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新年祝祭舞踏会~それより私と踊りませんか?

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新年祝祭舞踏会~それより私と踊りませんか?

リアクション

 3

「似たような部屋が幾つかあるけど……何かの保管庫みたいね。流石にこんなトコには誰も住みつかないか」
 ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)から事前に受け取ったマップを参照しながら、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が呟いた。
 そして改めて部屋を見回す。
「何かがいそうな気配はするんだがな」
 シリウスが言うと、
「いるとしたらモンスターだろう。いるぜ、この感じだと」
 夏侯 淵(かこう・えん)が続けた。
 シリウスと同様の男性的なその口調が、かえって身にまとったアリスドレスを強調している。その頭にはルカとお揃いの猫耳が乗っていた。
 テキパキと部屋の隅々を探しているが、探索に熱心というよりかは早く帰りたいという気持ちの方が強い。
 アリスドレスを着て冒険じみた事をするなんて――どこかの物語じゃないんだから。
「それにしたって……潜入する為とは言え、どうしてこんな格好をしなくちゃならないんだ」
「大丈夫だよ! バッチリ似合ってるもん。男の娘っていうかもはや女の子だよ!」
 淵の背後から棚を覗き込みながら、メイド服姿のユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)が言う。
 振り向いた淵の顔を、目を輝かせて見つめ返す。
「な……!? 待て! 何が大丈夫なんだ! 何も大丈夫じゃないぞ」
「だって大丈夫だったじゃない」
 ねー、と。ルカがユーリと頷き合う。
「百合園学園主催の舞踏会に、ちょっと着替えただけで潜入できちゃうんだもん。バッチリ『男の娘』だってことじゃない」
「くっ」
 エプロンを握りしめてワナワナと震える淵を見て、
「そういうとこが乙女っぽいのよ」
 ルカが言う。
「大体なんだおまえら、『男の娘』だなんて恥ずかしい事を良く言えるな」
「くすっ、淵君だって言ってるよ」
「ちがっ……わないが。俺が男の娘だっていうのは違う! 男だ! 『の娘』なんて付かない! あー、もう! そんな事言ってる場合か?」
「奥にも部屋があるみたいですよ、この棚の間――」
 ユーリと共に部屋を見回していた白鐘 伽耶(しらかね・かや)が、棚の影に隠れていた壁面を指して言う。
「また似たような部屋だな……棚ばかり並んでる」
 そろそろ何か見つかれば良いんだが――吉崎 樹(よしざき・いつき)が窮屈そうに身を屈めて言った。
 こうして探索をするのは良いにしても、肩出しのドレスは少し肌寒いし、コルセットの拘束が息苦しい。
 マスカラで持ったまつ毛のせいでなんだか目元が重くなった気がするし、ウィッグのお陰でいつもより長い髪の毛がグロスを塗った唇に触れて変に気になる。
 可愛くなるって言うのは大変なんだな、と。そんなことをぼんやり思ってから――にわかに暗くなった周囲に、背筋を凍らせた。
「ひぃっ――って! なんでライトを消したんだよミシェル! すぐに点けるんだ! すぐに!」
 他の面々が先に奥の部屋に行ってしまったせいで、樹の傍を照らすのはミシェル・アーヴァントロード(みしぇる・あーう゜ぁんとろーど)の持つライだけだった。
「ふふふ、ふふ、はぁ……樹はかわいいなぁ! ほら、記念撮影しよう」
「いや、だからライトを! 灯りがなくちゃ撮影どころじゃないだろう!?」
 ストロボが光ってから、ミシェルの手元のライトが点いた。
「何かあったのか――?」
 淵とユーリが、樹の悲鳴を聞いて引き返してきた。
「い、いや、なんでもない。よくあることだ」
「よくあること?」
 淵が首を傾げる。その脇を縫って、ユーリが樹とミシェルの傍に駆け寄った。
「怪我とかしてない?」
「ああ。流石に、な」
「可愛いドレスが傷ついちゃったら残念だから、あんまり無理しないでね」
「ん、あんまり探索向きの格好じゃないよな、コレ」
「でも可愛いからいいんだよ!」
 ユーリが天真爛漫に笑って言う。
「そのドレス、どうしたんだ? 流石に普段からこんな格好してるわけじゃないだろ?」
 当然だが俺も違うぞ――淵がぼそりと付け加える。
「あ、あぁ……ミシェルが徹夜で作ったそうだ」
「マジかよ」
 淵が目を丸くして、紫色のイブニングドレスを上から下へと食い入るように見つめる。
「なんかスゲー凝った作りになってないか、ソレ」
 フリルが幾重にも折り重なったティアードスカートを指して言う。
 無表情で首を傾げるミシェルに代わって、
「着るのも大変なくらいだ」
 樹が苦笑して答えた。
「……何か、凄い執着心を感じるな」
 ミシェルと樹を見比べて、淵が呟いた。

 ふと――淵の背後で閃光が走った。
「淵! そっちに行ったヤツを頼むわ――!」
 ルカの声に振り返る。
 振り返ると同時に全長が一メートルほどの蜘蛛が、奥の部屋から飛び出して来る。
「ッ! いきなり危ねえなあ!」
 言いながら身を翻すと、その勢いで振りかざした左足で素早く七発の蹴りを繰り出す。
 蜘蛛状のモンスターは打撃を受けると身悶えた後に、灰となって消えてしまった――
「雑魚だけど、数が多いな」
 呟いてからすぐに奥の部屋に向かう。
 奥行きのある部屋だった。背の高い棚が並んでいる。
 その奥の奥から、続けざまにモンスターが飛び出してくる。
 樹に飛びかかろうとする巨大蜘蛛をミシェルが雷術で退け、ユーリが大鎌で仕留める。
 モンスター達は実体が無いかのように、息絶えると共に消滅してしまう。
「奥だ――奥に何かあるみたいだ」
「モンスターの巣か何かか?」
 シリウスの言葉を聞いて、淵が部屋を見渡す。
 リーブラの【オルタナティヴ7】が照らし出すそこには、
「棚――からモンスターが溢れだしてる?」
 ルカが近くの棚を覗き込む。
 絵画だ。立ち並ぶ棚は絵画保存用のラックだった。
「確かに、価値ある宝物なのかもしれないけれど」
 ちらりと見えたのは、不気味な絵だった。それこそ、モンスターばかりが描かれているような――
 ふいに、モンスターの発生が止んだ。
 と同時に、奥の棚から数枚の絵画が独りでに飛び出し、落ちた。そして額縁を残して絵画そのものが燃えてしまった。
「なんだったんだ、一体」
 シリウスがしゃがんで、額縁を拾い上げようとしたその時、彼女のHCが連絡を受け取った。
「ああ、こっちからも報告しとかなきゃな――」
 言って、HCのモニタを覗き込む。
 あ――と。シリウスが声を上げた。
「獣人族の子供らしい姿を見つけましたの、ってさ」
 翠からだ、と。そう言ってシリウスが一同の顔を見回した。
「あーあ……先越されちゃったか」
 残念そうに、けれど少し楽しそうに、ルカが呟いた。