リアクション
エピローグ
「じゃあ彼らは大丈夫なんだな?」
凶暴化事件が解決してから数日後。篁 透矢はと閃崎 静麻と会っていた。シンクに帰ってから事の経緯を知り、ハンターを直接妨害しに行った人達がいたと聞いたからである。
「あぁ、色々と手回しをしたからな。あいつらの行動は犯人が逮捕されてこれ以上駆除の必要がなかったから。ハンターとやり合う事になったのはまぁ……『不幸な行き違い』って事にしてある」
「そうか……色々と悪かったな、静麻。そこまで手を回すのは大変だっただろ?」
「多少はそいつらに借りができたがな……気にするな。必要だと思ったからやったまでだ。……それより、弟の容態はどうなんだ?」
「幸い治療が迅速だったみたいで毒の影響とかも残ってないみたいだってさ。念のためにベッドに縛り付けてるけど、明日には学園に通えると思う」
「それは何よりだ。……しかし、元が麻酔銃とはいえ、拳銃の前に飛び出すなんて随分無茶をしたもんだな」
「そうだな。だから雪乃達を心配させた分、一発殴っておいたけど……隼斗の場合、あそことレラは特別だからな……」
「特別?」
静麻が疑問の目を向ける。透矢は遠くを見ながら話を続けた。
「あの広場の慰霊碑、何のための物だか知ってるか?」
「ああ。確か地球とパラミタがつながった直後に降りた調査隊の慰霊碑だって話だな」
「その調査隊にはパラミタの生態を調べるために生物学者の夫婦が同行していたんだ。その二人が……隼斗の本当の両親だ」
「……そうか。じゃあ弟は養子なのか?」
「半分正解だな。俺も含めて、うちの兄弟は全員今の父さんとは血が繋がってないから」
透矢がしばし目を伏せる。そうして気持ちを切り替えると、話を元に戻した。
「調査隊は何とかあの広場へと着陸して資源なんかを調べる事ができた。でも帰還するために飛び立ったヘリが襲われて一機を残して全滅……唯一残ったその機のパイロットによると、ヘリを墜としたのは巨大な――翼に緑のラインが入った鳥、だとさ」
「!」
この近辺でその外見的特徴を持つ鳥型の巨獣は一羽――レラしかいない。調査隊の活動した時期がおよそ10年前という事を考えると、恐らくレラの親鳥だろう。
「じゃあ何か。弟は両親の仇の子供をかばったって言うのか?」
「そうなるな。もちろんそれまでには色々あったさ。だけど少なくとも今は……あいつはレラの事を本当の親友だと思ってる」
「……それで慰霊碑もレラも『特別』か……」
静麻も透矢のように遠くを見つめる。過去を胸元のロケットに秘めた彼は、隼斗の境遇をどう思っただろうか……。
「これが今日の分です。隼斗に渡しておいて下さい」
篁家の玄関には隼斗のお見舞いに来たエヴァルト・マルトリッツと火村 加夜、そして無限 大吾が立っていた。同学年であるエヴァルトが隼斗が休んでいる間のノートのコピーをまとめて、篁 花梨へと渡す。
「ありがとうございます。皆さんにはこの前もお世話になったばかりなのに……本当に助けられてばかりですね」
「もう、この前も言ったじゃないですか、花梨ちゃん。困った時はお互い様ですよ」
「そうだね。それに俺はハンターとして参加してた訳だし、あそこで花梨さんから電話をもらえてむしろ助かったよ」
加夜と大吾の言葉に花梨が微笑を浮かべる。その横でエヴァルトはふとある事を思い出していた。
(そういえば、九条隊長もハンターとして参加していたらしいな……戦いにならなくて良かったというべきか)
義剣連盟の一員であるエヴァルトが隊長である九条 風天がハンターとして動いていた事を知ったのは事件の後の事だった。もっとも、風天や大吾は序盤から動物達の捕獲に目的を定めていたので仮に出会ったとしても大きな問題は起こらなかっただろうが。
「ところで、隼斗くんはもう元気になりました? 大丈夫そうなら直接お見舞いしたいんですけど」
加夜の申し出に花梨の微笑みが苦笑へと変わる。そして申し訳なさそうに謝った。
「その……それがですね――」
「それじゃあ隼斗はもう心配ないのね?」
慰霊碑のある広場では女の子達が芝生に腰を下ろし、くつろいでいた。その中のユベール トゥーナが篁 雪乃の報告に喜びを見せる。
「うん、ローズさんが昨日家に来てくれてそう言ってたよ。一応今日はまだ寝てるけどね」
「そうなのか。それは何よりじゃ」
『良かったです』
セシリア・ファフレータがウサギを撫でながら安堵する。その隣では柊 レンがいつものようにスケッチブックに自分の気持ちを書いていた。
「その割にはなんか不満そうな顔してるけど……何かあったのか?」
この中で唯一の男である夜月 鴉が尋ねる。それをきっかけにして雪乃が怒りをあらわにした。
「それが聞いてよ! 昨日あたしが隼斗にご飯を作ってあげようとしたら『これ以上ベッドで寝込むのは嫌だから遠慮する』って言ったのよ!」
「……えーと、それって……」
「確かにあたしは料理あんまり上手くないけど……あんな言い方するなんて許せない! 今度絶対に料理を作って食べさせてやるんだから!」
余談だが、料理を止めようとしたのは隼斗だけではなかった。透矢や花梨だけでなく、下の兄弟達も含めた全員が全力で止めにかかっている。――つまりは、そういう腕前だった。
「ま、まぁまぁ。料理は今度作ってあげるとして、今は隼斗さんが無事だった事を喜んであげようよ。ねっ」
ミリィ・ラインドが雪乃をなだめる。身長が同じ事もあり、こうなるとどちらが年上かわからなかった。
その時、かしましい少女達の上空を一羽の大きな鳥が飛んでいった。あれは――
「おお! あれはレラじゃ! 良かった、元気そうじゃな」
「ほんとだ! やったね、おねーちゃん!」
セシリアとミリィが手を取り合い、友の快復を喜ぶ。レラはそんな彼女達に応えるように一度大きく旋回すると、こちらに向かって歩いてきている男の下へと降りていった。
「ん? トゥーナ、あそこに誰かいないか?」
「本当だ。誰だろ?」
皆でレラの陰に隠れた人物を注視する。彼らが動き出し、男の姿が見えた瞬間に雪乃が叫び声を上げた。
「あー! 今日は大人しくしてなさいって言ってたのに! もう……隼斗のバカー!!」
声は天高く響き渡る。空は雲一つなく、どこまでも青い色が続いていた。それはまるで、彼らが出会ったあの日の空のように――
こんにちは。風間 皇介です。
無事に第二作をお届けする事が出来ました。
出来る限りアクションを採用しようと頑張ったら、人数に差があるのに前回に匹敵する文字数に……。
とはいえ何とか期日前に仕上がり、参加された全ての方に称号と個別コメントをお送りする事が出来ました。
今回はたまたま年始で時間が取れたからいいのですが、次回以降はこのボリュームで書こうとすると締め切りが危険な事になりそうです。
その中でどれだけ皆様のアクションを汲み取れるかが今後の課題……ですね。
〜今回の予想外〜
えー、ハンターの方々に説得に対する反応をお願いしたのは良かったのですが……すみません、妨害者サイドの説得要員が0人でした。
(いるにはいたのですが、対ウォーレンの方と、本人がハンターとして参加されてる方だけでした)
むしろ書きあがってみると、戦う気満々な妨害者をハンター側の人間が止めていたり。
こういったガイド作成時には考えても見なかった事態が起こるのが執筆の醍醐味かもしれませんね。
それでは今回はこの辺で。次回また、篁ファミリーの冒険にお付き合い下さい。