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桜井静香の奇妙(?)な1日 前編

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桜井静香の奇妙(?)な1日 前編

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「そろそろ時間ですわね……」
 腕時計で時間を確認し、ルディは教室を見回した。
「それでは皆さん、ひとまず手を止めてくださいな」
 その言葉で百合園生たちは花器から手を放した。

「ふむ、これはなかなかに見栄え良く生けられましたね」
「4人がかりで頑張りましたぁ」
 メイベルたちの生けたものは、様々な花や草に彩られた4輪の白百合。それぞれが自らの存在を主張しているが、だからといって主張しすぎることは無く、それぞれが可憐に映っていた。
「様々な花や草を無秩序に生けると、結局全ての持ち味が失われるものですが、これはそのようなことはありませんわ。よく頑張りましたわね、お疲れ様でした」
「ありがとうございますぅ」
 ルディに褒められ、メイベルたちはご満悦といった表情を浮かべた。

「2輪の百合が向かい合って、それを他の草花が囲んでいる、ですか……。白百合を向かい合わせたのは、どうしてですの?」
「これは……、私と、……パートナーなんですぅ」
 向かい合う百合の花は、日奈々とそのパートナーの象徴。彼女はそれを表現したかったのだ。
 大切なパートナーであり、恋人である2人。共に向き合い、共に生きていきたい。その思いの具現化であった。
「とても素晴らしいですわ。あなたのような優しい方に想われて、その人はきっと幸せですわね」
「……はい。そうだと……とても、嬉しい……ですぅ〜」
 ルディの言葉に、日奈々は頬を赤らめた。

 ルディが最後に評価する作品は、弓子のものだった。
 弓子が生けた白百合は、片方は草に囲まれ、それより少々離れたもう片方は様々な花で彩られていた。
「何と言いますか……、結構対照的、ですわね……。これは何かしら意味があってのことでしょうか?」
 ルディの問いに、弓子は静香に微笑んだ。
「これは……、私と校長先生です」
「え?」
 驚いたのは静香の方だ。自分は弓子に頼まれて花や草を手渡していただけだったのだが、まさかそのような意味があったとは……。
「離れているのは、私と校長先生の距離。私たちは近すぎてはいけませんし、だからといって遠く離れることもできない。草に囲まれているのは、私自身の人生……。色んな花に囲まれる校長先生との違い……」
「…………」
「別に卑下している、というわけじゃないんですが……、その……、色んな人に慕われている校長先生が、うらやましくて……」
 うまく言葉が出てこない、といった風に、弓子は苦笑した。
「弓子さん」
 そんな弓子の頭を、ルディは優しくなでる。
「死んでしまわれて、百合園の花の1輪になれなかったというあなたの思い、悔しさ、……せめて私だけでも受け止めさせていただきますわ」
「…………」
「でもね、弓子さん。あなたは今こうして私たちと共に1日を過ごしている。死んでしまわれたとはいえ、やはりあなたは静香さんを彩る華の1人ですわ」
「……ありがとうございます」
 目を閉じ、弓子は一言、そう返した。
「皆さんも忘れてはなりませんよ。あなた方は百合園に咲く華1輪。どのようなものであったとしても、花を愛でるという心をお忘れなきように……」
 微笑むルディの言葉と共に、華道の授業は終わりを告げた。

「むぅ、さすがにあの空気でボケさせるわけにはいかなかったのだよ……」
 教室の外でカメラを構えたまま、大佐は渋い顔をしていた。
 だがすぐに気を取り直し、再び見つからぬようにその場を離れた。