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リアクション
――今から約2時間前に遡る。
――その時の講堂にて
「……どうやら居なくなったみたいだな」
入り口から中の様子を探るエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が呟き、講堂の中へ入る。その後を、黒崎 天音(くろさき・あまね)とブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が続いた。
「しかし一人は捕まってしまったようだな……」
ブルーノが呟く。
「考えても仕方ない。早いところ調べるぞ」
「ところで、気になるところがあるって言っていたね」
天音が言うと、エヴァルトが扉を指差す。
「ああ、やっぱりこの扉だ」
「その扉か……しかし開かぬのではないか?」
「そう見せかけて……実は「横に開くとかだったりしてね」って話を遮らないでくれ!」
悪い悪い、と天音が笑う。
「でも、やっぱり同じ事を考えるんだね」
「ということはそっちもか……まぁいい、何でも試してみるもんさ……ふんッ!」
そうやって、エヴァルトが思いっきり横に扉を引いた。
――あっさりと、扉が横にスライドし、そこから外の風景が映し出される。
「……マジかよ」
思わずエヴァルトが呟く。
「解っていてやったのではないのか!?」
「いや……冗談のつもりでやったんだが。と、とにかくこれで出られるぞ!」
「あ、僕は残るよ」
「天音!?」
「だって、これで逃げたらつまらないじゃないか。もうちょっと中を見てみようと思ってね」
「……お前という奴は」
呆れたようにブルーノがため息を吐いた。
「……まぁいい、俺は先に脱出させてもらうぞ」
「うん、お疲れ」
天音達に見送られ、エヴァルトは外へ足を踏み出した。
――そして、約1時間前の講堂にて。
「……やったか?」
日比谷 皐月(ひびや・さつき)が投げつけた爆弾の煙が晴れると、扉が姿を現した。
「……ふむ、やってないな」
その扉を見てマルクス・アウレリウス(まるくす・あうれりうす)が呟く。
「あー、やっぱ駄目か……」
「爆弾といっても、そこまで威力は高く作っていないからな。仕方あるまい」
「ボクの爆薬が残っていればなぁ……」
非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が悔しそうに呟く。理科室でのイザコザで、折角の爆薬がパーになってしまったのだ。
「でもこの扉……ただの扉ではございませんね」
「うむ、見た目は木材ではあるが……素材は完全に別物であろう」
扉を触りつつアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)とイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が呟いた。
「多分金属だと思いますよ」
爆破の音を聞きつけたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が言った。
「先ほど自分がハンマーで叩いてみたんですけど、感触は金属のそれでしたから」
「ただの金属とも思えませんわ。先ほどの爆弾がいくら威力が低いと言っても、多少は傷が入るはず。けど傷一つついていない……」
「……ボク達の爆弾でも、爆破できたか疑わしいですか」
ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)の言葉に、近遠が考える仕草を見せる。
「どうだそっちは……と、その様子だと駄目だったのだろうな」
皆の顔を見て龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)がため息を吐く。
「残念ながらその通りだ。そっちは何かあったか?」
「いや、隅々まで探してみたが見事なまでに何もない」
「ボクが通れる隙間もなかったよ……」
キャロ・スウェット(きゃろ・すうぇっと)がつまらなそうに言った。
「虫一匹入れない、というのはこのことですかな。僅かな綻びもない……想像以上に手ごわい建物でありますな、ここは」
陳宮 公台(ちんきゅう・こうだい)が一人頷いた。
「扉もそうだが、壁も相当硬い。俺がちょっと斬ってみたが、傷一つつかなかった。恐らく同等かそれ以上の素材が使われているのであろう」
廉が言うと、皆ため息を吐いた。
「でも、やはりこの扉が怪しいですよね。さも『ここから出ろ』と言わんばかりですし。出るとしたらここからになるんじゃないですか?」
南部 豊和(なんぶ・とよかず)が扉を見て呟く。
「けどどうやったら開くんだろうな……電子制御でもしてるのか?」
「どうだろうな……それらしき装置は見当たらんぞ」
皐月の言葉にマルクスが扉を見据えて言う。
「外部に設置されてる可能性もあるが……そこの掲示板は?」
「残念ながらそれもなさそうだ。先ほど豊和を担いで確認したが、特に何も無かったそうだ」
レミリア・スウェッソン(れみりあ・すうぇっそん)が言うと、豊和が頷いた。
「壁にはめ込まれて外せませんでしたし、付近にスイッチや鍵らしき物もありませんでした」
「そうですか……完全に手詰まりですね」
近遠がため息を吐いた。
「……掲示板、か」
「レミリアさん、どうしました?」
掲示板を見つめるレミリアに豊和が問いかける。掲示板の数字は絶えず動き、減っていっている。
「最初のアナウンス……制限時間が過ぎた場合に関しては何も言っていなかったな」
「そういえばそうですね」
「……まさか、ここが爆破されるとかないよな、と思ったんだが」
「……ははは、まさか、ねぇ……」
豊和は笑っていたが、顔が引きつっている。他の者も『無くは無い』と思ったのか、その表情に焦りが生まれる。
「やはりその扉をもう一度念入りに調べてみましょう。何か見つかるかもしれません」
「けど鍵穴も無いし、押しても引いてもびくともしないぞ?」
「……鍵穴も無い、押しても引いてもびくともしない、か」
皐月の言葉を、廉が繰り返すように呟く。
「どしたの、廉お姉ちゃん?」
「……いや、まさかな」
キャロに聞かれるが、廉はただ首を横に振った。
「何か思いついたのですな?」
「いや、何でもないんだ。気にしないでくれ」
公台に聞かれ、自嘲気味の笑みを浮かべ廉が言う。
「何か思いついたなら聞かせて欲しい。今は僅かな情報でも惜しいからな」
マルクスに言われ、廉は諦めたようにため息を吐いた。
「本当にくだらないから笑ってくれてもかまわない……その扉、押しても引いても駄目なのだろう? なら、横に引いたら……なんて事を思っただけだ」
「……はは、まさか、ね?」
皐月が乾いた笑みを浮かべるが、皆何か思うように扉を見ていた。
「……無くは無いと思います。引き戸じゃなかったとしても、左右上下にずれたり回ったりするかも」
「跳ね上げ式、なんてのもあるかもしれないな」
ザカコとレミリアが扉を見て言った。
「とにかく色々試してみよう。今の所手は無いんだ」
「ええ、賭けてみましょう」
ザカコの言葉にレミリアが頷き、ドアノブを握る。
「まずは横に、か……」
レミリアが手に力を入れて、横に引いた。
――がらがら、という滑車が動く音と同時に、ドアはあっさりと横にスライドした。
「……そのまさか、かよ」
皐月が呟く。
「で、でもこれで外に出られますよ。早く出ましょう!」
「そ、そうですね! 皆さん、行きましょう!」
突然の出来事に半分呆けていたが、ザカコと豊和の言葉に正気を取り戻し、皆外へと足を踏み出した。
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