リアクション
ANOTHER 怪盗紳士退場
大半が崩壊し、水没したロンドン塔の敷地内を菫とリナリエッタは散策していた。
「これからは、古代遺跡のテーマパークとしてやっていくのかしら。今日はマジェの新しい夜明けね」
「ふふふ。そう言えば、ニコと真都里からメイクの代金をもらうの忘れてたわ。あー、ベファきてくれたの」
リナのパートナーのベファが二人に近づいてきた。隣にいる夜会服、片眼鏡の紳士は。
菫は、彼に駆けよった。
「生きてたんですね。支配人。私は、あなたの正体を知っています。行ってしまわれるのでしょう。お願い、私も連れて行って。怪盗は、まだ、できないけど、おぼえます」
芝居がかった口調で言うと、彼、ラウールに抱きつく。
「マドモワゼル。悪いがあの映画は、好きではないのだよ」
「ごめんなさい。でも、私、本当に、あなたたち、自由に生きる人たちに憧れているの。だから」
正面からまっすぐに、自分を見つめる菫の額に、ラウールは、優しく口づけをした。
「きみが会いたいと心から願うなら、また、どこかの舞台で出会えるさ」
菫は、ラウールの声、唇を感じなら、まぶたを閉じる。
そのまま、しばらく、じっとしていた。
ラウールは、菫から離れ、リナの方をむき、片手をあげる。リナも、それに応じて手をあげた。
手と手がふれあい、一瞬だけ指がからむ。
「ハニー。ショウは終りだ。私は退場するとしよう」
「あ、あなた、ふふふ。ダーリン。また、ね。今度は、遅れずにくるわ」
ラウールはリナとすれ違い、数歩進むと、二人の指と指が完全に離れるのと同時に、朝の霧にとけるように消えた。
「なかなか素敵な方ですね。思ったよりも血のにおいもしない」
「ダリーンは、また、大切なものを盗んでいったわ。私と菫の心よ。なーんてね。ケラケラケラ」
リナの乾いた笑いが、早朝の遺跡に響く。