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リアクション
10:最終防衛ライン1 開戦
「クレア中尉、第二次防衛ラインが突破されました」
無線で連絡が入る。無論クレアも承知していた。
「諸君、我々が築いたバリケードはそうヤワではない。しかも数も10個にのぼる。1個ずつバリケードを放棄して、ブービートラップに引っ掛ける前提で、遅延戦闘を行う。最終的には、ここに待ち受けるイコンの砲火の前に敵を導けばいい。それが突破されても最後のバリケードで敵を迎え撃てばいい。敵の目的はあくまでも威力偵察と推定される。ある程度戦えば自然と撤退するはずだ。諸君の命を私に預けてくれ、などと私は言わない。必ず生きて待っている人のところに帰るのだ。帰ろう、帰るべき家に!」
『応!』
クレアの演説によって士気は最高潮に達していた。文豪トルストイは戦争と平和の中でこう説く。戦争で最も大切なのは士気だ、と。
「ハンス、全部隊に指示を。戦闘開始!」
「はい、クレア様。全部隊、戦闘開始!」
矢継ぎ早に繰り出されるクレアの命令に従って分隊を指揮する葵と真紀が命令を下す。内容は単純。
「全員、全速前進」
そして敵が第1のバリケードにたどり着く頃にはこちらも第1のバリケードにたどり着いていた。
「<サンダーブラスト>」
激しい雷撃がヴァルキリーを襲う。物理的な攻撃には強かったヴァルキリーも魔法的な攻撃には弱いらしい。生命力の1/4を削る大きな打撃を与える。
それは葵のパートナーエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)のものだった。エレンディアは綺麗なロングの金髪で目が青くかわいい少女だ。
「私は軍人では在りませんから命までは取ろうとは思いません。ただ、私の大切なものを傷つけるならデリート(完全消去)します」
七尾 蒼也(ななお・そうや)はパワードスーツを纏い光る箒で空を飛ぶ。
「第二次防衛ライン、最終防衛ラインまで撤退しろ。戦略的撤退だ!」
それはベリーショートの茶髪に赤い瞳つり目で頼りない少年だ。だが、愛する者のために戦う力を持っている。
(戦争は嫌いだ。だが生徒たちが戦ってるのを放っておくわけにはいかないだろ。世話になったし)
<パワードレーザー>は蒼也のレベルではヴァルキリーおろか魔法使いたちにもダメージを与えることができなかったが、それでも陽動の役にはたった。そして<光術>で目眩ましをする。
「殺す気はない。大人しく帰れ!」
しかし帰ってきた言葉は
「鏖殺寺院のために。鏖殺寺院のために」
と言う呪詛めいた言葉の繰り返し。
蒼也はそれに恐怖し<雷術>で鏖殺寺院の兵を撃つ。
それは魔法使いには通用しなかったがヴァルキリーと機晶姫には微細な傷を与える。
だが、それで十分だった。機晶姫は機晶石を破壊され機能障害をおこした。
「よーし、やっちゃうよ!」
美羽は物陰に隠れ、<殺気看破>で侵入してきた敵兵の位置を把握すると、背後からブライトマシンガンを発射した。
ヴァルキリー相手には美羽の能力でもかすり傷程度しか与えられなかったが、敵が振り向いたおかげで時間を稼げた。
「ジャスト!」
美羽が、設置したブービートラップを発動させる。手榴弾が爆発しベアリングや破片がヴァルキリーに突き刺さる。ヴァルキリーはそれで重症となり戦闘能力を失った。
ベアトリーチェもアシッドミストで攻撃を加える。酸が機晶ロケットランチャーを溶かしヴァルキリーの皮膚も溶かす。ダメージは1/6を削る程度だが溶けた皮膚の量が多く皮膚呼吸ができなくなる。もがき、苦しむヴァルキリー。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
心優しき少女は敵に謝ると全長二メートルの大剣の姿をした光条兵器を取り出し、ヴァルキリーの心臓を刺し貫く。それでヴァルキリーの苦しみは途絶えた。だが、命も尽きた。
少女は涙を流していた。
「こちら第二次防衛線の指揮官、戦部 小次郎だ。まだ余力はある。そちらがここを突破したヴァルキリーを全滅させたら撤退をかける。オーバー」
「こちら最終防衛線の指揮官クレア・シュミットだ。バリケードにはプラスチック爆弾か手榴弾がセットしてある。殿はそれで敵を食い止めろ。オーバー」
「了解した。武運を祈ります、中尉」
「感謝する」
小次郎は通信を終えると蒼也に向かって告げた。
「ということで撤退はまだ先だ。貴殿はヒールを使えるな? すまんが負傷者の手当を頼む」
「わかりました」
そう言うと蒼也はポケットを押さえて
「土産だけは死守する! ジーナと……あいつの」
と呟く。
何の変哲もない観光土産だが、地球じゃなければ手に入らないそれが、今は心の拠り所であった。
「袋、くちゃくちゃになっちゃったな……勘弁してくれよ」
そして蒼也は負傷者の救助にかけずり回ることになる。
リアトリスはベアトリスとともにフラメンコを踊り華麗に攻撃を避けながら超感覚で大きな犬耳と長い尻尾を生やしドラゴンアーツで右目を龍の瞳にして強化し、クレセントアックスを使用して轟雷閃を放つ。
それはヴァルキリーの装甲を貫くことはできなかったが雷撃で感電させることはできた。
そこにベアトリスのアシッドミストが降り注ぐ。複数の小さな玉状にして敵にばら撒いたために多少皮膚が焼ける程度だったが足止めは果たした。
二人は味方に退避を促すと第一バリケードのプラスチック爆弾を爆発させた。
爆発と共に飛んできた小さな釘がヴァルキリーに大量に刺さる。重症を負ったヴァルキリーに、二人はとどめをささなかった。第二陣が来たので第二バリケードに避難したのだ。
バリケードには時折機晶ロケットランチャーが飛んでくる。
クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)とクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は涼司に支持を仰ぎ前衛に出てナイトとしての防御力を生かし、壁役を果たすことになった。
クリストファーはオールバックの金色の髪に青い瞳、少女趣味でモテそうな少年だ。
対してクリスティーは銀の髪を後ろで束ねて緑色の瞳を持ち、胸が大きいが男装用のコルセットでそれを隠している美少女だ。
二人の<ディフェンスシフト>で向上させた高い防御力は、ヴァルキリーの機晶ロケットランチャーですら受け止め、敵を前に通さない。
「さすがに……」
「きついね……」
だが数が集中し疲労がたまってくると、さすがに音を上げて撤退を始めた。
それに合わせて第二バリケードのプラスチック爆弾が爆発する。
密集していたヴァルキリー達は小さな釘がハリネズミのように刺さり、爆圧で半身が吹き飛ぶなどしてほぼ死亡状態であった。これでヴァルキリー達は一掃できた。だが、まだ魔法使いと機晶姫が第二次防衛戦を突破しようとしていた。
機晶姫はまだいいのだが問題は魔法使いである。防御力も魔法防御力も高く少々の攻撃では有効なダメージを与えられない。その上全体攻撃できる魔道銃を持っており、それは魔法攻撃力に依存するため非常に高い破壊力を誇る。
これにやられて気絶状態に陥っている生徒も少なくなく、撤退には大きな手間と時間がかかるものと思われた。
そこに現れたのが騎兵隊だった。
物語は続く
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