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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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第7章「収束、そして結末へ」
 
 
「さって……どうしたモンかねぇ……」
 村に程近い山の中で、アリス・クロフォード(ありす・くろふぉーど)は腕組みをしていた。
 身を隠している彼女の視線の先には忙しなく行き来するハンター達の姿がある。
(頑張ってるねぇ。ま、ゆきのんからの電話がなかったら今頃一緒にやってたんだろうけど)
 本来アリスは生活費を稼ぐためにハンターとして依頼を受けるつもりだった。だが、前日に篁 雪乃から事件のあらましを聞いた事で立場を替え、雪乃に協力してハンター達を止める側に回ったのである。
(銃を持ってる人もいるなぁ……どうしよ。とりあえず一人ずつ的確に倒して行くのが確実かな)
 何人かをそのまま見送り、奇襲しやすそうな相手を待つ。そうする事しばし、メイド服に身を包んだ小柄な少女が通りかかった。見た所銃も持っておらず、丁度良い事に周囲に人影もない。
(よ〜し、あの子に決めた! こっそり後ろから狙っちゃうんだよんっ)
 気配を消し、少女――神代 明日香の背後へと回りこむ。神出鬼没を信条とする彼女にとって、ここまでは何ら難しい事ではなかった。だが――
(ふふ、もらったよんっ!)
「……!」
 アリスは今日は同行していないパートナーに常々言われていた事を失念していた。すなわち、『最後まで油断するな』という事を。
「やっ!」
 隠し切れなかったアリスの殺気を感知し、明日香が素早く身をかわす。長袖に仕込まれていたナイフつきのワイヤーはむなしく空を切った。攻撃が失敗したのを受け、アリスは素早く近場に隠れる。
「誰ですか!? 大人しく出てきて下さい!」
 明日香が叫ぶが周囲からの反応はなかった。無言で襲ってくる相手を敵対勢力と位置づけ、反撃を開始する。箒にまたがり空へと飛び上がると、その手に炎を宿らせた。
「出てこないならあぶり出しますからね! さーちあんど……ですとろいですぅ!」
 炎が辺りを駆け巡る。その炎から逃げるように木の影からアリスが飛び出してきた。
「あつっ! あつつっ! や、やめて! 助けてー!」
「明日香さん! どうしました!?」
「風天さん! その人、敵さんです! 捕まえて下さい!」
「え? わ、わかりました!」
 一連の騒動を聞きつけてやって来た九条 風天がアリスを捕まえる。捕まった本人はようやく熱さから逃れられた事にほっとしていたが、この事態をどう脱しようかと悩んでいた。
「さて、攻撃を仕掛けてきたという事は、ハンターの妨害をされている方達のお仲間と見てよろしいですか?」
「あうぅ……人の事を聞く前には自分から名乗るのが礼儀なんだよ」
「それも確かに。ボクは九条 風天。シンクの村長から依頼を受けた『義剣連盟』の隊長です。……これでご満足ですか?」
「普通に返されるとどう反応していいかわからないんだよ……。と、とにかく! 動物を殺しちゃ駄目なの! だからあたしはみんながやめるまで諦めないからねっ!」
「……なるほど、そういう事ですか。なら実際に見てもらった方が良さそうですね」
「ふぇ?」
 風天と明日香は一旦、アリスを連れて源 鉄心達の待つ拠点へと戻る事にした。そこには正気を取り戻した動物達が多数大人しくしている。
「え、え? 動物達が元に戻ってる……?」
「私達も動物を元に戻す方法がわかったので、今は駆除しないで捕まえるようにしているんです」
 明日香が指を差す。そこにはリリィ・クロウの連れて来た動物に清浄化を使用している鉄心の姿があった。
「ふぅ、さすがにここまで続けると疲れが溜まってくるな……」
「お疲れ様です。あと少しですから頑張って下さい」
 その後ろではマリィ・ファナ・ホームグロウがつまらなさそうにしている。
「ったく、叩っ斬れば楽なのに、なんでわざわざ……」
「あら、平和的に済ませられるに越した事はありませんわ」
「しょうがないね……じゃあとっとと終わらせちまいな」
 マリィが鉄心の頬に口づけをする。突然の事に鉄心は顔を赤くした。
「マ、マリィさん!?」
「勘違いすんじゃねぇよ! せ、精神力を回復してやっただけだ!」
 マリィの言葉は嘘ではなく、アリスキッスによる回復だった。その効果が現れたのか、鉄心の身体から疲労が抜けていく。
「な、なるほど……。ありがとう、これで残りの子達も元に戻せそうだよ」
 再び動物達の清浄化に戻る。それを見ていたアリスに無限 大吾が話しかけた。
「驚いたかい? 俺達もこの村に住む知り合いから連絡を受けてね。出来るだけ動物達を助けようって話になったのさ。だから君が俺達と敵対する理由はもうないんだよ」
「それにどちらにしろこの辺の動物はあらかた対処が終わりましたからね。ボク達もこちらが終わり次第、山にいるハンターの方達を呼び戻すつもりです」
 大吾と風天の話にさらに驚きの表情を見せる。だが、そういう事ならアリスにとっても彼らと敵対する理由はなかった。
「はぁ〜。それなら良かったよ。ゆきのんに教えてあげなきゃ」
「その前に、だ。そいつをなんとかした方がいいな。こっちへ来なさい」
 携帯電話を取り出そうとしたアリスを冬月 学人が連れて行く。その先には九条 ジェライザ・ローズが待っていた。
「ロゼ、この人の治療を」
「わかった。負傷箇所は……なるほど、火傷ですか。少しじっとしていて下さいね」
 本人は気付いていないようだったが、アリスは先ほど炎を受けた際に手を軽く火傷していた。そこをローズが慣れた手つきで治療していく。
「――はい、これで完了です。……これでもう怪我をしている人はいませんね。学人、念のため私達で山の中も見てこよう」
「そうだな。それじゃあ皆、僕達は先に行かせてもらうとするよ」
 
 
 慰霊碑の広場では雪乃達によって連れて来られた動物達が身体を休めていた。そのそばでは日比谷 皐月がギターを奏でている。
「動物とのコミュニケーションが完了しました。この周囲にはもう凶暴化している動物達はいないそうです」
 ビーストマスターのプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が雪乃に報告する。アリスからの電話を終えた雪乃はその報告を聞き、笑顔を浮かべた。
「そっか〜! 今聞いたんだけど、村の方でも動物達を治してくれてたみたいなんだって。これでもう大丈夫かな」
「そうですね。特に皐月様と淳二様が多くの動物を引き付けた事が幸いしたかと」
「うんうん! 凄かったよねぇ。みんなをつれてびゅ〜んって!」
 賞賛する二人に、近くで小型飛空艇の点検をしていた長原 淳二が謙遜する。
「いえ。俺はただ、俺のできる事をしただけですよ。ところで、隼斗さんには連絡ついたんですか?」
「ぜ〜んぜん! 何回かけても出ないんだよ!? もうっ! 見つけたら絶対とっちめてやるんだから!!」
 余計な事を言ったかと苦笑する。仕方がないので別の提案をする事で話題を逸らした。
「まぁそれは隼斗さんに会った時にという事で……。それより、そろそろハンターの足止めをしてる人達に連絡をした方がいいんじゃないですか?」
「あ、そっか。え〜と、誰に電話すればいいかな〜」
 妨害に向かったメンバーを思い出しつつ携帯電話のアドレスを探す。一連の事件は間もなく収束へと向かおうとしていた。
(この分なら……今回は無駄足になりそうですね。マスター)
 治療薬を携えてこちらに向かっているはずのパートナーに向けて、心の中で合掌するプラチナムだった――
 
 
(良かった、動物達は元に戻ったのね……)
 雪乃からの連絡を受けた漆髪 月夜は無駄に命が奪われなかった事に安堵する。気を取り直してライフルのスコープを覗くと、今なお樹月 刀真と玉藻 前が相手の攻撃を防ぎ続けていた。月夜は足止めと刀真達への信号を兼ねて攻撃相手、霧雨 透乃と緋柱 陽子の二人の周囲にゴム弾を連射する。
(! 『撤退せよ』か……他の組が上手くいったか、状況が変わったか……)
(ともあれ、足止めはここまで。退くぞ、刀真)
(ああ、わかった)
 刀真と玉藻は互いの雰囲気で意思疎通を図ると、相手が足止めを受けている隙に離脱した。月夜も撤退を済ませ、後には透乃と陽子の二人だけが残される。
「あっ、こら! 逃げるな!」
「……見事な退き際ね。それにあの戦い方……ただの殺人犯がああも立ち回るかしら。どう思う? 透乃ちゃん」
「多分殺人犯ってのは嘘だね。何でかは知らないけど私達……いや、ハンター全員かな? それを止めるためにあんな嘘をついたんじゃないかな。多分途中で会った女の子達もグルだと思う」
「何のためにそんな事をしたのかしら。村長が言っていた怪しい男達と関係があるのかしらね」
「どうかな。とりあえず村に戻ってみましょ。あいつらの目的が足止めなら、この先に行ってももう片を付けられてるって事だろうし」
 二人はとりあえず村へと戻る事にした。進む直前に透乃が振り返り、彼らが足止めした道の先を見据える。あの先には確か――
「動物達が大人しくなる慰霊碑、か……。みんなは素敵な場所って言うけど、それって結局は動物達を信用してないって事だよね。自然の摂理を曲げて動物達を抑え込んで――それで本当に動物が好きって言えるのかな……?」
 
 
「裁さん。お楽しみの所悪いですが連絡が来ました。動物達の保護はほぼ完了したそうです」
 ドール・ゴールドがリペア・ライネックと戦っている鳴神 裁の背中に声をかける。雪乃からの連絡にあった通り、この辺りの動物達はあらかた慰霊碑へと連れて行かれていた。
「はいは〜い! それじゃ、ボク達もこの辺でさようならかな?」
「そうですね。頃合いでしょう。狛さん達もよろしいですか?」
「問題ない。では退くぞ、沙耶」
「はいっ、狛様!」
 裁の援護をしていた犬神 狛と月城 沙耶が先に退く。それを確認して裁もリペアから距離を取り、木々の間に消える。
「名残惜しいけどここまでだね、ごにゃ〜ぽ☆」
「失礼します。ごにゃ〜ぽ」
「……やれやれ、逃げられてしまいましたね。すでに動物達は残っていないようですし、実質あちらの勝利といった所ですか」
 戦いを見物していた獅子神 ささらが立ち上がり、なおも戦う意思を見せ続けるリペアの肩に手を置く。
「さ、ワタシ達も帰りましょうか。足りない分はお店に寄って食べていくとしましょう。玲、ミナギさんはお任せしましたよ」
 獅子神 玲が座っている横ではいまだに目を覚まさない山本 ミナギが幸せそうな寝顔を見せていた。時折聞こえてくる寝言から夢の内容が想像できる。
「ん〜……ふへへへ……もっと…………あたしを崇め……ムニャムニャ……」
「ククク、目が覚めたときの反応が楽しみですね。ミナギさんの事ですからリアルで『という夢を見た』くらいやってくれそうなものです、クク……」
 
 
「よしっ、みんなも大丈夫だったみたいだし、後はレラがどうなってるか……ってもう! だから隼斗はどうしたのよー!」
 ハンターの妨害に向かっていたメンバーとは無事に連絡がついたのだが、隼斗だけが一向に電話にでる気配がなかった。憤慨する雪乃を冴弥 永夜がなだめる。
「気持ちはわかるが少し落ち着け。ハンター達に見つかった訳ではないんだろう?」
「あ、うん。アリスはそう言ってたけど……」
「なら今は無事を祈っておけ。こっちが落ち着き次第、俺達も捜しに行くとしよう」
「うん、わかった。……ありがとね、お兄ちゃん」
「ふ……気にするな。『妹』のためだからな」
 永夜が微笑を浮かべる。だが、つかの間の平穏は終わりを告げようとしていた。周囲を警戒していた凪百鬼 白影が戻ってくる。
「永夜、巨大な鳥が近づいてきます。何者かと戦っているようです」
「巨大な鳥? それはもしや――」
「レラ!」
 雪乃が叫ぶ。その視線の先には傷つきながらも周囲の者達に攻撃を加えるレラの姿があった――