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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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ANOTHER 少年犯罪王誕生(水没編)

 気づいた時には、山田桃太郎は無意識のうちに走りだしていた。
「バカ太郎。どこに行く気だ!?」
 パートナーのアンナ・ドローニンが後を追いかけてくる。
「僕と目が合ったからには、不幸にさせるわけには、いかないな。僕は、彼を助けるよ」
「なにをいってるんだ。おまえは」
「アーニャには、見えなかったのかい。時計塔の針の上にいる少年が」
 上空からのイコンの攻撃で崩壊しつつあるロンドン塔の敷地内を助けを求める哀れな子羊たちを求めて、桃太郎は、パトロールしていた。
 そして、倒壊しかけた時計塔に、子羊を発見したのである。
 ピンクの髪がトレードマークのナルシスト、自称、世界がその美しさを待っている男、桃太郎は、全力疾走で塔へとむかう。
「時計塔って、倒れかけてるじゃないか。あんなのに入ったら、危なねぇぞ」
「はっはー。危険なんて、問題のうちに入らないのさ」
「待て。待て。見ろ。じょじょに倒れていくぞ」
「だからこそ、急がなければ!」
 桃太郎は、まったく速度をゆるめない。アンナは、必死に彼についてゆく。
「針の上って。あれか? おい。剣で戦ってるぞ。ありゃあなんだ、魔法使いとパンク少年が、時計の針の上で、決闘してるのか。てめぇ、どっちを助ける気だ」
「……」
「考えてないのか! とまれ、バカ。放っとけ、あんなの」
「正義は僕とともにある。行くよ」
「答えになってねーよ」
 そうこうするうちに、力を失った少年が、針から地上へ。
「時間よ、とまれえええ」
「叫んでねえで、走れよ」
 桃太郎は、少年が落ちる地点を、地下からあふれた水でできた大きなみずたまり、ほとんど池か湖、の中央付近と予測し、服を脱ぎ捨て、飛び込んだ。
 バッシャーン。
 少年の落ちた派手な水音。
 ポシャン。
 続いて小さな音。
「バカ太郎。塔からネコも落ちたぞ」
「どちらも助けるさ。僕に任せな」
 涼しげな口調とは裏腹に、背中に少年、脇にネコを抱え、自分が溺れてしまいそうな一杯一杯の状態で、桃太郎は、それでも、なんとか、少年たちを救出した。
 地面に大の字にのび、桃太郎は、荒くなった呼吸を整える。
「よくやったじゃねぇか」
「美の化身の僕の前で、ぶざまな死は許さないのさ」
 アンナと桃太郎が話していると、少年、ニコ・オールドワンドは目を開き、倒れたまま、首めぐらし、自分と、隣でのびているパートナーのクロ猫ナイン・ブラックの状況を確認した。
「ありがとう。ごめんなさい」
 寝たまま、空を見上げ、誰にも聞こえない小声で、口の中でごにょごにょと、ニコはつぶやく。