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狙われた村

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狙われた村

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第4章 南の混乱

「種モミじゃ、この種モミがあれば、いずれあの荒れ地にも……」
 村の南の倉庫へ走る老人がいた。
 老人は沢山の種モミを抱えながら、ひたすら倉庫を目指す。
 その老人は、種モミの塔の精 たねもみじいさん(たねもみのとうのせい・たねもみじいさん)だ。
「離れろや!」
「邪魔だ!」
「これも貰っていくぜ」
「おおうっ」
 バタバタ駆け寄ってきた男達が、たねもみじいさんの手から大事な大事な種モミを奪っていく。
「この種モミは……この種モミだけは……」
「うるせぇ」
 男達は鈍器をたねもみじいさんに叩きつけていく。
「今日より明日なんじゃ」
 たてもみじいさんは最後の種モミを決して放さない。
「ヒャッハー!」
 そこに、スパイクバイクでモヒカン男が村の中に入り込んできた。
「お、おぬしはー! こっちじゃ、こっちじゃー!」
 知った顔の……寧ろパートナーのモヒカン男に、たねもみじいさんは助けを求めて手を伸ばすが。
 男は見向きもせずに、行ってしまう。
「ううっ、げほっ。たねもみだけは……」
 げしげしとたねもみじいさんは盗賊達に蹴られ殴られ続ける。それはもう、哀れな哀れな姿だった。
「あー、面倒だ。これは大した金にならない、それより収穫物だ」
「おお!」
 必死に種モミを抱えるたてもみじいさんを蹴り飛ばして、盗賊達は倉庫の方へと走っていった。

「ヒャッハー!」
 モヒカン男――南 鮪(みなみ・まぐろ)は、バイクで盗賊達を追い越していく。
「いよう、お前らもあれが目的か? やらねえぜ全て俺の物だからな」
 そして目的のもの……倒れている農家のお姉さんを掻っ攫っていく。
 更に、盗賊が捕獲した幼女も盗賊達の手から掻っ攫っていく。
「ヒャッハー!」
「待ちやがれ!」
 盗賊達がナイフを鮪へ投げる。
「おおっと、大事なお宝が傷つくじゃねぇか!」
 鮪は手に入れた女の子達を身を挺して庇い、攻撃を背に受ける。全ては己の欲望の為。
「なんだか良くわからないが、あのモヒカンは仲間じゃないんだよな」
 駆けつけたアルフ・ザ・フール(あるふ・ざふーる)は状況がよく分からないまでも、マスクをした男達が盗賊であることは把握できていた。
 相手は銃は持っていないようだ。
「ヒャッハー、ここはもう好きしていいぜー」
 鮪は女の子2人を抱えて走り去っていった。
「まずは腕!」
 アルフは盗賊達の腕を撃つ。
「ぐあっ」
「うっ」
 腕を撃ち抜かれた盗賊達が、武器を落としてうめき声を上げていく。
「ほら、僕の勝ち♪ 痛い目見たくなかったら……もう来ないでくれるかなあ」
「っ……眠らせろ。てめぇはあっちの女だ」
 男の一人が噴射機のようなものを、アルフに向けてくる。
 またメンバーのうち1人は、民家の方へと走る。
「人攫いを続けるのなら、脚も撃たなきゃね……」
 アルフはやむを得ず、盗賊の足を撃っていく。
「ああ、血なんか見たくないんだけどね……。のびのびとドーナツを頬張っていたのに」
 狸寝入りで済めば済ましてしまおうかと思ったアルフだったが、人攫いは見逃せず、飛び出してきたのだった。
「邪魔する者は斬れ!」
 後方から声が響き、更に盗賊達が長剣を手に駆けて来る。
「流石に人数が多いかな」
 そう思いながらもアルフは命を奪おうとはせず、盗賊の手を確実に狙っていく。
「こいつが、噴射機か」
「なに!?」
 声が響いた直後に、盗賊が背負っていた噴射機が背から離れて遠くへと飛んだ。
 若葉分校生の日比谷 皐月(ひびや・さつき)が背後から近づくき、スピアで肩ベルトを斬った直後に盾を叩きつけて飛ばしたのだ。
「う、わあああああっ」
 そして、その盗賊の体に、鎖が巻きつき、そのまま空中へと浮く。
「不愉快です」
「ぐはっ」
 女性――雨宮 七日(あめみや・なのか)の声が響き、盗賊の体に重い重力が圧し掛かり地へと沈んだ。
「逃がさない方針らしいので、倒させてもらいます」
 それから、ベルフラマントで気配を消した状態で、物陰に隠れつつ盗賊達を同じように狙っていく。
 美味しいドーナツが食べられると聞いてきたのだが。食べる前に、この状態。
 機嫌は凄く悪かったが、皐月がいるので、殺しはしないでおく。
「こいつは、破壊して薬が大量に出ちまったらまずいしな。確保しておくか」
 皐月は弾き飛ばした噴射機の元に走って、機器を抱え上げて確かめる。
 穴などは開いていない。
「女は連れ帰る、男は殺せ」
 盗賊の一人が、そう言った途端、腕を撃たれた盗賊達も懐からナイフを取り出して、逆の腕で仕掛けてくる。
「大人しく寝てた方がいいよ? キミ達も寝ている人は傷つけるつもりなかったんだろ」
 言いながら、アルフは盗賊のもう1方の腕も撃っていく。
「そうそう、眠ってな!」
 皐月は噴射機を一旦下ろし、ヴァーチャースピアを振りまわしてナイフを弾き落とす。続いて、ラスターエスクードを構えて突進する。
「お仕置きです」
 皐月の攻撃で弾き飛んだ盗賊を、七日が更に奈落の鉄槌の一撃を加えて、打ち倒していく。
「……ちょっとやりすぎな気もするけど、仕方がないね……。人の命をも平気で奪うような人達のようだから」
 倒れた盗賊達を目に、アルフは息をついた。
「縛るモンがねぇし、運ぶの手伝ってくれるか?」
 周囲の盗賊を倒し終えた後、皐月はアルフに尋ねる。
「わかった。意識が戻ったら、また襲いそうだしね」
 アルフは皐月に手を貸して、ゼスタらが待機をする村の入り口の方に盗賊達を運んでいくのだった。

〇     〇     〇


 村の南側は田畑が広がっていた。
 この辺りの民家は離れた場所にあり、1軒1軒の間隔も広い。
 白百合団班長のロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、パートナーのメリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)と、団員数名を連れて、家々を回っていた。
「こちら側には、今のところ盗賊の姿はありませんが、油断はせずに静かに移動してください」
 ロザリンドは小声で指示を出していき、メリッサはいつものように元気に返事しそうになるが、ぐっと飲み込んで、びしっと手を上げて心の中で返事をする。
「異変に気付いておられますでしょうか。薬が撒かれているようですが、さほど害のある薬ではありません」
「体力のある人なら我慢できるはずだよ」
 ロザリンド、メリッサは家の敷地に入ると、窓を叩き、家の中にいる人々にそのように説明をしていく。
 団員達は庭で倒れている人を見つけ出して、担架の上に乗せる。
 家の中からは、子供を抱えた女性が顔を出してきた。
「起こしても、すぐに眠ってしまって……」
 不安そうな女性に頷いて、ロザリンドはキュアポイゾンで子供を癒して、団員達と一緒に避難をするように言う。
「ご家族全員で避難してください。村の東の入り口付近で救護活動を行っていますが、沼の方へは向かわず、更に南へでて、回り込んで向かって下さい」
 状況を見て、ロザリンドはそう家の人と団員に指示を出した。
 3人付き添わせ、自分達は数百メートルほど離れた隣の家の方へと向かう。

「住民の保護優先は異論ないけど、盗賊が侵入している可能性もあるわ。要救助者の捜索中に鉢合わせしたら、やられる前にやってしまうのも手だと思うわ」
 移動しながら、ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)がロザリンドに小声で意見を出す。
「私達まで眠らされちゃったら、何しに来たのかわからなくなるからね」
「はい、緊急時はやむを得ません。しかし、鉢合わせた場合はまずは私に任せてください」
「了解。顔を立ててあげるわ」
 強気な笑みを見せるブリジットに、ロザリンドも僅かに笑みを返した。
「住民の皆さんの避難が最優先ですよ」
 張り切っているブリジットに微笑みを向けながら、橘 舞(たちばな・まい)がそう言い、金 仙姫(きむ・そに)も深く頷く。
「わらわたちの目的はあくまでも、住民の安全じゃからな」
「その言い分、確かに一理あります」
 カルラ・パウエル(かるら・ぱうえる)は納得しながらも、少し残念そうだ。
「草民の安寧を守るのは騎士として当然の義務ですから」
 ブリジットの前で、本物の騎士の実力を見せようと張り切っていたのだが。
「そうじゃの」
 カルラに答えながら、仙姫は倉庫の方に目を向ける。
 遠くで争う音が聞こえる。倉庫も狙われているだろう。
「種蒔き前の小麦を奪われれば、村としては大打撃じゃろう。……そっちも頼んだぞ」
 届きはしないが倉庫の方に向かって仙姫はそう言葉を発した。
 そして、仲間達とロザリンド達の後に続いていく。

「悪い人は……来てないよね?」
 メリッサは次の家の敷地内をそっと覗き込む。
 超感覚で人の気配は感じていたが、家の人なのかどうなのかはわからない。
 注意しながら皆で敷地に入り、家の中へと呼びかけていく。
 そして眠そうな顔で出てきた男性に事情を話し、避難を呼びかける。
 この家には老夫婦と息子であるその男性のみが在宅していた。
 老夫婦の方は起こしてもすぐに眠ってしまう状態であったため、担架に乗せて最短距離で一旦救護班の元に運ぶことにする。
 そうして、村人達を避難させている最中。
 白百合団員達は民家を狙う為に向かってきた盗賊と、鉢合わせてしまう。
「こちらは百合園女学院生徒会執行部、白百合団です」
 発見し次第、ロザリンドが凛とした声で言う。
「大人しく投降してください」
 警告は1度だけ、そのつもりだった。
「売れそうな女が沢山いるぜ」
「百合園か!? 身代金も取れそうだな」
 そんな言葉と共に、盗賊達は武器を抜いた。
「では、白百合団の全力を持って、あなた方を倒します!!」
 ロザリンドが言い切った途端、ブリジットがソニックブレード。
「言葉が通じないようね!」
 盗賊の一人を吹っ飛ばした。
「野蛮ですわ、さすが偽者」
 カルラは、村人に肩を貸している舞の前に出る。
「パウエルの名を騙る紛い物に、本物の騎士の実力を見せてあげます。この剣に賭けて!」
 そして、高々と武器を掲げる。剣じゃなくてランスだけれど。
「剣の錆びにして差し上げますわ!」
 そしてランスを振るい、迫り来る盗賊達を退ける。
「降りかかる火の粉は払わねばなるまい」
 仙姫は恐れの歌を歌い、援護をする。
 盗賊達が怯んだその隙に、ロザリンドがライトブリンガーで盗賊の武器を払い落とす。
「カッコつけても、ランスは剣にはならないのよ!」
 などと声を上げながら、ブリジットは轟雷閃で盗賊を打ち倒す。
「悪い人は転んじゃって!」
 メリッサは龍騎士のコピスで、盗賊達の足を斬りつけた。
 倒された、及び、転倒した盗賊達に、白百合団員達は飛びかかっていき、縄で拘束していく。
「大丈夫ですから。お気を確かに」
 青ざめる男性を、舞はヒールで癒した。
 担架の上の老夫婦も、ナーシングで様子を見て、毒を癒していく。
「縛った盗賊は木の陰に隠してください。後ほど分校の方々に運んでいただきます。私達は救助を最優先に」
 ロザリンドが指示を出し、班員達は『はい』と返事をして盗賊達を木の裏に隠していく。
 ロザリンドはそっと倉庫の方に目を向けた。
 倉庫には、友人であり、先日正式に白百合団に入った桐生 円(きりゅう・まどか)が向かっている。
 最近、何か悩みを抱えているようだった彼女のことはとても気がかりだけれど。
 まず、行動をすることで。何かが掴めるかもしれないから。
(お願いします)
 心の中で、そう言った後、ロザリンドは皆を率いて一旦隊長の下に戻る。