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第五章 装置停止隊の活躍

 集められた装置停止隊を前に、東條 カガチ(とうじょう・かがち)は戸惑いを隠せなかった。

 ── どうして……こうなったー? ──

 カガチのすぐ横では、特注品の蒼空学園新制服に身を包んだ小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、装置停止隊のメンバーに状況を説明している。超ミニのスカートからは自慢の美脚がスラリと伸びていた。
「蒼学が水没している状況に集まってくれた皆さんに感謝します! もちろん生徒会長のカガチさんも来ています!」
 いきなり名前を呼ばれてカガチは背を伸ばす。苦手な水中に震えは止まらなかったが、武者震いとでも思われたのか、メンバーから拍手が起こった。
「会長からも一言どうぞ!」
 数十人の視線がカガチに集まる。
「おい、シオンー、どうすれば良いんだよぉ」
「とにかく一歩前に出て……」
 シオン・プロトコール(しおん・ぷろとこーる)がカガチの背中を押す。若干、腰が引け勝ちながらも足を進める。
「拳を突き上げて『いくぞー』とか」
 言われるがままに、カガチが「いくぞー!」と声を出すと、メンバーから「おーっ!」と歓声が上がった。
 力強く右手を突き上げた加能 シズル(かのう・しずる)の肩を秋葉 つかさ(あきば・つかさ)がポンと叩く。
「あっ、つかさ」
「シズル……久しぶりに会いたくなって、来てしまいましたよ……。私も協力させていただきますわ」
「あなたがいれば心強いです」
「そう言っていただけると嬉しいですわ。でも一つ気がかりなことがあるんですの」
「……?」
「もちろんシズルも水着で行くんですよね? まさかそのままの格好で行くなんて許されると思っているんですか?」
「水着……ですか?」
「そう水中で活動するなら、水着が一番ですよ。ほらシズルのも用意してきましたの」
「これは……」
 手渡されたものは水着と表現するよりはベルトくらいの幅しかないものだった。それをつかさは堂々と着ている。周囲の視線を集めているものの、それがつかさにとっては、むしろ快感となっていた。
「さぁ」と言われるがままに、シズルも着替えてくる。2人並んだ光景に、メンバーの男子生徒は、いずれも前かがみにならざるをえなかった。
「よく似合いますよ。シズルの活躍を楽しみにしてますね」
 美羽を中心に攻略方法が話し合われる。
「モンスターは統制が取れているわけでもないから、個別に行っても大丈夫とは思うけど……」
「まず説得をさせてもらえませんか?」
 ルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)の意向を受けて、佐野 和輝(さの・かずき)が提案した。反対意見は出なかったが、積極的に賛成する生徒もいなかった。
「モンスター全部がまとまってるわけでもないし、こっちの全員が言語(各種)が使えるわけでもないからなぁ」
「でも助けたい気持ちはあるんだよね」
「捕獲第一で良いんじゃないの?」
「いや時間をかけて、長引いたら問題だよ」
 メンバー全員で話し合ったものの、簡単に結論は出ない。結局、自信のある人は個別に、そうでない人はある程度まとまって行動することになった。もちろんカガチと美羽はまとまって行動するメンバーを率いることになる。
「じゃあ、みんな、頑張ってねー」
 美羽の合図でそれぞれ研究棟に入っていく。あるものは単独で、あるものは数人でパーティを組んで、そして最後はカガチと美羽を含めた一団。

「しようがない。俺達だけでもやってみようよ」
 気落ちしたルナを励ましながら、和輝達は棟内へ足を踏み入れる。スノー・クライム(すのー・くらいむ)は既に魔鎧となって、和輝がまとっていた。
「いたよ〜!」
 いち早くアニス・パラス(あにす・ぱらす)がモンスターを見つける。イカのモンスターだった。 
「お願いですぅ。私達の話を聞いてくださーい」
 ルナの一生懸命の呼びかけだったが、イカモンスターは勢い良く突進してくる。
「人間に酷い事をさせないと約束させるので、私に協力して欲しいですよぉ〜」
 ぎりぎりまで呼びかけを続けて、危なくなったところで和輝とアニスがルナを引っ張った。
「駄目みたいですねぇ」
 ルナは落胆した。
「聞こえてないのか。聞こえてても、信じてもらえないのか……」
 和輝はルナを見る。
「仕方ないです。でもなるべく優しくお願いしますぅ」
 和輝とアニスは優しくうなずいた。
 アニスが氷の塊を立て続けに作り出す。ひとつは和輝の足場として、もうひとつはモンスターの行動を制約するために。
 突然の障害にぶつかったイカモンスターは、苦し紛れに墨を吐き出す。他の水生動物ならごまかせたかもしれないが、和輝には何の役にも立たなかった。
「……きれいね」
 魔鎧となったスノーがつぶやく。男の和輝にとっては、いささか不本意だったが、誉め言葉としては妥当なものだった。
 精神感応でアニスと連携したことで、足場の氷が絶好の位置に作り出される。舞うようにそこを移動すると、イカモンスターの攻撃は無力となり、死角へと回りこめた。
「私の支援、要らないみたいだわ」
 それほどまでに、和輝は余裕をもった戦いをすることができた。ロングコートの裾を翻らせると、イカモンスターは何もない場所へと突っ込む。
「そこだね」
 博識で弱点を探り当てると、麻酔弾を込めた銃を構えた。
「優しくしてくださいねぇ」
 ルナの言葉を受け止めて、引き金を絞る。狙い違わず、銃弾はイカモンスターに当たった。
 それからもイカモンスターはしばらく泳ぎ回っていたが、麻酔の効果が出る頃には大人しくなった。
「ごめんなさい。ちょっとの間、我慢して欲しいですぅ」
 ルナはモンスターの体をなでる。動かないように最低限の拘束をすると、停止装置へと向かった。

 
「あら? カガチ会長は?」
「言われてみれば……いませんね」
 早々に姿を消してしまったカガチ会長はともかく、蒼空学園副会長の名に恥じることなく、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は棟内を進んでいった。
 強力な助っ人になったのは、美羽とベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が連れてきたガーゴイル。その石化によりモンスター達を拘束しようと策を立ててきた。もちろん最初から高い効果を発揮したわけではない。水中では魚達の方が動きは素早いからだ。
「やっぱり私が囮になるよ」
 美羽自らがモンスターの前に躍り出て注意を引きつける。十分に引き付けたところでバーストダッシュでモンスターから離れる。そこでベアトリーチェがガーゴイルに石化させる。ガーゴイルの配置に工夫するなどして、徐々に効果を高めていった。
「私もやってみてよろしいでしょうか」
 楽しそうに見ていた朱濱 ゆうこ(あけはま・ゆうこ)の申し出に、「気をつけてね」と美羽が任せる。
 モンスターをしっかり引き付けて、バーストダッシュで引き離す。ところが美羽のように上手くはいかなかった。
「危ない!」
 突っ込んできた魚のモンスターを避け損ねる。美羽やベアトリーチェのフォローが間に合わず、大怪我必至かと思われた瞬間、とっさにゆうこが振り回した星のメイスがモンスターの急所にヒットした。
「こんなことってあるんだねー」
 ゆうこの目の前には、魚モンスターがプカプカと浮かんでいる。たやすくガーゴイルで石化させることができた。
「もう一度良いですか?」
 危機一髪の状況だったにもかかわらず、それを楽しんでいる様子がゆうこにはあった。美羽は『大丈夫かなぁ』と思いつつも任せてみる。
「こっちです!」
 ゆうこは次に現れた魚のモンスターを引きつけると、バーストダッシュで攪乱した。
「私には、楽しんでした方が良いみたいです」
 端から見ると危なっかしいが、ゆうこ自身にとっては余力があるらしい。何度目かのバーストダッシュで、ガーゴイルの前にモンスターをおびき出す。今度はたやすく石化させられた。