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リアクション
こうして開戦1日目は終わり、くすぶり続けるクレーン車の残骸を残して攻撃側の機動隊及び鎮圧軍もサークル棟前から撤退、距離を保ってて鉄条網と障害物で包囲陣を作り始めた。短期決戦から長期籠城戦に作戦がシフトされたのだ。
同じくサークル棟内でも、破壊されたバリケードの強化が行われていた。
「爆弾は間隔を置いて仕掛けて。廊下、室内、階段、天井、あらゆるところに」
シャーレットがシャンバラ人学生たちに指示を出す。
一方で、正面バリケードの強化に当たっていたのは大岡だ。
「部室のロッカーや机、イスなども使ってくれ。全てをワイヤーで結着してコンクリートを流し込むんだ」
と、そんな大岡に、かすかに声が届く。
「……くっ、こんなはずでは」
見上げるとそこには、吹き抜けからロープで吊された水原 ゆかりがいた。ゆかりは疲れ果てているものの、ゆかりの声に気づいて仰ぎ見た大岡に、殺気に満ちた視線を投げた。
「こんなはずではなかった、か? 権力の走狗が。いや、教導団からわざわざ志願して参戦したんだからイヌ以下の外道だな」
「うるさいっ……あなたこそ教導団の恥さらしです……」
「ふん。吠えていろ」
「あの……すみません」
大岡の前にいたのはメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)だった。彼女はパートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)やフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)、シャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)を外に残して、単身取り残されてしまっていた。
「ん、何か?」
「降ろしてあげてはいけないでしょうかぁ? 彼女、怪我もしていますし。それに何も食べてないですぅ」
「ここはホテルじゃないし、あいつも客じゃない。ノコノコ踏み込んできて暴れ回って我々の仲間を傷つけた挙げ句、取り残された間抜けだ。だいたい白百合のお嬢さんがどうしてこんなところにいる?」
「それがそのぅ。友達のところに遊びに来ていて、危ないからって止められてたんですけど、気がついたら戦争が始まっちゃってて」
「なら、余計な口出しはせず、とっとと出て行ってもらおうか」
「オレの知り合いに文句があんのか?」
国頭 武尊が背後から大岡の肩に手を載せる。
大岡はその手を払いのけ、
「なんだ、今度はパラ実か」
「パラ実も百合園もかんけーねーだろ? オレたちゃみんな同じ思いで戦ってんだ」
「その子は巻き込まれただけだと言ってる」
「いまメイベルを外に出したら連中に何されると思う。こうされるに決まってんだろーが?」
そう言って国頭は縛られたゆかりを指さした。
「ついでに言やぁ、オレもメイベルに同感だ。女の子を縛り上げて吊すのがオレらのやり方だってのか?」
「そうです」
さらに割り込んできたのは戦部だった。
「正式な戦争ではないのですから、捕虜を人道的に扱う義務はありません。そうだ、ネットストリームで動画を流しましょうか。敵に心理的なダメージを与えられますしね」
と、戦部が話しているうち、ゆかりの体を吊すロープがゆっくりと下ろされ、ゆかりは着地した。
「誰です? 勝手な真似をしたのは!?」
「私がやらせたが何か?」
そう言いながらクレア・シュミットが階段を下りてきて、縛られたゆかりのロープに手をかけると、それをレーザーメスで切断した。
「何を考えているんです、シュミット屋上指揮官殿」
「同じことをお聞きしよう、戦部3階指揮官殿。捕虜への虐待がどんなイメージを我々の戦いに及ぼすのか考えなくてもわかるであろう」
「この拠点防衛作戦期間中は有効です」
「その後のシャンバラ人解放運動にとっては迷惑だ」
「私の雇用期間は本作戦のみです」
「あなたは私が『テルミット全弾クレーン車に投てき』と命じたのを無視した。どういうつもりか?」
「テルミットは今後のハツネの対ゴーレム戦に必要です」
「もう少しで1階バリケードは破壊されていたんだぞ!?」
「茜殿が機転を効かせてくれたではないですか。結果的には最良でしたが?」
「なにっ……!」
にらみ合っているふたりをよそに、メイベルはゆかりにコップに入れた水を差しだしていた。
「どうぞ」
「テロリストの偽善まみれの情けは不要です」
「わたしはたまたま巻き込まれてしまった通りがかり。心配しないで」
「……」
ゆかりはコップを手に取ると水を飲み干した。
「傷は痛みますか?」
「あなたには関係ないこと」
「どなたか救護を……」
「おぅ。俺にまかせろ」
と、出てきたのは1階の乱戦で戦っていたラルク・クローディスだった。
「あなたはっ!」
「さっきぶりだな。見せてみろ」
「だれが……くっ!」
ラルクの差し出した手を払いのけようとゆかりが体をひねろうとした瞬間、ゆかりは苦痛に顔をゆがめた。
「……肋骨かな。心配するな、俺は医学部だ」
屈託無く笑うラルクに、ゆかりは猜疑のまなざしを注ぐ。
「敵のくせに……」
「そうだ、俺はあんたの敵だ。だが俺に取っちゃただの患者だ」
「……」
「そう恐がりなさんなって!」
ラルクは、ぱん、と背中をこづいた。
「痛ぁあああああーーーーーっ!!」
ゆかりが激痛に悲鳴をあげた。
「うはあ、そこもかっ、悪い悪い悪い」
「触るなっ、このヤブ医者っ!」
そんな様子が可笑しかったのか、メイベルはくすりと笑った。
こうして攻防戦の1日目が終わった。
その日の深夜、建設中のビルの中で、数人の男女が集会を開いていた。かつてマジケットでハツネと戦ったウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)や佐野 亮司(さの・りょうじ)をはじめ、一ツ橋 森次(ひとつばし・もりつぐ)、グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)とそのパートナーのレイラ・リンジー(れいら・りんじー)とアンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)、間黄 疾風(あいぎ・はやて)、九竜 秦要(くりゅう・たいよう)といったそうそうたるメンバーが揃っていた。
「同志諸君」と、最もベテランのウィルネストが皆に語りかける。
「今日、空京大全学連の戦士たちが戦闘状態に入った。知っての通り、防衛隊は勇敢に戦い、勝利を克ち取った。レンやファタが言うには、士気も上々でみんな元気らしい」
おおっとどよめきが上がる。
「だけどいつまでもあいつらを孤立させておくわけにはいかない。だから俺たちもゲリラ戦を展開する」
「具体的には何をするの?」
一ツ橋が尋ねる。
「都市ゲリラの基本はインフラの破壊と遊撃戦だ。都市機能を麻痺させ、軍警察の行動を分散・制限すると共に、これらに対して暫時攻撃を加える。すると敵は我々の何倍もの兵力を捜索と掃討に裂くことを強いられ、結果としてサークル棟拠点を間接的に支援することになる、ってわけだ」
佐野が横から解説する。
「さすが闇商人、よく知ってるね♪」
「だから闇じゃねーっての!」
一ツ橋が佐野に突っ込む。
「他にもたくさんすることはありますね」と、クレインが手を挙げる。
「まず、包囲されたサークル棟に水や食料、弾薬や資材を届けなければならない。それに重傷者を脱出させる事も考えないといけませんね……」
「具体的にはどーするんだ?」
「トンネルを掘りましょう」
と、九竜が提案した。
「本気か?」
「そんなに難しくありませんよ。あの辺は上下水道が整備されてますので、下水道から真上に穴を開けるだけですみます」
「へー。なるほどな。じゃそれもやろう」
ウィルネストがメモを取っていく。
「でと、肝心のハツネばーさんのゴーレム部隊迎撃だけど、やりたい人?」
全員が手を挙げた。
「あははは……。人気者だなオイ。だけどハツネの装甲突撃軍、間に合わないかもしれないぜ?」
「どーしてだ? ウィルネスト」と、佐野が尋ねる。
「他にもいるんだよ。あいつが嫌いな奴らが」
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