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リアクション
「うー、遅い!」
時間になっても現れないアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)を待ちかねたルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)は、心当たりを探してまわる。
「貴様、こんな所におったのか」
アキラは想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)の店で漫画や小説を探していた。
「あれ、ルーシェ。もうそんな時間?」
「やはり気づいておらなんだのか…て、なんなのじゃその大量の書物は」
「ああこれ。面白そーな本があったからみんな買っちゃった」
背負ったリュックはパンパンになった上に、両手に大きな紙袋を下げている。
ルシェイメアがチラリと紙袋を覗くと、ピニールパックされた18禁本が見える。
「全く男共はいつの時代でも、衰えんようじゃな」
「見なくったっていいだろ」
「だったら上手く隠しておけ。掃除の度に見せられるわしの立場にもなってみよ」
「程ほどに買ってるつもりなんだけど」
それでも夢悠の店で漫画を5冊購入した。
「つもりではない。どこにそんなに置いておくつもりなのじゃ。また部屋が散らかるじゃろうが」
「いーじゃねーか別に。欲しかったんだから。それにここを逃したらもう手に入んねーかもしんねーだろ」
「じゃからと言って何も一度にそんな大量に買う必要もないじゃろうが」
言い争いは続いたが、仲良く肩を並べて帰っていった。
ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)は『題名が面白そうねぇ』と手にした小説にはストラップが付いてきた。
「あうー! アキュートーーーォ!」
いきなりしゃべりだしたストラップにも驚いたが、それを追っかけて出てきた長身の丸坊主な男にはもっと驚いて叫んでしまう。
「ルーシェリア殿、どうした?」
駆けつけたアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)が剣を抜こうとしたが、出てきた男が平身低頭したので、すぐに収まった。
「ストラップかとぉ、思ってしまってぇ」
そう聞いたアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は笑い出し、間違えられたペト・ペト(ぺと・ぺと)は唇を尖らせる。
ルーシェリアが撫でると機嫌が直ったものの、再びルーシェリアの手にくっついた。
「しかしペト、今日何回目だ」
「ペトは悪くないですよ。くっついちゃうのは仕方ないです。ペトがお菓子が大好きなくらい仕方ないです」
「なんだよ、その理屈は」
「それでは自分が切って差し上げましょう」
アルトリアが冗談半分で剣を構えると、ペトはアキュートの陰に隠れる。
「で、どんな本なんだ?」
「あ、これですぅ」
ルーシェリアが見せた本は『飛べない豚は今日も泣く』だった。
「ブタさんは飛べなくても良いと思うのですよ?サカナが泳げないよりずっと……」
アキュートはペトの頭をコツンと叩く。
「許してやれ、ペト。あいつなりに悩んでるんだ」
やっぱりアキュートの指にくっつく。
「ボクはこれを……」
アキュートのもう1人のパートナー、ハル・ガードナー(はる・がーどなー)は『大死病図鑑派弐緯過多露愚(オーシャンズカンパニーカタログ)』を持ってきた。
いかにもロボットな見慣れない外見にルーシェリアもアルトリアも興味津々だ。
「コレ、図鑑って字が入ってるよ?」
「図鑑的ではあるが……」
やっぱり元に戻させた。
アキュートは『飛べない豚は今日も泣く』をルーシェリアに返すと、頭を下げて出て行った。
「いろんな人がいるんですねぇ」
「本当です」
健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)とアニメ大百科 『カルミ』(あにめだいひゃっか・かるみ) は今日の収穫を抱えて歩いていた。
「大漁だったぜ」
「さすがお祭りだけありますね」
2人共ホクホク顔を隠さない。
「当分寝不足になっちゃいそうだ」
「カルミもです」
楽しく話していた勇刃が不思議そうな顔をする。カルミも勇刃の見ている方に顔を向ける。そこには女の子が1人うなだれていた。
勇刃がそっちに向かって歩き出す。
「はわ?どこに行くのですか、ダーリン? おお、困っている人を助けるのは、ダーリンらしいのです! 憧れるのです〜しびれるのです〜」
気になった勇刃が話しかける。
「一体どうしたの?」
「あ、あなたは……健闘先輩!健闘先輩じゃないですか!」
話しかけられた藤原 歩美(ふじわら・あゆみ)の顔が明るくなる。
「あれ? 俺のこと知ってる?」
「いえ、学校で何度かお見かけしたくらいです。藤原歩美って言います」
「ふ〜ん、歩美か。なぜそんなに落ち込んでいる? 失恋でもしたの?」
笑いながら勇刃が言うと、「はい」と答えられて勇刃が慌てる。しかしよく聞くと、本を買えなかったとの理由が分かる。
「分かった。俺がお金を出すから、心配するな」
「いいんですよ、これぐらい自分で払いますから」
「払えないから、そんなとこにいるんじゃないのか?」
「さすが先輩!カッコイイです! ありがとうございます!この恩、いつか必ず返します」
歩美は本を買うと大事そうに抱えて走っていく。途中何度も何度も勇刃に頭を下げた。
「恩を返す、か。大袈裟だな。まあ、気持ちだけは嬉しいぜ」
戻ってくるとカルミが「ヒューヒュー」とはやし立てていた。
「しかしなんで俺の名前を知ってたんだろうなぁ」
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)の姿を認めたロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)は「いたー!」と叫んでとびかかろうとした。
しかしイルベルリ・イルシュ(いるべるり・いるしゅ)に足首を捕まれ、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)に通せんぼされて、あえなく粉砕した。
結局、晩御飯をご馳走になるとの約束で、荷物持ちをさせられることになった。
「別に晩飯じゃなくても、肩をひとかじり、いや指の先っぽだけでも……」
ぶつくさ言うロアはドコへやら、グラキエスとベルテハイトとイルベルリは本の話題で盛り上がった。
しかし実際に購入する時になると、ロアのトレジャーセンスや嗅覚は非常に頼りになる。
ベルデハルトの経験に伴う判断力を凌駕することもあった。
そして最後はエルデネストの出番である。
アメとムチを使いまくって、少しでも安く、そうでなければしおりでもブックカバーでもオマケに付けさせて買いまくった。
蔵書の回収に務めていた源 鉄心(みなもと・てっしん)は、回収が無事進む中、ティー・ティー(てぃー・てぃー)とイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)とで会場を見てまわっていた。
「あーっ!」
何事かと鉄心が見ると3方から自分たちに向けて走りよってくるのが分かった。ティーとイコナを抱えあげると、残った1方向に走り出す。原因は分からないが、一度に大勢を敵に回すのは危険すぎると判断しての行動だ。
しかし2人を抱えての逃避行はすぐに行き詰まる。あっと言う間に追いつかれてしまう。
「キミ達、一体なんだ!」
2人を背後に回すと、敵わないまでも戦闘態勢をとる。
追っかけてきた方も、いつの間にやら人数が増えていたのは予想外だったようだ。互いに「俺は」「私は」と言い合っている。その内にどうやら話がまとまったようで、その中の1人佐野 和輝(さの・かずき)が話しかけてきた。
「いきなり追いかけてしまって申し訳ない。俺たちどうやら目的は一緒みたいなんです。実は料理本を探していて」
「料理本?」
鉄心は後ろで隠れている魔道書を見た。
「イコナのことか?」
追いかけてきた8人が「そうです」とばかりにうなずいた。
「売ってるわけじゃないぜ」
「いえ、料理の魔道書と言うのが珍しくて……、それでつい」
8人の中の3人が大きくうなずく。
「料理の魔道書って言っても、大したこと書いて無いぞ」
それを聞いたイコナが「余計なコト言うな」と鉄心のお尻をパンパンと叩く。
「どうする?」
「わたくしだって立派な本ですわ。見たいのであれば構いません。ちょっと恥ずかしいですけど」
本に戻ったイコナを、料理本を探していたクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや) とアニス・パラス(あにす・ぱらす)と奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)が興味深そうにページを繰った。
「本当に申し訳ない」
「追っかけるのに夢中になってしまって」
鉄心にエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)と佐野和輝が代わる代わる謝罪した。
「でも本に夢中になる気持ちはわかるよね」
雲入 弥狐(くもいり・みこ)がフォローする。マスターの沙夢はコピーもできないと、気に入ったレシピを一生懸命手で書き写していた。
アニスは『こんな機会は滅多にない』とばかりに登場するレシピに隅から隅まで目を通していた。
クマラはレシピに夢中になるあまり、お菓子のレシピのページになると、よだれが落ちそうになる。
その度にイコナが「キャー!」と悲鳴をあげた。
「おーい、イコナを汚さないでくれよ」と心配した鉄心が声をかける。
「ごめん、オレ……つい」とクマラは口元を拭った。
「イコナちゃんにモテキ到来かも」
ティー・ティーの言葉に笑い声が起こった。
「ちょっと! どこに行ってましたの!」
ようやく想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)の店の前で再会した雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)の第一声がそれだった。
高円寺 海(こうえんじ・かい)は『ようやく会えた』と『また会っちまった』の気持ちが交錯する。
しかも友人である杜守 柚(ともり・ゆず)と一緒なのが気に入らないようで、雅羅の機嫌は最悪だった。
雅羅に声をかけようとした夢悠は、きびすを返して店の中に逃げ込む。
「ごめんなさい。一緒に探そうって私達が……」
「そう、ご苦労様。ではここで結構ですわ、元々私達が約束してたんですから」
握っていた柚の手を振り解いて、海を連れて行こうとする。
「そんな言い方はないだろ!」
海が雅羅の手を振りほどく。
「一緒に探してくれたんだぜ!」
「海は一緒でも、私はずっと1人でしたのよ! それなのに……」
雅羅は紙袋を突き出した。
「あなたのためじゃありませんけど、選んでおいたの。読みたかったら読みなさい」
雅羅はそれだけ言って、顔を押さえると走っていった。
海は紙袋を開けてみる。雅羅が選んだであろう小説、写真集、エッセーなどが何冊か入っている。
思い返せば話の中で自分の好みを聞かれていたことがあった。
「ごめん」
海は柚に頭を下げると、雅羅を追っかけた。
「いいよ」
柚が答えたときには、海の姿は小さくなっていた。
「今日は助かったよ」
約束どおり、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)はロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)達に食事をご馳走している。
「グラキエスをひとかじり」と言っている。ロアもご馳走を目の前にすれば、そちらに目が行ってしまう。
そんなロアの食欲は凄く、テーブル一杯に用意された料理をすぐに平らげる。そして追加された料理も瞬く間に胃袋に収まった。
『普通に宅配を頼んだ方が安く付いたな』
グラキエスは後悔したものの、今更どうなるものでもなかった。
またちょっとイタズラ心を起こして厨房に向かう。届けられるスープに、指先を少し傷つけて血を一滴たらしてみた。
そしてスープが届けられる。吸血鬼であるベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)は、わずかに鼻をうごめかして、グラキエスのいたずらを察すると、笑みを浮かべながらエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)に耳打ちした。
エルデネストは『グラキエス様、また余計なことを……』ととがめるような目をしたが、それ以上は何も言わなかった。
「おう! 美味そうだな!」
ロアはスプーンなど持たず、皿を両手で持つと一気に飲み干した。
「ロア、どうしました?」
イルベルリ・イルシュ(いるべるり・いるしゅ)が動かなくなったロアに話しかける。スープの皿を持ったまま、ロアはポカンと口を開けていた。
次の瞬間、ウエイターの胸倉をつかんで引っ張り込む。
「このスープ、お替わり! いや、あるだけ持ってこい!」
ロアの勢いにウエイターは鍋ごと持参する。面倒くさいと、ロアは鍋の端に口を付けて流しこんだ。
「あれ? おっかしいなぁ」
飲み干して腹がタプタプとなったロアは首をかしげる。
「さっき飲んだときは絶品の味がしたんだが……」
事情を知っているグラキエスは笑いを堪えるのに必死だった。
「まぁ、いいや。じゃあ、グラキエス、ご馳走さん」
そこでようやくグラキエスは鍋一杯分のスープ料金が追加されたことに気付く。
「グラキエス様、持ち合わせは?」
「すまん、エルデネスト、貸してくれ」
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