空京

リアクション

【２】超大型機動要塞の最後

「……よし、制御室のあたりがようやくついたぞ！」
　ダリルが叫ぶとルカルカもすぐに通信を回すように指示を出す。
　すぐさま制御室の情報が各艦・イコンに伝えられる。
　制御室は分厚い装甲の奥にある。
　これを受けて、艦隊部隊は続けざまの攻撃を計画し、すぐに実行に移す。
　各艦では膨大な量のエネルギー充填が行われていく。
　そして準備は整った。
「それじゃ最初はラグナロクが担当するよっ！　放てぇー！」
　ラグナロクが荷電粒子砲を撃ち込んだ。
　続いて伊勢、ウィスタリア、マサチューセッツ、土佐と連続で同じ箇所に最大威力の攻撃をしていく。
　それでもまだ足りない。あと少し――――。

　刹那、荷電粒子砲が一射放たれ、制御室の装甲を更に削る。
　その威力は他の戦艦にも引けを取らない、いや、それ以上の力でもって装甲を吹き飛ばす。
「……ったく、アホみてぇに奥に作りやがって」
　覚醒しているフラフナグズに乗る斎賀　昌毅（さいが・まさき）が愚痴を零した。
　マイア・コロチナ（まいあ・ころちな）は手元を動かしながらも現在の状況把握に努める。
「ですが、各艦隊の矢継ぎ早の攻撃にフラフナグズの覚醒荷電粒子砲がモロに直撃です。
　もう一歩なのは間違いありません」
「これからその一歩が遠くなるさ。……ヤツが直々に来るんだからよ」
『貴様等ッ！　それ以上我が機動要塞を破壊することは許さんぞ！』
　この一連の攻撃に契約者達の目的を読み取ったエレクトロンボルトが、グラヒトリを操り自ら艦隊を破壊しに来た。
　そして現在最も危険だと判断したフラフナグズへと特攻してきている。
　周りには護衛機もいる。厄介極まりない。
「護衛についているイコン乗りの皆さん！
　このままではあなたたちは確実に死にますよ！
　そうなりたくないのであれば、今の内に逃げるか投降するべきです！」
　マイアはそう叫ぶがエレクトロンボルトがそれを掻き消す。
『やってみろ虫ケラ共！　目の前のヤツラ諸共破壊して我が一部にしてくれる！』
　猛るエレクトロンボルトを見て、昌毅が嘲笑した。
「はっは、言うねぇ。……だが、もうお前らの負けだよ。
　機動要塞は終わり、だ」
『貴様等を止めれば何てことは――』
「俺等を止めるだけじゃ、ダメなんだよ」

　――ピコンッ

　グラヒトリのレーダーから敵を感知した時の音が鳴る。
『……もう一機、だとおおぉぉぉ！？』


　グラヒトリが捕えた新たな機影。
　それは天貴　彩羽（あまむち・あやは）とスベシア・エリシクス（すべしあ・えりしくす）が乗るロッツ・ランデスバラット。
「大規模戦闘、油断大敵でござるよ。
　あそこの先に制御室があるそうでござる」
「そう……ただこの位置からじゃ狙えないわね。すぐに移動するわ」
　彩羽がブースターを最大出力で動かし、ロッツ・ランデスバラットを急がせる。
『ヤツを止めろぉ！　何としてもだぁ！！』
　エレクトロンボルトが周りの護衛機を怒鳴りつける。
　すぐさまセラフィム機が向かうものの、後出しの初動が遅い動きには変わりない。
　彩羽が制御室を狙える絶好のポイントへ到着する。
「敵が来るでありますが、いいのでありますか？」
「問題ないわ。……それじゃ、落とさせてもらうわ！」
　覚醒状態と同程度まで能力を引き上げ、彩羽が言葉を紡ぐ。
「螺旋をくぐり、闇深き森より来たりて、夜に吼えるものよ――」
『ヤメロォォォォォォォォォォォ！！！！』
　エレクトロンボルトのそれは、まるで断末魔のように聞こえる。
　だからとて、もう彩羽は止まらない。止められはしない。
　黒地に赤い幾何学模様の入った晶術長距離ライフルを構えて、彩羽は力強く叫んだ。
「世界を穿て！　トラペゾヘドロン！！！」
　超高威力の暗黒属性のエネルギー砲弾が、制御室へと吸い込まれた。

　ゴゴ、ゴゴゴ
　ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ！！！！

　機動要塞が、傾く。
　彩羽、ロッツ・ランデスバラットのトラペゾヘドロンの一撃が決定打となり、
　機動要塞の制御を完全に破壊したのだ。
『き、機動要塞が……我が機動要塞がああああああぁぁァァァァァ！！！
　…………許さぬぞ。貴様等だけは許さぬぞっ……！
　全機体とも残骸も残さず消し炭にしてこの世界から存在ごと抹消してくれるぞおおおお！！』
　エレクトロンボルトが激昂する。
　それに恐怖するように、二機のセラフィム機が彩羽へと恐怖と殺意を差し向けた。
「来るでござるよ！」
「ええ、でも平気。私一人ではないから、ね」