校長室
学生たちの休日4
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「それにしても、相変わらず騒がしいというか、ここは女ばかりだなあ」 「一番騒がしいのはリーダーのくせに」 人ごとのように言うココ・カンパーニュに、リン・ダージが突っ込んだ。 「まあ、でも、やっと静かになったみたいだよ。そういえば、ココたちはこれからどうするの?」 「そうだよね。私もそれが気になっていたんだもん」 「これからかあ」 茅野菫と小鳥遊美羽に聞かれて、ココ・カンパーニュがちょっと考え込んだ。 「特別なあてがないんだったら、パラミタ観光なんかいいと思うんだもん。ココさんと一緒に、シェリルさんにいろんなとこ見せてあげればいいと思うんだよ」 いいことを思いついたとばかりに、小鳥遊美羽が言った。 「それは悪くないなあ。今のところちゃんと行ったことがないのは、西シャンバラの各学校かな。都市に入ったことはあるけどね。手始めに行くとしたら、蒼空学園か、空京大学か……」 悩みどころだと、ココ・カンパーニュが腕を組んで考え込んだ。 「そういえば、こうやってゆっくり話す機会がなかったからだけど、好きな食べ物とか男の子の好みとか聞いてみたいなあ」 「男の子の好みですかあ。うふふふふふふ……」 ちょっと意味深にチャイ・セイロンが笑う。 「できればあ、運のいい方がいいですわねえ」 「チッパイの好きなイケメンよ!」 「分かる、分かるわよ、同志リンちゃん!」 リン・ダージの言葉に、思わず小鳥遊美羽が拳を握りしめて同意した。 「とりあえず、男であればいい」 ちょっと溜め息混じりに、マサラ・アッサムが言う。 「えーっと……」 「はい、次!」 朝野未沙が何か言おうとするのを、マサラ・アッサムがさっさとペコ・フラワリーに回す。 「特に条件は……」 つんつんと両手の人差し指をつっつきあいながら、ぼそぼそとペコ・フラワリーが答えた。 「私は、ノーコメントです。今はまだ……」 そう言って、アルディミアク・ミトゥナはちょっと淋しそうに微笑んだ。 「私? 私は、私より強い男じゃないと。でも、ホモは却下!」 力強く言うココ・カンパーニュに、どこにそんな強い男がいるのかと、ゴチメイたちは一斉に溜め息をついた。 ★ ★ ★ 「チャイさんはまだかなあー。この広い大浴場のどこにいるのか分からないけど、脱衣場近くで出待ちしていればいつかは会えるはずだぜ」 脱衣場前にあるパラソルつきテーブルでゆっくりと待ちながら、新田 実(にった・みのる)はのんびりとはちみつみかんジュースを飲んでいた。 「それにしても、ここにあんな変なハニワなんかあったか? ミーの記憶にはないんだけどなあ」 思いっきり不審そうに、新田実は、流れるお風呂近くにいるハニワを凝視した。 ――やばいのう、疑われているけん……。 土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)は、新田実に気づかれないように、じりじりと奧へと移動していった。 ハニワのふりをしているのだが、やはり、思いっきり違和感があるようだ。 ――とにかく、ゴチメイたちの入っている風呂を見つけだして、残り湯をゲットじゃけん。残り湯ソムリエと恐れられたわしに任せておけば、すべて問題なしじゃあ! ★ ★ ★ 「貴様のせいで、前回は死にかけた」 「軟弱者だな」 「立ち塞がるな、邪魔だ。貴様に言われる筋合いはない」(V) なぜか流れるお風呂をザバザバと競うように遡行していきながら、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)とナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が不毛な会話を交わしていた。 ナガン・ウェルロッドとパートナーのジグ ジャグ(じく・じゃぐ)は褌に晒という姿だが、ラルク・クローディスは腰にタオル一つという姿である。 「まあまあ、お二人とも、少しはお静かに」 『いいぞ、もっとやれ』 言葉では丁寧に言うジグ・ジャグであったが、パートナーのナガン・ウェルロッドには精神感応によるテレパシーで本音がだだ漏れであった。まだ能力を使いこなせていないのか、あるいは使いこなすつもりがないのか。ナガン・ウェルロッドにとっては、音声多重でがんがん意識が飛び込んでくるので、迷惑この上ない。 「あらやだ…とても逞しい体つきなんですね」 『なんだよナガンお前が言ってた友人ってコイツかよ、筋肉野郎とか趣味じゃないんですけどー』 「はっはっはー。いい筋肉だろう」 ジグ・ジャグに陰でどう言われているかなどまったく知らないラルク・クローディスが、脳天気に言った。 「ん? ナガンお前……全然筋肉ついてねぇな……」 自分とナガン・ウェルロッドの身体を見比べて、ラルク・クローディスが言った。その顔は凄く不満そうだ。 「よけいなお世話だ」 淡々とナガン・ウェルロッドが言い返す。 「そんなんじゃ、戦闘に耐えられねえぜ。おっし!! そんじゃあ、いっちょおっさんと筋トレしてみっか!?」 「がんばれー」 『どっちも自滅しちまえ』 「しかたねえ。売られた喧嘩だ、買ってやろうじゃあねえか」 「よし、浴槽スクワット無制限一本勝負だ。ゲーム、スタート!」(V) 腰丈の流れるお風呂の中で、流れに逆らって横一列に並んだラルク・クローディスとナガン・ウェルロッドがさっそくスクワットを始める。 「おいっちに、おいっちに……」 えんえんスクワット勝負が続く中、上流から何かが流れてきた。すっぽんぽんのロザリィヌ・フォン・メルローゼである。豪奢な金髪を湯船いっぱいに広げて、うつぶせに流れてくる。 「うわあ、なんだなんだ!」 さすがに、ラルク・クローディスがあわてる。スクワットをやめると、うつぶせになっているロザリィヌ・フォン・メルローゼをお湯の中からだきあげた。金髪から大量のお湯が流れ落ち、ラルク・クローディスの身体に濡れた髪がまとわりつく。 「ふっ、勝ったな」 静かに、ナガン・ウェルロッドが勝利宣言をする。 「そういう問題じゃないだろうが!」 さすがに医療関係を学んできただけのことはあり、すっかり医者の卵の顔になってラルク・クローディスが叫んだ。 「敗者には罰をだな」 「ラルクさん、おしかったですね」 『ははははは、敗者には死を!』 ジグ・ジャグが、サイコキネシスでラルク・クローディスのタオルを引っぱった。あっけなく解けた腰のタオルが、流れるお風呂に流されていく。 「きゃあ!」 『よっしゃあ!』 形だけ目を隠したジグ・ジャグが、心の中でガッツポーズを作る。 「今、治してやるぜ」(V) そんな彼女と流れていくタオルには構いもせず、ラルク・クローディスはロザリィヌ・フォン・メルローゼを横に寝かせて、蘇生処置を施していった。 「ううーん」 少しして、ロザリィヌ・フォン・メルローゼが息を吹き返す。 「ふう。よかったぜ」 ラルク・クローディスがほっと安堵の息をついたとき、そこへペコ・フラワリーとチャイ・セイロンが運悪く通りかかった。 「まあ……」 すっぽんぽんのラルク・クローディスとロザリィヌ・フォン・メルローゼを見て、ペコ・フラワリーが顔を真っ赤にしてうつむく。そのまま足早に立ち去ろうとする。 「ちょっと待て、お前たち、今、思いっきり誤解しただろ。これは医療行為で……」 思わずたちあがって仁王立ちしたラルク・クローディスが、誤解を解こうと大声で叫ぶ。 その声に、チャイ・セイロンがクルリと振り返った。 「へ・ん・た・い♪」 ニッコリと言い捨てると、ペコ・フラワリーと共に小走りに走り去っていく。 「変態」 ナガン・ウェルロッドが繰り返した。 「うわああぁぁぁ。キャンキャン!」 思わず超感覚でわんこの姿になると、ラルク・クローディスはその場から逃げだした。