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第4章



 黒チームは、マイトと、遠野 歌菜(とおの・かな)がミカンボールを蹴り出した。
 同時に後ろに控えていたロランアルト・カリエド(ろらんあると・かりえど)ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)黄 健勇(ほぁん・じぇんよん)飛鳥 桜(あすか・さくら)スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)らが走り出す。
「わぁ。あんなにいっぱい出て来ましたねえ」
 オルフェリアが声を洩らした。
「両チームの方向性がよく分かるな。黒のリーダーはヒャッハーを連発する、もどきイルミンスール生。バトルとなりゃあとりあえず突っ込んで暴れるってのが好きそうなタイプだからな」
 不束奏戯が口元を歪めながら答える。
「あ、青の方もいっぱい出て来ましたねぇ」
「青の方のキャプテンは蒼学のサッカー部部長だ。黒が強引な攻めをしてくるのは予想できただろうから、ディフェンスを固めてカウンターを狙うってのが基本的な戦略だろうさ ……もっとも、ヌルい『戦略』が通じる様な試合じゃないだろうが」

 黒の攻撃ラインの中で何度かパスが回された後、葛葉翔がミカンボールのコースに割り込んだ。
 が、蹴り出された球はロランアルトに拾われる。
「ロラン、こっち!」
 飛鳥桜が右サイドに走り出しながら声を出す。ロングパスが飛ぶ。
 が、再びパスコースに割り込む人影。荀 灌(じゅん・かん)だ。ひとまずボールを地面に転がし、キープした後――
(「ソニックブレード」のカウンター……正面、芦原郁乃に向けて!)
「ザカコ! 正面にスキルパスが飛ぶ!」
 後方にいたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がザカコに声を出した。ザカコは「バーストダッシュ」と「奈落の鉄鎖」で己の身を宙に飛ばした。
「お姉ちゃん! ボール行くよ……!?」
 「ソニックブレード」を蹴り脚に用い、センターラインの向こう側にボールを蹴り出した荀灌は、眼を疑った。
 蹴り出したコース上には既に黒チームのザカコが飛び込んでいる。
 ミカンボールとザカコの軌道が交錯。ふたつの影が宙で互い吹き飛び合い、地面に転がった。
 転がったボールを拾ったのは黄健勇だ。ボールはスカサハに回り、
「18番さん!」
と声をかけながら「ライトニングブラスト」でボールを蹴り出した。
 何本もの稲妻をまとったミカンボールが、火花を散らしながら青チームの陣を貫く。ボールは再び飛鳥桜に向かう。ボールが彼女の足元に転がった時、稲妻が周辺に飛び散った。
「……パス受けるのも、命がけだねぇ!」
「ヤロウども、速攻!」
 マイトが号令をかけた。
 黒の攻撃部隊の中、飛鳥桜、マイト、遠野歌菜、イシュタンらが猛然とダッシュをかける。いずれも「バーストダッシュ」、「軽身功」、「神速」を持っているメンバーだ。
 ラインを上げてきていた青の1次防衛戦が突破される。
「……くっ!」
 同じく「バーストダッシュ」持ちの葛葉翔がボールを追う。
 が、ボールは上に上げられ、上空にいる遠野歌菜がキープに入った。「空飛ぶ魔法↑↑」を使ったのだ。
「ヒャッハー! お前らの技、盗ませてもらったぜェ、白いの! いや、今は青チームだったか!?」
 マイトが勝ち誇った笑いを上げた。

「超速攻……前回のこちらのお株を奪われたか……!」
 藤 凛シエルボ(ふじ・りんしえるぼ)が呟き、舌打ちした。

 客席の前に立ちながら、
「いきなり防衛線が突破されたな」
と驚いたのはエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)だ。
「あんな簡単に抜かれるものかね? 青って。蒼学やら百合園やらのサッカー部員が固まってるんだろ?」
「サッカー部員でダッシュ系スキル持っている人員は、攻撃の方に集中してますからねぇ」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が嘆息した。
「超速攻……『ダッシュ系スキル持ち』が固まってボールをキープし、相手の追撃を振り切りながら一気に進軍する戦術。ご覧の通り効果的ですが、同時に危険も伴います」
「そういうもんかい?」
「そりゃあそうでしょう。
 『ダッシュ使い』は試合全体の要となるので、集中させすぎると他方面の対応が疎かになります。
 ……もっとも、今回の試合では両チームともそういうメンバーを充実させているみたいですので、使い所を間違えなければ防御側には相当なプレッシャーでしょう。しかも、部隊の中には飛行可能な選手までいる。文字通り、戦術はより多面的に、立体的になりました」
「……空飛べるのは、攻撃側だけじゃなさそうだぜ?」

「うわっとっとっと……」
 遠野歌菜は、危ういリフティングをしながらフィールドを見下ろした。
 取り敢えず空を飛んではみたが、自分以外に飛んでいる味方がいない。結局地面にまたボールを蹴り返すか、あるいはシュートをするしかないのだが……
(どこに回そうか……!?)
 見下ろしたフィールドで、一部の青のプレーヤーの背中から光の翼が生えた。直後、それが羽ばたき、まっすぐに飛んでくる。
 秋月 桃花(あきづき・とうか)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)、ふたりの守護天使である。
「……そう言えば、『守護天使』って飛べるんだっけ!」
「ボール回して! 下! 真下!」
 声がかけられ、遠野歌菜は踵でミカンボールを打ち下ろした。
 走り込んでいたイシュタンがボールを拾い、それをマイトにつなぐ。つながったボールをマイトは再び「バーストダッシュ」でドリブルし、一気にゴール前まで肉迫する。
 迎え撃つ青のゴールキーパーは、ルータリア・エランドクレイブ(るーたりあ・えらんどくれいぶ)と――
「赤羽ェ……決着をつけるぜ!」
 「チェインスマイト」がマイトの脚からミカンボールに叩きつけられた。
 二段階の加速を得たボールが真っ直ぐに青のゴールを狙うが、赤羽 美央(あかばね・みお)がそれをがっちりとつかまえる。
 ボールは安芸宮 和輝(あきみや・かずき)へ渡された。
(まずは、クリアしないと!)
 足元に転がったミカンボールを安芸宮和輝はいきなり「ソニックブレード」で蹴り出した。ボールは1次防衛ラインにいたままの荀灌へ回る。
 受け取った荀灌は、同じように「ソニックブレード」のキックで再びカウンターを狙うが、
「緋柱! また正面に飛ぶぞ!」
「任せて!」
 再びコースに人影が割り込んだ。
(!? そんなっ!?)
 コースに割り込んだのは、今度は緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)だ。右脚を高く上げ、ノートラップ、ダイレクトでボールを蹴り返す。
 轟音が鳴り響いた。
 冷気と焔とをまとったボールが彼女の蹴り脚から放たれ――それはタッチラインを割った。

 込められた魔力を彗星の尾のように曳きながら、最初の危険球が客席に向かって伸びていった。
(行かせるかッ!)
 コースに入り込む影。「ダッシュローラー」で滑り込んだ影野 陽太(かげの・ようた)がマシンピストルを向け、「サイコキネシス」でボールの勢いに干渉する。
 トリガーを引く。吐き出された弾幕がボールを粉砕する。が、粉々になった破片にもまだ勢いが残っていた。
 大砲が、散弾銃に変わった。
(守りきる! 絶対にだ!)
 影野陽太が、散弾と化した破片群の前で大きく腕を広げた。
 次の瞬間、彼の前にさらに影が割り込んだ。
 その拳が「シーリングランス」と「ドラゴンアーツ」の動きで、破片を全て撃ち落とした。
「無茶をするのね」
 その影は言った。リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だ。
「ひとりの気合いだけでどうにかなるようなものじゃないわ。この試合の危険球がどれだけ恐ろしいかは、あなたにも想像がつくでしょう」
「だからこそ、見ている人を守るためには無茶をしなきゃいけません。そうでしょう?」
 言いながら、影野陽太は下げているペンダントのロケットを手で探った。
「この程度、ひとりで守り抜けないなら、僕は……!」
「守り抜けないなら、誰かに助けを求めなさい。こっちは警備ができなくて、退屈してる位なんです」

(カウンターを読まれたのは、これで2回目ですね)
 安芸宮 稔(あきみや・みのる)が、荀灌とその前を睨んでいた。
「……彼女は前線の芦原さんのパートナーだ。芦原さんにボールを繋ごうとするのは、事前に情報を集めていれば、確かに読める動きではありますが……」
「黒チームには『行動予測』使いがいるようですね」
 安芸宮和輝が、その疑問に答えた。
「黒チーム11番、ダリル・ガイザック。今回の全選手中、『行動予測』が使える唯一の選手です」
「『行動予測』、ですか……これは相当厄介ですね」
 ふたりは、黒の攻撃ラインの奥にいる長身の青年を見た。

(そうだ……あの11番をどうにかしなければ、俺達は攻められっぱなしのままだ)
 セルマ・アリスもまた、ダリルの姿を睨み付ける。
「『行動予測』使い……どう攻略する?」
 セルマは走りながら考える。答えは出ない。
 逆に、考えるほどに、「こっちが対策を考えていることを読まれてるんじゃないか」と気になり始め、落ち着かなくなりそうだ。