リアクション
特務隊のステラと途中で合流した白百合団員と共に、鈴子が救護班の元に到着する。 〇 〇 〇 白百合団の団長の桜谷鈴子と、副団長の神楽崎優子は、手配した荷馬車に盗賊達を乗せて一足先にヴァイシャリーに戻ることにした。 「わたくしが見かけた盗賊達は全て捕縛できているようですわね。グループ全員が今回の作戦に加わっていたとは限りませんから、事後処理もきちんと行っておきませんと」 エレンは、ひとりひとりの顔を確認して、そう言った。 「手配写真はいらないようですね〜」 エレアは念写で盗賊達の写真を作り出していた。 「眞綾さんも、主に入り口付近ですがビデオを録ってくださっていましたので、資料として一緒に軍に提出いたしますわ」 鈴子がそう答えて、写真のデータを受け取っていく。 「……じゃあ問題は解決したんですし〜、また楽しく美味しいミルク飲んだり、葡萄食べたり、ドーナツ食べたりしましょ〜」 そうほんわりとエレアが言うと「おお〜!」と声があがる。 「おっきなドーナツ作るのである〜!」 まだ体験していなかった、ドーナツ作りにプロクルは興味津々だ。 「うん行こう」 アトラもそう言いながらも、彼女はドーナツよりエレンの新たなパートナーであるエレアに興味を持っていた。 「それでは、行きましょう。今日は休日ですものね」 エレンは鈴子達と頭を下げあうと、パートナーを連れて村の方へと向かっていく。 「お疲れさまでした!」 真っ先に、ドーナツ作りの手伝いに名乗りを上げた橘 美咲(たちばな・みさき)が、出来立ての特大ドーナツを、でん、とテーブルの上に置いた。 「おおー」 「切って食おうぜ!」 若葉分校生は手でちぎって、我先にと食べ始める。 一部、浮かない顔で後ろの方に立っている不良少年達もいたが……。 「どうぞ」 美咲がナイフで切って、ペーパーで包んで渡すと、喜んで受け取り食べ始めるのだった。 「こちらはチョコレート味のドーナツです。どうぞ」 「ようやく戴けるのですね。では、こちらと、そちらと、あちらも戴きます」 七日も席について、沢山のドーナツを要求する。 ほっとした表情で皐月は七日の隣に腰掛けて、若葉分校生達が群がっているドーナツに手を伸ばして、少しだけいただくことにする。 「はい、ライナちゃん。イチゴドーナツだよ!」 ミルミは貰ってきたドーナツを、ライナに渡した。 自分から誰かの為に貰いにいくなどということは、ミルミは普段しないのだけれど。 少しずつ、姉のような自覚が芽生えていた。 だけど、並んで美味しそうにドーナツを食べる2人の様子を見ながら、浮かない表情をしている子もいた。 ……班長の、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)だ。 ヴァーナーは、鈴子に、ライナと一緒いてあげて欲しい、褒めてあげて欲しいなどと、お願いしたことがある。 ライナがとっても懸命に、鈴子の役に立とうとしていたから。寂しそうに思えたから。 (……ボクのせいなのかな……。どうしたらよかったのかな……) 自分の発言のせいで、より辛い目にあわせてしまったのではないかと、ヴァーナーは沈んでいた。 (どうしてがんばってはたらかずに、人をおそったりする人はいなくならないのかな……) 「あっ、ヴァーナーお姉ちゃん、はいっ」 ヴァーナーの姿を見つけたライナが近づき、ミルミから貰ったドーナツを差し出してきた。 「ありがと、です」 ヴァーナーは少し悲しげながらもちゃんと微笑んでドーナツを受け取る。 「あのね、今日、鈴子お姉ちゃんがここにつれてきてくれたの! ぶどうとか、いっぱいたべたんだよ。牛さんやお馬さんもいてね、いっしょに乗ったりしたんだよっ」 目を輝かせてライナは楽しかった今日の思い出を、ヴァーナーに話していく。 ずっと眠っていたので、怖い思いも、辛い思いも彼女はしていなかった。 楽しい思い出だけが、彼女の中に刻まれていた。 「すっごくたのしかったの……!」 「はい……。よかった、ですね……っ」 ヴァーナーは両手を広げて、目を輝かせているライナをぎゅっと、ぎゅっ……と抱きしめた。 「皆さんも、席の方へどうぞ。テーブルを囲みましょう!」 美咲は、ドーナツを配り歩き、席へと皆を導いていく。 エレン、プロクル、アトラ、エレアの3人もまずは試食をしようと、席につく。 取り合うように食べる分校生達の姿にも、美咲は微笑を向ける。 これが百合園ならマナーが悪すぎて、不快になる人もいるかもしれないけれど。 気の合う仲間、美味しい料理、そして笑顔があれば、此処は最高の食卓だと思うから。 「そこのサングラスのお兄さんも、一緒に食べましょう!」 少し離れた位置で、見守るかのように超然と佇んでいるレンの元にも、美咲は満面の笑顔とドーナツを運んだのだった。 村に笑いの花が咲いていく。 担当マスターより▼担当マスター 川岸満里亜 ▼マスターコメント
若葉分校生も、白百合団員も、偶然居合わせた人達も、ドーナツにトラウマのある不良達も、この後、一緒に楽しい時間を過ごしたのだと思います。 |
||