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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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第1章「手がかり」
 
 
 シンクでハンター達による動物の駆除が行われる日、彼らを待つ村長の下を朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)が訪れていた。
「ジャスティシアの方……ですか」
 村長が彼女の身に着けている腕章を見ながら、名乗った身分を復唱する。
「この村で起きている事件の事は聞いています。凶暴化した動物達の対処にハンターを呼んだとか」
「えぇ、よくご存知で。……しかし、何かお手をわずらわせるような事でもありましたかな?」
 特に判官達に咎められる事はないはずなので不思議に思う村長。その疑問に答えるように、千歳の視線がテーブルに置かれている物へと向かう。
「いえ、住民に被害が出ている以上、駆除はやむを得ないでしょう。私が今日訪れたのは、現場に落ちていたというカード入れについてです」
「カード入れ。確かにこれは村の者が山で拾いましたが、何かが入っていた訳でもありませんでしたよ」
「ですがケースそのものが手がかりになるかもしれません。それに遺失物である以上、しかるべき所に届け出る義務があります。事件の真相を究明するのはこの村にとっても悪い話ではないはず。私に預けてもらえるなら、その両方を代わりに行いましょう」
「ふむ……こう言っては失礼ですが、信用できますかな?」
「ジャスティシアの名にかけて」
 千歳の真っ直ぐな目が村長を見据える。その目を信じ、彼はカード入れを千歳に託す事にした。
「わかりました。あなたにお任せしましょう。村のために、どうかよろしくお願いします」
「ありがとうございます。その期待に応えられるよう、努力しましょう」
 
 
 村の入り口では数人の男女が集まっていた。その中の一人、イルマ・レスト(いるま・れすと)が戻ってくる千歳の姿を見つけて歩み寄る。
「千歳、お帰りなさい。手がかりの品は借りられましたか?」
「大丈夫だ。これがそのカード入れだが……イルマ、何か推測できるか?」
 受け取ったカード入れを良く確認する。だが、村長が既に調べた通り、何かが入っている訳ではなさそうだった。
「確かにこの社章以外、大きな手がかりはありませんわね。となるとやはり調べるべきはペットショップ、それからこのカード入れが落ちていたという現場でしょう」
「現場か……もしペットショップ側が関与の証拠を消したいのであれば、何か動きがあるかもしれないな」
「もっとも、別の何者かがわざと落とした可能性もあります。このカード入れが一般でも手に入れられるかも含めて調べたほうが良いと思いますわ」
 イルマの助言を参考にし、千歳が今後の行動を考える。そんな彼女に七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が意見を出した。
「あの、それならインターネットを使って調べるのはどうでしょうか?」
「インターネットを?」
「はい。お店のホームページだけじゃなくお客様や他の業者さんからの評判も見て、悪いうわさがないか調べたほうがいいと思います」
 インターネットの利用を考え付いたのは彼女だけではなかった。マーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)が歩の意見に同調する。
「そうだな。今時ブログもホームページもないってのは考えられねぇし、今何を目玉にしようとしてるかもわかるだろ」
 それだけではない。更に閃崎 静麻(せんざき・しずま)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がマーリンに続く。
「業績と、関連会社の業種も重要だな。裏で別稼業をやっている可能性もあるだろう」
「広告、取引実績、投資情報に株の動き。アプローチの仕方は色々あるね」
 歩達の意見を受けて千歳が再び考える。しかし、それも一瞬の事だった。
「わかった。では四人はそちらを調べてくれ。何かあった時は私かイルマに連絡を」
「はいっ。それでは皆様、よろしくお願いしますね」
 同行する事になった三人に歩が微笑む。そんな彼女に対し、エースはどこからともなく一輪の花を取り出した。
「こちらこそ、素敵なお嬢さん。お近づきの印にこれを」
「えっ!? あ、その、ありがとうございますっ!」
 端正な顔立ちな上に気品溢れるエースの微笑みに、白馬の王子様という存在に憧れる歩は思わず顔を赤くする。
 そんな二人にマーリンが面白くなさそうに声をかけた。自分も可愛い女の子と話したかったからではない。断じてない。
「おーい。どうでもいいけど、行くならとっとと行かね?」
「俺がユビキタスを使って調べる事もできるが、四人でなら蒼学のコンピュータ室に行った方がいいな。案内しよう」
 蒼空学園生である静麻が歩き出す。それについて行くように、一行はツァンダへと先行していった。
 
 
「後は実際にペットショップを調べる者と山に向かう者か。本来ならこれを拾った村人に案内してもらいたい所だが……」
「今の状況を考えると危険でしょうね、千歳」
 イルマの発言に頷く。凶暴化した動物達が襲ってくる可能性を考えると、村人を連れて行く事によるリスクは避けたい所だった。
「ああ。大体の場所だけ聞いて、私達だけで向かう方がいいだろう」
「聞きに行く必要はないですよ。僕達に任せて下さい」
 そう言って前に出てきたのはトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)だった。
「僕達は鼻が利くんです。カード入れの匂いをたどって、落とした所まで行ってみせますよ」
「俺は犬じゃねぇんだけどなぁ。ま、必要な事なら警察犬の真似事くらいしてやるさ」
 隣に立っていた獣人のテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が苦笑する。口では文句を言いながらも、しっかりとカード入れの匂いを記憶しようとしていた。
 続いてトマスが超感覚を発動させ、同様に匂いを記憶する。熊の耳が生えたその姿は、さながら警察犬ならぬ警察熊だろうか。
「さて、と……見つけたぜ。あっちとこっちに匂いが伸びてるな」
 テノーリオが指を差す。片方は山へ、もう片方はツァンダへと続く道を指していた。
「ツァンダの方はやっぱりペットショップに続いてるのかな……。僕はこっちを追ってみるよ。テノーリオは山の方をよろしく」
「おう! 任せておきな」
 自慢の八重歯を輝かせ、テノーリオが笑みを浮かべる。そんな彼にミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が歩み寄った。
「私もテノーリオに付き添いましょう。……獣と間違えて撃たれると大変ですからね」
「おいおいおい、悪い冗談はよせっての」
「まぁ服を着ているから大丈夫だとは思いますが。ではトマス、何かあればすぐ私に連絡をするのですよ」
「わかったよ。ミカエラも気をつけて」
 ミカエラの言葉に頷く。そうしてトマスは匂いを追ってツァンダへの道を歩き出した。時に四つんばいになりながらも匂いをたどるトマスを魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が追いかける。
「ああ、坊ちゃん、せっかくの綺麗な服が……」
 魯粛の心配もむなしく、トマスは先へと突き進む。ともあれ、山とツァンダ、二つの目的地へと向けてそれぞれのメンバーが動き出した――