空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

全学連『総蜂起!強制退学実力阻止闘争』

リアクション公開中!

全学連『総蜂起!強制退学実力阻止闘争』

リアクション

「本日ここに結集した、全ての学友、人民のみなさん!」
 真っ赤なヘルメットをかぶった南野 茜(みなみの・あかね)が、サークル棟二階吹き抜けの廊下から、一階に集まった群衆に呼びかける。
 集まっている大半は、日村名誉教授によって単位を落とされたシャンバラ人空京大生、そしてその友人の地球人学生、そして茜の応援要請に応じて駆けつけてくれた他校生。
 彼らは『過激派』とか『活動家』とかいった世界とは全く無縁な、ごく普通の学生だった。そんな彼らが武器を手にしたのには訳がある。
 はじめ、彼らは日村名誉教授に単位取得の公平性のあり方について直接抗議した。
 だが、根がらみの地球人優性論者の日村は言葉さえ聞こうともしなかった。それどころか単位を落とされたシャンバラ人に同調する地球人学生の単位も『訂正』して落とした。
 次に、彼らは空京大校長アクリト・シーカー(あくりと・しーかー)に直訴した。
 だが彼は「たいへん残念なことに……」と前置きをした上で学生たちの訴えを退けた。学生の権利を代表するはずの自治会も日村の息がかかっていた。

「本日ここに結集した、全ての学友、人民のみなさん! 私たちはなぜここに集まったのでしょうか? 私たちはなぜ武器を取ったのでしょうか? 私たちはなぜ……私たちはなぜ立ち上がったのでしょうか?」

 しんとするサークル棟に茜の声だけが響く。

「それはシャンバラの学友を守るためであり、学生の権利を守るためであり、結果的にそれは自由な大学を回復するためです!」

 茜は言葉を続ける。

「シャンバラ人とパラミタに住む学友諸君! 皆さんは多くを分け与えすぎました。今や、取り戻す番です。地球人の学友諸君! 私たちの支配階級は私たち地球上のプロレタリア階級に対するのと同様にシャンバラ人労働者に不当搾取をつづけています! 私たちは地球=パラミタ人民の階級的連帯をもって帝国主義資本に対し怒りの鉄槌を振り下ろさなければならないのですっ!」

 あれ。話しがズレはじめたぞ。

「同志諸君! 重ねて言おう同志諸君! 革命の季節は来た! 今こそ崩壊の断崖に立ちつくす帝国主義ブルジョア体制に渾身の一撃を加え、実力闘争をもって完全解体克ち取ろう! 蜂起だ! 学生労働者の全面蜂起のみが巨大資本とその取り巻きどもをガレキのように打ち砕く! 今こそ労働者階級によるっ……」
「ハイハイハイハイそんなわけじゃからの、皆の衆、頑張っていこー! オー!」
 クロス・クロノス(くろす・くろのす) が茜の口をふさぎ、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)が話に割って入って茜の演説を強制終了させた。茜はクロノスの手をふりほどく。
「ちょっとぉ、何するのよ?」
「馬鹿もん。よくは知らんが政治思想丸出しの演説してどうするんじゃ? みんなどん引きしておるではないかっ」
「今回はシャンバラ人学生の退学を阻止するためだけにみんな集まってるんですよ。あまりぶっとんだことを言い始めるとよくありません」
「はううう、つい思わずうっかりと……」
 ファタとクロノスが茜を言い含める。
「その通りです。演説は士気を向上させるための単なる手段」
 ファタが振り向くと、そこには戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)と、その背中に隠れるように志方 綾乃(しかた・あやの)が立っていた。
「あなた方、よくここに顔が出せましたね?」
 クロノスが冷ややかに視線を投げる。
 戦部と綾乃はかつて第一次マジケット戦争で茜たちの援軍として参加したにもかかわらず、第二次マジケット戦争で、寒極院 ハツネ(かんごくいん・はつね)率いる青少年健全育成装甲突撃軍に身を投じていた。
 つまり、一度敵に寝返り、また舞い戻ってきたような状況だった。
「問題がありますか? 私たち傭兵は主義や主張や正義や宗教のために戦うのではありません。戦争があるから、そこに身を投じているだけです。二束三文の駄賃のためにね。そうでしょう? 綾乃殿」
「あはは……そんな感じで志方ないんですよー」
 綾乃が気まずそうにつぶやいてまた戦部の背中に隠れる。
「おぬしらを信じろと?」
「こんなに解りやすい正々堂々としたスパイがいると思いますか?」
「ファタさん、私は反対です」
「クロノスさん、信じてくださいっ。仲間割れと内ゲバとスパイ捜しで昔の日本の学生運動は崩壊したんですよっ?」
「ふむぅ。困ったのう。どうする茜ちゃん?」
 茜は少し考えてから、
「私たちは分裂できるほど戦力に余裕はありません。ただし、私たちと共に戦線に加わりたいなら、まず徹底した自己批判を要求します」
「ふっ……自己批判?」
 戦部が失笑する。
 その態度に茜は激高し、つかみかからんとするとき、横やりを入れた男がいた。
「待たれよ。同志諸君」
 振り返るとそれはミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)だった。
「ウォードッグは野良犬ではない。ウォードッグは常に飼い主を求めている。彼らが我々にしっぽを振るなら、餌と仕事をくれてやることになんの問題がある? ちがうかな?」
「さすがゲルデラー博士ですね。物わかりがいい」
「同志茜、こうして口論している姿は一階フロアの同志たちに丸見えだ。兵に不安感を与えてはならない。ちがうかな?」
「そうだけどさー……」
 ゲルデラーは一階フロアの学生たちを見下ろすと
「勇敢なる革命兵士諸君!」と檄を発した。ゲルデラーは言葉を続ける。
「ここにふたり、裏切り者がいる」
 ゲルデラーは戦部と綾乃に観衆の前に出るよう促す。
「戦部 小次郎! そして志方 綾乃!」
 言葉に耳を傾けていた群衆がざわつく。
「彼らは我々シャンバラ人とその同胞たちの側に共鳴し、ハツネの装甲突撃軍内部から叛旗を翻した同志たちである! 勇敢なる彼らを我々は熱烈に歓迎しようではないかっ!」
 一階の群衆が歓喜の声をあげてどっともりあがる。
「自由を我らに!」
「そうだ!」
「正義を我らに!」
「そうだ!」
「勝利を、圧倒的勝利を我らに! 空京大全学連に栄光あれ!」
「そうだ! そうだ! そうだ!」
 ゲルデラーの演説に皆が酔いしれる中、何だか寂しい思いをしている奴らがいた。
 ファタとクロノスと茜だ。
「あー。わたしよりアジテーション上手いじゃないー。何よあれー?」
「結局美味しいところを全部もってかれた感じじゃのう」
「本当に……ゲルデラーさんにはかないませんね」
「あーあ」
 3人そろってため息をついた。