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水中学園な一日

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水中学園な一日

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 やがて装置のある部屋にメンバーが集まってくる。
「私達が最後みたいね」
「着いただけでも運が良いよぉ」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)キリエ・エレイソン(きりえ・えれいそん)が到着する。ドクター・ハデス(どくたー・はです)ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)も、その後に着いてくる。
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が全員の無事を確認した。疲労した者やかすり傷の生徒はいるが、幸いにして大きな怪我を負ったメンバーは居なかった。
「機械のことは分からないから、あたし達は残ったモンスターを警戒してるよ」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は周囲を見張る。
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす) が「まだ暴れ足りないんじゃないの?」と聞くと「ばれた?」とセレンフィリティが舌を出した。 
「これかぁ」
 カガチと美羽が見つめるのは、まさに今回の元凶となった装置。
「これがにっくきフリーメー(略)の機械だなー。よーし、僕が……モゴモゴ」
 カガチはシオン・プロトコール(しおん・ぷろとこーる)の口を塞ぐと「俺達は機械は分からないので、分かる人よろしくぅ」と離れていった。

 装置を取り囲むメンバーから離れて、高柳 陣(たかやなぎ・じん)はガックリと肩を落としていた。お目当てのカニに出会えなかったからだ。
 目論見は不純だったものの、彼なりに懸命に働いたのは事実だ。目一杯剣を振るって、モンスターを追い払った。問題はその相手が魚だったりイカやタコだったりと、肝心の甲殻類ではなかったことだ。
「何のためにここまで来たんだか。これだったら一日寝てた方がマシだったじゃねえか」
 そんな陣にティエンが近づく。
「こんなの見つけたんだけど」と取り出したのは一本のカニの足。その太さは陣の腕と変わりなかった。
「これ……どこで……?」
「お兄ちゃんが戦ってた時、どっかから流れてきたの。会長さんとかに渡した方が良いかなって思ったんだけど……」
 陣は周囲を見る。皆、装置を見ていたり、生き残りのモンスターを警戒していたりと、2人に注目するものはいない。上着を脱ぐとカニ足を包み込んだ。
「お兄ちゃん……」
「ティエン、良くやった」
「良いの?」
「頼む、これだけが目当てだったんだ。見逃してくれ」
 切実そうに頼む陣に、ティエンもカニ足を包んだ上着をしっかりと抱え込んだ。

「壊しちゃえば止まるよな」
 誰ともなく言ったが、それに朱濱 ゆうこ(あけはま・ゆうこ)が待ったをかける。
「外を見てください」
 棟の周囲に何人もの生徒達が泳いでいるのが見えた。
「学園全体ともなれば、もっと多くの生徒が泳いでいると思います。急に水が消えれば、その人達が怪我をする危険性もあります。また建物の中では水流が発生するかもしれません」
「フハハハハ! 朱濱ゆうこの言うとおり! ようやく私の出番が来たようだな!」
 ひと際大声を出したのがドクター・ハデス(どくたー・はです)だった。しかしリカインやキリエの話を聞いた生徒達からは、疑いの目が向けられる。
「このテクノクラート(技術官僚)の手にかかれば、こんな機械のひとつや二つ……」
「アーティフィサー(機工士)は居ないのか?」
「メイガス(賢人)は?」
「こうなりゃウィザード(魔法使い)か、プリースト(僧侶)でも……」
 すったもんだの挙げ句、時間も迫っていることもあって、ドクター・ハデスに任せることになった。ひどい目にあったリカインやキリエは最後まで反対したものの、「とりあえず1回見せるくらいなら」との意見が優勢だった。
「ふむふむ……なるほど……」 
 ハデスは装置をじっくり観察する。そしておもむろに手を伸ばす。
「待って! 操作方法が分かったの?」
「心配ない、我が名は天才科学者、ドクターハデス! 多分、こうだ!」
「多分って、ちょっと!」
 リカインが止める間もなくハデスはつまみを捻る。急ぎキリエが引き離したが、装置は大きな音を立てて停止した。
「大変! 皆に注意するように伝えて!」
 しかし危惧したように、いきなり水が引き始めることはなかった。ゆっくり時間をかけて、じわじわと水位が下がっていく。約1時間ですっかり元通りになった。
「ハハハッ! 天才科学者、ドクターハデスに間違いはない!」
「本当?」
「すみません、偶然です」
 問い詰められると、あっさり白状した。それはともかく、無事収まったのは間違いない。装置停止隊は一部の人を除いて、この場をもって解散となった。

「終わったみたいだねぇ」
「オレ達の出番はなしか」
 研究棟の外では、清泉 北都(いずみ・ほくと)白銀 昶(しろがね・あきら)が様子を眺めていた。万一、棟の外にモンスターが出てきた場合には……との考えだ。しかし意に反して、装置停止隊の活躍は一匹たりとも逃さないものだった。
 ゆっくりと水位が下がる中で、上空から中空、地面へと体が降りる。
「こうして感じると、体って重いんだねぇ」
「言われてみればそうだな。つーか、半日でいろいろ食ったからな」
 言いながらも昶は串焼きをかじっている。
「帰ろうかぁ」
「おう」