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リアクション
第四章 トラブル発生
「これが魔道書かー。案外簡単に手に入ったねー」
「見る目のある者は少ないのだろう」
ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)とシメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)は、飲食コーナーの隅で買ったばかりの魔道書を見ていた。
「魔道書であれば、発動する鍵なり呪文なりがあるはずじゃん」
「それよりはまずどんな効果があるのだ?」
博識や召喚者の知識を動員させ、首っ引きで魔道書を読んでいく。
「ひとつは血か……、ま、ありがちだ」
「それに……これは何だ? 牛? 馬? ……いやヤギか?」
魔道書に夢中になっているゲドー達の側にカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)とジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が腰掛ける。小さな2人は、揉みくちゃになりながらも会場を散策してきた。
「カレンは何にする?」
「冷たいのが良いな、アイスミルク!」
ジュレールがアイスミルクを2つトレイに乗せて戻ってくる。
「痛っ!」
「どうした?」
「トゲが……」
テーブルの端に出ていたトゲで、カレンが指先を傷つけてしまう。
「見せてみろ」
「あっ!」
伸ばした指先から落ちた血が、アイスミルクに落ちた。
「このくらい大丈夫だよね」
飲もうとしたカレンをジュレールが「ばい菌が入ってるかも」と止める。
「ごめんね」
「買いなおせば良い。それとも我と半分ずつ飲んでも良いだろう」
ゲドーが「わかんねー、何か買ってくるよ」と勢い良く立ち上がる。
腰がぶつかったテーブルが傾いて、カレンのアイスミルクのカップを倒した。流れたミルクが魔道書にまで流れる。
「うおっ!」
一瞬、激しい光を放つと、テーブルの上にあった魔道書は、小柄な女の子へと姿を変えた。
「どうしてボクが? もしかして魔道書?」
女の子はカレン・クレスティアそっくりだった。しかも何も身に着けていなかった。
「こいつはおもしれー」
ゲドーはニヤニヤ眺める。
「どうして発動したかはわからんが、使い道はありそうだ」
手を伸ばしてカレンの姿をした魔道書に触れる。またしても強い光を放って、今度はゲドーの姿になった。
「おもしれーってか、これは俺様じゃねーか。さすがにまずいぜ」
当然全裸であり、何事かと集まりつつある中から悲鳴が上がった。
「まずい! シメオン、触ってみろ」
「もっとまずくなるのではないか?」
「良いからこれも経験だよ。救世主サマ」
シメオンが手を伸ばしたけれども、魔道書は体をかわして逃げ出した。
「大変! 知らせなきゃ!」
カレンは慌てたが、ジュレールは冷静に押しとどめた。
「誰に?」
「誰にって……誰だろう」
「騒ぎになれば誰かが駆けつける。魔道書であればなおさらだ。それより発動したのは……」
ジュレールはテーブルに広がったミルクを眺める。
「……これか」
「ボクの血も原因かも」
「……であろうな。それについては気になる噂を聞いた。蒼空の山葉校長に伝えた方が良いだろう」
飲食コーナーから駆け出した魔道書ゲドーは会場へと飛び出す。
悲鳴と歓声とが上がって、魔道書ゲドーの行くところ、人ごみがぱっくり割れた。
「そこ、何やってるの! 古本まつりを邪魔するヤツはこのプロレスラー奈津が許さないぜ!」
エプロンを脱ぎ捨てた結城 奈津(ゆうき・なつ)が魔道書ゲドーに立ちはだかる。逃げ出そうとした魔道書ゲドーの腕をつかむと、魔道書ゲドーは魔道書奈津へと姿を変えた。
「えっ! どうして?」
そっくりな2人が向かい合う。
「あたしがあたし? って何で裸なのよ!」
奈津はとっさに自分の上着を着せようとしたが、魔道書奈津はすり抜けると、背後から奈津にタックルをかけた。かろうじて奈津は受け流す。
「やるじゃない……って、服着てよー! これじゃあ、あたしが露出狂みたいじゃないの!」
「むっ!」
「聞こえたか?」
本の散策を続けていた芦原 郁乃(あはら・いくの)と蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)。彼女達の荷物持ちであるアンタル・アタテュルク(あんたる・あたてゅるく)とラルフ モートン(らるふ・もーとん)は足を止めた。
少し離れたところから聞こえた悲鳴の中にプロレスラーの言葉を聞いて取った。
「プロレスとなれば……」
「オレの出番だ!」
郁乃とマビノギオン、そして本の山を取り残して、悲鳴の上がる方向へと走った。
「ちょっとー」
郁乃も向かおうとしたが、マビノギオンは「いずれ戻ってきますよ」と止めた。
「あそこだな」
「いくぞ!」
アンタルとラルフは一段と大きな声が上がっている輪の中に踊りこんだ。強引に人込みを掻き分けると、2人の少女が四つに組んでいた。
「双子か? しかしなんともハレンチな」
「いや、古代のパンクラチオンは裸で戦ったと言うそうだ。伝統に戻ったのかもしれん」
「すると手を出して良いものかどうか……」
「うむ、難しいな」
歓声ばかりになった人垣の中央で、奈津と魔道書奈津は睨み合っている。
「あーん、あたしの清純なイメージがー」
そうしたイメージがあるのかどうかは不明だが、奈津は魔道書奈津に必死に服を着せようとしていた。
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