校長室
学生たちの休日4
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★ ★ ★ 「ふう、やっと逃げられたようじゃのう」 じりじりと移動していった土器土器はにわ茸は、やっと新田実の視界から脱出することができて、ほっと一息ついていた。 「んっ? こ、これは!!」 流れるお風呂の中にキラリと光る物を見つけて、土器土器はにわ茸が叫んだ。手にとってみると、長い金髪である。 「間違いないのじゃ、この色、この長さ、リン・ダージの金髪であるのじゃ」 いや、それはロザリィヌ・フォン・メルローゼの金髪である。 「ならば、この上流にはゴチメイたちがおる。よし、さっそく残り湯を……」 持っていたペットボトルを湯船に沈めると、土器土器はにわ茸はお湯を採取し始めた。 確かに、ゴチメイたちや朝野ファミリーの入っていたお湯には間違いないのだが、途中にはナガン・ウェルロッドやラルク・クローディスがたっぷりと汗を流したエキスも大量に混じっている。 「ややや、さらにタオルが! これこそ、アルディミアクが身体に巻いていたタオルに違いないのじゃ」 すかさずタオルを湯船から掬い上げると、土器土器はにわ茸はそれを顔に押しあてた。 だが、それはラルク・クローディスが腰に巻いていたタオルである。 「うむ、甘露甘露……」 やっとタオルを自分の顔から外した土器土器はにわ茸であったが、その眼前に織田 信長(おだ・のぶなが)が憤怒の表情で立っていた。 のんびりと風呂を楽しもうと思ってきたところで、女性の脱衣場に臆面もなく突入していった南 鮪(みなみ・まぐろ)に、憤懣やるかたなかったところに、さらにこの土器土器はにわ茸の所行である。怒髪天を突く一歩手前であった。 「女の腰巻き腰巻きと、鮪だけでもうっとおしいというのに、おぬしもかあ!!」 問答無用で、土器土器はにわ茸を怒鳴りつける。 「なんだ、信長も欲しいのであれば、貸してやらぬこともないぞ、ほれ」 勘違いした土器土器はにわ茸が、今自分が堪能したばかりのタオルを差し出す。 「おぬしは……。ええい、もうよい! 誰か刀を持てい! ここで成敗してくれる!!」 完全にキレた織田信長は、そのまま土器土器はにわ茸を追いかけ回し始めた。 ★ ★ ★ 「ふっはははははぁ。大漁だぜい」 モヒカンにパンティーを被り、パンツ番長ならぬパンティー番長と化した南鮪が、女子脱衣場で歓喜の雄叫びをあげた。 「今回のパンツ勝負、どうやらパンツ番長は会場にすら辿り着けなかったようだぜ、ヒャッハァー! 今回は奴の分も含めて、いつもの二倍ゲットだぜ!」 次々にロッカーを開けて中を物色しながら、南鮪は絶好調であった。 「こ、これは、ついに目的の物を見つけたのか、俺」 ロッカーの中から六つの袋を見つけて、南鮪は目を輝かせた。袋の中には、それぞれ色違いの下着の上下が入っている。 「赤、白、青、緑、黄、桃……。間違いねえ、これこそゴチメイの履き古したパンティーだ!!」 いや、それはカレン・クレスティアから贈られた、まだ使ってもいない新品である。 「うーん、たまんねえぜ」 両手にいっぱいの下着をかかえて、南鮪が深呼吸をした。 「そこまでだぜ、ド変態が!!」 ドラゴニュートのセオドア・アバグネイル(せおどあ・あばぐねいる)を頭に乗せたフォン・アーカム(ふぉん・あーかむ)が女子脱衣場に現れて、ビシッと南鮪を指さして叫んだ。 「どうして、俺がここにいるのが分かった」 下着の束をだきかかえたまま、南鮪が聞き返した。 「それだけ叫んでれば、外で警備していたとしても、誰でも気がつくぜ。光学迷彩か何かで警備をすり抜けられたのは失態だったが、もう逃がさん。ここで成敗してやるぜ」 至極あたりまえのところをフォン・アーカムが突いた。 「うるせえ、もはや、この俺様を止められる者などどこにもいないのだ」 フォン・アーカムの制止を無視して、南鮪が次のロッカーの扉を開けた。 『あらあら、おいたはだめですよお』 チャイ・セイロンの声が響いたと思ったとたん、ロッカーの中からパンチンググローブが飛びだして南鮪をクリーンヒットした。本物のゴチメイたちの衣服が入ったロッカーの一つなのだが、パンツ番長で懲りているゴチメイたちが、至れり尽くせりの防犯装置を仕掛けておいたのだ。 「うぼあ。俺ともあろう者が、こんな初歩的なトラップに……」 吹っ飛ばされる南鮪と共に、持っていた下着が派手に宙を舞い、フォン・アーカムの上に降り注いだ。 「いまだ、いけ、必殺技、セオドア君一号!!」 ふらふらと立ちあがった南鮪に、フォン・アーカムが頭の上に乗ったセオドア・アバグネイルを両手でつかんで投げつけた。 「だぁー!!」 宙を飛んだセオドア・アバグネイルが、南鮪の顔面に頭突きを炸裂させ、そのまま彼の頭に貼りついた。 「うお、息が詰まる。離れろ離れやがれ!」 顔を覆われて、南鮪がもがいた。 「そこまでよ、下着泥棒、観念なさい!」 通報を受けた天城紗理華が、女子の風紀委員たちを引き連れてそこへ現れる。 「全員確保!」 天城紗理華の命令で、風紀委員たちが南鮪とフォン・アーカムを取り囲んだ。 「ちょっと待て、俺は警備員として下着泥棒を捕まえてだなあ……」 「全身に下着をくっつけて何を言うのよ。言い訳は後で聞くわ。全員、お仕置き部屋に連行なさい!!」 南鮪のぶちまけた下着にまみれたフォン・アーカムに、天城紗理華は容赦なく言い放った。 ★ ★ ★ 「危なかったのですじゃ。芳樹を介抱しないで来ていたら、パンティー番長の餌食になっていたかもしれなかったのですじゃ」 伯道上人著『金烏玉兎集』が、女子脱衣場の惨状を見て、ほっと安堵の息をついた。まだしばらくは女子脱衣場は使えそうにないので、いったん高月芳樹とアメリア・ストークスの所へと戻っていく。 「あらあら、誰かあ、あたしたちの仕掛けた防犯装置に引っかかったみたいですねえ」 ビーチテーブルの椅子に座って新田実の用意してくれたはちみつみかんをストローで吸っていたチャイ・セイロンは、女子脱衣場の方から聞こえてくる騒ぎに気づいて、のんびりと言った。 「なんだ、悪者なら、この天才のミーが退治してこようか? おっしゃあ、ミーに任せな」(V) 新田実が、張り切ってチャイ・セイロンに言う。 「大丈夫でしょう。もう静かになったみたいですからあ」 「なあんだ。じゃあ、ミーが、これまで戦ってきた武勇伝を話してやるぜ。ミーに惚れるなよ」(V) がっかりしたように椅子に戻った新田実だったが、気を取り直してチャイ・セイロンに話し始めた。 「では、私はリーダーたちにジュースを持って帰りますね」 トレーにはちみつみかんの入った紙コップたちを載せたペコ・フラワリーは、ゆっくりとした足取りで大浴槽の方へと戻っていった。 ジャングル風呂の道すがらに点在する風呂の一つでは、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)がうんうんと唸っていた。 昔懐かしい樽型の湯船で、蓋に使われる木の板をテーブル代わりにして、うんうん唸りながら何ごとかしきりにメモをとっている。 「うーん、お風呂に入ればいいネタも浮かぶだろうと思っていたけれど、なかなかそううまくはいかないものねー」 冬の同人誌即売会用のネタ出しをしているわけだが、なかなかいいアイディアが出てこない。 「だから、責任をとるのですわ!」 「俺は何もしていねえ」 「責任とれ〜」 「かわいそうですよ」 『責任とれ〜』 なんだかすっぽんぽんの男女と、褌姿の二人がすぐ横を駆け抜けていったような気がする。多分気のせいだろう。 「うーん、えちぃ展開だけだとマンネリかしらねえ」 メモ用紙から顔をあげないまま宇都宮祥子はうんうんと唸った。 「そこへなおれ!」 「嫌じゃ!」 ピョンピョン飛び跳ねるハニワを追って、男が刀を振り回している。 「それとも、真面目なドキュメントとか……」 うむうと、宇都宮祥子は眉根を寄せて天井を仰いだ。 「俺は、何もしていないのに……」 「大丈夫ですか?」 「まあ、運が悪かったのじゃよ」 両肩を女の子に支えられた男の子が通りすぎる。 「ああ、もう、うるさくて考えがまとまらないじゃない」 宇都宮祥子はそう叫ぶと、どぶんとお湯の中に頭から潜った。 「あーん」 その横を、すっぽんぽんの女の子が走り抜けていった。