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リアクション
ANOTHER カムパネルラの朝
我の一日の最初の仕事は、女神を起こすことです。
「オルフェリア様。おはようございます。よくおやすみになられましたか」
我、ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)にとってパートナーのオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)様は、神以上の存在でしょう。
オルフェリア様を傷つける者を我はけっして許しません。
「ふああ。おはようございます。ミリオン。オルフェは夢をみたのです。とても不思議な夢でしたの」
「ジョバンニ様が星の海を旅するような夢ですか」
我が神は、読書が大好きでたまに心が物語の世界に旅にでてしまわれることがあります。そこがまた愛らしいのですが。
「いいえ。そうではなくって、数字の名字の殺し屋さんの一族が戦うお話でもなくって、オルフェは悲しい気持ちで歌を歌い続けているのです」
「例え、夢の中でも、悲しい気分はよろしくないですね。それで、オルフェリア様は、どのようなお歌を歌っておられたのですか」
「知らない歌なのです。本当にはない歌。そう、あれは替え歌です。ミステリ小説によくでてくる、クックロビンの歌。
私は、それを、こんなふうに、Who Killed Dr.Melon Black?」
オルフェリア様が歌われるの聞きながら、我はいつしか目を閉じていました。
こうして、ずっと聞いていたいような。
「という内容なのですけれども、この歌はなんなのでしょうね」
「ああ。もう終わってしまわれたのですか」
「ですから、オルフェは、この歌の意味が知りたいのですよ。夢の中の歌には、意味はないのでしょうか」
「素敵な歌声でした。歌詞の意味は、我にはわかりかねますが」
どのような歌詞の歌でも、オルフェリア様が歌ってくだされば、我にはそれだけで名曲です。
「オルフェもミリオンも朝ごはんができたよ。朝から歌なんて、陽気だな。それって、いま話題になってるマジェスティックの事件のことを歌ってるんだろう。オルフェがあの事件にそんなに興味があるなんて、意外だ」
ドアが開き、片眼鏡をかけた黒髪の少年、我が家の家事担当の『ブラックボックス』 アンノーン(ぶらっくぼっくす・あんのーん)様が、顔をだしました。
アンノーン様は、掃除、洗濯、炊事と家事全般が得意であられるのに、大きすぎるダブダブの服を着ておられ、いつも裾を引きずっておられるのが、我には不思議です。
「にゃはははは。おはようにゃん。サーとご主人は、お歌の練習をしてるのかにゃー?」
アンノーン様の背後から背中をかけのぼり、頭の上にのった黒猫、夕夜 御影(ゆうや・みかげ)様が我に尋ねてきました。
黒猫の獣人の御影様は、オルフェリア様をご主人、我をサーと呼ばれます。
「あのお、オルフェは、事件について知らないのですけれど、どなたか、くわしい方、お話してくださいますか」
神のおそれおおいお願いには、全力で応じるのが我の流儀です。我は、居間からここ数日の新聞を取ってきて、それらをお見せしながら、マジェスティックの少女連続殺人事件について、お話しました。
アンノーン様と御影様も、我の話の足りない部分を補足してくださいます。
「みかげは、殺された子たちがかわいそうだと思うにゃ。こんな事件を起こすやつはキライだにゃー」
「しかし、新聞もテレビもこの話題で持ちきりだったのに、オルフェは知らなかったのか。おい。ミリオン、自分を威嚇するな、なにか気にさわったのか」
アンノーン様の発言は、いささか神への敬意が感じられませんので、我は、彼をにらみました。
「オルフェは、いま、夢中になって読んでいる本があって、他のことは考えている余裕がなかったのです。でも、夢にまででてくるというのは、果物みたいでかわいい名前のメロンさんや空にいる巨大な戦士さんが、心の奥底で気になっているという意味でしょうか。そうならば、行かなければなりませんね」
神が行くのならば、どこへなりと我も行くまでです。
「オルフェリア様は、マジェスティックへ事件の調査に行かれるのですね」
「調査だなんて、小説の探偵さんみたい! オルフェは探偵で、ミリオンには護衛をしてもらって、アンノーンは身のまわりの世話、御影は記憶力がいいから、事件の情報のデーターベースですね。準備が出来たら、出発しましょう。学校? それは今日は行くのはムリではないかしら。ねえ、ミリオン、オルフェはヘンなことを言ってるでしょうか」
「いいえ。なにも」