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【学校紹介】少年は空京を目指す

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【学校紹介】少年は空京を目指す

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「そういうことか……」

 校門の前に立ち、辻永 翔(つじなが・しょう)はやれやれと後頭部を掻いた。
 翔の視線の先では、天御柱学院の近未来的な校舎を背に、翔を遊びに連れだした友人ががっくりとうなだれている。
「くそー、どいつもこいつも見る目ねぇなあ! なあ、翔!」
 海沿いの柵へ勢いよく身を乗り出し、声を上げる彼の名前は山葉 聡。絶賛ナンパ三連敗中の少年だ。
 翔は喚く聡へ、呆れたように半眼を向けた。
「ナンパをしに行くとは聞いていないぞ」
「遊びに行くって言ったろ、男二人で遊んだってムサイだけじゃねーか」
 聡は悪びれた様子もなく、それどころか早くも連敗から立ち直りつつあるようだ。校舎へ向かっていく、白を基調とした制服を纏う天御柱学院の生徒たちを、見定めるようにじっとりと眺めている。
「おまえにはサクラがいるだろ」
「た、たまには息抜きも必要なんだよ。ほら、次行こうぜ!」
 焦ったようにそう言う聡は、ぐいぐいと翔の腕を引っ張った。
「仕方ないな」
 なんだかんだで付き合いのいい翔は、聡に続いて歩き出した。
 すると、元気のいい足音が真っ直ぐ翔に向かって駆け寄ってくる。
「翔先輩! 翔先輩ッスよね!」
「? ああ」
 疑問気な翔の首肯に、狭霧 和眞(さぎり・かずま)はぱっと表情を輝かせた。
「オレ、狭霧和眞っていうッス! 先輩、敵の新型とやりあったッスよね?」
「ああ、まあ」
「それで生還するなんてすごいッスよ! ぜひ、パイロットのなんたるかを教えてほしいッス!」
「……あー、俺も一応敵の新型とやりあって? 生還したんだけど?」
 しばらく二人を眺めていた聡が、自分を指差しながら引き攣った笑顔で会話に割り込む。
「あ。聡先輩もいたッスか?」
「いたッスよ! じゃなくて、これから俺と翔はナンパに行くんだ、どけどけ」
 拗ねたように不機嫌な聡の言葉に、和眞は驚いたように翔を見る。
「な……ナンパ、ッスか?」
「どうも、そうらしい」
 肩を竦めつつ翔が頷くと、和眞はぱちぱちと目を瞬かせてから、心得たとばかりにぐっと拳を握り締めた。
「なるほど、英雄色を好む……女の子一人口説けない奴に、エースパイロットになる資格はないということッスね!」
「いや、そういうわけじゃ……」
「そうと決まれば、先輩! オレもお供させてほしいッス!」
「……まあ、好きにすると良いんじゃないか」
 あくまで翔へ語り掛ける和眞に、翔は困ったように頷く。そんな彼らを、校舎の陰から窺う視線があった。
「ナン……パ……?」
 和眞のパートナーであるルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)は、聞いたことのない単語を不思議そうに口にする。彼女の視線に気付く様子もない三人は、連れだって歩き出そうとしていた。
「よく分かりませんが、兄さんを止めないと……」
 言葉の意味こそ分からなかったものの、なんとなく不埒な雰囲気を感じ取ったルーチェは、彼らの元へ歩き出そうとしてぴたりと足を止めた。
「私一人では、力不足かもしれません……」
 相手は三人、自分は一人だ。上手く止められるどころか、下手をすれば丸めこまれてしまうかもしれない。しばらく様子を窺うことにしたルーチェがじっと眺めていると、その視線の先で、彼らへ近付く影があった。
「いよぉ、同士山葉」
 赤髪の青年、デビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)は、にやにやと笑みを浮かべながら聡へ近付いてくる。先程までの失敗を見られていたらしい、と悟った聡は、不機嫌そうに唇を尖らせた。
「なんだよ、男はお呼びじゃねえぞ」
「そう言うなよ、シャンバラ人の俺にとっては空京は庭のようなもんだ。いいナンパスポット、知りたくない?」
「……へえ?」
 デビットの言葉に、聡はぴくりと反応を返す。
 やれやれと首を振る翔の隣で、同じく肩を竦める男性がいた。真夏の日差しの下、執事服をぴっしりと着こなした彼の名は笹井 昇(ささい・のぼる)。デビットのパートナーだ。
「私も行こう。デビット一人を行かせるわけにもいかない」
「おまえも大変そうだな」
 呆れた様子の昇に、同乗するように翔は呟いた。なんだかんだで意気投合したらしい聡とデビットを先頭に、一行はひとまず校舎の中へ向けて歩き出す。


 ◆◆◆


 それから一行は、「アドレス交換はナンパの基本だ!」との聡の教えから、互いにアドレスを交換し合った。
「ナンパの方法なら、オレに聞いた方が上手いやり方を教えてやるぜ」
「本当ッスか! ぜひ、教えてほしいッス!」
 道中、和眞から先程の話を聞いたらしいデビットが得意げに言うと、和眞は素直に食い付く。和気藹々とナンパ談義を繰り広げながら歩く一行は、気付けば人数を膨れ上がらせていた。
「ナンパの駆け引きはな、イコンでの戦闘にも通じる部分があるんだぜ」
 いまいち乗り気でない翔へ、自信ありげに力説するのは和泉 直哉(いずみ・なおや)だ。
「そうとは思えないが……」
「いいか? ナンパってのは、攻め時と引き時を見極めるのが大切なんだ。イコンの戦闘だってそうだろ?」
「……まあ、そうだな」
「つまり、だ。ナンパの技術を習得すれば、イコンの戦闘に活かすことが出来るんだ。なあ!」
 直哉の屁理屈めいた説明に、翔は押され気味だ。さらに直哉は、傍らを歩くウォーレン・クルセイド(うぉーれん・くるせいど)へ同意を求める。
「ああ、勿論だ。その辺は、先輩としてちゃんと指導してやらんとな♪」
 突然振られたウォーレンは調子よく頷き返し、ぽん、と翔の肩を叩く。半信半疑ながらも少しずつ流されかけている翔に、劉 邦(りゅう・ほう)も調子よく同意を示した。
「せやせや、俺様も手伝ったるからな」
 その隣では、超 黒閃(ちょう・こくせん)佐野 誠一(さの・せいいち)もうんうんと頷いている。圧倒的多数の同意を前に、翔もいくらかやる気になり始めたらしい。
「わかった。ナンパすればいいんだろ」
 前向きな返答を述べる翔に、一行は満足げに頷いた。彼らから少し離れた後方では、いつの間にか合流していたルーチェ、昇、そして水城 綾(みずき・あや)の三人が眉を顰めながら言葉を交わしている。
「まったく……空京に天御柱学院の悪名を広めることにならないといいが」
「はい」
 頭を抱える昇に、綾は控え目に頷く。
「いざとなったら、私たちで皆さんを止めましょう……」
 隣で呟くルーチェの言葉に、二人は溜息交じりに首肯を返した。


 こうして奇妙な一行は、ぞろぞろと連れ立って天御柱学院の校舎へ入って行った。