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リアクション
「マユ、寝てはダメだ。村の人達も、耐えて下さい」
農場体験に訪れていた早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、パートナーのマユ・ティルエス(まゆ・てぃるえす)と、周囲にいる人々に呼びかける。
呼雪は清浄化でマユを癒し、状況を探っていく。
薬の匂いが微かに漂っている。このまま屋外にいては危険だと感じた。
「確か、白百合団の桜谷団長や、他にも契約者が何人か訪れていたはず」
なんとか繋ぎを付けられれば、協力し合って対抗出来るかも知れない。
そう考えながら、建物の方へパートナーと村人を連れて急ぐのだった。
……しかし、その建物。
果物が保管されている倉庫の前には、荷馬車と柄の悪い男達の姿があった。
「あ……っ」
マユは思わず小さな声を上げる。
故郷の村が襲われた時のことを思い出してしまって。
怖くて怖くて、マユの小さな体が震えだす。
「大丈夫です」
ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)が、マユの頭に手を乗せてそう言った。
盗賊達は簡単なマスクをしている。しかし、マスクをしていない者もいた。
「そんなに強力な毒ではなさそうです。寝ている人も起こせば起きるでしょう。……このままではまたすぐに眠ってしまうとは思いますが」
空気に含まれた睡眠効果のある薬が拡散するまでは。
「こっちにもガキがいる! 羽の生やしたヤツだ。珍しい種族だぜ」
盗賊の1人がこちらに気付き、マユに目を留めた。
倉庫の中からは、時折少女の声が響いてくる。……抵抗しているようだ。
軽装で訪れており、戦う術はあまりない。
敵の数は多い――どうすべきか。
逃げたいが、背を向ける方が危険だ。
呼雪はマユを背に庇いながら、ドラゴンアーツで、近づいてきた盗賊を1人弾き飛ばした。
「ここから離れて、隠れていろ」
呼雪がマユの体を後方へと押す。
「いや、です」
と、恐怖で震えながらもマユは言った。
家族と離れ離れになってしまった時のように。もう会えなくなってしまうような気がして。
「歌、うたいます」
だから、マユは歌を歌った。呼雪が上手だと褒めてくれた歌を。
マユの可愛らしい声が響き、悲しみの歌により、盗賊達の力が失われていく。
呼雪は灼骨のカーマインで、盗賊達を牽制しながら倉庫に向かい声をかけていく。
「誰かいるのか? 入り口の賊は任せて突破しろ」
声をかけた直後、小さな掛け声と物音が響き、数秒後に日奈々を抱えた千百合が飛び出してくる。
「早くこちらへ」
ユニコルノが高周波ブレードを手に駆け寄り、彼女達を追う盗賊に斬り込む。
マユは恐れの歌で援護をし、呼雪は盗賊達の足を撃って倒していく。
「治療、お願い……っ。体力ある娘じゃないの」
呼雪の方へと駆け寄った千百合は傷だらけの自分のことより、無傷の日奈々の方を案じた。
「大丈夫だ」
呼雪はすぐに命のうねりで皆を癒すが、このままでは精神力が持たない。
「邪魔するヤツは殺せ、女を積むぞ!」
ユニコルノだけでは押さえきれず、盗賊達がこちらへと向かってくる。
「く……っ」
どうにか、狙われている女性や子供を逃がさねば……。
呼雪は歌を歌い続けるマユに手を伸ばした。マユは不安そう顔で、頭を左右に振って歌い続ける。
その時。
「皆、無事!?」
空から声が降ってきた。
「秋月か」
小型飛空艇オイレで駆けつけたその人物――秋月 葵(あきづき・あおい)の姿に、呼雪はほっと息をつく。
彼女は白百合団の班長だ。
葵は下降すると、盗賊達にヒプノシスをかけていく。
盗賊達の動きが鈍り、足がおぼつかなくなる。
「眠ってもらいましょうか」
共に訪れたニーナ・ノイマン(にーな・のいまん)が、飛空艇から飛び降りると、光条兵器を盗賊達に叩き込んでいく。
体は斬らない。武器やマスクだけ破壊していく。
自分達が撒いた薬と、葵のヒプノシスにより次々に盗賊達は眠りに落ちていく。
「既に交戦状態か!」
空飛ぶ箒に乗って、倉庫の防衛に来たミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)は、倉庫の前に降り立つと中へと駆け込んでいく。
「中にもまだ賊がいるのね!?」
葵も飛空艇から降りて、倉庫の中へと飛び込む。
「葵さん、無理しては駄目ですよ」
「葵ちゃん、無理しちゃダメですよ」
ニーナ、そして駆けつけたパートナーのエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は、葵にそう声をかけながら、意識を失っている村人や、負傷している千百合達に回復魔法をかけて、癒していく。
「倉庫の中に村の人達はもういませんか?」
「多分」
ニーナの問いに、千百合がそう答える。座り込んだ彼女の腕の中には日奈々がいる。彼女はまだ眠ったままだ。怪我もなく、安らかな顔で眠り続けるその様子に、千百合は安心して気が抜けていく。
「皆さま、避難してください! まだ盗賊の気配を感じます」
白百合団員の真口 悠希(まぐち・ゆき)が駆けつけて、倒れている盗賊達の下に飛び込んでいく。
「目を覚まさないうちに危険物を取り上げて縛ります」
悠希は身体検査の知識で、盗賊達の所持品を調べていく。
武器類は一先ず遠くへと投げ、手足を縛る。
「しっかり。あちらで団員が救護を行っています。眠らずに、そこまで頑張って下さい」
「ありがとう。うん、最後まで、日奈々のこと守る」
千百合はエレンディラの手を借りて、日奈々を再び背負う。
「こちらは任せてください。意識のある方の誘導をお願いします」
「わかった。ここは頼んだ」
ニーナの言葉にそう答えて、呼雪はマユの手を引き、意識のある村人達を連れて村の入り口に急ぐことにする。
「ぶどう農園にも倒れている村人達の姿があるわ。でも、鈴子さん達はいない」
白百合団特殊班員の崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、団長とパートナーの保護を最優先とする、特務隊のメンバーとして、北側を調査していた。
隊員達とは別行動をし、それぞれパートナーを一人入り口に待機させることで、連絡を取り合っている。
『今のところ、良い報告は入っていません』
パートナーのマリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)からそんな返事が帰ってくる。
まだ、特務隊のメンバーで団長達と接触した者はいないらしい。
携帯電話を通話状態のまま、胸ポケットに入れて、亜璃珠は農園から倉庫の方へと走り出る。
ベルフラマントを纏い気配を抑え、盗賊の姿を見つけても近づかず迂回をして、ただ、目的の人物だけを探す。
倉庫に近づいた亜璃珠は、倉庫を守るため先に駆けつけていた白百合団員達の姿に気付く。
そして、倉庫の側に馬車があることにも。
マントを外して、亜璃珠は倉庫へと駆け寄る。
「鈴子さん達は?」
「こちらには来ていないようです」
盗賊の捕縛をしていた悠希が素早く答える。
倉庫の中に入り込んだ盗賊達も、全て倒し終えているようだ。
「わかった、もう少し先を探してみるわ。それから……お願いね」
亜璃珠は再び、ベルフラマントを纏う。
後方から更なる盗賊がこちらに近づいていることがわかっていた。
仲間達に加勢できないのは辛いところだが、彼女達を信じて自分は先に進むより他なかった。
「頑張ります。皆さまを助けたい、ですから……」
超感覚で盗賊の接近に気付いた悠希も、武器を手に倉庫の前へと走る。
盗賊の訪れと同時に、亜璃珠はその場を離れ先へ。
「秋月班長、盗賊が来ますっ」
悠希は倉庫の中にいる葵に声をかけた。
馬車の中には、捕らえられていた少女や子供達がいた。
その子達を倉庫に運び込んで、葵達は介抱していたのだ。
「皆、固まって下さい。女の子を攫おうとしているみたいだから、絶対一人にはならないで下さい」
そう指示を出して、葵は光精の指輪で空に光を放って、周りの協力者達に連絡をする。交戦中の合図だ。
「消火器みたいなものを持っているヤツがいる」
光学迷彩で見えにくくし、空から周囲を探っていたミューレリアが一旦降りてきた。
「私はソイツを空から狙うぜ」
「お願いします。でも、薬が飛び散ってしまわないよう注意してください」
「了解!」
葵への報告を終えて、ミューレリアはまた空へと飛んでいく。
緊迫する状況下で。
「悠希……力を貸す前に、戦いになった際の心得を聞かせて貰うわ」
赤髪赤眼の、少女の姿をした魔鎧カレイジャス アフェクシャナト(かれいじゃす・あふぇくしゃなと)が、悠希へ問いかけた。
「ボクは……安易に自分や他の皆様に殺めて欲しくないです……ボク達は殺戮集団じゃない……」
アフェクシャナトは静かに悠希を見守る。
「百合園生の矜持は保ちたいです」
近づく盗賊の気配を感じながら、悠希は真剣で切実な表情でそう言ったのだった。
「……いいわ、魔鎧形態上手く活用なさい!」
アフェクシャナトはそう言い、悠希の体を守るマントとなる。
「来ます」
エレンディラが声を上げた直後、足音が響き、盗賊達が姿を現す。
「ここは通さないんだから!」
葵はヒプノシスで盗賊達を眠らせようとする。
「お仲間は降参しましたよ!」
「お帰りいただきますわ」
悠希とニーナが前に出て、襲い掛かってくる盗賊達に挑んでいく。
走りながら悠希はまず、光術を発動し敵の目を眩ませる。
瞬時にニーナが、光条兵器で斬り込み、武具を破壊していく。
盗賊達はほぼ軽装であり、纏っている革製の防具は簡単に破ることができた。
「貴方達が行っているのは犯罪です。これ以上、近づくなら容赦しませんよ」
ニーナが後方に跳んだ瞬間に、エレンディラがサンダーブラストを放つ。直撃はさせず、軽くしびれさせる程度に雷を浴びせる。
「誰も殺しません」
傷つき、怯んだ敵の元に悠希が飛び込んで、栄光の刀で、武器を持つ手や足に攻撃を浴びせていく。
「あなた達も……!」
盗賊の攻撃は、赤いマントと紋章の盾で受ける。
「くっ」
後方にいた男が、噴射機の噴射口を白百合団員の方へ向ける。
途端、その噴射口が、銃弾により弾かれる。
続いて、その男の足も撃ち抜かれた。
「噴射機の本体は撃たない方がいいか……っ」
上空からのミューレリアの狙撃だ。続いて、悠希、ニーナと戦う盗賊達の足も狙撃していく。
「皆、眠ってください――!」
弱った盗賊達に、葵は再びヒプノシスをかけて、眠らせる。
そして。
白百合団員達は意識を失った盗賊達をロープで縛り上げていくのだった。
「……」
ミューレリアはそんな白百合団員の戦いを見て、ちょっと複雑そうに笑みを浮かべる。
「さて、起きないうちにぎっちり縛るぞ!」
白百合団に、躊躇いなく人を撃てるような人は、あまりいない。そして、それが多分正しいのだ。
だから……やっぱり白百合団にはあまり戦闘行為を行って欲しくないな、と思いながら、ミューレリア捕縛に手を貸していくのだった。
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