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リアクション
第3章
時計が01:00を指した。
センターサークル近辺には、今回の試合に参加する選手達がゼッケンをつけ、審判となる武神牙竜、風羽 斐(かざはね・あやる)、翠門 静玖(みかな・しずひさ)、朱桜 雨泉(すおう・めい)の周りに集まっていた。
センターサークルの中で、武神牙竜は緑色のボールと橙色のボールを掲げて見せた。
「今回のボールはこの2個だ。片方はグラスボール。もう片方はミカンボールと呼ぶ事にする」
「……グラスはともかくミカンはないんじゃないの?」
「カレーとパンダよりはまだマシだって」
選手の間でボソボソとそんな事が話された。
「前回同様、色々と変則的なサッカーだ。例外は色々あるにせよ、スキルは原則、ボールか自分自身にかけるようにしておけば間違いはない。
両チーム選手とも存分に力を発揮して欲しいと思うが、頭に血が上り過ぎないようにして欲しい。戦闘行為や暴力行為は即退場だ。
本イベントは『交流会』という言葉があるように、ただの勝ち負けを競い合うだけでなく、サッカーをきっかけとした参加者同士の交流を主眼としている。相手チームへの敬意は忘れないでくれ。
……それでは各選手、サッカーの試合で充実した一日を過ごし、リア充になって帰ってくれ。爆発するのは試合終了後にするように!
では、両チーム整列……」
「待ってください。確認したいことがあります」
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が声を上げた。
「積み上げた能力や習得したスキルを揮うのは構いません。ですが、装備した物品の使用もよしとするのは、いかがなものでしょうか?」
「? 武器や防具の持ち込みは禁止、キーパーのみ防具の持ち込みを許可、とルールにはあるが?」
「武器や防具のカテゴリーに入らない、『マジックアイテム』でくくられるものについては、何の縛りもありません。互いに力を競い合うスポーツ大会において、装備した『モノ』の力で優劣や勝敗が決まりかねない、というのは納得が出来ません」
「能力やスキルも、入手した各種マジックアイテムと本質的には代わりはありません」
そう反論したのは鬼崎 朔(きざき・さく)だ。
「積み上げてきた経験の中で得た各種装備もまた、『本人の能力』として正当なものではないでしょうか?
むしろ、獲得した各種能力やスキルは、本人が時間やリスク、様々なコストを支払って得た物と考えれば、両者は同じものと言っていい」
「能力やスキルに比べて、入手するアイテムは偶発性に左右されます。運によって強さが変わるのは納得できません」
「運もまた、本人の能力のうちでしょう」
「入手しうるアイテムの差、については少し考慮の余地はあるかもしれないな」
本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が口を挟む。
「モノによってはその有無が試合の行方を左右する事もあった。それは確かだ」
すると、全員の眼が何とはなしに赤羽 美央(あかばね・みお)に向けられた。
「タニア」
赤羽美央は、傍らにいたタニア・レッドウィング(たにあ・れっどうぃんぐ)を促した。タニアは溜息をつくと、足に着けていた「彗星のアンクレット」を外して武神牙竜に差し出す。
「これは味方全員の素早さを上げる装備よ。
個人の能力ならともかく、チーム全体の能力を引き上げる物品は、その有無だけで試合の行方が左右されてしまうでしょうね。
……マジックアイテムの力で勝った、なんて思われるのも嫌だな話だわ」
すると本郷涼介も脚から同じアイテム外して武神牙竜に差し出した後、鬼崎朔を一瞥した。
「これを持っている者が、もうひとりいたはずだな?」
「……鬼崎」
マイト・オーバーウェルムは鬼崎朔を促す。
「何か持ってるんなら出せ。このままじゃ、こっちが勝ってもケタクソ悪くなる」
「……分かりました」
鬼崎朔は不承不承「彗星のアンクレット」を武神牙竜に預けた。
「で、黒さん。そっちはそのままでいいのかい?」
葛葉 翔(くずのは・しょう)が呼びかけた。
「こっちは28人、そっちのフィールドプレイヤーはどう数えても25人……それとも、そいつらも試合に出るのか?」
そいつら、と指さされたのは蓮見 朱里(はすみ・しゅり)、アテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)だ。蓮見朱里は「えぇ〜っ!?」と顔を歪めると、
「あぅ、あわわわ、やめ、やめて下さい私が試合参加なんて絶対ムリ! ムリですってば……!」
と言いながら後退った。
蓮見朱里ほどではないが、魯粛子敬も「勘弁して下さい」と渋い顔をする。
「28対25……人数差としてはさほど極端ではない、というのが審判側の判断ですがね……ん?」
風羽 斐(かざはね・あやる)が実行委員会本部のテント――傍目には喫茶店のカウンターにしか見えない――の方に眼を向けた。
そちらでは、ふたりの女の子が浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)から慌ただしくゼッケンを受け取り、こちらに向かって走り出していた。
片方が「すみませぇ〜ん!」と手を振る。
「遅れてすみませ〜ん! カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)、ただいま到着しました〜ぁ!」
「迷惑をかけて申し訳ない。カレンの寝坊については叩き起こせなかった我にも責任がある。糾弾は甘受しよう」
「ジュレーっ! そんな事言わなくてもいいの!」
「……これで黒チームは27人。頭数なら、事前の申請通りだが……?」
言いながら、風羽斐は今度は近藤 勇(こんどう・いさみ)に眼を向けた。
「こちらのマイトがちょっと試合に出られなくなってな。俺が代わりに出る」
「サッカー経験は?」
「ない……が前に見せて貰った、後は気合いと内なる虎徹のみだ」
「……確認しておくが、前に見たサッカーというのは?」
「無論、前回開催された『蒼空サッカー』という試合だ」
それでいいのか、と風羽斐は誰かに向けて一瞬ツッコミたくなったが、
(……いいんだろうな、もうこれで)
と深く考えるのを止めた。
「よし、時間が押し気味なのでとっとと始めよう。
両チーム整列!」
武神牙竜の号令で、「黒」と「青」の両チームがセンターラインを挟んで並んだ。
「これより、蒼空サッカー・非公式交流戦を開催する。試合中は色々あるだろうが、一番重要なルールである『試合後の遺恨はなし』は絶対厳守!
両チーム、礼!」
「「「「「よろしくお願いします!!!!」」」」」
「ふ、ふ……試合直前に、何かもめていたみたいねぇ?」
実況席についていた刹姫が、含み笑いをもらした。
「どうやら、アイテム使用について選手からクレームがあったようですね」
と、エッツェルが答える。
「前回は紅白両チームに分かれて2対2の引き分けに終わりましたが、白チームが失点を2に抑えられたのは、赤羽美央さんの持っていた『黒檀の砂時計』による所が大きかった。あれがなければ、結果は白にとって惨憺たるものになっていたかも知れません」
「アイテム一個でそこまで成り行きが変わるのねぇ?」
「それもまた『蒼空サッカー』の一面でしょう。もともと『手を使わない』他、普通のサッカーから最低限のルールしか流用されていませんでしたから、『契約者』からすれば色々と穴も多く見えるでしょう。おかげで試合中に禁止スキルが設定されたりなんて事もあって、ルールも未だに流動的なようです。
……かと言って、ユニフォームとゼッケン以外の装備品全面禁止というのも面白味に欠けますしね」
「……ルール上のセーフとアウトの見極めも、プレーヤーにはかなり重要になるわね?」
「スキルキックの威力や効果は図り知れません。フリーキックはお互いにとって致命的ですから、存外にクリーンなプレーになるかもですよ」
「……味方あるいは敵全員に効果を及ぼすアイテムについては、今後の開催でも使用禁止になりそうですね」
マザー・グースがクリップボードに書き付けた。
「円陣!」
葛葉翔の号令で、青のチームが円陣を組んだ。
「これから始まるのは『契約者』の能力やスキルが飛び交うイカれたサッカーになるだろう」
そこまで言ってから、葛葉翔はメンバーを見回した。
前回から引き続いて参加してる見覚えのある顔。今回初めて参加している顔。それらがこちらを注目している。
メンバーの手首には、青いリストバンドが巻かれていた。高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が「パワーブレス」を込め、作って配ったものだった。
「だが、俺達がやるのは『サッカー』だ。ボールを巡ってただ力を振り回すだけのケンカでもなければ、集団戦闘のシミュレーションでもない。
スポーツマンシップにのっとってサッカーをするんだ! いいか!?」
「「「「おぉッ!」」」」
「子供達に見られても恥ずかしくないプレイをしようぜ!」
「「「「おぉッ!」」」」
「いくぞー!」
「「「「おっしゃあぁぁッ!」」」」
両チームの選手がポジションについたのを確認すると、武神牙竜と風羽斐はホイッスルに手をかけた。
「それでは正々堂々と、試合開始!」
笛が鳴った。
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