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水中学園な一日

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水中学園な一日

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 芝生の上では、男子生徒1人と女子生徒3人がお弁当を広げていた。
「今日のメニューは、うどんにサラダにスパゲッティか……」
『暑い夏には蕎麦』と思っていた健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)は、天鐘 咲夜(あまがね・さきや)冠 誼美(かんむり・よしみ)セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)の取り出したものを見て、やや肩透かしを食らう。
「まぁ、嫌いじゃないけど」の言葉はグッと飲み込んで、「美味そうだなぁ」と3人の笑顔がでる感想を述べた。
 もちろん端から見れば、羨ましい環境なのは言わずもがなである。いずれアヤメかカキツバタの3人は、ぞれぞれが魅力たっぷりの水着を着ており、それで文句を言ったら世界中から石が投げつけられても不思議ではない。
 4人で「いただきまーす」とそろって食べ始める。どれも上々の味付けだった。
「こうして水の中でお弁当を食べるのも良いですね! 涼しいです!」
 咲夜が言うと、誼美が「夢みたい!」、セレアは「新鮮ですわ」と感想を述べ合った。
「確かになー、いつもと見る景色と違って楽しいかもー。よし、今日一日、普段は体験できない蒼空学園を楽しもうぜ!」
 勇刃の言葉に、3人とも「はい」とうなずいた。
「ご馳走様でしたー」
 3人のパートナーは勇刃を見る。
「それでこれからどうするんですの?」
 咲夜の問いかけに、勇刃は「いろいろ考えたんだが、ご飯を食べたら勉強だ」と答えた。意外な発言に一瞬間が置かれるものの、「宿題を早く済ませないとなー」と聞いて、勇刃の意図を理解した。
「分かりました!」
 最初に応じたのが咲夜。

 ── 普通ですけど、こういう日常生活が大好きです! 時間が止まってくれれば、良いんですが ──

『あれをしたり、これをしたり』と更なる空想を膨らませて、ポッと頬を赤らめる。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん達勉強熱心だね。よーし、私も頑張る!」
 誼美はガッツポーズをした。
「さすが健闘様、素敵な殿方ですわ。それではわたくしも一肌脱ぎますわ。分からない問題がありましたら、わたくしに聞いてくださいませ」
 セレアは豊かな胸に手を当てた。



 食堂のテラスに置かれた丸テーブルをロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)達が囲んでいる。他の4人は一人前の食事を終える間に、ロアは5人前を平らげていた。
「ふぅ、美味かったー」
 最後の一皿を片付けたロアは、スプーンを転がすと、膨れ上がったお腹をさする。
「ようやく落ち着いたみたいだね」
 イルベルリ・イルシュ(いるべるり・いるしゅ)が言うと、ロアは「おう」と答える。
「でも……もう少しマナーを良くしないと」
 その言葉には「ああ、まぁ」と言葉を濁した。
「グラキエス様の身の安全は保たれたようですね」
 エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)も、いくらか緊張が解けたようにみえる。
「本当のところどうなんだ?」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に聞かれて、ロアは腕を組んで考え込む。
「何でかしらないが、グラキエスが美味そうに見えたんだよなぁ。特にその真っ赤な髪が食欲をそそったんだ」  
「真っ赤な……、オムライスのケチャップみたいなものか?」
「よく分からん例えだが、そんなものかも」
「髪ねぇ……」
 グラキエスが赤毛を書き上げると一本抜ける。
「これも美味そうに見えるのか」とロアに差し出した。
「はは、まさか……」
 などと言いつつも、ロアの瞳にかすかに浮かんだ狂気に、グラキエスは急いで手を引っ込めた。
「私が見るに……」
 傍観していたレヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)が口を開く。
「ロアはもちろん人間なんだろうが、それ以外の何かがあるように思う」
「何かって何だよ?」
「知らぬ。単に長く生きてきた経験と勘によるものだ。それ以上知りたければ研究者にでも調べてもらえば良かろう」
 言うだけ言って、レヴィシュタールは笑みを浮かべる。
「そろそろ教室に…………痛っ!」
 テーブルに出ていたトゲがグラキエスの指先に刺さる。手袋を外すと、傷口からの出血が水中を漂った。
「グラキエスッ!」
 ロアの跳躍は、エルデネストが瞬時に立てた丸テーブルによってさえぎられる。頭からテーブルに激突したロアは力なく滑り落ちた。
「僕達、今日は帰ることにします。ロアを一から教育し直した方がよさそうなので」
 イルベルリはロアを担ぐと、グラキエスとエルデネストに一礼する。レヴィシュタールも会釈して去っていった。
「ロアと会うときは、帽子でもかぶることにしようか」
「それが良いでしょう」
 帰っていく3人を見送って、グラキエスは赤い髪をかきあげた。


 自習室で勇刃はふと考える。

 ── こうして勉強するのって初めて……か? いや、まさか……でもな……、あははは ── 

 考え込んだ勇刃を3人は不思議そうに見つめる。それほど難しい問題かと咲夜とセレアは見るが、そうは思えない。
 それどころか、ノートや教科書すらも開かれてなかった。
「……お兄ちゃん、この問題、分かる?」
 誼美に尋ねられて、勇刃は我に返る。
「あ、ああ、どれ?」
 いつもの勇刃を見て、咲夜とセレアはホッと胸を撫で下ろした。