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ぶーとれぐ 愚者の花嫁

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ぶーとれぐ 愚者の花嫁
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第九章 第一回推理研究会主催結婚式開催準備 〜結婚式するわよ〜

うぅーん・・・ボク的に言葉の意味を考えてみましたけど、底が見えないです・・・ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)(闇世界…村人が鬼へ変貌する日早田村 2)

ボクは大変になっちゃったマジェスティックで、ルドルフおにいちゃんのおてつだいをするです!
マジェスティックは、メロン・ブラック博士やノーマン・ゲインのせいでだいぶ壊れてしまったです。
ラウールおじちゃんもいなくなって、みんな困ってるですよ。
そんな中で人だすけをしている神父さまはえらい人です。
ボクは神父さまに協力するです。
ボク、ヴァーナー・ヴォネガットはオンナノコ! なんで、神父さまにイヤがられるかもしれないですけど、そんけいしている気持ちをつたえて、わかってもらうです。
ボクが教会にいったら誰もいなくて、入り口に鍵もかかってなかったです。
むむむむ。ぶようじんですね。
みえなくても、いつも神さまがいるから、鍵はひつようないですか?
教会のきんじょの人に、神父さまがどこへ行ったか、教えてもらったです。
ボクは、テレーズおねえちゃんのすごくおおきなお屋敷にいって、神父さまの仲間だって言って、中に入れてもらったです。
そうしたら、ちょうどボクのすぐ後にも、神父さまの仲間の人がきたので、話しかけてみたです。

「まえにあったことあるですね。
ボクはヴァーナーです。
小豆沢もなか(あずさわ・もなか)おねえちゃんですね。
パートナーの真都里おにいちゃんは、一緒じゃないですか。
ボクはロンドン塔で、真都里おにいちゃんに助けてもらったです」

もなかおねえちゃんにハグしてちゅーしたです。
もなかおねえちゃんは、かわいい女の子です。
どこかボクと似た感じがするのは、気のせいですか?

「くししししっ。
ヴァナっちは、今日も元気だね。
もなちゃんは、まつりんがここにいるらしいと聞いて引導を渡しにきたんだよ」

「そ、そんなおそろしいもの、パートナーにわたしたちゃ、だめです。
なかよくするですよ」

「まつりんは、ロンドン塔で拷問にあっておかしくなっちゃってね。
いまはマジェをさまよう恐怖のモヒカン男と化してるんだよ。
これ、以上、人様に迷惑をかける前に、安らかに眠ってもらわいないと」

「それは困ったですね。
でも、ここにいるってことは、神父さまともいっしょだって、ことです。
きっと、神父さまが真都里おにいちゃんのたましいも救ってくれるです」

もなかおねえちゃんとお話しながら、テレーズおねえちゃんのお部屋へいったです。
お部屋には、くろいふくをきて、はなめがねをかけたのっぽの男の人がいたです。
ボクは、それがルドルフおにいちゃんだと思ったので、すぐにだきついて、

「ぐぐぐ、ぐぎゃああああああ」

「うわわわわわわ」

神父さまはボクをくびにぶらさげたまま、ひめいをあげて体をふりまわしたです。
ボクはしっかりだきついていたので、神父さまと一緒にぐるんぐるんしたです。

「きゃー。こわいですよ」

「な、な、なんなんですか、きみは」

「ボクは」

「まず、手をほどき、私から離れなさい。
おそろしい。
悪魔の襲撃ですね。
まったく、油断も隙もありません。
先ほどの邪神を崇拝する迷える若者といい」

「なにかおっしゃいましたか?」

神父さまに、天御柱学院の制服をきた三つ編みのおにいちゃんが、するどく声をかけたです。
あのおにいちゃんは、ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)ちゃんです。
ロンドン塔であったことがあるです。
みてみると、車椅子にすわったおんなのひとに、はなしかけているひとがなんにんかいたです。
ミリオンちゃんとかれのパートナーのオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)おねえちゃん、『ブラックボックス』 アンノーン(ぶらっくぼっくす・あんのーん)おにいちゃん、夕夜 御影(ゆうや・みかげ)ちゃんです。
ミリオンちゃんといえば、オルフェリアおねえちゃんがだいすきで、オルフェリアおねえちゃんを女神さまだとおもっているです。
神父さまは、そんなミリオンちゃんの信仰がきにいらないですか。
とにかく、あいさつするです。

「ボクは、ヴァーナー・ヴォネガットです。
神父さまをそんけいしてるです。
おてつだいするですよ!」

「ヴァーナーですか。
そのまま、天使の名前にしてもいいような悪魔の名前ですね。
しかし、きみは、悪魔の姿をしているのに、なにかが違う気がするな」

神父さまは、おそるおそるボクの手をとって、においをかいだです。
ヘンなことをするですね。

「手はちゃんとあらってるからキレイです」

「きみは、きみは」

ボクのからだをじろじろながめたです。
どうしたですか。

「きみは、かわいらしいな」

「かわいいは正義です!」

「きみは、悪魔の姿をした天使なのかもしれない。
セバスチャンとは逆に」

「ボクは天使です。
神父さまのためにきたですよ。
さあ、がんばりましょう」

「よろしい。
きみは、ヴァーナーと呼びましょう。
私をルディと呼んでください」

「ありがとうです。
ところでルディおにいちゃん、オルフェリアおねえちゃんたちは、なんのお話をしてるですか」

「邪神による洗脳儀式です。
邪な生まれの者同士がなにを語りあっても放っておきたいところですが、今日の私たちはテレーズ嬢のさらなる堕落をくいとめねばなりません」

「えええ! ほんのおはなしがすきなオルフェリアおねえちゃんが、邪神になっちゃったですか。
大変です」

「彼の者はオルフと呼びなさい。真の名を呼んでは、きみまで汚れる」

神父さまがとてもしんけんなので、ボクも気をひきしめたですよ。



純潔って何をもって純潔と判断するんでしょうか? 
例えば、オルフェは甘いものが大好きで誘惑に負けてしまいました。これは不浄な心だと思うのです。
例えば、ゴミを捨てるのが面倒で、道端に捨ててしまいました。これは悪いことです。
これらをしたオルフェリアは純潔とは言わないのでしょうか。  オルフェリア・クインレイナー(一角獣からの依頼)


『ブラックボックス』 アンノーンだ。
見た目は、だぶだぶの服を着た片メガネの少年だと思ってくれ。
自分は、オルフェ、ミリオン、御影、つまりウチの連中とマジェスティックに切り裂き魔事件の調査にきていたのだ。
事件には終盤から乱入!したので、わけのわからぬうちに終わってしまった。
なにもせずに帰るのもなんなので、なにげに滞在して、ぶらぶらしていたら、御影が街の噂を仕入れてきて、オルフェが過剰に反応した、というところだな。
オルフェを崇拝するミリオンは当然、オルフェのお供だ。
神父の後を追ってテレーズの屋敷にきた自分らの目的は、一応、テレーズの説得だ。
しかし、これだけ評判の悪い人物と一緒になろうとするとは。
よほど、男爵が好きなんだな。
人をそれほど好きになることなど、できるのか。
自分にはあまり理解が出来ないんだが・・・。
周囲の思いはどうあれ、当人たちが幸せであるなら、それでいい気もする。
オルフェがいなければ、自分はけっしてかかわらない問題だ。
・・・頼まれたとはいえ、神父も複雑な立ち位置だな。
オルフェはさっきから真剣にテレーズに語りかけているが、オルフェ自身、身を焦がすような恋愛は経験していないようだし、話がおかしな方向へむかっている気もするな。

「テレーズさん。オルフェに愛を教えてください」

なにを聞いているのだ。
オルフェは車椅子のテレーズの手を握りしめているのだ。
テレーズがあまりに無反応なのと、自分の言葉に力が入りすぎて、そうしてしまったのだろう。

「聞きたいのです。愛とはなんなのでしょう?
オルフェは、ミリオンやアンノーンや御影ちゃんが大好きです。
ですが、この好意は愛ではないのですか」

同じような質問をさっき神父にして、いきなり聖水をかけられ、悪魔祓いされそうになったからな。
今回の一件で、オルフェは、よほど、それが気になっているのだな。
それでミリオンのやつは、危うく神父を八つ裂きにするところだった。

「オルフェリア様に手をだしましたね。
殺します」

「待つのです。
落ち着くのです。
あなたはその悪魔に惑わされているのです。
わからないのですか」

「女神を侮辱しましたね。
二度殺します」

「目を覚ませ。
悪魔よ、去れ! 
なんじに神の祝福を」

「悪魔呼ばわりをやめないのですね。
三度です」

そんな調子で、ミリオンが神父を十七回殺さなければならなくなったところで、自分とオルフェにとめられてようやく思いとどまったのだ。
まったく、人の家にあがりこんで、自分の仲間たちはなにをしているのだろう。
御影は部屋に入ってくる人間に、かたっぱしに、背後から抱きついているしな。
御影はじゃれているだけなのだが、猫とはいえ、少女の姿をしているので、当然、相手は驚ているのだ。
「とりあえず遊んで遊んで遊んであーそーべー!!」

「うわっ。
うしろからはぐするですか、やられたです。
ボクは前からがとくいです」

ヴァーナーは、ハグなれしているのか普通に喜んでいた。

「ねえねえ、まつりんがきたら、みーちゃん、思い切りハードに抱きついてあげて。
もなちゃんは、それを撮影してロリッタちゃんに送信するよ。ぐししし」

小豆沢もなかは、よからぬことを言っていたな。

「男爵、ひどすぎるぜ。
しっかし、女泣かせ極まれりだな。
ヤリ逃げや財産貢がせは言うに及ばず、豪商の娘を利用して麻薬売買…おいおい軽く洗っただけでコレか?
塀の外にいるのが、いや五体満足で生きてるのが奇蹟じゃないか。
他にも調べてるやつも居るだろうし、まだまだ埃は出るだろうな。
ぬわっ。
よせよ。
な、なんだ。
猫娘か。
わかったよ。
ちょっと待ってろ」

ぶつぶつとつぶやきながら入ってきた、ぼさぼさお頭の眠そうな顔をした少年、篠宮悠(しのみや・ゆう)は、御影に抱きつかれると一度でていって、すぐに変身して戻ってきた。
改造したパワードスーツを装着? してきたのだ。

「絶刀戦士パラフラガ!
その悪意、両断する!」

「にゃーはねー、パラミタ最強の黒にゃんこなんだよー♪ 
遊ぶにゃー」

刃渡り二メートルは超える大剣を振りまわすパラフラガと御影の追いかけっこは、続いて入ってきたパラフラガのパートナー、ヨハン・メンディリバル(よはん・めんでぃりばる)に注意されるまで続いた。

「悠。男なら背中で語れ。
お遊びはそれくらいにするんだな」

ソフト帽を目深にかぶり、くわえタバコに、ロングコートの、薄っすらと無精ヒゲをはやしたヨハンは渋かったのだ。
パラフラガも御影も動きをとめて、ヨハンを眺めた。
ヨハンはゆっくりと歩いてオルフェに隣に並んだ。

「悪い噂は耳に届いているだろう。
俺も悠から男爵の話はきいた。
ここで引き下がるかどうかは、レディ、お前さんの真価が試される所だ…。
勇気ある撤退もあるんだぜ。
俺からは、これだけは言わせてもらおう。
男の価値は背中に出る何を背負い、何を遺して来たか…それが男の価値だ。
理想や虚像に惑わされず、真実を見極める事を祈るぜ。
…或いは、それでも破滅の道を選ぶかもしれないが、その心が悪に染まらぬ限り…レディが選んだ道は、俺は否定はしない。
墜ちてゆくのもレディの自由だ。
そして…俺は、俺のやり方を通すだけだ…。
男爵に、ヨハンという男が彼を狙っていると伝えておいてくれ。
じゃあな」

特撮ヒーローとハードボイルド探偵は、タバコの煙を残して去っていったのだ。
御影もヨハンには、抱きつく隙がなかったのだよ。
だが、彼の後にきたラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)ラヴィニア・ウェイトリー(らびにあ・うぇいとりー)は、しっかり御影にかまってくれたのだ。

「すまないですね。
私は、一日ごとに記憶が白紙に戻るんですよ。
猫は好きですから、にゃーさんとも前に遊んだことがあるかも、ですね。
過去の日記を調べているヒマはありませんよね。
ほら、これをどうぞ。
はーい、ご飯ですよ〜」

サングラスをした優しげなお兄さんのラムズは、コートのポケットからだしたクッキーを御影にくれたのだ。
「ありがとう、だにゃー。
みかげは、甘いものはきらいじゃないにゃー」

「こんな猫なら男の人は喜んで飼いたいんじゃないの。
ん。
飼い主は女か。
ま、そういう趣味もあるよね。
どれどれ、手をだして。
肉球をさわらせてよ。
ねえ、いいだろう。
あれのさわり心地には、麻薬的魅力があるよね。
クッキーの代金として、さわらせてよ」

顔や腕、肩に魔方陣やルーン文字の刺青のあるラヴィニアは、少女の姿はしているが、熟練した魔女らしくひねくれた口をきくのだ。
ラムズになでられ、ラヴィニアにあちこちをさわられて、御影はにゃーにゃーと喜んだ。
さらに、師王アスカ(しおう・あすか)オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)がくると、

「先客がずいぶんいるのね。
少しは時間もありそうだし、猫ちゃん、あなたの絵を描いてあげましょうか」

「みかげはじっとしてるのは、苦手だにゃー」

「動いてもアスカは描けるわ。
出来上がるまで、お姉ちゃんと遊んでましょ」

「わーい。遊ぶよー」

画家志望のアスカが、カバンからだしたスケッチブックに御影を描き終えるまで、御影は、立ったり座ったり、オルベールとごろごろしていたのだ。

「みてみて、みかげだよー。すごく上手なんだよー」

完成した絵をアスカにもらって、御影はうれしそうに自分にみせにきた。

「よかったな、御影。
だが、自分たちがこうして和んでいた間も、オルフェは、テレーズの前で握手をしたまま、かたまっているのだよ」

「ご主人は、アイを知りたいのか。
アイって・・・お魚か何かかにゃ??」

自分の記憶では、そういう名前の魚類はいないな。
近いのは、一字違いでエイか。

そうそう言う忘れたが、自分が初対面の人たちの名前をすらすらと言えるのは、屋敷のメイドが誰かくるたびに「〜様がいらっしゃいました」と紹介するからだ。
部屋にいる者で、それをまともに聞いているのは、自分だけの気がするが。



こんなに綺麗なんですから、だれか一人くらいは持って帰ろうとする人がいてもおかしくないのでは? ラムズ・シュリュズベリィ(ノスタルジア・ランプ)

「テレーズ嬢。
私よりもあなたと話したいのは、パートナーの方なのですが、せっかくですから、私の話も聞いてやってください。
だんまりをきめこんでいるのですね。
それはそれで一つの態度でしょう。
私が問いたいのは、あなたがどこまで本気なのかという事です。禁じられた愛、運命の人、よく聞くコピーですが、そんなものを想像しているのなら、すぐに考え直すことを薦めます。
映画、ドラマ、御伽噺と違い、いまのあなたには「男爵以外」に貴あなたを理解し、なおかつ力を貸してくれる方は誰もいません。
みんな、あなたがバカなことをしていると思っているんですよ。
こうして関係のない人間が、みかねて、わざわざ訪ねてくるぐらいに。
これで結婚して、もし青髭みたいなことになっても、あなたを助けてくれる方はいないでしょう。
それ、みたことか、と言われるだけです。
日記で今日のことを思い返して、私も言うかもしれませんね。
ライオンの口に飛び込む前に、やめておけ、と、あれだけ忠告したのに。って。
「男爵は私だけを見てくれる」
「男爵は決して私を裏切らない」
あなたがそんな風に考えているとしたら、その根拠は一体どこから来るのでしょうか?
世間は、あなたが考えているほど甘くありませんよ。
あなたの思い込みを立証してくれる証人は居ますか?
男爵の言葉は、あなた以外の人に重みはありますか?
二人だけの愛で、幸せになれるなんて思わない方が良いですよ。
そう考えるカップルはだいたい不幸になるのではないですか。
シンデレラには魔法使いの老婆、白雪姫には七人の小人、それぞれ第三者の理解者がいたからこそ、幸せをつかんだんですから。
あなたと男爵にそんな人はいますか」

話し終えた私に声をかけてきたのは、テレーズ嬢ではなく、私の横で話を聞いていたオルフェリア・クインレイナーさんでした。

「ラムズさんはどうしてそんなに自信を持って、男爵を悪と決められるんですか? 
相手が悪なら、愛してしまっては、いけないんですか」

「私の意見は、私としては一般論のつもりなんですが。
結婚は恋愛とはまた違いますから、相手選びは慎重すぎるぐらいでいいと思います。
悪を愛するのは、その人の自由でしょうね。
でも、人はやはり周囲の人の理解、協力があって成り立っていますから、あなたが悪を愛することで自分の周囲の人が心配したり、いやな思いをしたら、オルフェリアさんはどう思いますか」

「そうしたら、オルフェは」

見た目の通りの中身も十代の少女らしいオルフェリアさんが、かわいらしく言いよどんでいると、今度は私のパートナーのラヴィニアがテレーズ嬢に話しかけました。

経験者のラヴィニアはきついこと言いそうですね。

「こんにちは。
気分はどう?
こうして聞くだけでも、とりあえず聞いてるのは、感心しないわけでもないけどね。
男爵と結婚したら、キミは、もっとたくさんの悪評を聞かなければならなくなるよ。
世界はキミたちへの悪意でいっぱいだ。
キミも男爵の一味になるんだからね。
男爵の被害者からすれば、キミも男爵と同じ加害者なわけ。
令嬢から一転、悪女テレーズ様だ。
それと、よくあるパターンなんで、先に忠告しておくよ。
ロミジュリみたいに死ねると思わないこと。
心中するくらいなら、彼はキミを捨てるよ。
結婚は人生の墓場、行けばそのままナカラの底までご招待……自ら率先して地獄に落ちるなんて、ボクには正気とは思えないんだ。
親に歯向かう勇気は買ってあげるけど、そこまでやるんなら、どうして男爵の現実とむきあおうとしないの?
いまの彼は、キミにつりあう人間かな。
普通の幸せな生活を送る権利のある人なのかな。
人間には口が一つだけなのに、どうして耳が二つあるか知ってる?
それは、自分が話す倍だけ他人の話を聞かなければならないからなんだって。
普段は、そこまでする必要はない気もするけど、いまのキミはそうすべきじゃないのかな。
恋は盲目って言うけど、キミは行き過ぎてる。
男爵の良い面にしか当ててないピントを、少しは周囲の人たち、彼の悪い面とあわせてみたら?
後になって、「みえなかった」「知らなかった」は言い訳にならないよ。
バカだと思われるだけさ。
せいぜい気をつけるんだね。
キミと似たような失敗をした……『先輩』からの忠告だよ」

「ラヴィニアさんは、それで、いまは幸福なのですか?」

話の直後に質問したオルフェリアさんは、ラヴィニアににらまれました。

「ボクが幸福かって。
そうだなあ。キミの猫を譲ってくれたら、少しは幸せだよ」

「ごめんなさい。
オルフェは、御影をあなたにあげられません」

「あ、そ。
なら、不幸だね」

「つまり、心の傷はまだいえてないんですね」

ははは。オルフェリアさんは、楽しい子ですね。
私とラヴィニアの言葉は、テレーズ嬢に届いたかは怪しいですが、オルフェリアさんの心には、確実になにかを与えた気がします。



だれにでも、秘密にしておきたいことはあるわぁ。それを無理やり聞き出す権利は、だれにもなくってよ。 師王アスカ(幸せ? のメール)

今度は私の番ね。
ってわけでテレーズちゃんに話しかけようとしたら、マジェ限定有名人の神父さんがよってきちゃったわ。
なんの御用かしらん。

「師王。
引き取ってくれませんか。
テレーズ嬢にはもう十分に説得はなされました。
これ以上は、金言とて無用の長物かと思います」

「失礼なうえにムカツクんですけどぉ。
私は師王アスカ。
普通はアスカって呼ばれてるのよ。
ルディ神父、私はテレーズ嬢に話があるの。
変な口出ししないでねぇ」

「オルフェの時も、神父さんはそう言われましたよね。
神父さんは、どうしてそんなに女の人を嫌うんですか?
神父さんだって、女の人から生まれてきたんですよ」

私とオルフェちゃんに攻撃されて、ルディちゃんは黙っちゃったわ。

「あなたもジェイダス様の大ファンなんでしょ。
あなたと私はお互いジェイダス様を敬愛している点では、気が合うとは思ってるんだけどね…。
はい。プレゼント!
私が彫塑で造ったジェイダス様の像なの。
これは餞別よ〜。それあげるから私の邪魔しないでね♪
余計なことしたら、ママにも叩かれたことのない頬を殴るわよ」

「おおっ。
ジェイダス様の像。
あなたが造ったという点を差し引いても、素晴らしい出来です。
教会に飾らせてもらいます。ありがとう」

ルディちゃんは、ジェイダス様の像をひしっと抱きしめてニコニコしてる。
そうしてると、かわいいわね。
像を抱っこしたまま、ルディちゃんは、オルフェちゃんをにらみつけ、

「私が母以外の女性を賛美したりしたら、母に対して背徳行為を働いている気がするのです。
母への想いが薄れたように思われたくはありません」

「オルフェが神父さんのお母さんなら、他の女の人を好きになっても、そんなことはきっと思わないですよ」

「オルフは私の母ではないだろう」

「オルフェがお母さんになってあげたら、好きになりますか」

ルディちゃんとオルフェちゃんがらしいやりとりをしてる。
さて、私はテレーズちゃんに、

「アスカ。
先にベルが話すわ。
ベルが調べあげた限り、あの男爵はかなりの狡猾ね。
テレーズ嬢みたいな資産家の未婚女性を狙い定めては、その女性が婚約破棄、また死亡する度に、家族から婚約解消の違約金をもぎ取ってるみたいよ?
ふふ。最高金額では、軽く億超えしているお宅もあるわね…」

パートナーのベルに先をこされちゃったぁ。
ベルはさすがに悪魔だけあって、こういう話をする時は、ほんとにいきいきしているわ。

「女性にとっての不幸ってなにかな?
夜道を歩いてたら、知らない男達に捕まって輪姦される。
薬物を使われて意識朦朧、自分がどうなっているかわからないうちに、二、三日、へたをしたら、数週間もかけてボロボロにされて、その様子を撮影され、ネットで公開される。
写真を友人、知人たちにばらまかれる。
映像や写真には、まるで自分が悦んでそうしてような演出がほどこされていて、本当は被害者なのに、世間のバカな男たちには誤解される。
誤解されなくても、その映像が世界中でおもちゃにされる。
アンベール男爵にかかわった女性でそんなめにあった子もいるのよ。
それまでお嬢様として、名家に生まれ、ちやほやされて生きてきて、急にそんなめにあったら、どこかおかしくなる方が普通よね。
これ。見てみる?
ネットの無料動画サイトからダウンロードしたの。
二週間、薬物漬けの監禁生活よ。
彼女、この後、ずっと入院しているわ。きっと、なにもかも信じられなくなってしまったのね。
あなたの画像がアップされる日はいつかな?
そうそう…これのせいで自殺した子もいるわ。
知ってた?
男爵はもちろん、自分がそれらの件に関与したとは、認めていないけれどね。
彼女たちの男爵との出会いパターンは、偶然を装って、パーティーとかの華やかな席で声をかけてくるの。
口説き文句は「君だけが私の味方だ」みたいよ。
おぼえあるんじゃない?
自分だけは違うと思ってたでしょ」

テレーズじゃなくて、オルフェちゃんがベルの話に目をまるくしてるわぁ。
私も続きを話さないとね。

「ベルが言った事は真実よ。
私たちは調べたの。
裏で糸を引いてたのは男爵。あなたの愛する人よ。
ねえ、男爵っていつも黒い手帳を大事にしていない?
その中をみせてもらったことがある?
噂の黒の手帳には、いまの話にでてきた写真がコレクションされているらしいわ。
たとえ元のデータをなんとか破棄しても、男爵が肌身離さず持っている手帳には、女たちの写真がある。
あの手帳があれば、写真はいくらでも複製できるってわけ。
動画もいやだけけど、そんな姿を克明に撮影した写真は、もっといやよね。
あなたはあの男爵の事を理解していると思っているけど、理解しているなんて簡単に口にしない方がいいわ。
すべてを理解しているというなら、いまの話も彼から聞いたことがあるはずよ」



当研究会では、パラミタで起きる色々な事件・謎のなぜ? どうして? を語り合い、冴えた推理でカキーンと解決することを目的としております。
偉大な先達は言いました、頭を生きているうちに使え、ゾンビになったら弱点になるだけだ、と。
迷子犬の行方からパラミタを揺るがす大事件まで。当研究会で皆さんの灰色の脳細胞を使ってみませんか? ブリジット・パウエル(百合園女学院推理研究会 紹介文)


ごきげんよう。
推理研代表のブリジット・パウエルよ。
私たち三人、私、名探偵の私の助手の、橘舞(たちばな・まい)金仙姫(きむ・そに)がテレーズの屋敷に着いた時には、場はちょうどいいくらいにあたたまっていたわ。
そろそろ私の出番ね。

「ブリジット。
仙姫。
いまの人たちのお話を聞きましたか。
私、感動しました。
やっぱり、愛には障害がつきものなのですね。
テレーズさんには、そんな障害には負けずに愛をつらぬいて欲しいです。
ちょっと不良の男爵さんもテレーズさんの愛情あふれる導きで更生してくれると思います。
私たちみんなで応援して、二人には、幸せになってもらいたいですね」

「そ、そうね。舞の言う通りね」

「そ、そ、そうじゃな。愛の力をあなどるではないぞ」

我がパートナーながら、舞の破壊力には、時々、本当にびっくりさせられるわ。

「舞はいつも満開のお花畑にいるのね」

「蝶々も舞っておる」

「ブリジットも仙姫もなにを言っているんです。
私たちはいま、テレーズさんのお屋敷にいるんですよ。
しっかりしてくれないと困ります」

舞がやたらと張り切ってるのは、私にも責任があるんだけどね。
私は、推理研のサポーター、というかライバル、というか居候のマイト・レストレイド警部から、アンベール男爵の地球での悪事を聞かされて、テレーズも彼の餌食になると思ったの。
そこでよ。
テレーズって、私と同じシャンバラ人の名家の出の人間で、私は面識があるんだけど、彼女、生まれも育ちもエリート中のエリートで、とんでもなくプライドが高いでしょ。
正面から説得してもきくわけがないわ。
だから、

「いくらお二人の結婚に反対だからと言って本人の了解も取らずに、勝手に別の婚約の話をすすめてしまうなんて、テレーズさんの親族の人たちはひどすぎます。
しかも、あと数日中に、そのお話は本人の意志と関係なくまとまってしまうんですよね。
時間がありません。
黙って、ヴァイシャリーの上流階級の御曹司との婚約話を進めているのは、親族の方ですし、こっちが先に神前で式を挙げてしまえば、テレーズさんと男爵さんは、もう夫婦ですものね。
私、テレーズさんに協力しちゃいますよ。
男爵さんとテレーズさんには、すぐにでも結婚式をあげてもらいましょう。
こっそりと式を挙げるなんてさびしいですけど、せめて私たちが精一杯、お二人の新たな門出を祝福してあげたいですね。
そういえば、ブリジットも知らない相手とお見合いさせられそうになったことがあったんですよね。
上流階級のお家って、どこもそうなのですか? 私も明日は我が身かもしれません」
大筋は、舞が言ってる通りよ。
適当な話をでっちあげて、とにかく、テレーズと男爵には、結婚式をあげてもらうの。夫婦になったところで男爵の正体をテレーズにつきつけて、目をさましてもらう作戦よ。
もちろん、結婚式はニセもの。
二人は他人のまんま。
舞は、私のその適当な話を真に受けて、信じこんでしまって。思い込みの激しい子だから、すっかり、テレーズに肩入れしているの。
舞に真相を話すのは、ことがすんだ後にするわ。
舞、ごめんね。
「しかしのう。
こうして、他の連中の説得を聞いても、男爵というのは、相当なろくでなしじゃな。
アホブリが分不相応にも、知り合いのテレーズを心配する気持ちもわかるぞ」

「誰が分不相応よ。
テレーズは、ずっと家柄を背負って優等生で生きてきたから、免疫がなさすぎるの。
本物のヤバイ犯罪者に引っかかるなんて、ワルの魅力にくらりどころじゃすまないわ」

「お金持ちの娘さんなのに、お仕事に夢中で、予防接種に行く時間もなかったんですね。
立派な方」

いまの舞は、テレーズのすべてを美化してしまうのよね。
ジェイダス・観世院の像を胸に抱えた男が、私たちの前にやってきたわ。

「あなたたち、せっかくきていただいてなんですが、今日のところは、お引取り願えないでしょうか」

「あんた、誰よ。怪しいわ」

「私にむかって怪しいとは。
私はルドルフ・グルジエフ。
この街で神父をしております。
あなたたちこそどなたでしょうか」

「マジェに住んでて、私を知らないなんて、あなた、もぐりね」

びしっ。
私は、“自称”神父の胸に指を突きつけた。

「おお。マザコンのニセ神父か。
噂はきいておるぞ。そなたの信仰ではかえって不幸になるような気がするのう。
宗旨替えして、わらわを崇拝すれば、少しは徳が高まるかもしれぬぞ」

仙姫は、一応、仙女らしいから、あながちウソじゃないかもね。

「はじめまして。神父さん。橘舞です。
テレーズさんと男爵さんに結婚式を挙げさせてあげたいのですけれど、お手伝いをしていただけませんか」

神父は、首を横に振ったわ。

「神をもおそれぬ虚言の数々、あなたたちは、雷神。風神。白い悪魔だ」

神に例えられたけど、これって悪口なの? 

「相手にするだけ時間のムダね。
式の司祭は、別の神父に頼むわ。
アテはあるの。
じゃ、テレーズはいただくわね」

「テレーズ嬢を拉致するつもりですか!」

「心配なさらないでくださいね。
私たちは、テレーズさんの味方なんです」

「結婚式の準備ができるまで安全な場所にいてもらうだけじゃよ」

舞と賢姫が神父を押さえつけてくれている間に、私はテレーズとむかいあったわ。
なん年ぶりかの再会ね。

「お久しぶりね。テレーズ。
調子はどう」

私をみて、テレーズの瞳に光が宿ったわ。

「……ブリジット・パウエル。
パウエル商会は順調なようですね。
地球の企業との取り引きもうまくやっている。
マジェにも支社をおいたらどうかしら。
そう言えば、イルマは、今日は一緒ではないの。
彼女はお元気?」

「あなたと違って、家の仕事には、私はあまり興味がないの。
イルマは元気よ。
私の家の使用人まで、よくおぼえてるわね。
それより、私はあなたをアンベール男爵と結婚させるわよ。いいわね!」

「ふふふ。愉快な人。
使用人といってもイルマはあなたの、そうね、あなたの大事な幼なじみでしょう。
彼女、前に私にあった時、とても礼儀正しくあいさつしてくれたわ」

「私がしないそういう面倒をこなすのがイルマの仕事なの。
それより、あなた、覚悟はいいわね。
私がきたからには、もう、ひけないわよ」

テレーズはなにも変わってなかったわ。
高級な服。
きれいな顔。
よくまわる頭。
できすぎたお人形さん。

「はじめから、ひくつもりはないわ。
知らない人にこんなにたくさんいろいろなことを言われて、私、本当に、世紀の大犯罪者になってしまったよう」

「あんたのこの冒険の代償は、高くつくわよ」

私としゃべりはじめて、いくらか血の通った人間らしい表情に戻ったテレーズは、部屋にいる、彼女のためにここにきたみんなを見渡し、申しわけなさそうに目をふせたわ。

「私、自由なあなたがたがうらやましいですわ」

小声でなにか言ったけれど、私にはよく聞こえなかった。
そして、ドアが開いて彼らがきたの。

「ブリ様。みんなを連れてきたよ」

舞の前夫の友達、イーストエンドの少年たちが仲間を連れてきてくれた。
私のことは、ブリ様ではなくてブリジット様と呼びなさい、と言っているのに直んないわね。
少年たちの一団と入ってきたメガネの少女は、茅野菫。
推理研のライバルの一人よ。
彼女はいま、この街の子供たちを集めてマフィアを組織してるんですって。
私は、知り合いの少年たちを通して、マフィア「スコット商会」に協力を求めたの。
マフィアといってもマジェスティックの市民の平和ための組織である菫たちは、私の話に応じてくれたわ。

「推理研が私に助けを求めるなんて、どんな陰謀なのかしらね。
あら、今日はまだ死体が転がってないの。仕事、遅くない?」

菫はいつもこんな調子なの。
素直じゃないのよね。

「テレーズの身柄をお願いしたいの。
彼女、狙われているのよ。
結婚式の準備ができるまで、守ってあげて」

「どうしようかな。
スコット商会はまだ、アンベール男爵とことをかまえるほどでかくないし。
さあーて」

わざとらしく首をひねって、菫は、悩んでいる素振りをみせたわ。

「あんたがやってくれないんなら、マジェの領主に話を持ち込むわよ」

でも、新領主のアルは、実際、まだまだ頼りないのよ。
街の復興で忙しいアルに余計な負担はかけたくないし。

「ふふーん。
引き受けてあげる。
テレーズには、「牝牛の乳房」で花嫁修業してもらおうかな。
ただ、そう余裕があるとは、思わないでね。
敵は本当に強大よ。
ウチから被害者をだすつもりはないからね」

「オーケー。
大急ぎで、春美たちに男爵側の話をつけてもらうわ」

交渉は成立ね。

「マロイ。車椅子ごと抱えてあげて」

菫の命令で、体の大きな男の子がテレーズを抱えあげた。
私は、大きな声でみんなに状況を説明したわ。

「お集まりのみなさん。
私の友人のテレーズは、一時、スコット商会に保護してもらうことになりました。
私たち推理研が準備を整えしだい、彼女は、アンベール男爵と式をあげる予定です。
式に参列してくださる方は、こちらから連絡いたしますので、私の助手の舞に連絡先を伝えていってください。
みなさんの式へのご参加、お待ちしております」