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リアクション
第四章 千客万来・メイド喫茶 1
やはりというべきかなんというべきか、一番人気は王道のメイド喫茶だった。
で、まあ、店員さんもいっぱい集まったのだが、いっぱい集まると、それだけいろんな人がいるわけで。
「え、マスク被っちゃダメなの!?」
しょっぱなからぶっ飛んだことを言っているのは結城 奈津(ゆうき・なつ)。
「覆面レスラーに対して、魂でもあるマスクを被る事を禁じるなんて……」
ここはプロレス喫茶ではなくメイド喫茶である。そもそもプロレス喫茶なんてものがあるのかどうかは謎だが。
「いいだろう。プロレスラーはその程度の困難からは逃げない! 屈しない!」
逃げず、屈さず、メイドにならず、あくまでメイド服姿のプロレスラーとして働くことを選んだ奈津であった。
「うぅ……なんで僕がこんな格好を」
パートナーの九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)の陰謀(?)により、なぜかメイド喫茶で働くことになってしまった冬月 学人(ふゆつき・がくと)。
もともと端正な顔立ちであることもあり、ウィッグまでつければそれ相応に見えないこともない、のだが。
「だいたい潜入って言うけど、こんなに背の高いメイドさんがいるかっ!」
そう、身長188cmはさすがにメイドさんとしては不自然である。
もっとも、170cm台後半から180cmくらいまでのメイドさんなら、このお店に限れば実は結構いたりするのだが。
というか、このお店、メイドさんとして勤務している「男性」の比率が、実は結構高いのである。
「よりによってなんで自分まで……」
隣で同じくため息をついているのは、アイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)、こちらも身長180cm。
こちらも華奢な体つきが功を奏してか、それなりにメイド服もさまになっている。
「あっ、いたいた! アインー、明るく、笑顔でいこうねー☆」
そんなアインに駆け寄ってきて、にっこり笑いながら軽く頬をつねってみせたのは岬 蓮(みさき・れん)。
「ほっぺをつねるな……しかし、蓮は楽しそうだな」
「うん! 私、一度メイドさんになってお客さんにお茶を入れたり、楽しくおしゃべりしたりしてみたかったんだ!」
屈託なく笑うその様子からは、彼女が本当に楽しんでいることが見て取れる。
「アインも、冬月さんも、もっと笑顔で楽しく、がいいよ!」
そう言われては、二人も一緒に笑うより他なかった。
「笑顔か……そうだな、こういう時に、笑顔でいた方がいいよな」
「そうだね……しかし、それにしてもロゼはどこに……?」
学人を巻き込んでおきながら、姿を現さないロゼ。
そんな彼女の活躍はあと数ページ後に乞うご期待である。
「だから何で俺がメイドなんだよ、お前のが似合うだろ」
学人と同じく、ライオルド・ディオン(らいおるど・でぃおん)もまたパートナーのエイミル・アルニス(えいみる・あるにす) にうまく騙されてメイド喫茶の仕事を引き受けさせられていた。
まあ、いくらエイミルを信用しているとはいえ、内容も聞かずに二つ返事で契約をしてしまうライオルドもライオルドなのだが。
「だからあたしもメイドさんで出るって言ってるでしょ?」
「それならそれでいいだろ。俺は裏方でもやるから……」
どうにか裏方に活路を見出そうとするライオルドだが、残念ながらその逃げ道はすでにエイミルに塞がれている。
「ダメダメ。ホールの方に人が足りないんだから! ほら、これに着替えて!」
エイミルが持ってきたのは、ふわりとしたロングスカートのメイド服である。
「それじゃ、着替え終わったら来てね!」
戸惑っているうちに、エイミルに更衣室に押し込まれてしまう。
こうなった以上は、ライオルドも覚悟を決めるより他なかった。
そしてさらにもう一人、紅護 理依(こうご・りい)もパートナーのビスタ・ウィプレス(びすた・うぃぷれす)にはめられたクチである。
「飲食店の従業員とは聞いてたけど……まさかメイド喫茶だったなんて……」
教訓。相手がパートナーであれ誰であれ、確認すべきことはしっかり確認すること。
ともあれ、「いろんな人」の中には、ぶっ飛んだ人ばかりいるわけではない。
「これでよし、と……」
開店前から店内の掃除に余念がないのはヴァイシャリー仕込みの本格派職業メイド・高務 野々(たかつかさ・のの)。
「メイド募集」と聞いて来てみたらだいぶ話が違った、と最初は肩すかし気味だったのだが、すぐに気を取り直して「自分の仕事」を開始したのである。
曰く「いわゆる萌えサービスについては偏った知識しかないので他の方にお任せします」とのことであったが、時にさりげなく他のメイドのフォローに回ったり、また他のメイドたちが動きやすいように細かいところでいろいろと気を効かせておいたりといった格の違いを見せ、数日後には「メイド長」と呼ばれて多くの店員から頼りにされる存在となるのであった。
そして本物のメイドと言えばもう一人、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)を忘れてはならない。
給仕の家系の出であり、野々と同様に「一流奉仕人認定証」も所持する彼女であるが、彼女は野々とは別の選択をした。
「お帰りなさいませご主人様っ。ジャンケンサービス実施中です!」
事前にいろいろな漫画やアニメ、そして「いわゆる萌えサービス」の研究も行い、先頭に立って接客することを選んだのである。
「カフェラテアートのサービスも受け付けております☆」
結果として、確かな職業メイドの技術に裏打ちされたサービスはかなりの好評を得たのであった。
ところで、一番人気ということは、もちろん一番目立つということでもあり、POAに狙われる可能性も一番高くなる。
その妨害は手を替え品を替え、時にはこんなこともあった。
「おい! オムライスにカプシカム・アニュームが入っていたぞ!」
その聞き慣れない言葉に、周囲が急にざわつきだす。
一体何が入っていたというのかと、不安そうな表情を浮かべる客たち。
対処しようにも、クレームの内容が理解できなくてはうかつに手を出せない。
と、そこに立ち向かったのは、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)であった。
「はいはーい、ご主人様。確かに入っておりましたが……お嫌いでしたでしょうか?」
あくまで笑顔で、明るくノリよく対応するさゆみ。
「学名、カプシカム・アニューム。通名ピーマンが」
その言葉に、クレームの主とさゆみ以外の皆が一瞬ぽかんとした顔をし、やがて周囲の客が我慢できないといった様子で笑い出した。
「人は何だかわからないものを本能的に恐れる」ということを利用した、知的と言うよりは陰湿な妨害だったのだが、タネがバレてしまうと一転して「ただのピーマン嫌いの男」という情けないことになってしまい、逆に周囲の失笑を買ってしまうのである。
「くっ……」
クレームをつけていた「ご主人様」が、その直後にすごすごと「出発」していったことは言うまでもない。
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