火が観賞できる一般客用のゴンドラの予約は数ヶ月前に埋まってしまったらしけれど。
 今日は百合園女学院生達のとっておきの秘密の場所――百合園女学院の校舎の屋上から、盛大な花火を観賞することが出来るのだ。

第1章 お誘い

 時をさかのぼって数日前の話。

「仲良く出来ない学園がありますぅ〜!」
 イルミンスール魔法学校の校長室で、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は……駄々をこねていた。
 百合園女学院の桜井静香(さくらい・しずか)から、勿論エリザベートの元にもヴァイシャリーの花火観賞の招待状が届いたのだが。
「百合園とは仲良くしてあげてもいいんですぅ〜。でも、あの女とは仲良くできないんですぅ〜!」
 あの女とは、勿論あの憎きライバル、極悪非道冷酷卑劣な蒼空学園校長御神楽 環菜(みかぐら・かんな)(エリザベート視点)。
「軽食やお菓子も提供されるみたいですし、行ってみてはいかがでしょう。夏ももうすぐ終わりですし、楽しまれては?」
 イルミンスール生のメニエス・レイン(めにえす・れいん)は、にこにこ微笑みながら、招待状の「菓子や軽食を用意してお待ちしています」という一文を指差した。
「ご迷惑でなければ、私とパートナーのミストラルがお世話も兼ねて同行させていただきます」
「もしもの際も、校長がどなたかに負けるとは思っておりませんが、お洋服が汚れたら大変ですし雨が振った場合は傘差しもいたします」
 ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)も、おだてつつ、エリザベートを誘うのだった。
「ん〜っ、仕方ないから行ってあげますぅ〜。お菓子を沢山用意しておくように、連絡しておくですぅ〜!」
 エリザベートは仕方なさ気に言いつつ、同封されていた花火大会のパンフレットを目を輝かせて見るのだった。

 ライバル視されている蒼空学園の御神楽環菜は、今回の招待にあまり興味がないようであった。
「そんなに遠くまで行かなくても、花火なら見たくなったらツァンダで盛大にやるからいいわよ」
「シャンバラの離宮があったといわれているヴァイシャリーの夜景と、花火が同時に見られることなんて滅多にありませんし。ヴァイシャリーの美味しいお菓子もでますよ!」
 蒼空学園の荒巻 さけ(あらまき・さけ)は、校長にどうしても参加して欲しくて、知り得る限りのヴァイシャリーの情報を述べて、熱烈に誘うのだった。
「ヴァイシャリーには少しは興味あるけど、わざわざ混雑する日に行く必要もないし」
 しかし、やはり環菜は乗ってこない。
 さけはパソコンから目を離そうともしない環菜の前ににゅっと顔を出してにっこり笑いながら、環菜の額に手を伸ばす。
 ペシッと手を叩かれ振り払われた途端、さけは大声を上げる。
このおでこ校長!
 次の瞬間バーストダッシュで校長室を飛び出す!
 環菜が振り向いた時には、もうさけの姿は校長室にはない。ただ、招待状だけがひらりと落ちた。
「略して、で校長!!
 廊下に大きな声が響き渡った。
 ……環菜がカタンと立ち上がる。
「失礼しまーす」
 続いて風祭 隼人(かざまつり・はやと)が校長室を訪れた。
「百合園の招待を受けて、ヴァイシャリーの花火を観に行きませんか〜!」
行 く わ
「へ?」
 隼人は環菜は兎も角、本心は彼女のパートナーのルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)と一緒に行きたいと思っていた。環菜は誘っても断るだろうと思っていた。環菜は参加しなくてもいいと思っていたのに!
「車、手配しておいて」
「……え?」
 環菜は冷笑とも言える笑みを浮かべていた。
 なんだか分からないが、本気で行くらしい――。

 一方。桜井静香は波羅蜜多実業高等学校にも招待状を出していた。
 警戒心もなく。
「キング様」
「キング様様!」
 パラ実の羽高 魅世瑠(はだか・みせる)と、フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)は、王 大鋸(わん・だーじゅ)をヨイショから色仕掛け風おねだりから、泣き落としまでありとあらゆる方法で花火へと誘っていた。
「ケッ、襲撃して欲しいってんなら考えるが、仲良しゴッコなんかやってられっかよ」
 改造バイクの整備をしながら、面倒そうに言う王に、魅世瑠は溜息をつき、表情を一変させる。
「マジな話、6校合同なのにパラ実がそれなりの『代表』を出さないとなめられるじゃん!」
「そう、キング様は四天王になる男だし!」
「パラ実の顔となれるのは、アンタだけなんだ!!」
 2人の言葉に、王はドンと拳を地面に叩きつけた。
「他校の権力者に名を売っておくのも悪くねぇなあ」
「よし、決まりっ!」
シー・イー(しー・いー)も誘って行こう!」
「おうよ!」
 ……意外と単純に説得は成功したようだ。

○    ○    ○    ○


 花火を数日後に控えて、花火職人達は仕掛け花火の仕上げに奮闘中だった。
 ヴァイシャリー住民だけではなく、他の街の人々もボランティアで手伝いに訪れていた。
「それじゃ、コンピューター制御してないの!?」
 シャンバラ教導団の制服を纏ったルカルカ・ルー(るかるか・るー)は驚きの声をあげる。
「キミ達んところの、軍備や、蒼空や空京あたりは頑張っとるかもしれんが、パラミタにゃあそんなハイテクなモンは存在しないよ」
 職人の老人が笑顔でそう答える。
 パラミタの現在の文化レベルは産業革命前の地球程度だ。
 花火も1つ1つ手動で行なわれるらしい。
「なるほど。まあ、その方が分かりやすいな」
 同じく教導団の制服姿のルカルカのパートナーダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、手順表を見ながら頷く。
「木材ここでよろしいでしょうか?」
 イルミンスールのシルフェノワール・ヴィント・ローレント(しるふぇのわーる・びんとろーれんと)が、木材を抱えて持ってくる。
「おうおう、ちっちゃくて可愛いお嬢ちゃんなのに頑張るねぇ。危ないから、力仕事はしなくてもいいんだよ」
「大丈夫ですわ。力はある方なんですの」
 シルフェノワールは、にっこり微笑んだ。彼女はドラゴニュートと契約している。
「火薬はどこに置こうか?」
 イルミンスールの如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が、台車で火薬を運ぶ。
「手伝います」
 と、同じ学校のシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)が駆けつけて、台車の上から火薬の入った箱を1つ持ち上げる。
「こっちにお願い」
 シェイドのパートナーのミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が、手招きし、玲奈とシェイドは彼女の傍に火薬を下ろした。
「このような組み方で問題ないでしょうか?」
 ミレイユが職人に尋ねる。
 初老の職人が近付き、組まれた木々を確認していく。
「うん、問題ない。随分と丁寧にやってくれたなぁ」
 その言葉に、ミレイユとシェイドは顔をあわせて微笑み合った。
「わ、私も手伝いますぅ〜!」
 イルミンスールの星月 蛍(ほしつき・ほたる)が駆けてくる。
「ボランティア募集してるって聞きましたぁ。役立てるかどうか分かりませんけれど、頑張りますぅ〜」
「うん、よろしく!」
 そう言って汗を拭う玲奈に、蛍は恥ずかしそうな笑みを見せる。
 生き生きしている皆がとても素敵だったから……大変そうだけれど自分も手伝ってみたいと、思い切って話しかけた。
 引込み思案な彼女にはとても勇気のいる行動だった。
「それじゃ、お嬢ちゃんにはこっちの組み立てを手伝ってもらおうかのぅ」
 日焼けした職人に蛍は「はいー」と返事してぱたぱたと走り寄った。