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リアクション
――教室棟3F、とある教室。
「……うーん、なかなか切れないなぁ」
久世 沙幸(くぜ・さゆき)が、ベランダへ続く扉の前で呟いた。
扉は溶接されており、接続部を鋸で切ろうとしていたのだ。しかし刃がうまく当てられず、少し引いても多少は傷がつく程度で終わってしまう。
「うーん……難しそうだね」
「そうだねー……」
その後ろではアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)と金元 ななな(かねもと・ななな)がため息を吐く。
扉の向こう側には、非常脱出袋が置かれており、それを使えれば脱出が可能だと思われる。しかしまずこの扉をどうにかしないとそれは難しいだろう。
「……そういえば、なななは何でそんなクリームまみれなの?」
「あははー捕まっちゃったんだー。でもこれ結構美味しいんだよ?」
沙幸に聞かれたなななはそう言って顔についたクリームを手でぬぐい、ぺろりとなめる。
「ふーん……アゾートのその格好について聞いてもいいかな?」
「聞かないで」
心底嫌そうな表情でアゾートが言う。ちなみに彼女の現在の格好はというと【男子用制服】の上に【胸がぶかぶかのビキニアーマー】を装着。顔には【鼻眼鏡】と中々カオスな格好をしていた。
「それにしても、切れないなぁ」
「その鋸じゃ切れませんよ。それ木工用ですからね。金属用じゃないと」
「へー、そうなんだ」
沙幸が感心したように言う。
「そうそう……まあ例え金属用でもあの人がそう簡単に壊せる仕様にしているとは思えませんけどね」
「勉強になったよ……後、聞いてもいい?」
「なんですか?」
「えっと、さっきから話しかけているあなたはどちら様でしょうか?」
そう言って沙幸達が振り返ると、
「あら、気づきました?」
居るはずの無い卜部 泪(うらべ・るい)がそこに居た。
「「「たっ退却ぅぅぅぅぅぅぅ!」」」
沙幸が鋸を放り出して廊下へと駆け出す。その後をアゾートとなななが続いた。
扉をぶち破る勢いで開けて飛び出し、力任せに閉める。
「逃がしませんよー!」
即座に泪が飛び出してきた。
「どどどどどどうしよう!? このままだと追いつかれちゃうよ!?」
なななが言うとおり、泪は3人を上回る速さで追いかけてきている。追いつくのは時間の問題だ。
「もうペナルティは嫌あああああ!!」
アゾートが悲鳴のような声を上げる。
「私に任せて!」
沙雪が懐から何かを取り出す。それは【【2020年お歳暮】サラダ油】であった。
蓋を開け、廊下へと広範囲でばら撒く。
「これで足止めに――」
「なりませんよ?」
泪は壁に向かって跳躍すると、まるで壁を地面のようにして着地し、そのまま壁を蹴ると沙幸達の前に降り立つ。
「「「……うそーん」」」
「これくらい、戦場では必要な技術ですよ」
なんてことないように、平然と泪が言った。
「「「たっ退却ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」」」
3人はそのまま回れ右、そして駆け出し、
「「「ぎゃふー!」」」
自分で撒いたサラダ油で足を滑らせた。
「はい、捕獲っと」
3人はあっけなく捕まった。
「それでは、ペナルティタイムでーす」
「……泪先生、ノリノリ過ぎです」
「と、ところで先生のペナルティってなんです?」
恐る恐る、なななが聞くとにっこりと笑みを浮かべた。
「【ビンタ】です……ああ、安心してください。流石に女の子の顔に傷はつけませんから」
「……どういうこと?」
「こういうことです……動かないでくださいねー?」
そっと、沙幸の顔に手を添えると、
「えいっ!」
上半身を振って、自分の胸を頬に叩き付けた。簡単に言うと【おっぱいビンタ】だった。
「ぶっ!?」
結構な質量を誇る胸を横っ面にかまされ、沙幸がよろける。
「「な、泪先生ぇー!?」」
「さあ、次はあなた達ですよ。ああ、動かないでくださいね? 失敗したらもう一回ですから……これ、結構やるの恥ずかしいんですよ?」
「「ならやるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
2人の悲鳴がむなしく響く。
――そして、アゾートとなななは新しいトラウマを心に刻むのであった。
「はい、終了です」
「……やわらかい感触だったのに、何でこんなに痛いんだろうね」
「それはアレだよ……心の傷だよ、きっと」
「そうだよね……ほっぺ、あんまり痛くないもんね……あはははは」
虚ろな目をしつつ、沙幸とアゾートとなななが呟く。
――その時、スピーカーからチャイムが鳴り響いた。
「あ、もうそんな時間なんですね……それじゃ行きましょうか」
「え? 行くって何処に?」
沙幸の問いかけに、泪はにっこりと笑って答えた。
「制限時間が過ぎたので、ネタばらしですよ」
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