空京

校長室

【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ
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リアクション

「メッセージの返事を、聞きに来たよ! 一回嫌だって言われるくらいじゃ、諦めないんだから!」
「……ザナドゥの今後の一つには、国を開き、貴様らと交流を持つという選択肢もあろう。息子を始め他の魔族の中には、貴様の思う通りの態度を取る奴もおるかもしれん。……だが我は、貴様と馴れ合うつもりはない!」
 前にベルゼビュート城を訪れた時に渡したメッセージの返事を聞きに来たという三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)へ、ルシファーは『ザナドゥとしての態度』『自分を除く魔族の態度』『自分の態度』のそれぞれを答え、魔力の波動でのぞみを吹き飛ばす。
「きゃーーー!」
「っと……なるほど、まあ、そんな回答になりますよね」
 くるくると空中で回転するのぞみを受け止め、ロビン・ジジュ(ろびん・じじゅ)が納得の表情を浮かべる。『古参以外の悪魔たちは好き勝手に選択するだろう』、たとえばザナドゥとしては、もしこの戦争に負ければシャンバラとカナンの意向に従う形――おそらく両国はザナドゥの滅亡を望まず、可能な限り対話を試みようとするだろう――になるだろう。その環境下であっても、魔族個々に見ていけば積極的に交流をしようとする者もいれば、敵対を続けようとする者もいるだろう。
「だからのぞみも、好き勝手に選択すればいいんじゃないでしょうか。それが実際認められるかどうかは別として。
 ザナドゥも、慣れれば案外住み心地のいい所かもしれませんよ――」
「……のぞみに変なことを吹きこまないでくれますか?」
 ロビンの背後に立った沢渡 真言(さわたり・まこと)が険しい表情を浮かべ、ロビンを牽制する。不審がっているというわけではないが、こうして釘を刺して置かなければいけないような気がしていた。
 ……無論、のぞみが前から口にしていた『ザナドゥ留学』を強く望むのであれば、応えられる範囲で応えなければならないとも思っている。だからのぞみには、誰かに言われたからではなく、自分の意志で決めて欲しい。
「あなたが望み、あなたが願うことを、私は手伝います。
 今はあなたの『仲良くしたい』望みを叶えるため、こうして人間と魔族が争い合う関係を終わりにしましょう」
 のぞみに、一休みしているように告げ、真言は仲間の下へ戻る。パートナーであるマーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)、それに自分を追って駆けつけて来てくれた志位 大地(しい・だいち)メーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)の力にならんと――。

「どうした、貴様の力はその程度か!?」
 複雑な軌道を描く魔弾が大地を襲い、装備していた篭手、グリーヴが辛うじて大地への致命傷を防ぐが、両方とも役目を果たしたと主張するように大地から外れ、床に落ちる。形が大きく変形しており、そのまま装備されていても大地の動きを阻害するだけであっただろう。それらは最期まで、役目に忠実であった。
「大地!」
「千雨、援護するぞ!」
 マーリンが魔弾を、千雨が二丁の魔道銃からそれぞれ炎と氷の魔術を撃ち出して攻撃するが、せいぜいルシファーの気を削ぐ程度にしかならない。なんとか一撃を与え、体勢を立て直せればいいだろうが、その隙すら与えてくれない。
(いやー、これは本当にマズイかもしれませんね。視界が定まらなくなってきました)
 男の意地とやらで、崩れ落ちるのだけは何とか堪えていたが、正直剣を持っていることすらしんどい。この状況下で有効打を食らわせることは、相当難しいように思われた。

『――――!』

「むっ!?」
 ルシファーの腕に、飛んできた糸が絡む。それが真言の放ったものであることに、いち早く反応したのはマーリンと千雨だった。
「ありったけの魔力を、喰らいやがれーーー!」
 マーリンにしては珍しく、必死の形相を浮かべる。それも、アーデルハイトが生徒に向けて『お願い』をしていることが要因であった。「そのくらいは、やってやる」と呟いたマーリンの、有言実行である。
「……雷よ!」
 マーリンからルシファー方向に流れる魔力を燃料にするように、千雨が天より降り注ぐ雷光を糸へ浴びせる。垂直に降りてきた電撃は糸を伝いルシファーへ飛び、強烈な爆音と衝撃をもたらす。
「!!!!!!」
 それは、ルシファーの間近にいた大地も例外ではない。だが電撃による刺激が、一時的に大地に全力を超えた力を発揮させることを可能にする。両手に握り直した細長い剣を、ルシファーの居るであろう場所に叩き込めば、損害を与えたと確信できる手応えが刀を通じて伝わって来る。
「マーリン、大丈夫ですか!?」
「こ、こここのくらいいい、なななんてことないぜぜぜ」
 駆け寄った真言に対し、痺れの影響が抜けないながらも無事をアピールするマーリン。一方千雨は、ルシファーを斬りつけた後どう、と倒れ伏す大地の下へ駆け飛んでいた。「共に生きて農場に帰るにはこれが最善」、大地の言葉を信じてはいたものの、やはりあのように倒れられてはどうしようもない。意識があることに安堵の息をつきながら、後方の味方の下へ大地を連れ帰る。
「この戦いは、絶対にここで終わらせなくっちゃ!」
 そして、損害を受けたルシファーへは、芦原 郁乃(あはら・いくの)が強い意思を秘めて飛び込んでいく。
(ああ、やはり主は真っ直ぐで、飛び出して行ってしまった。……でも、そうだからこそあたしの主。そうだからこそ、守るに値する人。
 主よ、存分に力を振るい下さい。主の後ろを守るのはあたしの役目。持てる力を全て使ってでも、支えてみせます)
 蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)の援護を受けて、郁乃がルシファーと切り結ぶ。相変わらず強大な力を見せるルシファーだったが、その差はエリザベートと戦っていた時よりは縮まっているように見えた。
「レキ、今なら攻撃に参加出来るやもしれぬ。わらわは氷の嵐でルシファーの動きを止める、レキは動きの止まったルシファーを銃で――
 ……レキ、聞いておるのか!?」
 戦闘の推移を注視していたミア・マハ(みあ・まは)が、今が好機とレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)に攻撃参加を指示するが、レキはそれとは別の所に注意を向けていた。
(なんだろう、この、とても嫌な予感。溢れ出る邪気が、誰かの命を狙っているような……まさか!?)
 バッ、とレキが、周囲からエリザベートの姿を探す。……少しの後、明日香とノルンに護衛される形で、エリザベートが待機していた。
 そしてその直線上に現れる、邪気を溢れ出させた人影――。
「エリザベートさん、危ない!」
 咄嗟に、レキの声が飛ぶ。ミアも遅ればせながら状況を認識し、これ以上事態を混乱させないため、早期の終結を図るべく一行の元へ向かう――。


「エリザベートォォォ!!」

 エリザベートの眼前に現れたメニエスの、挨拶代わりの炎の嵐を、反応したエリザベートがやはり炎をぶつけて相殺する。
「あなたが教頭なんかに就任するから、ややこしいことになったんですぅ!」
「自分の責任を棚に上げて非難するなんて、あんたは校長失格よ! 地上には帰さない……ここで消えなさい!」
 二発目の炎も、やはり両者の間で相殺されて掻き消える。三発目を放つ前に、メニエスの足元を鋭く尖った氷柱が穿つ。
「校長に手を出す教頭だって、失格だよ! たとえ手続きが正式なものだったとしても、イルミンスールを混乱させてくれたお礼、返すからね!」
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が杖をかざし、生み出した複数の氷塊をメニエスへ見舞う。
「あたしの邪魔を、するなぁぁぁ!!」
 飛んできた氷塊を炎の嵐で蒸発させ、メニエスはカレンを闇黒へ包み込まんとする。箒で回避を図ろうとするも闇黒はしつこくカレンを追い、ついに先端がカレンを捉えようとしたその時、閃光が闇黒を貫いて走り、闇黒は蒸発するように消えていく。
「我のレールガンに、貫けぬものなし!
 ……闇黒は我が処理する、カレンは教頭を討て!」
 レールガンを構えたジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)の、なんとも頼もしい言葉を力に、カレンが羽ばたくように空中を旋回、メニエスの元へ飛び込む。
「邪魔をするなと、言っているだろぉぉぉ!」
 真っ向から勝負を挑むメニエスを、ミストラルは心配そうに見守りつつもあの状況では、逆にメニエスの邪魔になってしまうことをわきまえる。幸いか、自分が魂を捧げた影響か、メニエスは歴戦の契約者であるカレンとジュレールを相手にしても、ほぼ互角の戦いを繰り広げていた。どちらかと言うと影で策を巡らすことの多いメニエスだが、魔術師としても(アーサーに認められていただけあって)一流であった。
(こちらも、成果を挙げたい所ですが……)
 ちらり、とエリザベートの方を見遣る。感覚的に、手前の少女――ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)――は、殺れそうだ。小細工を打っている吸血鬼――シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)――がいるようだが、その気になれば出てくる前に少女は殺れるだろう。
 問題は、エリザベートの最も傍にいる少女、神代明日香。彼女は契約者としての実力もさることながら、エリザベートのためとあらば同じ契約者をも手にかける――実際の所は、手にかけられた契約者は姿形を変えて生き延びていたが――。
(迂闊に踏み込めば、痛手を負いかねません。いざという時はメニエス様を逃がす必要がある以上、わたくしが傷つくわけには……)
 ミストラルは、難しい選択を迫られていた。そうこうしている内に、戦いを傍観していた契約者が自分たちに気付いてやって来るかもしれない。自分たちははたいそう、有名人になってしまっているのだから。
「ねえ、どうしよう、シェイド? ワタシたち、このままでいいのかな?」
「……あちらは、手を出しあぐねているように見えます。こちらが隙を見せるか、事態が動きでもしない限り、動くことはないでしょう。
 我慢しましょう、ミレイユ。皆が必ず魔王を打ち倒してくれることを、信じるのです」
 こちらを狙う気配を浴び続けられては、今この瞬間戦っている契約者をサポートすることもままならない。そのような行動に移れば、真っ先に自分、そしてエリザベートを狙ってくるだろう。
(ワタシは、みんなを信じてる……!
 お願い……このまま誰も死なないで、そしてみんなで無事にイルミンスールに帰るの……!)
 ミレイユは懸命に、祈る。気力を使い果たしてしまっても構わないほどに――。

 当初はあれほど圧倒的な力を誇示していたルシファーも、十数名の契約者を同時に、一時の休みもなく相手し続けていれば、疲れも見えてくる。
「ええい、小賢しい奴らめ!」
 ルシファーが魔弾を放ち、直撃を受けた契約者が戦線離脱する。契約者も疲労してはいたが、ルシファーの攻撃がそれ以上に弱っていたため、直撃を受けても一発死がない。後方支援を担う契約者たちには、まだ若干の余裕が見られる。つまり、このまま死なないように戦っていれば、いずれ勝つ。
(魔王が、敗れるか……。だが、魔王とはそういうものだ。
 魔王を名乗る者はいつか敗北する……それは、ジークにも当てはまるであろう。そして、それでいいのだ。
 魔王は勇者に倒されるもの……それまでは、負けてはならないのだ)
 ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)に装着されているクリームヒルト・ブルグント(くりーむひると・ぶるぐんと)が、追い詰められていくルシファーを見遣りながら、心に呟く。
「決着を付けるぞ、ルシファー!
 これが、人類と魔族の最後の戦いとならんことを!」
 両手に剣を持ち、ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)がルシファーとの間合いを詰める。
「まだだ! まだ、終わらせてなるものか!」
 表情を歪め、ルシファーが魔弾を放って抵抗する。威力は当初に比べ大分下がっていたものの、それでも人一人を圧倒するだけの量が押し寄せる。
「たとえどれほどの困難があろうと、退かぬ! そうして人は己の愚かさを確認し、次こそはと積み重ねていくものだ!」
 魔弾に身を削られながら、一歩、また一歩、ヴァルがルシファーに歩み寄る。……だが後少し、もう二三歩という所でついに、ヴァルの足が動かなくなってしまう。
(くっ、動け! 動くのだ、俺の足!
 帝王がここで退くなど、決してあってはならないのだ!)
 ヴァルがいくら自分を鼓舞しても、肉体はとうに限界を迎えており、そこから一歩も動かない。癒しの力も、圧倒する魔弾に掻き消されて届かない。
 ――届かないのか――
 その思いが過りかけた瞬間、背後を守っていたキリカ・キリルク(きりか・きりるく)の声が響く。

「……どうか、僕達を見て下さい。
 貴方がたとて刮目させる、僕達の力と、それを支える覚悟を――」

(キリカ、何を――)
 ヴァルが声にならぬ声で問う前に、キリカは自らの生命力を引き換えにしてヴァルに『最後の一歩を進ませる力』を送り込む。
「帝王……帝王の背負うものは、ボクも――」
 言葉が途切れ、キリカの身体が落ちていく。幸いにして休息を取っていた契約者によって助けられ、後方へと移送される。死んではいないが、しばらくの間目を覚ますことはないだろう。

「……おおおおおおおおおおぉぉ!!」

 魂の叫び、そう形容しても差し支えない叫びを吐いて、ヴァルがルシファーの眼前まで間合いを詰める。そのまま両手の剣を振り抜けば、最後の抵抗でルシファーがそれを受け止める。不敵に微笑むルシファー、直後、その顔が強烈な苦痛に歪む。
「ゴフッ――」
 剣を手放したヴァルの、全体重を乗せた拳が、ルシファーの腹を捉えていた。類稀な精神力を持とうとも、肉体の耐久力は貧弱。物理的に与えられる衝撃に耐え切れるはずもなく、ルシファーは意識を手放した――。

 今ここに、『勇者』と『魔王』の戦いは、幕を下ろすことになる。
 魔王は勇者に敗れる、おそらくは一般的に望まれているであろう結末を以て――。