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リアクション
●イルミンスール:飛空艇発着場
「そんじゃ、ここのことは任せる。当分忙しくなるぞ、覚悟しておけ」
「……どうしても行かれるのですか、艦長? 船もそうですが、艦長もその身体では――」
「船はオレのを使う。アイツは最期に一仕事、果たしてもらうさ。
……預かったのは船員の命も、だからな。やるべき事があるなら、やるだけだ」
船員たちに別れを告げ、日比谷 皐月(ひびや・さつき)が自身の船バスターズフラッグ、その隣にある辛うじて飛べるに過ぎないかつての船、『I2セイバー』の下へと向かう。既にI2セイバーへは大量の爆薬が積み込まれ、最期の一仕事――出現したクリフォトへ特攻――の準備を整えられていた。
「フ……お互い、酷い格好だな」
背後を歩くマルクス・アウレリウス(まるくす・あうれりうす)が、自身と皐月の姿を見て呟く。クリフォトの攻撃に晒され、生還こそ果たしたもののあちこち傷だらけであり、寝ていた方がいいと医者には忠告されていた。
「手筈は伝えた通りだ。頼むぞ、マルクス」
「ああ。気を抜くなよ、皐月」
……しかし二人共、ここでのうのうと寝て過ごすような性質ではない。残った五隻の大型飛空艇と避難用の船、バスターズフラッグとI2セイバーを用い、飛行魔族からウィール砦を護る防衛ラインを形成、撃退後はクリフォトを地の底に沈める。
「そんじゃ。一丁、やりますか」
やる事が決まったなら、それをやるだけ。揺るがぬ信念を胸に、皐月は戦場へと向かう。
(例のイコンは見えない……けど、出てこないと決まったわけじゃない。
今出現している飛行魔族を撃退して、これからの戦いを有利に展開させる!)
アルマイン・マギウスを駆り、緋桜 ケイ(ひおう・けい)が先日遭遇したザナドゥ側のイコンを警戒しつつ、飛行魔族の撃退に当たる。ケイの背中には永久ノ キズナ(とわの・きずな)と、ケイの求めに応じ搭乗するサラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)の姿があった。
「サラ殿。あの時あなたは「私があなたに合わせよう」そう言ってくれた。
その気持ちは、とても嬉しい。だが、それではダメなのだ。確かに私は未熟者、けれども志はサラ殿と同じ。
……だからこそ、サラ殿だけに負担を強いたくは無い。私も、サラ殿に合わせたい。私とサラ殿、そしてケイ、三人が力を合わせあってこそ、アルマインは真に力を発揮してくれる。私は、そう信じている」
搭乗する前、キズナは自らの思いの丈をサラにぶつける。サラ殿ならきっとこの思いを受け止めてくれる、そう信じて。
「私は、あなたがそのように言ってくれたこと、とても嬉しく思う。
……行こう、皆で共に。この地に再び平和を取り戻すために」
「サラ殿……ああ!」
サラとキズナ、ケイの手が重なる――。
「ケイ、敵を捉えた。そちらでも確認出来るか?」
「ああ、確認した。マジックカノン、Sモード起動」
「Sモード、起動を確認。魔力の調整は私が請け負おう、ケイは敵の迎撃を」
キズナとサラ、二人の報告を受け、ケイがマジックカノンの照準を前方の飛行魔族に合わせる。内から熱を帯びるような感覚は、まだこの身体に魔力が存在している証なのか――。
「……これが、人と精霊の、絆の力だ!」
アルマイン・マギウスのマジックカノンが飛行魔族を貫き、損害を与える。今ここに、空中の激戦が幕を開ける――。
イコン部隊と飛行魔族、数はほぼ同数。そして、実力も拮抗していた。
「歌菜、四時、いや三時の方角――くっ、動きが予想以上に速い」
セタレにて、遠野 歌菜(とおの・かな)のサポートを務める月崎 羽純(つきざき・はすみ)が悔しげに呟く。魔族の動きは砲戦使用のアルマイン・マギウスを翻弄するほどであった。それは魔族の側が、これまで幾多の戦いをくぐり抜けて生き残った一握りの精鋭であったからである。ザナドゥ側についた契約者のアドバイスを覚え、対抗策を身に付けた彼らは、これまでで最もの脅威として立ちはだかろうとしていた。
「それでも……たとえ力で負けてたとしても、想いの強さじゃ負けない!
そうだよね、セタレ!」
私たちの帰るべき場所を、校長先生が帰ってくることを信じて、絶対に守る。そんな歌菜の想いを受け止め、『セタレ』の羽根が一際強く光り輝く。アルマインの導き手が引き出す『進化』の力を発動させた『セタレ』がSモードのマジックカノンを発射すれば、放たれた魔弾は誘導性を持ち、振り切ろうとする飛行魔族をどこまでも追いかけ、追いつめていく。
「あったれーーー!」
最後の一押しを歌菜の声が担い、そして、魔弾の集中砲火を浴びた飛行魔族は抵抗力を失い、地上に落下していく。
「ファイア・イクス・アロー!」
リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)とモップス・ベアー(もっぷす・べあー)の搭乗する『エールライン』の放つ轟雷の矢が、飛行魔族の行動の自由を奪っていく。単発形式の他、一度に複数を放つ形式も取得したようで、より制圧力が上がっていた。
「リンネ、三時から七時の方向、なんだな!」
モップスの報告に答え、その方角にリンネが矢を放つ。機動力に長けた飛行魔族も、それらすべてを避けきることは叶わず、徐々に抵抗力を減じられていく。
(この前は、リンネさんを倒れさせてしまった。可愛い可愛いリンネさんにばかり、無理させられない!
彼女が倒れるくらいなら、僕が……!)
リンネの背中を、同じく搭乗する博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が強い眼差しで見つめる。全ての面においてパワーアップしたエールラインは、消費する魔力もかなりのものであり、それには博季と西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)の存在が不可欠であった。
(僕の分の魔力もあれば、エールライン、お前ももう少し長い間、本気で戦えるだろ?
僕と一緒に、リンネさんの想いに応えよう。……あ、一緒に、というのは不服かな? 僕はお前にとって電池みたいなものだし――)
内に呟いた博季の、触れていた水晶が明滅を繰り返す。それが意図する所までは分からなかったが、嫌な気分はしなかったからおそらく、そんなことはない、お前も大切な存在だ、と言ってくれているのだろうか、と博季は思い至る。
「ふふ、最後まで休めないわよ、エールライン? 私と博季の魔力を優先的に、ありったけ使いなさい。
私、人使いは荒いわよ?」
隣の幽綺子がそう言うと、今度はまた違った明滅で答える。なんとなく、エールラインが幽綺子を恐れているような感情が垣間見えて、博季はおかしくなった。
(ま、一緒に、リンネさんが彼女自身の道を貫き通す手伝いをしてくれ。宜しくな)
再び返されるエールラインの意思――多分、分かった、と言っているように思えた――を受け取って、博季が戦闘の推移を見守る。
「所が違えば、使用するイコンも違います。そうであっても、機体に適した整備を施すのが私たちのやることです」
移動整備車両キャバリエを従え、長谷川 真琴(はせがわ・まこと)とクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)がイコン整備に奔走する。学院の整備科代表に選出される程の腕前を備えた彼女の手にかかれば、イルミンスールのイコンであっても天御柱のイコンであっても関係なかった。
「はい、終わりました。クリスチーナさん、そちらはどうですか?」
「こっちももう少しで終わるよ。パイロット呼んできちゃってもいいよ」
真琴の声に答え、クリスチーナが締めの作業に没頭する。戦いの最中ではどうしても時間との戦いになるが、それでも整備をおざなりにするつもりはなかった。パイロットにとってイコンは『相棒』であり、相棒をよりよい状態で送り出すのが、自分を始めとした整備士の仕事であるから。
「さあ、出来たよ。これが最後の戦いなんだろ? みんな、悔いだけは残すんじゃないよ。
但し、ちゃんと帰ってくること。分かったらさっさと行ってきな!」
二人に見送られて、新品同様に整備されたイコンが戦場へ復帰する。
「クリスチーナさん、どうぞ」
「おっ、サンキュー」
真琴が用意した飲み物を受け取り、少しの間、身体を休める。資材は少なくともこの戦いの間は困らないだろう。後は自分のコンディションを出来る限りいい状態に保ち続けること。
「おっ、次、来たね! それじゃ行こうか!」
遠くに見える機影を確認して、腰を上げたクリスチーナと真琴が応対に走る。