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リアクション
第三章 執事喫茶の優雅なひととき 1
メインとなる施設を決めてから開発を行うと、必然的にそのメインの施設の客層を意識した街ができ上がる。
執事喫茶を中心としたエリアは、他のエリアとは多少違った、ネオ秋葉原というよりネオ池袋的な感じの街ができ上がっていた。
「……と、このようにするわけです。わかりましたか?」
「むっ、それぐらいわかるぞ! な、ミミィ?」
「はいでしゅ。それぐらいわかるのでしゅ」
奥の控え室でそんなやり取りをしているのは、ミラ・ファートゥス(みら・ふぁーとぅす)とカイナ・スマンハク(かいな・すまんはく)、そしてカイナの頭上に乗っかっているミミィ・スマンハク(みみぃ・すまんはく)である。
普通に考えればこの顔ぶれの中で一番執事に向いているのはミラなのだが、あくまで執事として働くのはカイナであった。
これもカイナとミミィの二人に色々な経験を積ませたいというミラの親心だったのだが、その親心がだいぶオーバーランしてしつこくあれこれ確認をとってしまうのだから、カイナたちにしてみればたまらない。
「それ以上何か言ったらぜっこーだからな」
「でしゅ」
絶交!
その言葉に思いっきり固まるミラ。
さらに、機嫌を損ねたカイナのとばっちりが、心配で一緒についてきた蘇我 英司(そが・えいじ)にも向かう。
「カイナ。少し、だな。そのっボタンは閉めた方が」
そのお子様な言動からあまり女性らしさは感じられないカイナであるが、実は胸は人並み以上にあり、従って男装するとなるとこれが結構邪魔になる。
それに対するカイナの解決策は、非常にシンプルに「胸元を大胆に開けてしまう」ことだった。
もちろん、見栄えや客層を考慮するなら、これは決して上策ではないのだが。
「む。えーじもうるさいぞ。それ以上言ったらぜっこーだ。いー!」
「いー、でしゅ!」
口下手な英司が勇気を振り絞ってアドバイスしたというのに、この仕打ち。
当然のごとく彼もミラと同じかそれ以上のショック受けて固まったことは言うまでもない。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
洗練された物腰で接客を行っているのは、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ) とエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)である。
「この花は、素敵な貴女の為に」
そう言いながら、赤と白のバラ一輪ずつで作られた小さな花束を差し出す仕草がこの上なく様になっている。
ちなみにこの花束、「温かい心」や「和合」を表しているとのことで、最初はエースが自分の考えで始めたものであったが、後に他の執事たちにも広まり、この店の名物サービスの一つになった。
ともあれ、端正な顔立ちのエースと、どちらかというと優しげな面立ちのエオリアという対照的な二人が、時にさりげなく、時にはっきりわかるように協力しながら接客している様は、一部の「お嬢様」にとっては非常に好評であった。
これだけピッタリ息が合っているということは、二人の「特別な関係」を想像、というか妄想させるには十分すぎたからである。
まあ、実際二人はパートナーであり、それはそれで特別な関係と言えなくもないのだが……彼女たちが妄想しているのがそういうことでないのは言うまでもない。
「お待たせいたしました、お嬢様」
エースとエオリアが美青年なら、美少年枠で人気を博しているのが本郷 翔(ほんごう・かける)。
しかし、彼はただの執事ではなく、商人のメンタリティーも兼ね備えた切れ者なのである。
「ところで、ちょうどアップルケーキが焼き上がったところなのですが、よろしければいかがでしょうか」
お客さんに満足してもらうことを第一としつつも、厨房や周囲の様子をよく観察し、絶妙なタイミングで提案することでうまく追加オーダーを勝ち取るその姿は、経営者側から見ると誰より頼もしい。
「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」
もちろん、やりすぎればどちらにとってもマイナスになりかねない手法ではあるが、そうなっていないのはひとえに「あくまでお客様の満足が第一」という軸がぶれていないおかげであろう。
「……どうにも苦手な雰囲気だな……」
ほぼ女性客で埋め尽くされた店内を見ながら、高円寺 海(こうえんじ・かい)は一つため息をついた。
「まあ、こういうお店ですからね。仕方ないことでしょう」
料理を手伝いながら答えるミラに、海はもう一度ため息をつく。
「いや、わかっちゃいるんだが……」
と、そこへカイナが駆け寄ってきた。
「海! 俺なにしたらいいんだ?」
「何って……まあ、最初はみんなのやってることを見て覚えるしかないだろ。頃合い見て適当な仕事降るから、それまでは見て勉強、だ」
「そうか。頑張って、立派なひつじになるぞ!」
「……いや、『ひつじ』じゃないから……!?」
苦笑しながらツッコミを入れる海だったが、その瞬間、背中に刺すような視線を感じた。
あわてて振り向いてみると……ついさっきまで固まりっぱなしだったはずの英司がいつの間にか復活し、こちらを睨みつけてきている。
(勘弁してくれ……)
まさに泣きっ面に蜂の状況に、海は軽く頭を抱えたのだった。
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