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リアクション
11:00 料理の準備
調査隊と妙な二人の見送りを終えた縁はすぐさま厨房へ向かう。
この旅館の名物料理とすることを目的としている以上、どの料理も一通り見ておかねばならないし、何より料理に興味があった。
「やっぱりお客様に出す前に味見は必要不可欠よね、太らないように気をつけなきゃ」
案の定、厨房からは美味しそうな匂いが漂ってきていた……
「おや、女将、丁度良い所に……」
本郷 涼介は土鍋から灰汁を取っている所だった……彼の料理は鍋物らしい。
「それは鍋ね、確かに冬らしい料理だわ」
「イルミンスールの森では美味しいきのこがたくさん採れますので……それらをふんだんに使って、きのこ鍋にしてみました」
森で採れるきのこや薬草等の知識については縁も充分に習得している、今後も作っていけるメニューとして申し分ないが……
「でも料理として肝心なのは……」
「味、ですね、わかります。どうぞ味見してみてください」
「つけダレは何を使えばいいかしら?」
既にそれらしいタレが何種類か並んでいた。だが、どれを使うべきか……
「ああ、まだどれにするか選んでいませんでした……どうしようかな……えい」
――ころころ。
掛け声と共に涼介の手から放たれたのはサイコロだった。
「3か……いち、に……じゃあこれで」
左から数えて3番目にあったタレが選択された。
「ゴマダレ? まぁ悪くないけれど……こんな決め方で良いのかしら……」
箸で掴んだきのこをタレにつけ、口に運ぶ……もぐもぐ……
「ど、どうですか?」
果たして満足のいく味なのか……
「うん、充分いけると思うわ……ゴマダレも悪くない、これでいきましょう」
「ふぅ、よかった」
女将のお墨付きを得て、一息つく涼介だった。
この料理ならと一安心……と思った縁だが、不意に着物を引っ張られる。
「ゆかりん、あたしの料理も食べてよ」
涼介に対抗心を燃やすネージュ・フロゥだ。早く早くと縁を急かす。
「そんなに急がなくても……」
「ダメ、味が逃げちゃう、アツアツが一番美味しいんだよ、早くっ」
「もう、しょうがないわね……え……」
ネージュの望み通り、早く食べようと箸を伸ばした所で、縁の動きが止まる。
「ゆかりん? 早く食べてよ」
と急かし続けるネージュだが、縁は箸を付けれない……なぜなら……
「か、かわいい……」
白く丸いそれは、うさぎを象った創作料理……雪うさぎ。
「こんなにかわいいのを食べなきゃいけないの?」
白いお餅で作られたうさぎの中身は濃い目に味付けされたひき肉入りの炒飯だ。
うさぎを割る事で外のあんと炒飯が混ざり、絶妙のハーモニーをもたらすのだが……
「こんなにかわいいうさぎを割るなんて……」
名物料理として通用するようにと精一杯凝った見た目が仇になった。
アツアツのうちに、と急かしたのに、刻一刻と冷めていく……
「いいから、食べてよぉ!」
結局、採用となりはしたものの、あまりのかわいさに縁は食べることが出来なかったのである。
「やはりメインを避けて正解でしたね」
それらの様子を見ていた東雲 桜花も料理の仕上げに入る。
メインの料理であれば味はもちろんのこと、見た目の派手さが勝負になるだろう……
だが、あえてメインを避け、名脇役と呼べるような一品を作る事が桜花の作戦だった。
「さ、どうぞ」
さりげないしぐさで縁に差し出す。
「あ、桜花さん、これは大根の……煮付け、ですか?」
「ぶり大根、古くから伝わる冬の定番料理の一つです」
丁寧に灰汁抜きされた透き通るような大根には、ぶりの旨味がしっかりと染み込んでいる。
箸がすっ、と大根に入る……抵抗もなく切れる大根は形が崩れることもない。
「……美味しい」
「よかった、では次はこれを……」
縁のお気に召した事を確認した桜花は次の品を蒸し器から取り出す。
出てきたのは茶碗蒸し……これまた定番の料理だ。
「これもすごく美味しいわ……うん、これだけの料理があれば……」
温泉に代わる目玉になる……この料理を目当てにやってくる客も出てくるかも知れない。
「そういえば、ラムズさんがいないわね」
「ラムズさんなら食材を取ってくると言って外へ行きました、夕方ごろ戻ってくるそうです」
かなり自信のある食材のようだったが……後の楽しみにするしかないようだ。
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