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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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第8章「護る為の戦い」
 
 
「オラオラァ! もっと楽しませろ! 殺し合いでなぁ!!」
 小型飛空艇に乗った白津 竜造は風森 巽扮する仮面ツァンダーソークー1の防御をかいくぐり、レラへと攻撃を加えていた。
 対するソークー1はその攻撃からレラを護ろうとするものの、肝心のレラが見境なく周囲に攻撃する事で回避を余儀なくされる。
「レラ! このままでは貴公も傷つくばかりなのだぞ!」
「無駄だ無駄だ! 鳥風情が言う事を聞くかよ!」
 三者の戦いはとうとう慰霊碑の上空へと達しようとしていた。慰霊碑の効果範囲に入ったのだろうか、突如レラの動きが止まる。それは攻撃が止むだけでなく、レラ自身が無防備になる事を示していた。
「隙だらけだぜ! もらった!!」
「しまっ――!」
 ソークー1がレラに気を取られた瞬間を狙い、竜造がその横を突破する。レラへと接近しながら刀を抜き、勢いをつけて振りかぶった。
「――悪いが、そうはさせない」
 だが、その刀はレラへと突き刺さる事はなかった。小型飛空艇に乗った氷室 カイ(ひむろ・かい)が現れ、刀身を蒼色に光らせた刀で受け止める。
「ちっ、また邪魔が入りやがったか!」
 竜造が毒づきながら距離を取る。そこに、地上から追いかけていた篁 隼斗達がたどり着いた。ようやく目的の人物を見つけた篁 雪乃が怒りを表す。
「隼斗! どこ行ってたのよ、このバカ!!」
「げっ、雪乃。それにあれは……カイさん!?」
「隼斗か、遅くなった……。事態はまだ解決していないようだな」
 背後のレラに視線を移す。レラは慰霊碑の効果で凶暴化の効果がある程度抑えられているものの、完全に正気に戻ったとは言いがたい状態だった。今は清浄化と凶暴化の狭間に苦しみながら空を飛び続けている。
「隼斗、お前は全てが終わった時に自分が後悔せずに済むよう、己の信念を最後まで貫き通せ。俺達はその信念を支えよう」
 その言葉と共にカイと竜造が動き出す。同時に放った奈落の鉄鎖が互いの重力を縛り、小型飛空艇ごと地上へと落とした。二人は体勢を立て直し、刀を構えなおす。
「てめぇもあん時に見たツラだな……面白れぇ、くだらねぇ信念ごとこの俺がぶっ潰してやるよ!!」
 竜造が闇黒の闘気をまとい、威圧する。だが、カイの持つ刀もまた闇黒の妖気を持つ物だった。二つの気がぶつかり合い、弾ける。その直後、互いの刀が交錯した。
「グアッ!?」
「…………くっ……」
 踏み込みは互角――両者の力が相手の身を切り刻む。この勝負を分けたのは支える者の差だった。
「カイ、気をしっかり」
 パートナーのサー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)がヒールで癒す。たちまちカイの傷は治り、刀を持つ手に力がよみがえった。
「ちっ、回復だと……? 小ざかしい真似しやがって……!」
「……言ったはずだ。『俺達』が支える、と」
「えぇ。護るために戦う者を護る。それが私の使命です」
「次で決める……行くぞ」
 カイが再び斬りこむ。対する竜造も見事な刀さばきで応じるが怪我の影響は大きく、徐々に相手の攻撃を受け流しきれなくなってきた。そしてとうとう大きな隙が生まれてしまう。
「……もらった!」
「くっ――グハァッ!!」
 次の瞬間、刀が胴へとめり込んでいた。鎧越しに衝撃を受け、大きく弾き飛ばされる。勝負あったかと思われた瞬間、急に煙が当たり一面を取り巻いた。
「! ……これは……」
「煙幕ですね。カイ、お気をつけて」
 カイとベディヴィアが背中合わせになり、奇襲を警戒する。だが、予想された攻撃はなく、代わりに煙が晴れたときには竜造の姿が消え去っていた。
 気がつくと空には竜造を乗せた一台の小型飛空艇が飛び去ろうとしていた。運転をしているガスマスクの男、松岡 徹雄が後ろで気絶しているパートナーを見やる。
(全く、本当にむやみやたらに敵対者を増やす男だ。……まぁ仕方ないか。言って聞くならとっくに矯正されてるだろうからねぇ)
 結局二人はこれ以上の戦闘行為は行わず、そのまま退いていった。遅れて徹雄を相手していた三人が姿を現す。
「あの男め、突然逃げ出すとは……。皆の者、先ほどのガスマスクをつけた男がこちらに来なかったか?」
「織田か。その男ならもう一人の男と共に撤退して行った」
「む、お前は……確か氷室 カイと申したか。……そうか、取り逃がしてしまうとはの。私とした事が詰めを誤ったわ。だが、そうなると残るはレラだけじゃな」
 織田 信長が上空のレラを見る。大空を飛ぶレラはいまだに苦しそうな表情で旋回を続けていた。その飛び方に呀 雷號が些細な違和感を覚える。
「マズいな……翼を傷めている可能性がある。このまま飛び続けているのは危険だ」
「えぇっ!? それは大変だよ! タツミ! レラを降ろす事はできないの!?」
「駄目だ、ティア! とてもじゃないが声を届けられる状態じゃない!」
 苦しみから逃れるように大空を飛び、それがさらに自身を傷つけていく。そんな悪循環を繰り返すレラの下で慌てる者達。その中で桜葉 忍が一つの決意をした。
「……落とそう」
「忍さん!?」
「勘違いするな、隼斗。倒すんじゃない、俺達の手で引き摺り下ろすんだ。……香奈」
「わかってるわ。しーちゃんを信じてる。私が回復するから、レラを止めてあげてちょうだい」
「わ、私もお手伝いします! レラさんの回復は任せて下さい!」
 東峰院 香奈(とうほういん・かな)紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が頷く。忍はそれに頷き返し、再び光条兵器の大剣を構えた。
「隼斗。必ずレラを止めてみせる。だから俺を……俺達を信じてくれ……!」
「…………わかりました。あいつを……レラを、助けてあげて下さい」
「ああ、任せろ。みんな――行くぞ!」
 忍の声と共に皆が動き出す。最初に鬼院 尋人と火村 加夜が氷術で翼を凍らせた。
「これ以上翼を傷つけさせる訳にはいかない! これで!」
「お願い! 隼斗くんのために元に戻って!」
 さらにセシリア・ファフレータが天のいかづちを当てて動きを縛り、カイが奈落の鉄鎖で地上へと手繰り寄せる。
「私もまた遊ぶのを楽しみにしてるのじゃ! だから、止まるのじゃ!」
「レラ、想いに応えろ。あいつの声はお前に届いているはずだ」
 動きを封じられ、高度を落としながらも抵抗を続けるレラ。そこに上空からソークー1が、地上からは跳躍した忍が飛び掛かった。不本意な戦いを終わらせるため、最後の一撃を叩き込む――
「傷つけはしない! だが、これで大人しくしてもらうぞ! ツァンダァァァァァ――!」
「止める……我が一撃よ、閃空となれ! 行くぞ――!」
『轟雷閃!!』
 
 
「香奈、俺に何か手伝える事はあるか?」
 戦いが終わり、広場には静寂が訪れた。今は香奈達がレラの治療に当たっている。幸い竜造に傷つけられた翼に致命傷はなく、ヒールによって治ろうとしていた。いまだに凶暴化の影響は残っているものの、忍達の攻撃で痺れているために暴れだす事はなかった。
「ここは私達だけで大丈夫だよ。それよりしーちゃんは疲れてるんだからちゃんと休んでて」
「わかった、こっちは任せるよ。……とは言ったものの、どうするかな。隼斗はあんなだし……」
 そう言って視線を向けた先には猛烈な勢いで隼斗に怒っている雪乃の姿があった。
「このバカ! バカったらバカ!! 何で一人で行っちゃうのよ!」
「ま、まぁまぁ。みんながハンターの足止めをして、その間に動物達を助けてくれたんだろ? だから僕はレラを――」
「だからって自分だけで行く事ないじゃない! それに危なかったんでしょ!? ちゃんと加夜に聞いたんだから!」
「うっ……」
 先ほどしっかり釘を刺された相手の名前を出されて何も言えなくなる。彼女もそうだったが、目の前の家族も本気で心配をしてくれているのだ。
『それと、雪乃ちゃんに会ったらちゃんと謝っておく事』
 加夜に言われた言葉が頭をよぎる。だが、発しようとした言葉は異質な存在によって阻まれた。
「……なるほどな。邪魔する奴らがいたと思ったら、そういう事か……」
 冷酷な目をした男が広場に姿を現す。さらに遅れて二人の少女がそれを追って来た。
「ちょっとウォーさん! どこまで行くのよ!」
「お二人とも待って下さい! こっちは慰霊碑の――あら?」
 少女達、寿 司とティー・ティーの二人が広場にいる人達の存在に気付く。司の声が聞こえた長原 淳二が男の正体に気付いた。
「……そうか、あの男がウォーレン・マクガイア。でもウォーレンはうちの団長達が武器を奪い取ったと言ってたが……」
 ウォーレンが広場を見渡す。そこにいる動物達は皆落ち着き、凶暴化の事など無かったかのようにくつろいでいた。
「獣を黙らせる効果、か……くだらねぇおとぎ話だ。よくそんなもんを信じたものだな」
「な、何よ! ちゃんと元に戻ってるんだからいいでしょ!」
「フン……なら、そいつはどうなんだ?」
 視線の先には横になりながらも敵意を向けているレラがいた。唯一の例外とも言える存在を前に、雪乃は二の句が継げなくなる。
「山ではてめぇらの仲間に邪魔されたからな……落とし前つけさせてもらおうか」
 そう言って懐から取り出したのは拳銃だった。銃口をゆっくりとレラへと向ける。
「何をするんだ! レラを殺す必要はないだろう!」
「そうはいかねぇ。凶暴化した獣どもは駆除させてもらう。それにな――おい、そこの女」
 隼斗を無視し、ティーへと呼びかける。突然話を向けられた彼女は慌てて返事をした。
「は、はい!?」
「さっき、今回の事件の原因がわかったって言ってたな。何て言った?」
「えぇと……村長さんからの連絡だと確か、ツァンダのペットショップの人達が撃った麻酔銃が原因だ、と。犯人を捕まえた人達が聞き出したそうです」
「それだけじゃねぇ。その麻酔銃、地球の奴らが持ち込んだと言ってたはずだ。違うか?」
「え、えぇ……その通り……です」
「聞いた通りだ。こいつらはな、地球人のせいで苦しんでやがるんだよ、てめぇら地球人のせいでな。……だから俺はこいつを殺す。これ以上苦しまないようにな」
 引き鉄に当てている指に力を込める。最後に贈った言葉は死神の宣告か、はたまた天国への導きか――
「こいつは麻酔代わりに毒の入った特製の弾だ。巨獣相手だろうが苦しむ時間は短くて済む……恨むならパラミタを変えた、地球人どもを恨むんだな」
「! やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
 
 
 引き鉄は引かれ、命を奪う銃弾は放たれた。しかし――
「な……何だと……?」
 その銃弾がレラへと届く事はなかった。直前で射線へと飛び込んだ隼斗が自身の身体で受け止める。麻酔銃とはいえ至近距離で受けた威力は無視できる物ではなく、銃弾を受けた肩を押さえながらその場に倒れこんだ。
「は、隼斗! 隼斗!!」
 雪乃がすぐさま駆け寄り、涙を流す。そこに銃声を聞きつけた九条 ジェライザ・ローズが駆けつけた。
「今の音は!? ……! 大丈夫ですか!?」
「隼斗! 隼斗ぉ!」
「落ち着いて! 私は医者です。彼は銃弾を受けたのですか?」
「ああ、しかも毒入りらしい。頼む、ロゼ。隼斗を診てやってくれ」
 泣いてしまっている雪乃に代わって忍が状況を伝える。友人への挨拶はこの際後回しだ。
「わかりました。――これは……毒性が強い。解毒を行える方、すみませんが手伝いをお願いします」
 ローズがナーシングによる治療を開始する。すぐさま睡蓮とセルファ・オルドリンが名乗りを上げた。
「わ、私も出来ます! お手伝いさせて下さい!」
「私も手伝うわ! ……まさかこんな形で解毒の魔法が役に立つとは思わなかったけどね」
 二人が隼斗のそばに座り込む。三人がかりでの治療により、何とか一命を取り留める事が出来そうだった。
「バカな……地球人のくせに命がけで巨獣を救うだと? ……狂ってやがるのか? こいつは」
 ウォーレンが理解できないとばかりにつぶやく。その疑問に答えたのはベディヴィアだった。
「大切な者を護るために命を賭ける……その事に地球人もパラミタ人もありませんよ、ウォーレン・マクガイア」
「何?」
「彼らもパラミタの者と同じ。善き者もいれば悪しき者もいる……それだけの事です」
「同じだと? ふざけんな! 俺達と地球人ごときを――」
「同じですよ。『かつて地球人であった』私は身を持って知っていますから」
「!」
 地球人を排斥しようとする者達はなかなか直視しようとしない事だが、地球人とパラミタ人の輪廻――因果関係は既に周知の物となっていた。
 地球で死を迎えた者はナラカを経てパラミタで生まれ変わり、パラミタで滅びた者は地球で再び生を受ける。
 そうしてパラミタで新たな命を授かった者。彼らの中には俗にこう呼ばれている者達がいた――英霊、と。
「そうじゃな。人の本質はいつの世でも変わらぬよ。それが例え戦乱の世でもな」
 この場にいるもう一人の英霊、信長が言う。二人の英霊の目にはかつて、どのような人達が映っていたのであろうか。
「……そうかい、わかったぜ。だが、それはそれだ。こいつを生かしておく理由にはならねぇ……眠りな!」
 銃を構え、再びレラを狙う。しかし、二度目の射撃は引き鉄を引く前に防がれた。上空のレッサーワイバーンから飛び降りた紫月 唯斗が銃を弾き飛ばす。
「悪いが、そこまでだ……エクス!」
「うむ!」
 同時にエクス・シュペルティアもレラの近くへと降り立っていた。ケースから治療薬の入った注射器を取り出し、レラへと射ち込む。
「マスター、ようやく来ましたね。……というか、あと5分早く来てください」
 格好良く現れたパートナーにプラチナム・アイゼンシルトがさらっと毒を吐いた。とはいえ、そう思ってしまうのも仕方のない事だろう。
「……そいつはすまなかった。だが、ここまで来た価値はあったみたいだな」
「そうですね。レラの眼が明らかに落ち着いた物になって来ています。この分なら凶暴化の影響もほぼなくなったと見ていいでしょう」
 治療薬の効果は確かにあったらしく、レラは正気を取り戻そうとしていた。巨獣としてのタフさが幸いしたのか傷の治りも早く、痺れさえなくなればまた大空を舞う事も可能になるだろう。
 ともあれ、これでウォーレンがレラに銃を向ける理由もなくなった。最後まで妨害が入った事を憎々しげに思いつつもこの場を立ち去る彼の背中を司が追いかけた。
「ねぇウォーさん。ウォーさんは地球人を嫌ってるみたいだけど、何か理由があるの?」
「……フン、地球人に話す義理はねぇ」
「ひどっ! ……まぁ言いたくない事ってのは誰にでもあるだろうからいいけど。でもね、ウォーさん。あたしは地球とパラミタがつながった事……それには何か意味があると思うんだ」
 今はまだわからないけど、と付け加える司。それを横目で見ながら、ウォーレンは彼女の言葉について考える。
(意味……か)
 あの英霊達の言った事が心の中に残っていたのだろうか。普段からは考えられないような気まぐれ――ウォーレン自身が地球人である司に問いかけを行う。
「おい地球人……てめぇは何でパラミタに来た?」
「え、あたし? そうねぇ……まぁあたしにも色々とあるんだけど、自分の力で名を上げるためかな。あたしの剣で悪い奴を懲らしめてやるのよ!」
 司が意気揚々と剣を振り上げる。得物は違えど、その姿はかつての――
(……へっ)
 首を振ってくだらない思い出を吹き飛ばす。過去は過去、今の自分は金のために淡々と依頼をこなすハンターだ。
「フン、ならもっと剣の腕を磨くんだな。その程度の腕じゃ返り討ちに遭うのが関の山だ」
「うっ……わ、わかってるわよ。こうやって修行を重ねて、いつか絶対に強くなってみせるんだから!」
「そうかい、ならせいぜい頑張る事だな。……じゃあな、寿」
「え?」
 思わず司の足が止まる。二人の距離は次第に離れて行き、やがてウォーレンの姿は見えなくなっていった。
「今、寿って呼んだ……? 少しは認めてもらえたって事なの……かな?」
 そのつぶやきに答える声はなく、今はただ、木々を揺らす風の音だけが耳に届くのだった――