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リアクション
「思い出せ、おれたちの行動を。なんの接点もなく、主義も主張も異なるおれたちが、この空に浮かぶ未知の大陸でけっこううまくやれている。さっきの戦闘にしてもそうだ。おれたちは、誰に命令されることもなく自分たちの意思で戦いを選び、その時点において最適の戦い方を見つけては戦い続け、最終的に勝利をおさめたじゃないか。その可能性を見た遙遠たちだ、ここにいるやつらはみんな楽天家さ」
遙遠たちがちからをあわせれば、できないことなんてないんじゃないかと思えるような楽天家の集まりなのさ!
遙遠の演説に歓声が上がり、指笛が吹かれる。
「それだけではありません」
ミヒャエルが実直そうな声をあげる。
「私たちは、まだ何も解明してはいない。すなわち、なぜ、彼らは特攻という手段を選び、なぜ、パピーを狙い、なぜ、教導団近くでの戦闘を選んだか、ということです。そのためにも、パピーには生きていてもらわないと困るのです」
「つまり、ミヒャエル、あなたは、この戦いはまだ終わっていないかもしれない、と言いたいのだな」
クレアが確認する。
「賢察のとおりです、クレア・シュミット」
「へえ、第二幕が用意されてるってわけか。まあ、そうでなくちゃな」
ミヒャエルの言葉に、レオンハルトは好戦的な赤い瞳をルビーのようにきらめかせる。
「では、はじめよう」
クレアは全員に向けて言った。
「パピーに対する好悪の念に関係なく、全員の意思が一致した今、パピー救命活動への障害はなくなったはずだ。ならば、諸君」
ただ一言なのだ。生きろ! そのメッセージを全身全霊のエネルギーに変換し、つないだその手から次の手へわたしてほしい。
「それで、パピーは助かる!」
大歓声が湧き起こる。若者たちの恐れと疲れを知らないちからが、すでにオーロラのようにゆらめきはじめている。洞窟の中では、優梨子がリレーされたエネルギーの照射役に選ばれていた。
「なぜか? それは、貴公が最初にパピーに触れた人物だからだ。子供とはいえグリフォン。そのからだに触れた貴公には、初めから一片の恐怖もなかった。だからこそ、ふさわしい」
みんなの想いの最後に、貴公の想いを乗せて、パピーに届けてやれ。
巽に説明され、優梨子は、はい、と大きく頷く。
エネルギーの集約がはじまる。最後列の生徒からはじまったエネルギーのリレーは、各自の想いとともに、次第に祈りのリレーへと変わっていく。
パートナーに出会ったとき、拒否することもできた。しかし、自分たちはここに来た。
後悔はあるか? 目的は見出せたか? 学生として進取の気性を失っていないか?
戦いとはなんであるか? 正義はどこにある? 仲間とはなにか、戦友とはなにか?
敵とはなにか?
パラミタ大陸を守るとはどういうことか?
建国の理念を抱くことはできたか?
多くの想いを感じながら、藤原 優梨子は、一歩ずつパピーに近づいていく。パピーから放射される高電圧のちからが急速によわまっていく。パピーのいのちの炎は、もう消えようとしているのだ。
「私、戦争を否定しません。武器もちからも必要だとわかりました。でも、それは、傷つけたくない“なにか”…そう、個人とか物の前にある、自分の信じる概念のようなもの、それを守るためにしか使ってはいけないと、今、感じ始めているのです」
優梨子は、うすれていくパピーの波動を引き留めるかのように、右手をパピーにかざした。
「そして、パピー、今の私にとって、あなたはその概念にとても近い。だって、あなたは」
この広大な大陸そのものだから。
優梨子が涙を落としたとき、パピーはうっすらと目を開けた。もう、呼吸すら微弱だ。
「パピー、あなたは、大地であり、空であり、海であり、山なの。私たちが生きていくうえでいちばん大切な要素を、そのちいさな弱々しいからだいっぱいに詰め込んでいる。だから、守りたい、いいえ、守らせて。パピー、パピー、パピー!」
生きて! パピー!
治癒という言葉では言い尽くせないほどに複雑で多様で強く、やさしさに満ちたエネルギーが優梨子のてのひらで暴発しそうになる。
だが、共鳴しあう全員の意思が制御しようとする優梨子のそれとシンクロし、強大をきわめたビームとなって、ついにパピーの全身をつつみこむ。
生きろ、生きろ、生きろ、生きて生きて生き抜け、パピー!
全員の願いが白色の壮大な光となってパピーの周囲にあたたかな波動をもつ繭をつくり、やがて、それは、パピーの体内に浸透していく。
「銃創からのエネルギー流出が止まった!」
パピーに駆け寄る睡蓮。患部を確認し、すばやく触診をする。
「患部の癒着を確認。けど、心拍低下。もうもたないかも…!」
睡蓮の心配は、絶望への傾斜を転げ落ちそうになっている。
「発電システムを動かせ。今ならできるはずだ!」
ロットが言いながら自ら洞窟の地下に飛び込み、メインスイッチをオンにする。洞窟内に電灯の光がみちる。
よし! 外にいる生徒たちの拍手が洞窟内に反響する。