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クリスマス硝戦

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クリスマス硝戦

リアクション


【冒頭】


12月24日の夕方
 イルミンスール魔法学園校長室にて――、薄暗い部屋の中、齢7歳の幼き魔法使いは不気味な笑顔で無骨な椅子に佇んでいる。 少女の名をエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)と言い、ここイルミンスール魔法学校の校長たえうメイガス(賢人)である。
「くくくっ……、御神楽環菜(みかぐら・かんな)の蒼空学園は今頃面白いことになってるですぅ……」
 人形のような色白の顔が陰りの中カタカタと小さく揺れた。そこに貼りつく笑顔は魔女的な悪意に満ちてなんとも楽しそうだ。
「暗い中なにをわろうおるのじゃ? 灯ぐらいつけよ、日も落ち始めておるというのに、目を悪くするぞ」
 アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が孫を叱るような口調で言う。灯をつけたのは彼女のようだ。
「なんだ、大ババ様ですかぁ……、折角雰囲気を出していたところだったのに」
「老婆心からの好意に溜息を吐きよって、それに大ババ様も止めよ。おまえの祖先ではあるが外見年齢は10歳じゃぞ。で、おまえ何を笑っておったのじゃ? お前のことじゃから蒼空学園に対する意地悪なことでも思いついてたんじゃろう?」
「そうですぅ。くくくッ……今頃、私の作ったリースで喧々囂々としているはずですぅ。出来れば私も見に行きたいところですぅ」
 エリザベートが言う「私の作ったリース」とは、蒼空学園生徒が噂している【愛のリース】の事だ。
「リースじゃと? クリスマスに飾るアレか? そういや私がイルミンスルール世界樹から採ってきたヤドリギを使って何か作っていると思ったら、おまえはそんなモノを作っておったのか? ぬぅ……そう言えばじゃ……」
 アーデルハイトはふと蒼空学園で今日催されるというイベントを思い出した。
「リースと言えば、蒼空学園でなんか【愛のリース】とか言うものが飾られるそうじゃな。なんでもリースの提供者はエリザベート、おまえじゃそうだな」
「そうですぅよ。クリスマスイブを彩るためにワザワザ作ってやったですぅ」
 ニタァとエリザベートが微笑を浮かべる。
「嫌いな蒼空学園の為にそんな物を作ってやるとはのぉ。しかも、【愛のリース】の下でキスした者は祝福される効果があるらしいが、さてはおまえはツンデレじゃな」
「別にアイツらの祝福のために作ったわけじゃないですぅ」
「ぇ?」
 エリザベートをからかいにかかろうとした、アーデルハイトの表情が疑問符に崩れる。
 不思議がる自らの祖にエリザベートは説明をしてやった。
「私は確かにリースを作ったですぅ。リースの提供をしたのも私ですぅ。そして、蒼空学園でのイベントを考えたのも私ですぅ。でも、それが蒼空学園にイイ事に成ると思うのは大間違いですぅ」
「どういう事じゃ?」
 アーデルハイトが質問を返す。
「【愛のリース】の効果は限定的ですぅ。クリスマスツリーに飾られた【愛のリース】の下でキスをした者同士にのみ、永遠の愛が訪れる。というものですぅ。つまり、キスをする相手がいない者たちにとって、何の効果もないですぅ。そういう者たちにとって、恋人たちのクリスマスのイベントはぶっちゃけ面白くないですぅ」
「そらそうじゃな。他人がイチャイチャしているのはあまり見とうないし、私は既婚者じゃからどうでもええが」
「ま、それだけじゃ嫌がらせにならないですぅ。そこで、ちょっとサクラを用意しておいたですぅ。今頃この二人が言い争っているですぅ」
 エリザベートはアーデルハイトに二枚の写真を見せた。写真に映っているのは今まさに蒼空学園でクリスマスの是非について言い争っている蒼空学園男子の二人が写っていた。
「その二人を買収して、争いの火種になって貰ったですぅ。クリスマスと言うだけでみんなギクシャクするですから、そこに炊きつけて【愛のリース】イベントと、イベントがあることで本当に喧嘩をしようと争い始める立場の違う生徒二人。これに他の生徒が同調すれば、蒼空学園で血が見れるですぅ! 今頃、【愛のリース】を取り合って大騒ぎしているに違いなですぅ!」
 エリザベートは目を瞑り、蒼空学園での争いの様子を想像して、不気味に笑った。
 子孫がまたしでかしたイタズラにアーデルハイトは溜息を吐く。
「よくもそのような事を思いつくのぉ……。しかも世界樹から採ったヤドリギを使ってとはな。私ならそんなことに使わず、【ギャザリングヘクス】の材料にしてしまうのじゃ」
 勿論エリザベートにもヤドリギに魔力的な力を秘めているのは分かっていた。なにせ、自分が契約した世界樹から採れたものだ。しかし、そのヤドリギを敢えてリースの素材にすることで、別の効果を見越した。
「ギャザヘクに使うのもよかったですがぁ〜、私としてはリースが壊されて争いが直ぐに中断されるのが面白くないですぅ。なので、ヤドリギをリースに編み込んで魔力源にし、簡単には壊せないようにしたですぅ」
 エリザベートは【愛のリース】を作る際に何をしたのかと言うと――、
まずヤドリギに【ギャザリングヘックス】のスープをたっぷり吸わせて、普通のリースに編み込んだ。そこにミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)の助力で【愛のリース】には【アイスプロテクト】【ファイヤープロテクト】を何度もかけて貰い、【禁猟区:サンクスチュアリ】を彼女自らが幾重にも施した。おまけに【パワーブレス】も施した。
 故に、【愛のリース】を簡単には破壊することが出来ない。
 と、エリザベートの胸元のブローチが光った。どうやら、【禁猟区】に危険が迫るのを術者へと知らせる兆候のようだ。ブローチの点滅が長く強く、どうやら【愛のリース】の周りで何かが起きているらしい。
「くくくッ……、どうやら始まったようですぅ。蒼空学園のクリスマスイブなんてぶち壊しになるといいですぅ!」
 思惑通りに事が進んでいることを喜ぶエリザベート。そんな彼女を見てアーデルハイトは頭を振った。
「ところで、エリザベート。クリスマスプレゼントは何がほしいのじゃ? ま、魔術結社の長がクリスマスプレゼントを貰うのも変じゃし、いらぬかの?」
!?
 エリザベートは蒼空学園への嫌がらせばかりを考えていて、自分が貰うクリスマスプレゼントなんて全く考えていなかった。